7話
『Lv15ダンジョン:ストレイ洞窟
マッチング中 予想待機時間:計測中』
「そういえばレベルマックスって具体的にはいくつなの?」
パーティを組むプレイヤーが見つかるまで待つ必要があるようなので、暇つぶしがてら質問をしてみる。
「今のバージョンだと80だね、でもわたしのレベルの暴力でさくっと攻略ってわけにはいかないよ」
「えっ、そうなの?」
「レベル制限って機能があって、ダンジョンごとの適正レベルに能力が制限されるの。パーティメンバーが全員そのダンジョンをクリアしてれば制限解除して強いまま挑戦も出来るから素材集めのときはそうするけどね」
ほえー、ちょっと面倒そうなシステムである。
「友達に手伝ってもらってさくさくレベル上げとかは出来ないんだね」
「うーん、フィールドだとレベル制限機能はないからそういうことが完全に不可能でもないけど……そうやって無理に強くなったら覚えた戦闘スキルを使いこなせないままになっちゃうし、なによりゲームの楽しみが減っちゃうから出来てもオススメはしないかな」
「……確かに。ってことは初心者のゲーム体験を邪魔しないためのシステムなのかな?」
こんなことを話しているうちに、シャキンという音が鳴った。
『マッチング完了
ダンジョンに突入しますか?』
もう準備が整ったようだ。
僕がアルカナに視線をやってこのまま進んで大丈夫かと問うと、アルカナはうなずいて肯定する。
ならば遠慮なく「突入」を選択、ストレイ洞窟攻略開始だ!
*
景色が洞窟の手前から、薄暗いその内部へと切り替わる。
周囲には3人――僕も含めれば4人のプレイヤーが集っていて……そうだ、まずは挨拶しなきゃ。
「よろしくお願いします!」
「こちらこそよろしく」
「よろしくねー」
「よろしくお願いします」
僕のちょっと力の入りすぎた挨拶にマッチングした2人のプレイヤーさんが気さくに答えてくれた後にアルカナが手慣れた様子で挨拶をする。
先に口を開いた落ち着いた感じの人は和風の装備に身を包んだヒューマンの男性で、名前はシリウスと表示されている。
後に口を開いた方はいかにも細かい装飾が美しい装備で全身を固めた垂れ耳のドワーフの女性で、名前はルピナスと表示されていた。
『パーティメンバー
カカソーラ:剣士
アルカナ :魔法剣士
シリウス :陰陽師
ルピナス :銃士』
ウィンドウには二人の職業も表示されている。
最初の職業選択のときにはなかったので、どちらも上位職なのだろう。
どっちかがヒーラーでもう片方が魔法剣士と同じDPSのはず……銃士がDPSっぽいから陰陽師がヒーラーかな?
おっと忘れちゃいけない、最初に【ガーディアン】を起動しておかなくちゃ。
僕は冒険者訓練所の教えを思い出し【ガーディアン】を起動、先頭になってダンジョンを進もうとする。
「じゃあ先頭行きまーす」
「はーい!」
ルピナスさんの明るい声とともに僕達パーティは動き出す。
洞窟の奥を目指せ、というシステムメッセージの指示とマップを頼りに進んでいくと、すぐにバット――その名の通りコウモリのモンスターの群れを発見した。
えっと、まずは射程のある【挑発】スキルでヘイトを集めるんだったな。
目標のバットに剣先を向けて、【挑発】を発動!
「シャーッ!!」
バット達が一気に僕の方を向き、羽ばたきながら襲いかかってきた。
敵の数が多いので単体攻撃用の【ソードスラッシュ】ではなく、レベルアップで覚えた範囲攻撃用の戦闘スキル【ソードブロウ】で迎え討つ。
「はあっ!」
上手く全ての敵に当てられたのでさらに【ソードブロウ】を連打する。
バット達もただやられるのではなく僕に攻撃を仕掛けてくる。数が多いので僕のHPゲージは順調に削れていく、だが。
「【治癒法】!」
シリウスさんが回復魔法を使ってくれるのでHPゲージはすぐに逆戻りだ。
そして僕に夢中なバット達にアルカナとルピナスさんの強力な範囲攻撃が降り注ぐ。
【魔法剣・アン】
【バレットレイン】
そんな表示と共にタンクの僕のものよりも鋭いDPSである二人の戦闘スキルでバット達はあっという間に殲滅、ダンジョンから消えていった。
これがパーティでの戦い方、敵の数が多くてもへっちゃらである。
さて、どんどん奥に進んで行かないと……
「カカソーラさん、もしかして初心者さん?」
「えっ、あ、はい!そうですけど……」
ルピナスさんからの質問に少し焦ってしまう僕。
そこにすかさずアルカナがフォローに回ってくれる。
「始めたばかりなんです。わたしがフォローするのでそっちは気にせず進んでもらって大丈夫ですよ」
「あ、ごめんね。急かしてるんじゃなくて、初心者さんならボク達もフォローするからのんびり進めてねって言おうとしたんだ!ね、シリウス?」
慌てて質問の意図を説明するルピナスさんにシリウスさんも同調する。
「うん、俺達も初心者の頃は他のプレイヤーさんに助けてもらったからね。手伝えることがあったら何でも言って」
シリウスさんは爽やかな笑顔でそう言った。
この2人はどうやら僕とアルカナのように友達同士の様だけど、この感じ、親切な人だ!
「えーっと、2人ともありがとうございます!お言葉に甘えて、のんびり進めさせてもらいます……でいいよね、アルカナ?」
僕はシリウスさんとルピナスさんにお礼を言って、アルカナの方をふり返る。
アルカナはゆっくりとうなずき、2人に彼女――いや、今は彼か?どっちがいいんだろう?――も礼を言う。
そうして僕の初めてのダンジョン攻略はのんびりと雑談を交えながらのほのぼのとした雰囲気で進んでいく。
例えばこんな感じに。
「カカソーラさんってDFOはどこで知ったの?」
銃を撃ちまくりながらルピナスさんが尋ねる。
「アルカナとリアルで仲良くて、こっちでも一緒に遊びたくて始めたんです」
モンスターに群がられながら答える僕。
「俺達に似てるね。俺もルピナスと一緒にやりたくて始めたんだ」
回復魔法を手厚くかけながら会話に混ざるシリウスさん。
「お二人もリアルの知り合い同士だったんですか。あ、カカソーラ、そこに次の道を開くギミックがあるから押しておいて」
会話と攻撃、僕のフォローをこともなげに並列処理するアルカナ。
緊張感には欠けるけど、ミスを恐れずリラックスして進めるの楽しいかも!
たまに僕が行き止まりに向かって進みかけたりモンスターのヘイトを集めそこなったりもしたけどすぐにフォローとアドバイスがもらえるの安心だね。
「カカソーラ、一旦止まって。その先にこのダンジョンのボスがいるよ」
「OK、もう最深部まで来たんだね」
アルカナが一旦静止し、ボス戦に向けてタンクのコツを再確認してくれた。
シリウスさんとルピナスさんはちゃんとそれを待ってくれて、時には補足も入れてくれる。
手取り足取り至れり尽くせり、これはさくっとボスを倒さなきゃだね!