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3話

 カカソーラ――僕が降り立ったのは活気のある港町、システム表示された名前はブレイブポートだった。

本物ではない、しかしだからこそ心地よいVR世界での感覚に興奮しきょろきょろとあたりを見回してみると、町には沢山の人々が――NPCだけではなく人間(プレイヤー)であることを示すアイコン付きのキャラクター達が闊歩している。

僕はボイスチャットの設定がリンク中の相手にしか聞こえないようになってることを確認して、大声で感動を言葉にした。


「すごいね!本当にたくさん人がいるんだ!!」


「春休みとはいえ午前中だからそんなに多い方でもないよ?一番賑わってる時間のブレイブポートはもう視界中プレイヤーだらけになるんだから」


 秘ちゃんが自慢気に答える。

視界中プレイヤーだらけ、それはなんかちょっと面白そうな気もする光景である。

そこでふと疑問が湧いてきた。


「ここって最初の町だよね、なのにそんなに人が集中するもの?」


「ブレイブポートはワープポイントから冒険者ギルドとかプレイヤーマーケットとかの距離が近くて便利でさ、シナリオ進んでもここをホームタウン……1個だけ設定できる無料でワープできる町に設定する人が多いんだ」


「あー、なんとなくわかる。ゲームでちょっとイラッとくるのにそこそこあるよね、重要施設の配置が絶妙にばらけてる町……」


「うん、DFOだとちょっと先に出てくるサマレンって町の配置が最悪で……ってせっかくゲーム始めたのにこんな話ばっかりしてるところじゃないよ。最初のクエストがもう始まってるはずだから進めていこう」


 おっと、その通り。

言われた通りシステムメッセージを確認すると、最初のクエストが確かに表示されている。


『メインクエスト:冒険の第一歩

  前方の大きなモニュメント・ワープポイントまで近づいてみよう』


 操作の確認みたいなものか、それではさくっと行ってみよう。

僕は文字通りカカソーラとしての第一歩を踏み出し、二歩、三歩と歩みを進めていく。

違和感なく体を動かせるので早足で進んでみてから走り出す。

カカソーラの体は身軽であっという間にワープポイントまでたどり着く。


「とうちゃーく。次はどうするのかなっと……」


 次のクエストの内容を確認しようとしたその時。


「うむ!君、面構えが違うな!冒険者志望とみた」


 背後に誰かが突然現れた。

そう、一瞬前までは誰もいなかったのに無から生えてきたかのように現れたのだ。

僕はとっさにふり返り飛び退いて距離を取る。

そこにいたのはどこにでもいそうな村人A風のおじさんで頭上にNPCであることを示す白い文字で「案内好きの男性」と名前ともいえない文字列を浮かべている。


「……何者!?」


「ははっ、天ならそういう反応すると思った!」


 ボイスチャットから秘ちゃんの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。


「ただのチュートリアル担当のNPCだよ。でも背後にいきなりポップしてくるので天が絶対驚くと思ったんだ」


「黙ってないで教えてよ、びっくりした……まあゲームだもんね、キャラクターが本当に無から生えてくるくらい普通にするか」


 現実で()()()()気配を感じさせず背後を取れる人ってだいぶレアだから驚いてしまった。

気を取り直して案内好きの男性さんをよく見ると、彼がかけた言葉の返事となる選択肢がウィンドウになって浮かんでいる。


『・その通りだ

 

 ・あなたは誰?


 ・いいえ、自分は覇王志望』


 うん、どれを選んでも関係なく進む感じと見せかけて一個だけネタ選択肢も混ざるノリか。

僕は結構真面目に考える方だからネタ選択肢は選ばないよ!

ここは『あなたは誰?』を選択しよう。

すると案内好きの男性さんは機嫌良く話を続ける。


「私は名乗るほどの者ではないよ。ただこの町に初めて来た人達を案内したいお節介焼きさ」


 名前通りの人なんだな……

黙って話を聞いていると、彼はさらに続ける。


「それで、話は戻るが君は冒険者志望だろう?いや、言わなくてもわかる。それならまず冒険者ギルドに登録しなくてはな。この町の冒険者ギルドはここからあっちへすぐそこにあるあの建物だ、それとワープポイントと接続するのも忘れずにしておけよ」


 そんな風に、彼は町の施設を紹介した。

同時にヘルプにそれらの施設の解説が追加されたというシステムメッセージも表示される。


「解説は追加されたときにちゃんと読んでおいたほうがいいよ。溜まったら面倒になって読まないでしょ?重要なこと結構書いてあるから読まないと変なミスしちゃうよ」


「ん、わかった。ちゃんと読んでおく」


 今のゲームは大事なことはちゃんと説明してくれるからしっかり確認しなきゃね。

たまに説明読んでもわからないゲームもあったりするが、これはDFO、国内一番人気の看板を信じよう。

というわけで解説を一つ一つ確認し、ヘルプを閉じたところで案内好きの男性さんは満足気にうなずく。


「案内はこんなところだ。ではがんばれよ、未来の一流冒険者!」


 そう言い残して彼は立ち去り……数メートル離れたところでふっと消えていなくなった。

負荷の節約とかなにか理由があってのことなんだろうけど、人が急に現れたり消えたりするのシュールだな……

そんなことを考えているとピコンと音がなり、クエストが更新されていた。


『メインクエスト:冒険の第一歩

  ワープポイントと接続しよう』


 ふむふむ、もうちょっとチュートリアルは続くようだ。



 それからワープポイントを登録し、冒険者ギルドに入ってチュートリアルを進めていく。

冒険者ギルド受付のお姉さんが教えてくれるククルカン大陸の情勢やブレイブポートの成り立ちを秘ちゃんに補足してもらいながら聞き世界観も把握する。

どうやらこのククルカン大陸は長い間魔族に支配されていたのを取り戻したばかりで魔物の生き残りがまだ闊歩しているため荒事を担う冒険者の需要が増してきているのだそうだ。


「というわけで、あなたに紹介する最初の依頼も魔物退治となります。目撃地点は町を出てすぐ、がんばってくださいね」


 受付のお姉さんはにっこりと微笑んだ。

ついにRPGの醍醐味、戦闘に入るとなって自然やる気も湧いてくる。

マップを確認し町の外を目指そうとしたときまたピコンと音がなりシステムメッセージが表示される。


『アルカナさんがパーティに勧誘しています』


『アルカナさんからフレンド申請が送られて来ました』


「わたしもログインしてアルカナでパーティ勧誘とフレンド申請送っておいたよ」


 そうか、クエストを進めたからパーティプレイも出来るようになったのか。

僕は両方の申請を受諾し、秘ちゃんのキャラクターとパーティを組んだ。

すると自分とパーティを組んだプレイヤーであることを示すアイコンが付いたキャラクターが僕に手を振ってくる。

名前もアルカナ、間違いなく秘ちゃんのキャラクターである。


「じゃあ早速フィールドに出よう」


 しかし秘ちゃんの声で話すそのキャラクターは、僕より背の高いエルフの男性だった。

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