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人形は花を片手に
人形は尚も黙々と歩きます。
途中で白い花に目が止まりました。
随分と大きな木の根っこに、寄り掛かるようにして咲いている小さな花の群生です。
人形はこの花を見た事がありました。
彼女がまだ元気だった頃の事。人形がまだ手も無く、足も無かった頃の事。可愛らしくて良い匂いがするから好きなの、と嬉しそうに彼女が摘んできていた花でした。
花を見つめる人形は、思考にポッカリと穴が空いたような不思議な感覚に陥っていました。
人形には心などありません。だから感傷に浸るなどという事は無いし、悲しみを覚えるという事も決してありません。
ある訳が無いのです。
だからこの不思議な感覚は、きっと頭の不具合なのでしょう。歯車が少しだけズレてしまったのかもしれない、そう納得する事にしました。
人形は少しだけ止めてしまった歩を再開します。
彼女が好きだと言っていた花を片手に持って…