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人形は刻み込む
小屋の外に広がるのは鬱蒼とした森でした。
「………」
人形は黙々と森を歩きます。
草、花、木、虫、獣、鳥、そして魔物…
今は亡き彼女と共に見た、本の中の景色がそこにはありました。
「私が元気になったら、一緒に見ようね」そう言われていた景色です。
人形はこれを独りで眺めていました。
ザワザワ、チュンチュン、ジージー、ガオガオ……
生きとし生けるものたちが、硝子の瞳に反射して強く眩しく輝いています。
───ポチャン、と朝露が葉を弾け、人形の頬を濡らしました。
つう、と線を描いて落ちる雫はまるで涙跡の様です。
人形は気にせずそこを動きません。
ザワザワ、チュンチュン、ジージー、ガオガオ……
───ポチャン
再び朝露が人形を濡らします。随分と長い時間が経っていました。
人形は今度こそ、それを拭って先へと進みます。
機械仕掛けの頭には、生命の神秘がしっかり刻み込まれていました。