彼女が死んだ日、人形は外に出る
とある森にひっそりと佇む小屋の中で、とある人形職人がひっそりと死にました。
原因不明の病でずっと寝込んでいたので、これは当たり前で必然の出来事です。
そんな彼女を看取った“人”は誰一人としていませんでした。
彼女は周りから疎まれていたのです。
そして彼女の死を悲しむ"人"も、誰一人としていませんでした。
彼女の側に、ずっと"ソレ"は居たというのに…
でも、それは当たり前でした。
"ソレ"は彼女に作られた“人形”なのですから────
「こういう時は、どうするべきなのですか?」
主人であり、親である名も知らない人形職人の死体を見つめながら、人形は独り呆然とします。
作った主が死んでしまえば、人形は動かなくなる筈だったからです。
何度も、何度も人形は動かなくなった人形職人に話しかけました。
人形は独りで判断し、自分の意思で行動したことがありません。
だから今、何をすれば良いのかが分からなかったのです。
幾ら話し掛けても、人形職人は何も答えてはくれませんでした。
死んでしまった人間は、壊れた人形の様に修復する事が出来ません。死んでしまえば人間はそこで終わりなのです。そして、死人は喋りません。
人形は作られてから初めて自らの思考を働かせました。
彼女に与えられた考える機能、今まで使うことの無かったそれは案外上手く機能している様でした。
「貴女は幸せを見つけなさい、私には出来なかったから…」それが彼女から聞いた最後の言葉です。
人形はその言葉を反芻します。
「幸せを、見つける…」
人形は小屋を出る事を決めました。