『お伽羅さまと私』
台風17号・18号が日本を襲った。
私はこの時、一人になった。
私は菴樂院に、預けられていた。近隣にも親戚は居なく、避難所で過ごせなくなり、ここにお世話になる事となった。
2015年9月10日私の親は濁流にのまれた。
当時、私は6歳の幼稚園生で、親が亡くなった事は理解できたが、それ以外は何も理解できなかった。
雪深い新潟の山奥で、
「おい。遠い親戚の子が寺院に預けられているらしい。どうも、親が亡くなってだそうだが、保険金を多額に抱えてるかも知れん。引き取りに行って来る。」
「家には、子供もようけい居るけん、一人ぐらい何ちゃせん。ええよ。それより金ばね。」
宮澤一家は金に眼がくらんでいた。
宮澤一郎は、菴樂院を訪れた。
「ほ~!この子が?」
「はい、お伝えした、斉木咲由羅です。」
住職の落合通尚だった。
「初めまして、宜しくお願いします。」
咲由羅はお辞儀をした。
一郎の眼はギラギラしていた。
「家は子供も多いし、来れば良い。悪いようにはせんでな。」
一郎の眼は、咲由羅を値踏みしていた。
「ここに居ても、私や娘だけだし、その方が良いかもな?」
「はい・・・・・」
「ところで?この子のお金の管理は誰が?」
「私が預かっております。まだ、幼かったので。」
「では‼それは私が。」
一郎の目元が緩んだ。
「私!辞めます。ここに居させて下さい。」
通尚は驚き咲由羅を見た。
「何を!来い‼」
一郎は狼狽えていた。
「いいえ!残らせて下さい。」
咲由羅の意志は固かった。
「そんな事言わずに、来なされ。」
一郎も食い下がった。
咲由羅は通尚を見つめ、
「お願いします。」
切実に訴えた。
「宮澤さん。今日の所は・・・・」
一郎の顔が仰変した。
「ふざけるな!ここまでの電車賃だって、バカにならないんだぞ!連れて帰る‼」
一郎の言葉には怒りの色が見えた。
「では、これをお納め下さい。」
袈裟から封筒を取り出し渡した。
「・・・・・・」
一郎は封筒の上からその厚みを察したのか、口元がほころんだ。
「まあ、無理強いもね。今日の所は御暇します。」
一郎は取り合えず、帰って行った。
この時、咲由羅は既にここに来て5年の歳月が過ぎていた。
小学校では、イジメを受けていた。記憶の残る頃からず~っとであった。
「斉木‼あんた、悲劇のヒロイン気取ってんじゃないわよ!台風で避難指示が出てるのに、ちんたらしてるから、やられたのよ。自業自得よ!」
クラス中の眼が咲由羅に刺さってきた。
「・・・・・・」
咲由羅は沈黙する事で自己防衛していた。
「沈黙カタツムリ。」
咲由羅の教科書はビリビリで原型を留めていなかった。授業もそのせいで付いていけなかった。
「斉木さん!あなたバカ?」
担任の伴御世だ。
「いえ。ただ・・・・・」
「斉木さん!身の程をわきまえなさい‼自分でも認識できるでしょ!バカって。」
クラス中から笑いが沸き起こった。
咲由羅は顔を伏せ、机を見つめた。
「そう!あなたは大人しくそうしてなさい。」
また、笑いが沸き起こった。
菴樂院への帰り道も咲由羅は狙われていた。
「咲由羅!お寺でお祈りすれば、救われる?」
見沼鷺幼だった。
咲由羅はその問いに答えるでもなくそそくさと歩を進めていた。
「あんた!無視すんなよ。」
鷺幼はつるんでいた。常に取り巻きを2~3人連れていた。
【一人で来いよ。】
咲由羅は心で常に叫んでいた。
【良いか?やっちゃう?】
咲由羅の心も知らず、鷺幼はしつこく付き纏った。
「カタツムリ!逃げんなよ!お と も だ ち でしょ‼」
咲由羅は振り返り、皆を睨んだ。
「おお怖!何睨んでんだよ!孤児の分際で!親亡くして頭いかれてるんでしょ?ば~か‼」
周りから笑いが起こった。
咲由羅は、一歩鷺幼に踏み出した。取り巻きが鷺幼の前へ歩み寄った。
【け!】
咲由羅は踵を返した。
「弱虫~。」
鷺幼と取り巻きは、笑い嘲った。
咲由羅は、突然走り出した。
「今日は良いや!行こ。」
鷺幼達は諦め、去って行った。
咲由羅は、
『お伽羅様』
の前に立っていた。菴樂院の西門の先の右手にある供養塔だった。
「お伽羅様、私は?どうすれば?・・・・・」
ここに立ち、いつもの問いを供養塔に投げかけていた。
「・・・・・・・・」
境内に吹く風が木々を揺らす音が響くだけだった。
咲由羅は、肩を落とし寺院へ戻って行った。
夕食時、
「咲由羅、何かあった?お伽羅様の前で見かけたから・・」
住職の娘だった。
「うんうん。冨美恵さん大丈夫だよ。」
「そう?なら良いけど、何かあるんなら相談してね。」
冨美恵は結婚して、性は倭田に変って居たが、通尚が夕食を用意できない時等に通っていた。
「じゃあ、帰るわね。食器はお願いね。」
「は~い。」
冨美恵を見送りながら、食事を進めていた。お風呂を済ませた後には、通尚も食事を終えていた。
「洗うかな。」
咲由羅は台所で後片付けを済まし、床に就いた。
「ただいま~。って誰も居ないか?」
見沼家の真っ暗な家へ鷺幼は帰宅した。鷺幼の両親は筑波学園都市で研究員をしている。
真っ暗な部屋に次々と灯りを点け、部屋を通り抜け自分の居場所へ辿り着いた。
「へ‼」
制服を脱ぎ、食卓へ向かう。冷蔵庫から夕飯を出し、レンジで温める。
「チェ!」
テレビをつけ音量を大きくした。
『チン』
レンジが鷺幼を呼んだ。テーブルに夕飯を並べ、黙って食べ始めた。
目はテレビに向き、沈黙の中、食事を進めていた。
部屋にはテレビの爆音だけが響いた。
咲由羅は自分の下駄箱の前に居た。
「おはよ~。カタツムリ!」
鷺幼はにやけながら話しかけてきた。咲由羅は取り合わず下駄箱を開けた。
「あら?」
下駄箱には上履きが無かった。
「大変ね~。上履きちゃん何処かへお出かけかしら?」
登校中の生徒が嘲わらう。
「何処かしらね~?」
咲由羅は鷺幼を睨んだ。
「おお怖・怖。」
鷺幼は笑い飛ばしながら教室へ向かった。
咲由羅は、校舎やゴミ捨て場等を探し回ったが、見つからず時間になり、教室へ向かった。
「起立・礼・着席。」
挨拶が終わると、御世の眼が咲由羅の足元にいった。
「あら?沈黙さん?お靴は如何したの?買えるでしょ!お金持ち何だから。」
教室から笑いが起こった。
咲由羅は足を引き、椅子の下に隠した。
「上履き位、予備を用意しておくのね!沈黙さん‼」
また、笑いが起こった。
放課後、咲由羅はウサギ小屋へ差し掛かった。偶々通ったのだが、そこに咲由羅の上履きがあった。ウサギ小屋の中で上履きの中にウサギの糞を詰め込まれ置かれていた。
咲由羅は糞を出し、持ち帰ろうとした。
「あら?そんな所へお出掛けしてたのね~。」
鷺幼達であった。取り巻きはまた変わっていた。
咲由羅は睨んだ。
「え?私を疑ってるの?証拠は?」
にやけながら吐き捨てた。
取り巻きもにやつき咲由羅を指さした。
咲由羅は走って逃げだした。
咲由羅は寺院で上履きを洗っていた。
「咲由羅ちゃん。上履き?何で?今日なの?」
咲由羅は首を横に振った。
「週末でも無いのに?如何したの?」
「何でもありませんよ!」
「そんな訳無いでしょう!」
冨美恵は食下がった。
「便器に落としちゃって・・それで。」
訝しみながらも冨美恵は納得するしか無かった。
咲由羅は、洗い終わり、
『お伽羅様』
の前に居た。
【お伽羅様?私はあなたにはならない】
咲由羅は心に強く誓った。
それからもイジメは続き、中学に上がっていた。殆どが持ち上がりで、クラスメイトは代わり映えしなかった。
「カタツムリ!相変わらずね。」
左右に並び咲由羅を挟む様にして、鷺幼は話しかけた。薄笑みを浮かべながら、
「あんた?良く死なないね?私なら死んでるわよ‼」
鷺幼は肩をぶつけてきた。咲由羅は睨みつけた。
「何よ?担任に言いつけるわよ!」
中学でも担任を含め、咲由羅の敵だった。
その様子を陰から見守る少年が居た。
咲由羅は匿名で県西地区のメール相談へ事の経緯を投稿した。メアドだけを本物にして、他はでたらめで送った。
数日後、着信があった。
[朝奈璃咲です。児童相談所の職員です。詳しいお話聞かせて欲しいな。]
咲由羅は迷った。信用すべきかどうか?
[初めまして、見沼鷺幼です。小学校時代からず~っと担任やクラスメイトにイジメられて居ます。もう中2です。うんざりなのでメールしました。助けて貰えるんですか?]
咲由羅は一部の望みをかけ送信ボタンを押した。
[見沼さん。大丈夫、こちらでも調べて見ます。]
直ぐに返信が届いた。
咲由羅はそのまま返信しなかった。
数週間後、メールが届いた。
[見沼さん。あなたの書いた学校も何も該当しなかったのですが?どういう事でしょうか。]
璃咲からのものだった。咲由羅は悩んだ。
[信じて良いんですか?助けてくれますか?]
悩んだ末の返信だった。
[ええ。必ず力になります。]
この言葉に咲由羅は一途の望みを託した。
[ごめんなさい。私は斉木咲由羅です・・・・・・。]
自分の素性を明かした。
[なぜ?嘘を?]
[7年経って漸く判決が下る程、国は信用できない。あなたも、また先生も国の人間。信用しろと言われても、できますか?あなたなら?]
璃咲はこのメールを見て戸惑った。手が動かなかった。暫らく思案し、
[大丈夫、ちゃんと調べます。]
これしか打てなかった。
咲由羅は少し安心した。
【これで少しはマシになる】
数日後、咲由羅は担任の瀬盛羽真に呼び出された。
「お前!碌でも無い事してくれたな‼上手く手が回せたから良い物を、立場をわきまえろ!カタツムリ。」
【やっぱり・・・】
咲由羅の心は砕け散った。
「見沼にも伝えた。あいつの親からも手を尽くすだろう。」
勝ち誇った顔で瀬盛は言い放った。
咲由羅は、無言でその場を離れた。
放課後、スマホの電源を入れると璃咲からメールが届いて居た。
[ごめんなさい。上の圧力で何もできなくて。]
咲由羅は返信もせず、そのメールを消去した。
【やっぱり、そう何だ!】
咲由羅の淡い期待は裏切られた。
咲由羅の姿は屋上にあった。
「ほら!この様にしたら?」
鷺幼は咲由羅の上履きを屋上から投げ捨てた。
周りには笑いながら集まるクラスメイトが居た。
【私は死なない!】
咲由羅は、
『お伽羅様』
の前で誓った強い思いを思い出していた。
「あんたのせいで危なく経歴に傷がつく所だったわ!責任取りなさいよ‼」
鷺幼は咲由羅の胸倉を掴み言い寄った。咲由羅はその手を力の限り強く握り返した。
「痛い!」
鷺幼は叫んだ。クラスメイトは咲由羅に近寄ろうとした。
「寄るな‼近づいたらこの子落とすよ‼」
咲由羅の剣幕に皆がたじろいだ。
「助けて‼」
鷺幼の小さな叫びだった。
「今度したら!許さない‼」
咲由羅は手を離しクラスメイトの中を堂々と立ち去った。クラスメイトはモーゼの十戒の如く割れた。
一番離れた所から少年が見守っていた。
見沼家では久々に家族が揃った。
「あんた!良い歳なんだから、いい加減になさい!私達に泥を塗るような真似は二度とよしなさいね‼」
鷺幼の母だった。父親も頷くだけだった。
【折角の時なのに、あいつのせいだ!】
鷺幼は自分の苛立ちの捌け口を咲由羅に向けた。
あれ以来、咲由羅には平穏な日々が続いていた。
「あんた、ちょっと来なさいよ‼」
鷺幼だった。しかし、一人だった。クラスメイトはあれ以来、咲由羅を避けて居たからだ。
「良いわ。」
咲由羅は鷺幼について教室を出た。
ウサギ小屋の前へ二人は来た。
「中に入りなさいよ‼」
鷺幼はウサギ小屋の中に入りながら咲由羅に促した。咲由羅は無言で従った。
「あんたのせいで台無しよ!ウサギの糞でも食らえ!」
鷺幼は咲由羅を跪かせようとした。
「この時を待ってたのよ‼」
咲由羅は鷺幼に飛び掛かった。
「私は死なない!殺されるぐらいなら、あなたをやる!それが両親への手向けにもなる。」
咲由羅の形相に鷺幼は蹴落とされた。
「待って。」
咲由羅は鷺幼をウサギ小屋へ押し倒した。
「きゃ~‼」
鷺幼は悲鳴を上げた。
「どう?解る?追い詰められた気持ち‼」
咲由羅は鷺幼の上に跨った。
「ごめんなさい。や め・・・・」
咲由羅は鷺幼の口にウサギの糞を詰め込んだ。
「本当なら、殺してやりたい‼」
咲由羅はそう吐き捨て、立ち上がった。
「先生、ここ‼」
鷺幼の取り巻きだった。
「カタツムリ。何やってんだ。」
瀬盛だった。
咲由羅は瀬盛に取り押さえられた。
陰から少年がまたもや見て居た。
咲由羅は警察に連行された。
「君‼解って居るのか?自分のやった事を?」
警察署で取り締まりを受けていた。咲由羅は完全黙秘だった。
そこに璃咲も駆け付けた。
「この子には色々事情があって。」
しかし、刑事は取り合わなかった。
「完全黙秘だ‼そちらの意見も聞くが、状況証拠や目撃者の話しから、見逃せない。」
璃咲の話しは聞き入れて貰えなかった。
「一目会わせて下さい。」
璃咲のできうる最大の交渉だった。
璃咲は刑事立ち合いで会う事ができた。
「ごめんなさい。」
咲由羅は璃咲を睨みつけた。
「・・・・・・・・」
その態度に璃咲は言葉を返せなかった。
刑事に促され、璃咲は敢え無く退出した。
咲由羅は最後まで黙秘した。
璃咲は、菴樂院に訪れ事情を聞いた。しかし、これと言った収穫は無かった。
「咲由羅は家事も手伝い、良い子です。」
通尚の言葉だった。
璃咲は学校へも行った。
「我が校には何も落ち度はない。」
校長の藻神徹夜だった。
「しかし、斉木さんは寺院でも良い子で。」
「ふん!汚れた子なのでは?」
校長は聞く耳を持たなかった。
璃咲は渋々学校を後にした。
瀬盛も見沼家も校長も隠ぺい工作に走った。
「その旨、良しなに‼」
文部科学大臣の木西義雄宛の電話だった。
咲由羅には、国選弁護人が付いた。
「私には話してくれないか?」
咲由羅は弁護士にも黙秘だった。
「これでは、弁護もできない!頼む、話してくれ。」
それでも咲由羅は黙っていた。
「朝奈さん。無理です。それに国選、私もそこ迄肩入れは・・・」
二階暁彦の電話だった。
璃咲には上司からも圧力が掛かって居た。
【あの時、私が見捨てなければ】
璃咲は後悔していた。
咲由羅は家裁まで黙秘し続けた。
「斉木さん。あなたは完全黙秘を続けていますよね?何故ですか?」
調査官の酒元璃来の問い掛けだった。
「・・・・・・」
家裁でも黙秘だった。
その頃各報道機関に匿名のメールが送りつけられていた。
そこには動画も添付されていた。
しかし、何処も報道しなかった。
「何で?」
ニュース番組を毎日チェックする少年が居た。
『14歳で難しい案件だ!報道規制を‼』
各報道機関へ文部科学大臣からの通達だった。
璃咲は璃来と連絡を取った。
「学校の校長も被害者の親も担任も?何か隠しています。」
璃咲は必死に璃来に訴えた。
「私もあの子の頑なな態度に違和感を覚えて・・・・」
二人の意見は一致していた。
しかし、立証できる裏が何も取れていなかった。
璃咲の下へ一通のタレコミが届いた。
[藻神徹夜は新興宗教に傾倒しています]
差出人も解らないメールだった。
すぐさ璃来へ電話した。伝えはしたが、何の立証にもならなかった。
少年はニュースを待って居た。
【何で?報道されない?】
裁判官の桒田茂満の前に璃来は居た。
「何故?彼女は頑なに黙秘するのか?見当もつきません。」
「そうですか?一度、審判の前に会いましょうか。」
「良いのですか?」
「異例ですが、内密に。」
桒田は軽く頷き璃来に伝えた。
「斉木さん?何故?黙秘を?」
桒田の問いに一言。
「審判で話します。」
咲由羅は言葉に強い意志を載せて伝えた。
「解りました。」
桒田は笑顔を咲由羅に向け出て行った。
「桒田さん?如何でしたか?」
心配そうに璃来は聞いた。
「大丈夫でしょう。」
桒田は璃来にも笑顔を返した。
審判の日桒田の前へ堂々と咲由羅は現れた。
「審議を始めます。斉木さん言いたい事は?」
「はい‼ここへはこの件が無ければ来られなかった。そして、事件が起きなければ、誰も見向きもしてくれない‼児童相談所も相手にしてくれなかった!何もかも弱い人間には寄り添ってくれない!私は死を強要された‼だからやった!死ぬぐらいなら相手を殺そうと!でも、できなかった。あれぐらいしか。」
「そうですか、あなたはいつからそういう状況に?」
「ず~っと昔から、覚えていない。」
「そうなのですね。もっとあなたを知る必要がありますね。審議を終わります。」
桒田は確信していた。社会の歪みで苦しむ少年だと。
それから更に調査が行われる事となった。
璃来は調べる内にいくつかの不可解な疑問に気が付いた。
【何故?クラスメイトは一律に同じ話しか言わないのか?璃咲は何故?上司に止められたのか?】
聞き込めば聞き込むほど疑問が膨らんだ。
審判の日は近づいていた。
そんな時、SNSでこの事件の動画が流れた。直ぐに拡散され、世間に広がった。
内容は次々に更新されていった。
咲由羅の小学生時代から。顔にはモザイクが掛けられて居たが、タイトルには、
『ウサギ小屋での事件』
と書かれ、地域は解る様にされていた。
鷺幼による陰湿なイジメの始まりから、順次動画がアップされていった。
【え?こんな頃から?こんな事を?】
二人は同じ事を考えた。
璃咲は上司に詰め寄った。
「何処からの指示だったんですか?」
「私も上からのお達しで良く解らないんだ。」
歯切れの悪い答えだった。
食下がるも同じ回答しか得られず引くしかなかった。
璃来も調査していた。そして、一人の少年に辿り着いた。
しかし、逢う事は出来なかった。
ネットでは屋上の経緯が拡散されていた。
既にかなりの数の動画がアップされていた。
報道も沈黙を守れなくなってきていた。
そこに、各報道宛に出されたデータがアップされた。
一部の配布されていなかった小さな週刊誌がこれに飛びついた。
『誰の隠蔽か?』
この記事は次々に広まった。大手報道も黙って居られなくなった。
各局が報道し始めた。
偽名を使い、モザイク処理された映像が世間に広まった。
「将鷹。程々にしろ、まあ私の跡継ぎとしては良い働きぶりだがな。」
宮路総理大臣だった。
将鷹は密かに咲由羅に恋心を抱いて居た。
しかし、親の立場や自分の存在を隠していたので言い出せなかった。
【ごめんね。咲由羅ちゃん】
世間では犯人探しが始まっていた。
ネットでは、
[常総市辺りじゃね~?]
が拡散されていた。
大手報道も常総市へ赴くかと思いきや?
一向に動かなかった。
ネットでの噂話でしか広がらなかった。
将鷹は悟った。
【オヤジか?】
既に手は回されていた。
屋上での出来事は世間では周知の事実とかしていた。
将鷹は最後の動画をアップした。ウサギ小屋の。
審判の日が来た。
咲由羅は何も知らされてなかった。
「他に言いたい事は?」
桒田の問い掛けに、
「私はお伽羅様にはなる気は無い。黙って死ぬ気も無い‼人々の犠牲にもならない!生きて両親の存在を未来に残します。」
「では。」
一瞬の沈黙が流れた。
「不処分。」
「相手が警察に穏便にと働き掛けたそうです。それに、あなたの主張を裏付ける証拠が山ほどある。斉木さん申し訳ない。国や自治体、公共機関、全てが、事件が起こらなければ動かない現実がある。済まない。」
「いいえ。でも今後はもっと早くに対応を!死んだら生き返りません。」
室内に咲由羅の声が木霊した。
咲由羅の事を出迎える少年の姿があった。
「ごめん。ず~っと観ていた。助けなくてごめん。君を愛してる。」
将鷹だった。
「誰?」
咲由羅は解らなかった。
「君が両親を亡くしたころから観ていた。」
「そうなの?名前は?」
「宮路将鷹。」
「へぇ〰!そう。」
「あの~?」
「え?」
「告った返事は?」
「あなたを良く知らない。返事何て・・・」
将鷹は下を向いてしまった。
「大丈夫!あなたを見極めたら返事をするは。」
将鷹は咲由羅のそばに寄り手を取った。
「宜しく。」
近くに停まって居た黒塗りの高級車から視線を送っていた。
「出せ。」
車は走り去った。
咲由羅は寺院に戻ってからSNSの事や報道された事を知った。
【誰?これをしたのは?】
何となくは想像が付いて居た。
学校では瀬盛や校長の藻神が処分で他校へ移動となった。
咲由羅は知らないが、小学校の伴も処分され移動となっていた。
鷺幼は他校へ転校する事となった。
「別に良いのに。」
「いえ両親が、そうしろって、ごめんね。」
「良いわ!あれで気が済んだから。」
咲由羅はあっけらかんとしていた。
そこへ将鷹が現れた。
「2人とも良かったね。」
咲由羅と鷺幼の手を取り重ね合わせた。
「お互い恨みっこ無し‼」
咲由羅は笑顔で鷺幼を見送った。
将鷹と咲由羅は、色々話した。
教室では隣の席になり、毎日笑顔を交わした。
クラスメイトもあれ以来改心して、普通に咲由羅と接するようになった。
二人は、
『お伽羅様』
の供養塔の前へ並んだ。
「いつもここで愚痴を吐いてたの!」
「そう何だ?」
「ええ。」
二人は手を合わせた。
目を瞑り祈った。
「お伽羅様。私は死ななかった。でも過去の私は死にました。人柱として、あの家庭裁判所で・・・・・」
締め切りギリギリの投稿なので 乱文誤字ご容赦ください
見つけ次第 少しずつ訂正していきます
前作も誤字だらけで済みません