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エロゲ世界に転生したので、最推しの攻略不可能キャラをヒロインにしてみせる!~前世の記憶を頼りに、襲いかかる数多のバッドエンドを乗り越えろ~  作者: 紐育静
第一部 帚木大星編『私の願いが叶いますように』

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アストレア姉妹編㉕ ムギの受難



 土曜日の今日は元々、観測レポートを仕上げるための天体観測が予定されていたのだが、生憎の雨模様ということもあり来週へ持ち越しとなった。

 とはいえ来週から期末テストも始まることだし、俺は大人しくテスト勉強に励むのであった。


 ヒロイン達のイベントの回収なんかに時間を割かれて忙しい毎日を送っているが、これまでの烏夜朧の努力に助けられて学業面では苦労しなさそうだ。性格さえ良ければ意外とモテるんじゃないかとも思うのだが、もうこれまでの行いが朧のイメージを下げているからどうしようもない。


 しかし大分夜も更けてきた頃、俺の携帯に着信が入る。画面に表示された相手の名前はムギだった。


 「もしもし。何か勉強でお困りかい?」


 ムギのことだから、多分緑一色を面前&嶺上牌で揃える確率の問題を解いている……わけではないと俺は知っていた。ただテスト勉強に悩んでいるのなら、わざわざ電話なんかしなくてもLIMEで十分だろう。


 『……ごめん、朧。こんな夜中に』

 「ううん、全然大丈夫だよ。何かあったかい?」


 ムギの声は明らかに元気がなく、ただテスト勉強が上手くいっていない、というわけでもないだろう。俺はムギの様子を伺っていたが喋りだす気配がなかったため、ムギに聞いてみる。


 「まだ、スピカちゃんと上手くいってないんだね?」

 

 スピカとムギの間にすれ違いがあってから五日。一度は仲直りした二人だが、その関係は以前と大きく変わってしまったと言えるほどギクシャクしていた。昼食の時は大星や美空、レギー先輩なんかも含めてアストレア姉妹も一緒に食べるのだが、二人との間に微妙な距離が生まれ二人の会話も明らかに減った。登下校こそ二人一緒でも微妙な空気が続いている。


 前に一度大星と美空の関係がこじれたことがあったが、その時よりも事態は深刻だった。現にムギは、あの日から毎晩俺に電話をかけてきているのだ。


 『……まだ、怖いんだ。なんだか、何かの拍子でスピカを傷つけてしまいそうで……』


 衝動的な行動だったとはいえ、ムギは一度スピカに手を上げてしまった。あの後ムギが謝るとスピカは笑って許してくれたそうだが、スピカもムギもお互いに優しすぎるからこそ罪悪感に苛まれているのだ。


 「今日はスピカちゃんと何か話した?」

 『テスト、大丈夫かなぁってことぐらい』

 「一緒にご飯は食べてる?」

 『うん……でも、何も喋れない』


 こりゃ重症だぜ。聞いてるこっちも胃がキリキリと痛んでくる。スピカとムギが同じ食卓を囲んでるのに黙ってご飯を食べてる風景、想像もしたくない。


 二人の母親であるテミスさんは仕事のため海外に行っているらしく、今は家を空けてしまっている。スピカもムギもテミスさんを心配させないために何も説明していないようだが……あの人の助けが欲しい。


 『ねぇ朧。本当にスピカは怒ってないかな? 本当は裏でとっても怒ってるんじゃないかな? 私っていつもぶっきらぼうだし愛想も悪いから、もう見限られるんじゃないかな? スピカは私よりも出来も良いし、ママも私なんかよりもスピカが子どもの方が良かったって思ってるんじゃないかな……?』


 電話越しに、ムギはまるで子どものように舌っ足らずな涙声で必死に訴えかけてくる。


 ダメだ……ムギの思考がどんどん悪い方向に働いてしまっている。きっと今は自分の部屋かアトリエで一人に籠もって俺に電話をしているのだろう。こういう時、しかも夜中に一人で考え込んでいても良い答えなんて思い浮かぶわけがない。


 「スピカちゃんもテミスさんも、ムギちゃんを見限るなんてことはしないさ。ムギちゃんがそうやって自分の非を認めて自責の念にかられているなら尚更……」

 『本当に? 本当の本当に?』

 「あぁ、本当の本当に」

 

 俺は今、ムギを必死に元気づける方法がないか考えていた。バッドエンドでムギが自殺という最悪の最期を迎えてしまうため、俺は慎重に言葉を選ぼうとする。このプレッシャー、半端なくヤバい。


 『怖い、怖いよ、朧……私、スピカ達に見限られたらどうすればいいんだろう……?』


 スピカとテミスさんがムギを見限るようなことは絶対にない。俺はそう信じることが出来るが、今のムギはそう考えられるほど冷静ではない。自分を取り巻く環境全てが不安に感じられるだろう。


 その不安を、俺は一体どうやって取り除くことが出来るだろう──。


 「その時は、僕がムギちゃんを貰うよ」


 自分で口走ったそのセリフに、俺自身が驚いていた。


 『……朧が、私を?』

 「うん。本当に困った時は僕のところにおいでよ。いつだって構わないさ」

 

 まぁムギは俺の家の場所を知らないだろうけどな。レギー先輩は何故か知ってたけど。


 『朧のそういうクサイセリフ、久々に聞いた』


 先程まで強迫観念にかられていたムギが、電話の向こうでクスクスと笑っていた。


 良かった~朧が普段からふざけたこと言ってるお調子者キャラで。


 『でも、嬉しい』


 ……ホントに何言っちゃってんだろ俺。

 いや、俺は悪くない。俺は烏夜朧に転生したというだけで、多分俺と共存してる朧の人格が勝手にそう言ったんだ。もしも俺が大星に転生していたら「辛い時はウチに来いよ」って言ってるだけだろうし……って、言ってること殆ど変わんねぇじゃん!?


 

 『ね、ねぇ朧……ちょっと、ワガママ聞いてくれる?』

 「どうしたんだい?」

 『今から、家に来れない?』


 俺は壁掛け時計を見る。うん、今からアストレア邸に行って帰ってくるだけで日付が変わりそうな時間だ。


 『やっぱり……なんだか胸騒ぎがして、とても不安なんだ。誰かがいてくれないと、寂しくて……』


 関係がこじれているスピカも、仕事のため家を空けているテミスさんも、そして……親友だったがどこかに消えてしまった乙女も頼れないというところか。


 「わかった。今すぐ行くよ」


 しかしムギの頼みを断る気にもなれず、むしろ断ったらどうなるかわからないため俺は快諾した。テスト前だが明日も休みだしどうにかなる。俺が能動的に動いて悪いイベントが起きるよりも、受動的になって自分の知らないところで悪いイベントが起きてしまう方が後悔が大きいだろう。


 俺は電話を切ってすぐに支度し、合羽を着て自転車に跨った。外はまだザアザアと雨が降り続いていたが、俺は顔面に容赦なく打ち付ける雨粒なんて気にせずに自転車を漕いだ。



 自転車を漕ぎ続けること二十分程。街灯は少ないが小綺麗な高級住宅街へと入った。森の中を進んでアストレア邸がある通りに入った時、通りの向こう──丁度アストレア邸の目の前に人影が見えた。


 全身真っ黒な装いの、体格を見るに男らしい人物は、どうやらアストレア邸の郵便受けに何かを突っ込んでいるようだった。俺が自転車を漕いで近づいていくと、俺の存在に気づいたらしい男は、慌てて側に停めていたバイクに跨って向こうへ走り去っていった。


 見るからに怪しかったが、アストレア邸の立派な洋館はテミスさんのせいで魔女の家って呼ばれてるし、関係者もやっぱり怪しいのかなぁと俺は特に気に留めず、門の前に到着するとインターホンを押した。

 すると玄関から黄色い部屋着姿で、珍しく緑色のサイドテールを解いて髪を下ろしたムギが傘を差して俺の元までやって来た。


 「ごめんね、朧。わざわざこんな時間に呼び出しちゃって……」


 やべぇ、普段見ることがない髪を下ろしたムギ、凄い可愛い。普段よりも増してあどけなく見える。


 「ううん、全然へっちゃらだよ。ところで、やっぱりテミスさんの仕事の関係者って魔道士とか魔女っぽいの?」

 「な、なんのこと……?」

 「いや、ついさっき誰かがこの郵便受けに何か入れてたから──」


 ムギは俺の言っている意味がさっぱりわからないという様子だったので、俺は不思議に思いつつ何の気なしに郵便受けを開けようとした。


 だが、一瞬だけ郵便受けから鼻を突く臭いが漂った気がした。そして郵便受けを開くと──その中に押し込められていたものと俺は目が合った。


 「なっ、これは……!?」


 郵便受けの中身を見た俺がのけぞっている間に、ムギは門を開いて不思議そうに顔をのぞかせてきた。丁度そのタイミングで、郵便受けの中に入っていたものがボトン、と地面に落ちる。

 

 「ひぃっ!?」


 それを見たムギは、衝撃のあまり悲鳴を上げて傘を地面に落としていた。


 地面に転がり落ちたのは、血だらけのネコの頭部。

 死してなお魂が宿っているような仰々しいネコの瞳が、ムギの方をギロッと向いた。


 「な、なに、これ……!?

  なんで、こんなものが……!」


 ムギは水たまりの上に尻もちをついてしまう。ネコの頭部から流れ出た血が水たまりを伝って、ムギが着ていた黄色い部屋着を段々と赤く染めていった。


 「い、いやああああああああああああっ!」


 俺は、悲鳴を上げるムギをただ抱きしめてやることしか出来なかった。

 雨音の中、辺り一帯に響いたムギの悲鳴が聞こえたのか、家の中からスピカも慌てて出てきていた。

 


 レギー先輩のイベントを回収していた時から、俺は多少の違和感を感じていた。作中には無いイベントが起き、本来は登場しない初代ネブスペのヒロイン達とも出会った。


 それが良い方向に働いてくれればよかったのだが──この世界の歯車は、確実に狂い始めていた。



 少しでも面白い、続きが読みたいと思ってくださった方は是非ブックマークや評価で応援して頂けると、とても嬉しいです!

 何卒、よろしくお願いします!


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