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悔しい悔しい悔しい悔しいー!



 俺はこの世界でも何度か王様ゲームをしたことがあるが、流石にエロゲとはいえ常軌を逸した急展開を迎えることはなかった。

 だが今回、俺がこれまで以上に不安を抱えているのは……ブレーキをかけられない、アクセル全開のキャラが何人も集まっているからだ。


 「はい、私が王様よ。私にひれ伏しなさい」

 「いきなり暴君出てきそう」


 最初に王様になったのはアクアたそ。月学に在籍していた頃は生徒会長を務めていて、初代ネブスペの面子の中ではマルスさんと並ぶ優等生なのだが……。


 「まぁ最初はジャブから。七番は私の目の前で三回回ってワンと鳴くこと」


 それは本当にジャブか? この人達、この面子で集まり過ぎて感覚が麻痺してるんじゃないか?


 「七番って誰~?」

 「……私だ」


 震える手をゆっくりと上げたのは、マルスさんだった。まさかの現役刑事が指名されてしまった事態に、コガネさん達は笑いをこらえるように体を震わせながら、悔しそうに歯を食いしばりながらアクアたその元へ向かうマルスさんを見送っていた。

 そしてアクアたそはマルスさんを嘲笑うかのような笑みを浮かべる。


 「良いわね、まさに国家の犬」

 「私を国家の犬呼ばわりとは良い度胸じゃないか、アクア……」

 「アクアたそ。私からこれを献上いたしますぞ」

 「あら、犬耳カチューシャなんてあったのね。気が利くわね、レイ」

 

 犬耳を装備させられたマルスさんはなおも屈辱からワナワナと体を震わせていたが、アクアたその命令通り、彼女の目の前で三回回って──。


 「わ、ワン!」


 甲高い声でマルスさんは見事に鳴いてみせた。アクアたそはそんなマルスさんの頭を満足そうに撫でていた。まるで犬を可愛がるかのように。


 「こんなことを合法的に出来るなんて最高ね」

 「くそぉ……どうにかしてこれを違法として摘発できないものか……!」


 初っ端から可愛らしいものを見られて得した気分だが、何が恐ろしいかって、自分もこのゲームに参加させられていることである。

 

 そして、次に王様を引いたのは──。


 「ふぅ……わ、私が王様だ」


 なんて運命のイタズラか、未だ犬耳をつけたままのマルスさんが王様になった。


 「おめでとうマルちゃん。アクアにやり返すなら今だよ」

 「ぐっ……でもあまり変なことはさせたくない……!」

 「もしかしてこの人、王様ゲームで自分の正義感と戦ってるの?」

 「まだ風紀委員だった頃の血が騒いでるんだね」


 マルスさんは月学に在籍していた頃は風紀委員として名を馳せていた正義感の強い人だ。まぁ大体空回りして不憫な目に遭ってばかりいたが。


 「じゃ、じゃあ……一番と十番がき、キス!」


 まだ二回目だというのに、さっきの悔しさがまだ残っていたからか、マルスさんは中々に攻めた命令を出した。そして、コガネさんとナーリアさんの二人が手を挙げた。

 いやそうだよな、この集まりって女性比率高いから、こうなる可能性が高いのだ。


 「私、一番だよ」

 「……じゃあ、コガネとキスをしろってことね。やってやろうじゃない」

 「かかってこいや行かず後家が」

 「腰砕けになっても知らないわよ」


 なんかお互い恥ずかしがるどころかむしろやる気だ。今から喧嘩でも始まるんじゃないかってぐらい火花が散ってるように見えるんだけど。


 「行けー! 百合カップルの誕生だあー!」

 「なんで天野君が一番盛り上がってるんだい?」

 「彼は未だに百合厨だから」

 

 皆の注目を浴びる中、鬼気迫る表情で睨み合うコガネさんとナーリアさん。本当にこれからキスするの? ていうかさっき決めたレギュレーションで、流石にキスは頬にしようってなっていたはずなのに、これはまさか──。


 「い、行くわよコガネ。アンタの初めてを奪うのは私よ」

 「ナーリアだって初めてでしょ。行くよ……せーのっ!」


 コガネさんのかけ声と同時に、二人は一気に顔を近づけ──その勢いのまま、両者ともに思いっきり顎と顎を勢いよくぶつけ、鈍い音が店内に響いた。


 「下手くそー」


 経験者であるブルーさんが茶々を入れたが、コガネさんとナーリアさんは顎を抑えながら涙目になってしまっていた。



 その後も王様ゲームは続いていき……。


 「五番が二番にハグ」

 「うへへ……じっくり堪能させてもらうよ、探偵のお姉ちゃん」

 「な、なんかこの子怖いんですけどー!?」

 「年下が攻めの百合カプか……」

 

 ワキアがいやらしい手つきでジュリさんをハグしたり……。


 「九番が三番に大嫌いって言ってねー」

 「兄さんなんてだいっきらい!」

 「ぐぼあー!?」

 「お、朧ー!?」


 俺が夢那に大嫌いと言われて大ダメージを受けたり……。


 「六番が俺にハグしろ!」

 「六番はミーだね」

 「マスター!?」

 「ミーはベリーハッピーだよ!」

 「ぎゃああああああああああっ!?」


 レオさんがマスターに力強くハグされたりと、まぁ案外平和的に進んだと思う。てかマスターも参加してたんだ。

 


 そして次で最後というタイミングで王様に選ばれたのは──。


 「やっと僕が王様だね」


 初代ネブスペ主人公の天野太陽。これまでは特に何も巻き込まれることはなかったが、一体何を命令するのか若干の期待と不安を抱きながら待っていると、彼は薄ら笑いを浮かべながら言う。


 「じゃあ、十六番。隠れてないで出てきなさい」


 天野先生の命令を聞いて、彼以外の全員がきょとんとしてしまう。何故なら、この王様ゲームに参加しているのは十六人。その内一人は王様のため、くじの数字は十五番までしか用意されていない。

 だから、十六番なんて存在しないはずなのに──しかし、手を挙げた少女がいた。


 「もしかして、私を呼んでくれたのかな~?」


 すると天野先生の背後に、長い青髪で頭に黄色いリボンをつけた、月学の制服姿の少女が現れた。

 ここにいる面々は知っている。彼女が、あの幽霊が、紀原カグヤだということを──しかしカグヤさんの術のせいか、俺と天野先生以外の面々は気を失ったかのように眠ってしまっていた。幽霊のカグヤさんに唯一対抗できそうな霊能力者であるミールさんでさえもだ。


 先ほどまで騒がしかった空間が一気に静まり返り照明も消えてしまったことで、まるでホラー映画の世界に放り込まれたような感覚だったが、天野先生はカグヤさんの方を向かずに笑みを浮かべて口を開いた。


 「君なら、こういう場所に引き寄せられてくるかと思ったよ。

  カグヤ。どうして君は、他の皆には会いに行くのに、僕の前に現れなかったんだい? 僕は寂しかったよ」

 「じゃあ、太陽はどうして私の方を向いてくれないの?」


 幼馴染同士だった天野太陽と紀原カグヤ。ほぼ交際関係にあったも同然の二人の仲は、八年前のビッグバン事件により引き裂かれてしまった。

 そんな二人が、生者と亡霊という形ではあるが八年ぶりに再会したというのに、どうしてこんな険悪な空気なのだろう?


 天野先生は背後にいるカグヤさんの方を向こうとはせず、カグヤさんはそんな彼の首元に手を回して、背後から彼を抱きしめていた。


 「相変わらず皆と仲が良いんだね、太陽。そんなに美女を侍らかせていると、ブルーちゃんに怒られない?」

 「僕は皆のことが大好きだけど、僕だって分別はわきまえているつもりだよ。この中に君が入っていれば、もっと楽しかっただろうけどね。

  それよりも、こんな物騒な真似をして、一体どういうつもりだい? イタズラの範疇を超えているような気がするけど?」


 するとカグヤさんは天野先生の背後から、彼の頬に手を添えて彼に問いかける。


 「太陽は皆のことが大好きなのに、その中からブルーちゃんを選んだのはどうしてなの?」


 俺も何度かそれを天野先生に聞いたような気がするが、毎度答えをはぐらかされているような気がする。

 まぁ俺は前世で初代ネブスペをプレイしたからそこら辺の経緯は知っているが、天野先生は笑っているだけでカグヤさんの問いに答えようとしない。そしてしびれを切らしたカグヤさんが先に口を開く。


 「私のことを、忘れられなかったからじゃないの?」


 初代ネブスペの主人公だった天野先生の頭の中には、ビッグバン事件で失った大切な幼馴染、紀原カグヤの幻影がずっと存在していた。

 その状況は、今の俺に似ているような気もする。


 「それは否定できないね」


 ようやく口を開いた天野先生は、自嘲気味にそう言った。


 「確かに、僕は戸惑ったよ。君という存在を失ってすぐに、君のそっくりさんに出会ってしまったんだから。

  でもそれが、僕にとってはとても運命的な出来事だったのさ。そう、その時に全て運命のように思えたんだよ、僕とブルーが結ばれるというのも。こんなロマンティックな答えじゃダメかい?」


 運命、か。

 例えそこの第三者の意思があったとしても、当人達はそう受け止めるしかないのだ。彼らには、その第三者の存在を証明する方法がないのだから。

 

 「じゃあもし私が生きていても、太陽はブルーちゃんを選んだの?」


 答え方によっては何を起こすかわからない、というような口ぶりだった。

 そして、天野先生はとうとうカグヤさんの方を向いて言う。


 「過去の僕はどうかわからないけれど、今の僕はブルーを愛しているよ。それは未来永劫変わることはない。

  僕にも大切な人はたくさんいるし、その中の誰にも嫌われたくないし、誰にも死んでほしくない。でも、カグヤが僕の心に空けた空白を埋めてくれるのは、ブルーしかいないんだ。

  そして、ブルーの心の穴を埋められるのも僕しかいない。僕達はお互いに支え合って生きているんだよ、パートナーってそういうものだろう?」


 天野先生がそう答えると、彼の体を抱きしめるように寄り添っていたカグヤさんは彼から離れ、そして宙にフヨフヨと浮きながら恨めしそうに天野先生のことを見ていた。


 「ちぇっ」


 天野先生の答えが気に食わなかったのか、カグヤさんは不機嫌そうに舌打ちすると、今度はジタバタと暴れ始めた。


 「悔しい悔しい悔しい悔しいー! ちょっとは私のことも引きずってくれてるのかなーって思ってたのに、なんかブルーちゃんとの惚気話を聞かされただけじゃーん!」


 さっきはあんな怖い雰囲気を醸し出してたのに、急に子どもが駄々をこねるかのように暴れ始めた。忙しい人だな。

 そんなカグヤさんのことを微笑ましく見守りながら天野先生は言う。


 「カグヤは今も僕の心の中で生き続けているよ。でも僕が知っている紀原カグヤという女の子は、今の僕達を恨むんじゃなくて、僕達の今後の幸せを願ってくれるだろうと思っているよ」

 「そりゃそーだけどさー。死んだ人間に気を利かせて好きの一つや二つぐらい聞かせてくれたって良いじゃーん」

 「昔は好きだったよ」

 「昔はって、なんだとコノヤロー!」


 そう言ってカグヤさんが暴れ出そうとした途端──彼女の手足に突然、数枚の御札が張り付いた。


 「へ?」

 「残念だったね、カグヤっち」


 カグヤさんの術によって気を失っていたミールさんが目を覚ましたのだ。霊能力者であるミールさんは、カグヤさんにとっては敵わぬ相手であり──。


 「てりゃっ☆」

 「ぎゃああああああああああああーっ!?」


 ミールさんの御札が発動するとカグヤさんはノザクロの壁に打ち付けられ、御札から放たれた電撃を浴びせられていた。幽霊って電撃とか効くんだ。そういう術なのかもしれないけど。

 そしてカグヤさんの術で気を失っていた他の面々も目を覚まし始め、乙女や夢那達もミールさんの術で痛い目に遭っているカグヤさんの姿を見ることとなった。


 「あれ? 私達寝てたの?」

 「カグヤさんが眠らせたみたいだね。んで、今はお仕置きを受けてるところ」

 「未だに幽霊のカグヤさんが普通に存在することが信じられないよ……」

 「仕方ないわよ。月ノ宮も宇宙の町から妖怪の町に変わろうとしているもの」


 最近は宇宙船の襲撃などもあったが、百鬼夜行が出てきたこともあったし……そういえばあれを率いていたのもカグヤさんだったか。ある意味筆頭格なのかもしれない。

 一時はどうなることかと思ったが、ミールさんがいて助かった。


 「ぎゃあああああー! このままだと成仏しちゃうー! 助けてブルーちゃーん!」

 「蜘蛛の糸は垂らしてあげる」

 「それって私が地獄に行くこと前提じゃーん!?」

 「結構しぶといね、カグヤっち」


 ……それにしても、このイベントは何か意味があったのだろうか?

 ただ天野先生達の同窓会にお邪魔することになって、彼らの仲睦まじい様子を見るだけでは終わらず、何故か俺だけ意識を保った中、天野先生とカグヤさんの話を聞かされることとなった。奇しくも、今の俺と同じような状況を味わったことのある天野先生の話を、だ。

 

 烏夜朧の幼馴染か、月野入夏の幼馴染か。

 そのどちらかを選べという、この世界からの、ネブスペ2というゲームからのメッセージとでも言うのだろうか……。


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