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夢であってほしい



 U◯Jでの自由行動時間が終わる前に、俺達はお土産が売っているショップを巡って月ノ宮にいる知り合い達へのお土産を買い漁っていた。


 「このお菓子をここからここまで」

 「いやそれ、選んでるの一個だけだよ美空ちゃん」

 「しかも美空、お前京都とか奈良でも結構買ってただろうが。これ以上食い物増やしても配りきれないぞ」

 「大丈夫、全部私が食べるから!」


 美空がとにかくお菓子を買い漁っている中、スピカやムギ、乙女はアクセアリーや小物が並ぶコーナーを物色していた。


 「ねぇ乙女。一緒に木刀買ってチャンバラしようよ」

 「それが許されるのは中学生までだよ、むーちゃん」

 「中学生でもどうかと思いますけど……」


 なんでこんなところに木刀なんか売ってるんだよ。どうも超極道兄弟とかいうこのネブスペ世界にある謎コンテンツのせいらしいけど。


 まぁ木刀なんてものは置いといて、普通にこのU◯Jでコラボしているコンテンツのグッズが並んでおり、月ノ宮で俺の帰りを待ってくれているであろう夢那のために何か選んでいきたい。望さんはお菓子とかの方が喜ぶだろう。


 あと、ローラ会長は……あんなお嬢様にお土産なんて買っていくのは恐れ多いけども、忘れたなんて言った日にはウチの家が空爆されてしまうかもしれない。彼女は色々なものを背負っているし、ここ最近は宇宙船の襲撃の対応なんかで忙しかったはずだ。労いの意味も込めて、疲れを癒やすようなお菓子と、形に残るお土産を買っていきたい。


 「朧は夢那ちゃんへのお土産を選んでるの?」

 「あぁ乙女。いや、夢那へのお土産はこっちのU◯J限定タバスコだよ」

 「アンタなんてもの買ってくのよ」


 だって置いてあるんだもの、買うしかないじゃないか。夢那は激辛好きなんだし、もしかしたらアルタの大事なアルタにかけて楽しむかもしれないし。いや俺が買ったお土産をそういう風に使ってほしくないが。


 「あと夢那には、この魔法少女に変身できるステッキを買おうと思うんだ」

 「いや、同じ魔法でもジャンルが違うでしょ」

 「乙女は夢那が魔法少女になった姿を見たくないのかい?」

 「いや見たいけど」


 何か杖ってよりかは天使っぽい不思議な羽がついたピンク色のステッキだけど、多分これここじゃなくても買えるものだと思う。


 「あと望さんにもお菓子を買ってこうと思うんだけど、どれが良いかな? この見るからに毒々しいキノコの見た目をしたおまんじゅうとかあるけど」

 「見るからに毒々しいのは絶対ダメでしょ。せめてノーマルなやつにしなさい」

 「じゃあ残機が増えそうなやつにしよう」


 乙女からアドバイスも受けながら俺はお土産を選んでいたのだが……残る一人へ贈るためのお土産が中々決まらない。


 「まだ他にもお土産選ぶの?」

 「あぁ、そうだね。あともう一人分必要なんだけど、難しくてね……」


 すると俺と一緒に売り場を巡っていた乙女が、訝しげな様子で俺の顔を覗きながら言う。


 「それって、シャルロワ会長へってこと?」


 乙女にそう言われて、俺はピタッと足を止めてしまった。

 彼女が相手だったため、ローラ会長の名前を出すことを俺はためらってしまったのだが、情けないことに黙り込んでしまった俺の反応を見て、乙女はクスッと笑って口を開く。


 「じゃあ、私も選んであげるから」


 そんな乙女の反応が意外で俺は呆気にとられてしまっていたが、彼女はアクセサリが並ぶコーナーを指差して言う。


 「そうだ。せっかくだしさ、何かペンダント買ってかない? このイルカのペンダントみたいにさ」


 乙女がイルカという言葉を発しただけで俺はビクッとしてしまったが、ネブスペ2の主人公やヒロイン達は金色のイルカのペンダントというアイテムを持っている。実は俺や乙女も持っているが、俺は首からかけずに失くさないように財布に突っ込んでいる。

 それらはおそらく大星やアルタ達主人公勢がビッグバン事件以前にヒロイン達へ渡したと推測されているが……ローラ会長だけは違う。彼女が持つペンダントは、花菱いるかという人物がプレゼントしたものだ。


 「金イルカのペンダントか……」


 そんな大事なアイテムに代わるものを用意するなんて俺には恐れ多い。それに……。


 「僕は四人分買いたくなっちゃうね」


 ローラ会長へのプレゼントを選んでいるというのに四人分とは、と乙女は最初不思議そうな表情をしていたが、やがて俺が言う意味に気づいたのか、乙女は俺に優しく微笑んだ。


 「じゃあ朧と、夢那ちゃんと、私と、シャルロワ会長の分ね」


 俺にとって、乙女の反応は意外だった。

 

 「……それで良いのかい?」

 「良いじゃない、どんな結果だとしても……私達は、お互いのことを大切に思ってるんだから」


 どんな結果でも、か。

 乙女の口から、そんなことは言わせたくなかった。

 しかし……結局俺は、四人分のペンダントを買うのであった。

 


 集合時間が迫る中、俺達は早めに集合場所である出口付近へとやって来ていた。このまま新大阪まで向かい、新幹線やバスを乗り継いで月ノ宮まで帰るだけだが……楽しかったと言えば楽しい修学旅行だったし、若干落ち着かない時間も多かった。

 それはやはり、この期間中に限って変な夢を見てしまったからだが。


 空を見上げながら若干憂鬱な気分になっていると、スピカが俺に声をかけてきた。


 「あの、烏夜さん。乙女さんってどちらに行かれました?」

 「へ? 乙女ならさっきお手洗いに行ったよ」

 

 このU◯Jでの自由行動が終わったら後は帰るだけのため、集合時間までに出来るだけ軽食やトイレを済ませていなければならなかった。だから乙女も先程園内のトイレへ向かったはずなのだが……するとムギもやって来て、少し不安げな様子で口を開く。


 「もうすぐ集合時間だけど、もしかして乙女……迷子になってたりしないかな」


 俺は腕時計でチラッと時間を確認する。集合時間まではあと五分ほど残っており、月学の殆どの生徒が集まってきているが、乙女がトイレへ行ってから十五分以上は経っている。確かトイレはすぐそこにあるし、どれだけ並んでいてもそんな時間はかからないはずだ。集合時間が迫っていることは乙女もわかっているはず……。


 「……僕、乙女を探してくるよ。集合時間になっても僕達が戻ってこなかったら先生にも伝えて」

 「え、烏夜さん!?」


 俺は妙な胸騒ぎを感じて、トイレの方へと駆け出した。



 集合場所から一番近いトイレへ到着したが、そんな長い列が出来ているというわけでもない。トイレ周辺をキョロキョロと見回しても乙女の姿はなく、他のトイレへと向かってみたがやはり乙女の姿はない。

 

 「乙女……本当に道に迷っているのか……?」


 俺は携帯を取り出して、乙女へ電話をかけた。しかし返ってきたのは、彼女の携帯の電源が切れているかもしれないという報せだけだった。


 嫌な予感が、嫌な結末が俺の頭をよぎる。

 乙女は、本当に迷子になっただけなのか?

 探せば、まだこの園内に、まだこの世界にいるのか?


 それとも──この世界から、消えてしまったのではないか?



 以前のループで前例があっただけに、そんな結末を考えてしまい全身に寒気が走り、鼓動が早まっていく。乙女のトイレがただ長いだけか、たまたま携帯の電源が切れているだけなのか、ただ迷子になってどこかを彷徨っているだけなのか──俺がただ立ち尽くしていると、多くの人々が行き交う通りにフヨフヨと浮かんでいる意外な人物の姿を見かけて、俺は彼女に声をかけた。


 「か、カグヤさん!? ここで何してるんですか!?」


 月学の制服を着た、長い青髪で頭に黄色いリボンをつけた少女、カグヤさんは俺に気づくとシクシクと涙を拭いながら言う。


 「あぁ、朧君かぁ……私、太陽と一緒に遊ぼうと思ったんだけど全然勇気が出なくて、結局何も出来なかったの……」


 昨日あんな悪夢を見せてきたくせに、何乙女チックなことを言ってるんだこの人は。

 だが今、俺はそれどころではないのだ。


 「すいませんカグヤさん。僕の知り合いの、朽野乙女って子を見かけませんでしたか?」


 カグヤさんは何度か乙女のことを驚かしていて面識はあるはずだ。

 しかしカグヤさんは不思議そうな表情で首を傾げていた。


 「朽野、乙女……?」


 ……やめろ。やめてくれ。

 貴方は知っているはずだ、俺の幼馴染のことを。

 忘れたなんて、絶対に言わせない──。


 「あー! あの紫色の髪の子ね! さっきトイレから出てってあっちの方に走っていったよ!」


 どうやらカグヤさんは乙女の顔を思い出すのに少し時間がかかっていただけのようで、乙女を見かけた場所を指差してくれた。いや出口と逆側なんですが。


 「ありがとうございます、カグヤさん。あともうすぐ集合時間なんで、バスにしがみつかないと帰れないですよ」

 「え、ホント!? じゃあ私も急がないと!」


 俺はカグヤさんと別れて、乙女がいるはずの場所へ向かう。

 カグヤさんが乙女のことを思い出してくれて俺は少しホッとしたが、まだ油断は出来ない。彼女の姿を見つけるまでは──そして、レストランの前でパンフレットの地図を見ながら周囲をキョロキョロと見回す乙女の姿を発見して、俺は彼女の元へ駆け寄った。


 「乙女!」


 俺が彼女の名前を叫ぶと乙女も俺の存在に気づいたようで、ホッとした様子で照れくさそうに笑顔を見せた。


 「あ、ごめん……私、道に迷っちゃってさ……」


 そんな乙女に対し、俺はそのまま彼女の体を抱きしめた。どうして烏夜朧が自分のことを抱きしめてきたのか、乙女は突然のことに頭の理解が追いつかずに、え、え、と驚きっぱなしだったが……俺は乙女の体を強く抱きしめて、その確かな温もりを感じて、確かに朽野乙女がまだこの世界に存在することを実感して、そして自然に涙が目から溢れ出していた。


 「良かった……乙女を、見つけられて」


 俺がどうして泣いているのか、彼女にはきっと理解できないことだろう。

 しかし乙女は戸惑いながらも、震える俺の背中にそっと手を添えて、そして優しくポンポンと叩きながら言う。


 「大丈夫だよ、朧。私、ここにいるから」


 最悪の事態も頭によぎった。だが良かった、彼女が見つかって──俺はそう安心しかけたが、ふと違和感を感じた。

 先程まで聞こえていた周囲の喧騒がピタッと止んだのだ。


 顔を上げて周囲を見渡すと、多くの人で溢れていたはずの園内から人が消えていた。俺は何か幻でも見させられているのかと戸惑っていると、俺を抱きしめてくれていた乙女が言う。



 「やっと、二人きりになれたね」



 乙女がそう言うと、俺の視界に映っていた世界が、水彩画の絵の具が混ざったかのようにグニャグニャと曲がって変形していく。



 「朧が、私のことを選んでくれないからだよ」



 俺は全身から血の気が引いて、乙女の体を離した。彼女はいつものように笑顔を見せていたが──瞳は真っ黒に染まり、体の動きはまるで壊れた機械人形のようにカクカクでぎこちなく、その体を大きく震わせながら言う。



 「ねぇ──貴方は、どんな結末をお望み?」



 そして俺の視界に映る景色は、彼女の真っ黒な瞳に吸い込まれるかのように暗黒に染まっていった──。



 ---

 --

 -



 「……はぁっ!?」


 俺は飛び起きてすぐに、目に映った景色に違和感を覚えた。ここは……新幹線の中か?

 左隣の窓際の席を見ると、朽野乙女が可愛らしい寝顔を見せながらスゥスゥと寝息を立てていた。窓の外の景色を見るに、今は帰りの道中らしい。


 「何か悪夢でも見ていたのかい?」


 通路を挟んで向かい側の席には、引率で来ていた天野先生が座っていた。他の生徒達は皆遊び疲れたのか寝ているようで、貸し切りの新幹線の車内はやけに静かだった。


 「天野先生……僕ってU◯Jで迷子になりました?」

 「え? いや、迷子になった朽野さんを君が連れてきたんじゃなかったっけ?」 

 「……そうでしたか」


 ……あれは夢だったのか?

 どこからどこまでが?

 いや、これ以上考えるのはよそう。変に疲れてしまうだけだ。


 「烏夜君、なんだか悪夢にうなされていたみたいだね。実は僕も最近、悪夢にうなされていてさ……昔の知り合いがすんごく怖がらせてくるんだよ……」


 ……天野先生。向こうの窓の外を見てください。なんか新幹線の車体にしがみついてる怨霊のせいだと思いますよ。



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