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全年齢版にはさせない



 十一月六日、金曜日。骨が折れた右腕の調子は相変わらずだが、ヒビが入ったらしい頭蓋骨には特に違和感とかはなく、来週には退院できるだろうと医師に告げられた。かつて足の骨を折った時はリハビリとかも苦労したが、今回は右腕で良かったと思う。まぁ利き手が使いにくくなったのはかなり痛いけども。


 「良かったわね、早く退院できるみたいで」


 今日もローラ会長が忙しい合間を縫ってお見舞いに来てくれており、俺が横になるベッドの側で笑みを浮かべながらそう言った。

 

 「そうだな。もうすぐ修学旅行だが、なんとかいけることになって良かったよ」

  

 頭の打ち所が悪くて頭蓋骨が折れていたり脳が損傷していたりしたら入院生活は長引いていたし、元の生活に戻れていたかもわからない。俺はこの世界でループを繰り返している内に大星達と何度か修学旅行に行ったが、今回は特別なのだ。

 これまではいなかった、乙女も来るのだから……。


 「……ごめん、入夏」

 「なんだよ、また謝って」

 「入夏の怪我がもっと酷かったら、乙女ちゃんと修学旅行に行けなかったかもしれないから……」

 「そうだな。今度こそは乙女と一緒に行けるって内心ワクワクしてたからな。もし俺が行けないぐらい重傷だったらどうしてくれるつもりだったんだ、おぉん?」

 「もし入夏が半身不随とかになってたら、私は潔く入夏と一緒に溶鉱炉へと沈んでいただろうね……」

 「せめて俺にも死に方は選ばせてくれ」


 だが確かに、もしそうなっていたら判断に迷っていたかもしれない。流石に半身不随とか寝たきりの状態を強いられたら、潔くもう一度ループをやり直していた可能性もあっただろう。誰かに死なれてしまうのも困るが、そういった取り返しのつかない怪我とか病気になってしまったら、できれば新しくやり直したい……その時は俺とローラ会長が潔く死ななければならないわけだが。


 「どうせだったらワキアに食い殺されたいな」

 「いつも言ってるね、それ。夢那ちゃんに殺されるのはどう?」

 「あれも悪くなかったなぁ」

 「そんな感想言えるの、入夏ぐらいだと思うよ」


 今のところ、直接バッドエンドに繋がりそうなイベントも起きていないため、ネブスペ2の主人公やヒロインが突然死ぬことは無いだろう。だが今回の件で、やはり烏夜朧は結構危うい立ち位置にあるのだと改めて気付かされた。テミスさんの占いで死相が出なかっただけ良かったが、大怪我を負う可能性はあるのかもしれない……。


 「さて、今後のことなんだけど。後は私が明星君のプライドをズタズタにすれば良いのよね」

 「おいおいおいおい。一番先輩にトラウマを植え付ける気か」

 

 そう、もうしれっと第三部のシナリオが始まっているのである。もう星河祭当日に色々起きすぎていて本来のネブスペ2の主要なストーリーが置いてけぼりにされているが……だって宇宙戦艦とか出てきたら驚くだろ。


 「もう敵が襲撃してくる可能性はないのか?」

 「そうね、他の船団も今のところは見当たらないみたいだし。今回は結構英雄気取り出来て楽しかったわ」

 「自前で宇宙戦艦を作れるとなると、やっぱ他の国から警戒されたりするんじゃないのか?」

 「なら宇宙戦艦で黙らせるまでよ」

 「……軍事クーデターとか起こすなよ?」

 「日本で起こすつもりは無いわ」

 

 ……他の国でならクーデターを起こすかもしれないってこと? でもあの宇宙戦艦だけで世界の半分ぐらいは余裕で征服できそうだし……ますますシャルロワ財閥が恐ろしい存在になっていくんだけど。原作だと色々黒い噂はあったけど結構大人しかったのに、もう派手に暴れまわってくれている。

 

 そのため、ますますエレオノラ・シャルロワという存在がさらに高嶺の花というか、この地球に住まうネブラ人の代表という大きな泊がますます強くなったように思える。こんな奴の中に自分の前世の幼馴染が入っているだなんて信じられないな……。


 「ちなみにだが、お前はちゃんと一番先輩を落とせるのか?」

 「大丈夫だって。受験当日に下剤を仕込むから」

 「いやそういう意味で落とせって言ってるんじゃねぇよ」

 

 常に一番を求め続けていて、有名国立大学への進学を目指している一番先輩が落第なんてしてしまったらその時点でバッドエンド確定だ。いや本人次第ではあるけど、俺はそんな終わり方嫌だ。


 「でも、なんだか最近……違う気がしてきたの」

 「何がだ?」

 「私も色んな人の話を聞いて情報を探ってるんだけど、確かに主人公達が各ヒロインの身に起きた小さなトラブルを解決して親睦を深めているんだけど……言ってしまえばエロゲみたいなイベントは起きてないかもしれないんだよね」

 「へ? どういう意味だ?」

 「だから、ハーレムエンドっぽいけど乱◯パーティーとかはしてないってこと」


 ネブスペ2には計十二人ものヒロインがいるため、イベントCGとかムービーの数も多いが、トゥルーエンドの世界線でも新たなCGなどを回収することが出来る。専ら、それは大星達がハーレムを築いてヒロイン達とイチャイチャしてるだけのシーンだが……一体今の俺がどれだけ回収できているのかはわからない。だってコンフィグ開けないし。それに全部のイベントをこの目で見られるわけでもない。

 だから大星やアルタがヒロイン達とどれだけ進んでいるかというのは、直接聞かなければわからないというわけだ。聞けるわけないけど!


 「キルケちゃん辺りならポロッと漏らしてくれると思ったんだけど、彼女に聞いてもただただ仲が良いというか……普通ではない特別な関係のはずなのに、結構さっぱりしてるんだよ。なんだろう……恋愛関係ってよりも、もう家族みたいな関係なんだよね」

 「それってもう恋愛関係の先なんじゃないか?」

 「そうかもしれないけど……何か私が追い求めてたのと違くて……私はもっと可愛い女の子達のエッチなところを見たいのに……」


 そういやコイツって結構クレイジーなの忘れてた。いっそのこと誰かが妊娠とかしてしまえば話は早いのだが、それはそれでややこしい事態になってしまうから、平穏な状態が続いてほしい。

 しかし……せっかくエロゲの世界が舞台だというのに違和感はある。


 「もしや……全年齢版ということか!? 俺達が何度もループを繰り返している内に、いつの間にか全年齢版の世界に来てしまったのかもしれないぞ」

 「流石にそれは無いんじゃないかな。私がいまここで本気を出せば一気に倫理シールだらけにすることも出来るんだから」

 「やめろやめろ」

 「例えば今、入夏は右手を使いにくいでしょう? つまりそれは【ピーー】が出来ないってことだから、私が入夏にご奉仕して……」

 「やめろっつってんだろ」


 初代ネブスペこそPC版は十八禁だったが、コンシューマー機に移植された時は全年齢版として発売されていた。ネブスペ2も順調に行けば移植されていたはずだが、その前に原作者であるコイツが死んでしまう、開発チームが解散したことで叶わぬ夢となってしまった。


 「それにもう一つ、入夏は大切なことを忘れてるよ」

 「何だ?」

 「第三部のキャラの恋路もそうだけど、ネブラ人の襲撃が終わってもまだ地球は滅亡の危機にあるんだから」

 「……あ、ネブラ彗星か」


 そう、まだ地球は、いやこの世界は滅亡の危機にある。

 星河祭当日、地球の空に眩い光をもたらしたネブラ彗星はただの彗星ではなく、ネブラ人が生み出した最終兵器、対惑星衝突型反物質誘導弾とかいうぶっ飛んだ兵器なのだ。地球に避難してきたネブラ人を追ってアイオーン星系からはるばるやって来て、何度もこの世界を滅ぼしてきた。


 「一応、こっち側で同じ兵器を作るための準備は進めてる。既にそのミッションのためのロケットは打ち上げていて、順調に進めば来月に準備は完了するけど……上手くいくかはわからない」

 「そんな色々と進めて、資金とかは大丈夫なのか?」

 「裏で色んな取引してるから大丈夫」

 「……きな臭いことやってそうだな」

 「とりあえず宇宙戦艦のデッドコピーを量産する予定だから」

 「どんどんSFみたいになっていくな、この世界」


 まだ油断はできない、か。

 地球の存亡がかかっているのも勿論心配だが、俺はそれよりも……二人の幼馴染の扱いに思い悩むのであった。



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