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入院中はA◯でも見て元気出せ

 


 「朧っちって結構しぶといんだね」

 「それ黒幕のセリフだろ」


 俺が目覚めた十一月四日の夕方、学校帰りの大星達がぞろぞろと俺の病室へお見舞いにやって来た。月ノ宮町の名店サザンクロスのケーキだったり色々と見舞いの品を持ってきてくれたが、各々が思い思いのものを持ってきてくれたから病室の一角に山積みになっている。


 「いやぁ皆わざわざありがとね。大星はサザクロのケーキ……美空ちゃんのそれは……?」

 「病院食だけじゃお腹空いちゃうかなと思って、ここら辺の美味しいラーメン屋さんのガイドブック」

 「余計にお腹を空かせようとしてない?」


 今回は足じゃなくて右腕の骨が折れてしまったが、頭蓋骨に若干ひびが入ってしまったため安静にしとかなければならないのに、そんな入院患者へガイドブックを寄越すなんてことがあるだろうか。


 「スピカちゃんがくれたのは本?」

 「はいっ。きっと退屈してしまうと思いまして、病院を舞台にしたホラー小説をいくつか」

 「いや眠れなくなっちゃうよこんなの」


 スピカはもっと可愛いものをくれるかと思っていたのだが、大分烏夜朧の扱い方をわかってきているような気がしてきた。


 「ムギちゃんのは……これ何?」

 「朧の裸像」

 「すごいクオリティだね」

 「窓際に飾っておくといいよ」


 普段は絵を描いているのが好きなムギだが、今日はなんと木彫りの裸像をこしらえてくれたようだ。こんなに器用なのかと驚かされると同時に、ムギに対して自分の裸を見せた記憶がなくてちょっと怖くなってきている。

 

 「レギー先輩のはA◯ですか?」

 「アホか! これは新作映画の『初♡体♡験~超絶テクに堕ちた極上HなJK~』は、ハイジャックに遭った飛行機に居合わせた普通の女子高生が、ハイジャック犯達を権謀術数で次々と倒していく痛快なアクション映画で……」

 「だったらもうちょっとまともなタイトルをつけるべきだったと思いますよ」


 もしかしてHなJKってハイジャック犯のことを指してる? そんな略し方ある? しかもタイトルから察するに最期に墜落してるっぽくない?

 もうタイトルは明らかにそっち系っぽいが、パッケージだけ見るとまともに思える不思議な映画だ。

 

 とまぁ俺の入院生活も長引きそうだからと色々持ってきてもらえたが、俺って今は結構包帯グルグル巻きだけど、一番重傷なのは骨が折れた右腕だけで、頭蓋骨のヒビについては脳の検査をしても特に以上はなかったため、一ヶ月も入院することはないだろうと言われた。火傷や右腕の状態次第でもあるが、早ければ一週間ちょっとで退院できるという……その時までに頑張ってスピカが持ってきてくれた本を読んだりA◯、じゃなかった、レギー先輩が持ってきてくれた映画を見終えるとしよう。


 と、いつものメンバーがお見舞いに来てくれたから俺も少しは元気が出たのだが……この場に集まるはずの面子に一人、欠員がいることに俺は気付いた。


 「そういえば、乙女は来なかったの?」


 烏夜朧の幼馴染、朽野乙女の姿がない。俺が彼女がどこにいるのか聞くと、それまで明るい雰囲気だった病室の空気が一変、暗いものへと変わってしまった。


 「その……乙女さんは……」

 「ほら、お前を探しに行って、お前が屋上から落ちるのを側で見てただろ? その瞬間を見てたから、それが若干トラウマになってんだ」


 スピカ達が話しにくそうにしている中、大星が事情を説明してくれた。

 そう、宇宙船の残骸が校舎へ直撃して、その衝撃で俺とローラ会長が屋上から落ちかけていた時、俺を探していた乙女が駆けつけてくれたのだが……そのまま俺とローラ会長が火の海へ落ちる様子を間近で見せてしまったのだ。そりゃ心も傷つくだろう。


 「乙女に怪我は?」

 「あぁ、乙女は無事だよ。でも……今日、オレ達が誘ってもダメだった。だから今はそっとしといてやれ、お前も早く元気になった姿を乙女に見せてやれよ」


 大星達は帰ってしまったが、やはり乙女のことが気がかりだった。しかし俺の方から携帯で連絡を入れても彼女に気を遣わせてしまいそうだし、レギー先輩の言う通りそっとしておくべきだろうか。

 乙女は何も悪いことはしていないはずなのに……でももし、俺も乙女が火の海へ落ちていくのを間近で見ていたらトラウマになってしまうだろう。スピカ達がどうにか和らげてくれると良いのだが……。



 大星達が帰ってから一時して、今度は叔母の望さんと妹の夢那がお見舞いにやって来た。二人共俺の荷物を用意して持ってきてくれたらしい。


 「この子、朧が運ばれてから三日三晩泣いてたわよ」

 「そ、そういう望さんだって気が気じゃなくてずっとエナドリ飲んでたでしょっ!」

 「お酒じゃなかっただけマシよ」


 変な心配をかけてしまって申し訳ない。望さんはともかく、夢那も泣き腫らすぐらい心配してくれていたなら俺も嬉しいが、あの星河祭の日は夢那にとっても大事なイベントが起きていたはずだ。望さんが売店へ飲み物を買いに行ったタイミングを見計らって、俺は夢那に聞いてみた。


 「……そういえば夢那、アルタ君とはどうなんだい?」


 俺がそう聞くと、夢那の顔はみるみる内に赤くなっていき、恥ずかしさを堪えられなくなったのか俺の右腕のギプスをバンバンと叩きながら言う。


 「な、何もないよ! 兄さんには関係ないでしょ!」

 「いっだーいっ!? 痛いって夢那! そこ患部! 患部だから!」


 夢那の珍しい反応を見るに、これは何かあったと思って良いんだな? 思って良いんだよな? なんとなく夢那がアルタに惹かれているのは俺も気づいていたが……何か周りの恋路は結構上手く行っているのに、俺の周りはなんだかなぁ……。


 俺が未だに大星やアルタ達に対して不安を抱いているのは、彼らのイベントを直接観測できないことにある。主人公達やヒロイン達を手助けしてやることは出来ても、本当に大事な場面は想像の範疇を超えないからなぁ……大星やアルタ達の仲良しグループの関係が良好なのはわかるのだが、実際彼らの関係がどこまでいっているのか、正確なところはわからない。

 流石に本人達に対して「◯ったの?」って聞くわけにはいかないしなぁ。


 「そういえば、兄さんは……」


 ようやく感情を制御できたのか、段々と顔の赤さも和らいできた夢那が口を開く。


 「シャルロワ会長とは、どこまでいってるの?」


 夢那にそう問われた時、俺がどんな顔をしていたかはわからない。だが答えるのに逡巡している俺を見た夢那は、今度はニヤニヤしながら俺を見て言う。


 「兄さん、星河祭はシャルロワ会長と一緒にいたんでしょ? そして二人きりになって……一体何をしてたんだって、学校じゃそんな噂でもちきりだよ、ボクだって皆から色々聞かれてるんだから参っちゃうよ」

 「あぁ……歩き疲れたから、生徒会室で休んでご飯を食べてただけだよ」

 「本当に?」

 「本当だとも」

 「本当かなぁ~」


 自分のことを聞かれた時はあんなに顔を真っ赤にしていたくせに、兄を問い詰める時だけは調子がいい夢那。

 確かに星河祭はローラ会長と二人で巡っていたし、生徒達が地下のシェルターに避難している中、どういうわけか俺とローラ会長は二人で残っていたんだしなぁ……変なことを噂されてもしょうがない。

 

 目覚めたは良いものの、今後は色んな対応に追われそうだなぁと、この先のことを考えて若干憂鬱になってハァと溜息をつく俺を見ながら、夢那が呟いた。


 「その、乙女さんのことなんだけど……」


 しかしその時、売店に行っていた望さんが戻ってきたのか、病室の外から足音が聞こえてきた。


 「ううん、何でもないよ……」


 夢那はそう言って俺に笑顔を向けた後、買い出しから戻ってきた望さんを出迎えて、どうして準備してしまったのかわからない、ダークマター☆スペシャルを俺に無理やり飲ませるのであった……。

 


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