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ごめんな……



 気づくと、俺は病室にいた。病室のベッドに寝かされ、様々な器具を付けられた自分の姿を眺めていた。

 あれ? もしかして俺、死んだ? それとも幽体離脱してる? 本当に自分が寝てる姿を見ることってあるんだ。

 そんなことに驚きつつ、俺はあることに気づいた。


 病室のベッドに横たわる自分が、烏夜朧の姿ではなく、前世の自分の姿なのだ。


 そして改めて見てみると、俺が寝かされているベッドの周囲に人が集まっていた。あれは大学に行ってた時によく一緒に麻雀をやった友人、あっちはバイト先で仲良くなって一緒に旅行とか行った二個上の先輩、こっちには一緒に起業した友人も……高校時代の恩師もいるし、これは一体何が起こっているんだ?

 

 まさか……死んだ俺のために、わざわざ集まってくれたのか?


 こんなに集まってくれた嬉しさもある反面、もう彼らと話すことも出来ない悲しさに襲われる。そしてさらに病室のドアが開き……俺の前世の幼馴染の両親が現れ、俺の名前を叫んだ──。


 『お、朧ー!』


 違う。

 それは、俺の名前ではなかった。

 すると、あの時の場面へ切り替わる。朽野乙女が、火の海へ落ちていく俺とローラ会長を見て叫んでいた。

 そうか、俺はまた死んだのか──。



 ---

 --

 -



 ふぅ、懐かしい景色だぜ。

 目覚めて最初に視界に映った、薄暗い葉室総合病院の天井を見て俺は安心した。どうやら俺は生還したらしい。


 夜だからか窓の外には星空が広がっているが、そこに敵船団の姿はない。再び静かな平穏が戻ってきたようだ。

 なんか体のあちこちが痛くてしょうがないし点滴も打たれてるし体中包帯だらけだけど、俺は元気なつもりだ。これ今までで一番重傷かもしんない。逆に俺の生命力すごくね?


 割と今までに何度も死に戻りを繰り返してきてるから、奇跡的に生還したことに感動していたが……ゆっくりと起き上がると、俺に被せられていた布団を枕代わりに、ベッドの傍らで値落ちしている銀髪の少女の存在に気づいた。

 知り合いにこんな奴いたっけと思ったが……いつもは腰までの長さの髪が肩ぐらいになっていたから気づけなかったし、その変化に驚いた。


 「おい、起きろよ」


 俺はギブスで太く固くなった右腕で彼女の頭をゴンゴンと叩いた。すると彼女はゆっくりと顔を上げ、余程泣いていたのか、真っ赤になった目元をゴシゴシと手で擦って俺の方を向いた。


 「入夏……」


 彼女は俺の名前を呟くと、安心した様子でフフッと微笑んだ。髪が短くなったからなのかわからないが、その笑顔がいつもより無邪気に見えた。


 「なぁ、俺は何日寝てた?」

 「三日……いや、日付が変わったから四日目。今日は十一月四日」


 俺、何か重傷を負う度に数日間寝込んでないか? まぁこんな病室のベッドで寝かされるのはかなり久々だけど。


 「良かった……入夏が、また目覚めてくれて」


 そして病院の先生を呼んで今の俺の状態に問題が無いか軽く検査した後、再び病室に二人きりになり、ローラ会長からあの後の顛末を説明された。



 地球、いや月ノ宮を襲った数十隻の船団による攻撃は、シャルロワ財閥が秘密裏に建造した宇宙戦艦の活躍もあり全て撃退に成功し、こちら側に死者が出ることはなかった。避難のため軽傷者が複数出たが、重傷者は一人だけ。つまり俺ってことなんだけど。


 敵の宇宙船が墜落したことによって月ノ宮学園の本校舎の一部が崩れてしまったが、幸い教室とかを巻き込むことはなく、一部立入禁止区画などはあるものの、通常通り生徒達は通っているという。月ノ宮の沖合だとか月ノ宮各地に墜落した宇宙船の残骸の回収は今も続けられており、敵の攻撃ではなくそういった残骸による被害の方が多いらしいが、再び月ノ宮に平穏が戻ってきたのだ。


 まぁ、俺に平穏が訪れるのはまだ先っぽいけど。


 ローラ会長と共に屋上から地上へ落下した俺は、まず燃え盛る宇宙船の残骸に頭と右腕を強打し、頭蓋骨にヒビが入り、右腕は骨が折れた。さらに炎が上がる残骸の中に落ちたのもあり全身に火傷を負ったものの、すぐに救助されたのもあってか火傷の方はそこまでひどくはなかったらしい。もし助けが遅ければ生死の境を彷徨っていたかもしれないという。


 というわけで俺は全治三ヶ月らしい。年明けまではギプスが必要とのことだ。まぁ今回は腕で良かった、前にカペラを庇って事故に遭った時は足をやられて色々と不便だったから……それでも利き手をやられてしまったのはそれはそれで痛い。



 とまぁ俺はかなりの重傷を負ったものの、生きていられるだけ万々歳だ。しかし、目の前にいるローラ会長は、そんなお気楽なはずはなく……。


 「なぁ、その髪は……」


 俺は、ずっと気になっていたことを彼女に聞いた。俺が知っているローラ会長はその綺麗な銀色の髪を腰まで伸ばしているが、そんな大事な髪をバッサリと切って肩にかからないぐらいの長さになっている。

 こんな姿を見るのは初めてだが、ローラ会長は自分のサラサラの髪に触れながら言う。


 「屋上から落ちた時にちょっと焦げたから、切っちゃったの。随分と軽いわ」

 「怪我はなかったのか?」

 「軽く火傷はしたけれど、あとは擦り傷ぐらいよ。貴方が、守ってくれたから……」


 ローラ会長はそう言って俯いてしまった。どうしたのかと思って心配していると、彼女は突然右手を大きく振りかぶり──ギプスを巻かれた俺の右腕をゴツンと叩いた。


 「いっでぇー!?」


 ギプスで固められてはいるものの、その衝撃と振動によって右腕がジンジンと痛む。怪我人に何してくれてるんだと思ってローラ会長の方を見ると、顔を上げた彼女は、目から大粒の涙を流しながら言った。


 「バカ……」


 そう言って、今度は優しく俺の右腕をコツンと叩いた。いや優しく叩いてもダメなんだよ、折れてるんだから。


 「入夏……落ちる時まで、私を庇ったでしょ」


 最後、屋上から落下する時、俺は咄嗟にローラ会長を庇うように抱きしめた。それが功を奏したのか、ローラ会長は軽傷で済んだようだ。それが彼女にとっては許せなかったようだが。


 「そりゃ、お前がハゲた姿なんて見たくないからな」


 俺がそう答えると、彼女はまた俺の右腕をコツンと叩いた。


 「私には死ぬなって言うくせに、そうやってまた……!」


 ローラ会長はそう言って、涙を流しながらポカポカと俺の体を叩き始めた。


 「私が、どれだけ怖い思いをしたのか、わからないくせに……!」


 きっとこいつは、俺が目を覚まさなかった三日間、ずっと泣いていたのだろう。自分のキャラなんて忘れて……。


 「私は……」


 ローラ会長の声に段々涙が混じっていき、何度も嗚咽を繰り返しながら、彼女は叫んだ。


 「私は、入夏に死んでほしいから、最期にメッセージを送ったわけじゃないんだよ……」


 その最期のメッセージというのは、前世で洪水に巻き込まれた車中で、彼女が俺宛に送ったものだろう。

 俺は行方不明になった彼女を捜索している途中に土砂崩れに遭って死んでしまったわけだが、彼女は自分が俺にメッセージを送ってしまったがゆえに、俺が死んでしまう理由を作ってしまったと後悔しているのだろう。


 ローラ会長は俺の体にもたれかかると、そのまま俺の胸の中でワンワンと泣き始めてしまった。

 それでも、お前は……やっぱり、一人になるのが寂しいんだろう?


 「ごめんな……」


 そう言って、俺は彼女を安心させるように、意外にも華奢な体を抱きしめた。

 

 ごめんな、乙女……俺はやっぱり、烏夜朧にはなれないよ。

 


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