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離さない



 屋上へ出て空を見上げると、ネブラ彗星の出現により眩く輝く空をバックに無数の宇宙船が空を漂っているのが見えた。俺が想像していた船団というのは多くても五、六隻ぐらいだと思っていたのだが、少なくとも二十隻以上はいるぞ。

 シャルロワ財閥が月ノ宮に整備した防衛拠点から迎撃のための無人機も飛び立ち、既に砲台が作動してレーザーやミサイルで攻撃しているが、どうやら向こうはバリアを駆使してこちらの攻撃を無効化しているようだ。


 「おい、かなり多いぞ……!」

 「どうやら、この月ノ宮に集中しているみたいね」

 「なんでだ? どうしてわざわざ防御が固まっている月ノ宮を狙う?」

 「さぁね……どうしても狙いたいものがここにあるのかもしれないわね」


 彼らが狙う目標として考えられるのは二つ。まず一つ目は、地球上において最も船団に対する迎撃能力を持っているシャルロワ財閥を壊滅状態に追い込むこと。そして二つ目は、ネブラ人の王族の末裔である琴ヶ岡姉妹の誘拐か、あるいは殺害か。

 まぁ、そんな合理的な理由を探そうとしたところで無駄だ。Nebula's(ネブラズ) Space(スペース)の世界がこの月ノ宮を中心に回っている以上、敵もここに集まる運命にあるのだ。


 元々ロケットの技術者だった天野先生も開発に携わった無人機が敵船団の迎撃へと向かい、月ノ宮の上空にて激しい空中戦が繰り広げられていた。もう当たり前のようにレーザーが飛び交ったりバリアを張っていたりと、俺からすれば現実離れした光景そのものだったが、やはり敵の宇宙船の性能も優秀でなおかつ数も多いからか、迎撃に上がった無人機が劣勢に見えた。


 「おい、かなり厳しい戦況じゃないか?」

 「いえ、そろそろ秘密兵器が来るはずよ」


 そういえば彼女は前にそんなことを言っていた。シャルロワ財閥の関係者ですら殆ど知らない秘密兵器って一体なんだろうと思っていると、ローラ会長がふと月ノ宮海岸の方を向いて言った。


 「来たわ、この地球の救世主が」

 「へ?」


 俺も月ノ宮海岸の方を向いた。すると沖合の海中から何かがせり上がってきているようで、大きな水しぶきを上げて現れたのは──全長二、三百メートルぐらいはありそうな巨大な黒鉄の船体に並ぶ、これまた巨大な九門の主砲を持つ、戦艦のようなシルエットの船。いや、ただの船じゃない。水面に浮かぶのではなく、そのまま海面を飛び出て空を飛んだのだ。

 あれは、まさか──。


 「宇宙戦艦ヤ◯ト……!?」


 ……。

 ……いや、なんでだよ。


 「あれがシャルロワ財閥が秘密裏に開発した宇宙戦艦よ」

 「いやどう見てもヤ◯トなんだが?」

 「ガ◯ダムにしようか迷ったけれど、やっぱり宇宙船と戦うとなったらこっちかと思って。あと流石にガ◯ダムを作るにはまだ技術力が足りなかったわ」


 いや技術力云々言うなら宇宙戦艦も大概オーバーテクノロジーだろうが。思ったよりもちゃんと秘密兵器っぽい秘密兵器が出てきてびっくりだよ。

 なんかもうあのオープニングテーマが流れてきそうな雰囲気だが、雄々しい姿の宇宙戦艦はそのまま敵船団の迎撃へと向かい、巨大な主砲を彼らに向けて一斉射。すると敵のバリアすら貫通し、一気に数隻もの宇宙船を吹き飛ばした。

 いや、やっぱあいつチートだろ。


 「あれって乗組員は自衛隊なのか? それともシャルロワ財閥の私兵部隊?」

 「いえ、あれは無人機よ」

 「無人機なの!?」

 「あと、流石に波動砲は無理だったから、その代わりに〝無◯の剣製〟を発射できる装置を搭載しているわ」

 「それはオーバーテクノロジーというか世界観が違うだろうが」


 しかし、宇宙戦艦の登場は敵方も想定していなかったようで、宇宙戦艦の攻撃により敵船団の数は最初の半分以下にまで減り、爆発炎上した敵の宇宙船は海へ墜落していく。

 その強さに俺達も圧倒されていたが……敵船団が攻撃を受けながらも、地上が射程圏内に入る高度まで接近していたことに俺達は気づいていなかった。

 

 敵船団は地上から迎撃に上がった多数の無人機や宇宙戦艦と戦っていたが、船団の本隊から離れた数隻が地上へと接近し、レーザーやミサイルを発射していた砲台の攻撃を始める。砲台もバリアを張って応戦するが、やはり敵の攻撃は強力で次々に黒煙が上がり始めていた。


 「そろそろここも危なそうね。私達も避難しましょう」

 「大丈夫か? 本当にこのまま勝てるのか?」

 「えぇ、問題ないわ。あの宇宙戦艦に任せれば──」


 するとその時、ヒュウウウと不気味な音が空から聞こえてきた。見上げると、砲台か無人機か、宇宙戦艦の攻撃を受けたらしい敵の宇宙船が炎上して黒煙を上げながら、俺達がいる本校舎へと落ちてきていた。


 「ま、まずい──」


 俺はローラ会長の腕を掴もうとしたがその瞬間、敵の宇宙船が本校舎の目の前に墜落し、その船体の一部が俺達のいる屋上に直撃した。その衝撃でまるで地震のような大きな揺れと共に屋上に大きな亀裂が入り、ローラ会長が立っていた場所から崩壊が始まった。

 

 「掴まれええええええええええええええっ!」


 俺は必死でローラ会長へ手を伸ばし、右手で彼女の腕を掴んだ。しかし俺が立っていた場所も崩落しローラ会長と一緒に十数メートル下の地面に落ちかけたが、ギリギリのところで左手で屋上の柵を掴んだ。

 

 とはいえ俺の体も宙ぶらりんだし、片手でローラ会長を引っ張り上げるような馬鹿力もない。この高さなら運が良ければ死なないにしても、直下の地面を見ると、墜落した宇宙船の残骸が黒煙を上げながら燃え盛っていた。あそこに落ちてしまったら……ひとたまりもない、最悪の場合が頭をよぎる。


 助けが来なければかなり厳しい状態だが……すぐ脇で燃え上がる宇宙船の残骸を眺めながら何か策は無いかと考えていると、俺に腕を掴まれているローラ会長が口を開いた。


 「ねぇ、離して」


 俺は耳を疑ったが、ローラ会長は目に涙を浮かべて俺に笑みを向けながら続ける。


 「入夏にとっても、私がいない方が幸せでしょ?」


 ……。

 ……まさか、こいつは死にに来たのか?

 烏夜朧と、朽野乙女の幸せのために? 

 彼女の表情からは、そんな悲壮な決意が伺えた。だが──。


 「ふざけんな!」


 俺はローラ会長の腕を掴む右手にさらに力を入れて一喝した。


 「俺がなんのために何度も死んで生き返ってはを繰り返してきたと思ってるんだ!?」


 ネブスペ2のバッドエンド回収のために何度も命を捨ててきた俺に、そんなことを言う資格はないかもしれない。

 もしもまたループするとしても、大切な人を見捨てたくはない。


 「自分が死んで楽をしたいからって、エレオノラ・シャルロワをもう退場させる気か!?」


 きっと彼女も迷ったはずだ。自分の恋を優先するか、自分が愛したキャラの恋を応援するか。

 だが、彼女に死んでもらっては困る。エレオノラ・シャルロワ抜きの真エンディングなんて考えられないからだ。


 「俺は許さないぞ! この世界はお前が作ったエロゲの中だろうがよ! じゃあお前が責任取って綺麗に風呂敷を畳みやがれ!」


 俺は彼女にそう発破をかけたものの、俺が掴む屋上の柵はグラグラとしていて今にも壊れてしまいそうな状況で、早く上に上がらなければこのまま下に落ちて燃え盛る残骸に直撃してしまう。

 だが、どうしたら良い……? 屋上の柵を掴む左手とローラ会長の腕を掴む右手に段々と限界が近づく中、屋上に人影が現れた。


 「朧! ……と、ローラ会長も!?」


 屋上に駆けつけてきたのは、なんと朽野乙女だった。メイド喫茶の当番も終わったから今は制服に着替えていたが、どうしてシェルターではなくここに?


 「お、乙女!? どうしてここに!?」

 「アンタがシェルターにいなかったから探しに来たのよ! ほら、私が引っ張るから!」


 そう言って乙女は俺の腕を引っ張るが、少女一人の力では俺とローラ会長を引っ張り上げるのはかなり難しいだろう。乙女は何度も力を入れて引っ張り上げようとしてくれたが、全然屋上へと上がる気配はない。


 「あぁもう! こんなことなら大星……いや、美空を連れてくるんだったわ!」


 確かに美空なら簡単に俺達のことを引っ張り上げることが出来そうだ。ワンチャン夢那でもいけるかも。だが二人はシェルターへ避難しているはずだから駆けつけては来ない……すると、黒服姿のシャルロワ家のSP達が現れて、乙女と共に俺とローラ会長を引っ張り上げようとしてくれた。


 しかしその時──俺達の側で炎上していた宇宙船の残骸が爆発を起こし、その衝撃によって再び校舎が大きく揺れた。衝撃によって乙女達も俺の腕を離してしまい、そして俺が掴んでいた最後の命綱、屋上の柵もとうとう壊れてしまい──俺の体がフッと宙に浮いた。


 「お、朧ー!」


 乙女の悲鳴が耳に響く中、俺と共に火の海へと落ちゆくローラ会長は、覚悟を決めたような表情で目を閉じた。俺はそんな彼女を抱きしめ……目を、閉じた────。


 

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