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束の間のお祭り



 十一月一日、星河祭当日を迎えてしまった。

 世間ではネブラ彗星の接近が公表されたのもあり、幻の彗星が観測されるのではと盛り上がっているし、この月学も学園祭というのもあって周囲は明るい雰囲気に包まれているが、あいにく俺はそれどころではなかった。


 「ちょっと朧っちー!? どうして大星の携帯を焼いてるのー!?」

 「え? あ、ホントだ!?」

 「俺の携帯がー!?」


 ウチのクラスの出し物であるメイド&執事喫茶のキッチンにて黙々と料理をしていた俺は、考え事をしていたせいか大星の携帯をフライパンでこんがりと焼こうとしていた。


 「危なかった~ごめんよ大星」

 「ケースが溶けただけで良かったぜ。まったく、この生肉型ケース、結構珍しいんだからな」

 「……いや、そんな紛らわしいケースを使ってるのも大概じゃないか?」


 俺がボーッとしていたのは間違いない。星河祭本番にもなれば多少気持ちが浮つくかと思ったが、俺の気分は沈んだままだ。目の前にネコ耳メイド服姿の大星という一生ものの面白いネタがあるというのに、今はどうでもよく思えてしまう。

 すると、同じくネコ耳をつけたメイド……朽野乙女がキッチンへ料理を取りにやって来た。


 「朧ー。マルチバース・ア◯マゲドンを二つだってー」

 「りょうかーい」


 誰のセンスかはわからないが、ウチのメニューはB級映画の作品名で統一されている。俺はただ冷蔵庫で冷やされていただけのチーズケーキを取り出して乙女に渡した。


 「転んだりしないようにね」

 「そんなドジ、私がするわけ……ぎゃああああああああああああー!?」

 

 そんな簡単にフラグが立つことある?

 乙女は何もない床で盛大にすっ転びそうになっていたが、乙女が落としかけたチーズケーキは側にいたムギがギリギリで拾い、そして乙女の体はスピカが支えていた。


 「危なかったね、乙女。クマちゃんパンツがあらわになるところだったよ」

 「今日はクマちゃんパンツじゃなくて水玉の……って、違うわよー!」

 「どうして僕が殴られるのー!?」


 あいにく乙女のスカートの内側を見ることは叶わなかったが、やっぱり俺が殴られるのは理不尽だと思う。

 だが、これぐらいの距離感でいいのだ。

 これぐらいで……。



 自分の担当のシフトも終え、同じく休憩に入った大星と二人で中庭の自販機でジュースを買い、丁度中庭に設けられたステージでコサックダンス部のダンスショーが催されているのを眺めていた。


 「お前、本当に乙女と何もなかったのか?」


 俺が乙女からの告白を断ってから一週間が経ったが、俺は大星や美空達からよくそんなことを聞かれている。乙女は何事もなかったかのように振る舞っているから俺も平静を装っているものの、どこかで動揺しているのかもしれない。

 

 「僕達はいつも通りだよ」


 きっと大星達は、いつも通り過ごしているつもりの俺と乙女との間に何かあったのだと、その些細な変化に気づいたのだろう。大星には話しても良いかと思っているのだが、俺は未だにそのタイミングを見つけられずにいる。大星には、大星自身のことに集中してもらいたいからだ。


  

 お昼からは暇になったから他のクラスや部活動の出し物を見て回りたかったのだが……あんなことがなければ、俺は乙女と二人で行動していただろう。だが今はそんな気分ではない。きっと向こうもそうだ。

 最初のループでは待ち合わせしていたはずのベガが消えてしまい、その後のループでは誰とも行動する予定が無かったから、俺は一人悲しくナンパをしていた……今回もそうなるのだろうか。


 若干悲観的になりながら、お祭りのため様々な飾りで彩られた校舎を歩いていると、一際目立つ長い銀髪の少女がやって来た。


 「あら、こんなときに一人で寂しそうね」


 と、ローラ会長はフフフと俺を嘲笑うように言う。


 「いや、そういう貴方も一人じゃないですか」

 「私は今、ベガのお祝いのためにスイーツを奢ってきたところで、丁度貴方を探していたのよ」


 俺が乙女とデートしていた裏で、ひっそりとベガはヴァイオリンのコンクールで優勝していたのだ。俺もお祝いのメッセージだけは送った。


 「……でも、せっかくの学園祭だというのに、貴方はなんだか楽しくなさそうね」


 俺はまだ、あのことをローラ会長にも伝えていない。知っているのは当事者である乙女と……結局テミスさんにも全部は話していないが、多分なんとなくは知っているだろう。


 「この後に起こることを考えると、明るい気分になれるわけもないでしょう、会長」


 俺とローラ会長の推測では今日、以前地球を襲ったネブラ人による総攻撃が行われる可能性が高い。この心配が杞憂であってほしいのだが、ネブスペ2原作では今日が第二部と第三部の終わりと始まりである大きな節目である以上、大きなイベントが起きるはずだ。


 「いいえ、きっと大丈夫よ」


 しかし、ローラ会長は俺にそう言って笑いかけた。


 「そんなことは忘れて、一緒に学校を回りましょう。手でも繋ぐ?」

 「やめてくれ。隣を歩くってだけで恐れ多い」


 と、ちょっと素が出てしまったが、俺はローラ会長と一緒に月学の中を練り歩くこととなった。



 「見て、ボードゲーム部の出し物よ。入ってみましょう」

 「ボードゲームが好きなんですか? 以前はかなり弱かったような記憶が……」

 「そ、それはトランプとかオセロとかの話でしょ。それに今勝負したらどうなるかわからないから」


 月学には将棋部や囲碁部、チェス部も存在するが、それらとは別にボードゲーム部が存在する。ボードゲームというよりかはアナログゲームに特化したような部活で、TRPGなんかをメインに扱っていると聞いていたのだが……ボードゲーム部の部室を除くと、テーブルには将棋盤やチェス盤が並んでいた。

 なんか思っていたのと違う光景が広がっていたが、その一角では、オライオン先輩とシャウラ先輩の二人が対戦しており、俺とローラ会長は二人の元へ向かう。


 「私のターン、ドロー!」


 何か二人は将棋盤を挟んで対戦しているはずなのに、どうして自分のデッキを持っているんだ?


 「カードの効果で角を墓地へ!」


 もしかして将棋を使って決闘してるんですか、この人達? 見ると将棋盤の上には駒だけじゃなくてモンスターもいるんだけど何事なの。


 「あら、面白そうな遊びをしているわね」

 「あ、会長だ~。今ね、決闘将棋をしてるの」

 「トラップカード発動! 盤面のモンスターを全て破壊!」

 「そんなー!?」


 何かもう王将と玉将を守る駒もいなくなって無防備状態というムチャクチャな盤面だが、これってちゃんと決闘として成り立っているのだろうか。俺はあまり触れたことがないからわからない。


 「ねぇ、私達もやってみない? そうね……麻雀とオセロを組み合わせてみましょう」

 「いや、それだと染めやすくなるだろ」

 「両端を白で挟んだら真っ白になっちゃうわね。赤五筒と赤五索で挟んだら真っ赤になるのかしら」


 ローラ会長は結構ウキウキしていたが、あいにく他に席が空いていなかったため、仕方なくオライオン先輩とシャウラ先輩の対戦をもう少し眺めていくことにした。


 「切り裂け、ブルー◯イズ!」

 「なんの、5メガネ!」

 「何か違うの混ざってきた!? ど、どうしよう……ええい、こうなったら乾燥わかめだー!」

 「な、なんだと……私の負けだよ、シャウラちゃん……」

 「な、なんか勝った……」

 「ベラがミニ四駆のタイヤを揃えることが出来ていれば勝てたのに……」

 「何の話をしているんですか、貴方達は」


 ボードゲーム部の部室にてカオスな対戦を見た後、俺とローラ会長はさらなるカオスを求めて学校内を巡るのであった……。

 


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