ローラお姉様とはお遊びだということですか!?
予約投稿出来てなかったっぽいです_| ̄|○
来週に中間考査を控えた十月十六日の金曜日。放課後にノザクロを訪れると、中間考査明けにヴァイオリンのコンクールを控えるベガが妹のワキアと一緒にミニコンサートをしており、来店したお客さん達がクラシカルな音楽を楽しむ中……店内の一角にあるテーブル席でテスト勉強に励むメイドさんと、彼女を囲む先輩方の姿が。
「織田信長が美少女化された作品を五つ以上答えよって、これ日本史関係ある……?」
「五つどころか百ぐらいありそう」
「信長が出てくる作品じゃなくて、信長が女の子にされた作品を答えろってこと!?」
このノザクロでバイトを続けている乙女が何故かメイド服を着たままテスト勉強をしており、俺も時間を潰すついでに彼女のテスト勉強を手伝っていたのだが、たまたま星河祭のスケジュールを調整するためにノザクロにやって来ていたロザリア先輩とクロエ先輩の二人も、何故か乙女のテスト勉強を手伝っていた。
「教科書に載ってる偉人の肖像画とかが全部萌えキャラになったら面白そうかも」
「現職の総理大臣とかはセーフでも、現職のアメリカ大統領とかはアウトじゃない?」
「まずご存命の方を美少女化するのはどうかと思いますよ」
「でもバ美肉することだってあるじゃない」
「それは本人が望めばそれで良いかもしれないけども」
日本史とか世界史の問題で時代小説の一部が取り上げられることもあるが、その逆は中々面白そうだ。いや信長が美少女化された作品って結構ニッチな界隈だと思うけれども。
ていうかロザリア先輩達も昔はこんな問題を解いていたのだろうか。この人達が麻雀とか競馬に造詣があるなんて信じられないんだが。
「維新の三傑が麻雀をしてますって問題あるけど、この前振りは何……?」
「ほら、歴史上の人物が集って対談しているみたいな感じで進める問題もたまにあるじゃない。前のテストじゃ有馬記念に十六人の偉人が騎手として出走したことあったわよ」
「馬に乗ってた武将とか将軍が有利じゃないですか」
「去年のテストだったね。その時はナポレオンが勝ったよ」
「チンギスハンとハナ差だったわね」
なんか月学のテストはふざけた問題ばっかりだが、それを出題している教師陣もさることながら、そういう世界観を作ったのは俺の前世の幼馴染という……そして烏夜朧の幼馴染がそれに苦しめられている、と。
「しかもこれ、ただの麻雀じゃなくて脱衣麻雀!?」
「維新の三傑の脱衣麻雀なんて冒涜も甚だしいわね」
「でも美少女化してるならアリ」
「あ、大久保利通がチョンボしたね」
よくよく考えればテスト勉強に使っている参考書にこんな問題が載っているわけだから、この世界の出版社も大概狂っているわけか。日本史の問題に麻雀なんて絶対関係ないはずなのに、一局一局事細かに卓上の戦いが記されているし。
ベガとワキアによるコンサートを聞きながら、乙女はカオスなテスト勉強の問題を解いていき、やがてノザクロが閉店する時間がやって来た。
ノザクロのシフトに入っていた乙女とワキアの二人を待って合流した後、俺達は月ノ宮海岸を散歩していた。海水浴客はもういなくなったが、サーファーの姿をちらほらと見かける。
もう十月の末が近づいてきて段々と日の入りも早くなってきたなぁと感じる中、肌寒い潮風に吹かれながら俺は乙女と並んで、浜辺で遊ぶ琴ヶ岡姉妹を眺めていた。
「あの二人を見ていると、何だかほっこりするわね」
月学の制服姿のベガとワキアの二人は、白波が押し寄せる浜辺で何やらダンスを踊っていた。まぁワキアが無理やりベガと手を繋いで踊っているだけで、ベガは凄く戸惑った表情でカクカクとしていたが。
「なんだかお婆さんみたいなことを言うね、乙女」
「いや別に老けたわけじゃないわよ。なんかこう……子犬がじゃれ合ってるのを見て可愛いって思うのと同じ感覚かも」
「それ完全にペット感覚じゃん」
「でも良いと思わない? あの二人がペットになるの」
「僕もそう思う」
乙女、朧と一緒に過ごしている時間が多いせいか段々おかしくなってきてないか? 乙女は知らないだろうけど、琴ヶ岡姉妹は一応ネブラ人の王族の末裔だからな。
「乙女は身近にスピカちゃん達がいるから、ベガちゃんとワキアちゃんのことも可愛く感じるのかな」
「じゃあ私、双子フェチってこと……?」
「怖いでしょそんな人が近づいてくるの。双子っぽい姉妹に君達双子?って聞いてくるのか……ちなみにロザリア先輩達はどう?」
「あの人達はあまり双子感ないでしょ。ビジネスシスターって感じ」
「ビジネスシスター……?」
琴ヶ岡姉妹は本当の双子だが、スピカとムギは両親の再婚で出会ったため血は繋がっていない。でも本当に双子に見えるぐらい仲睦まじいのだが、それに対してシャルロワ家の面々は……ビジネスシスターと呼ばれるのも無理はない。父親は同じでもそれぞれ母親が違い、やはりシャルロワ家という日本でも有数の実業家でありネブラ人の代表的立場にあると色々大変だろう。
しかし最近は四姉妹の関係性も良くなってきたみたいで、皆末っ子のメルシナのことを可愛がっているのは相変わらずだし……なんてことを考えていると、ふと視線を感じて俺は海岸沿いに建っている街灯の方を向いた。
するとサササッと人影が街灯の後ろに隠れたのが見えた。薄暮で見えづらいが、何か街灯の後ろに誰かが立っている気がする。向こうは隠れているつもりなのかもしれないが、まぁまぁ細い街灯に隠れきれていない。
「どうかしたの?」
「いや、誰かがこっちを見ているような気がしたんだ。ほら、あそこの街灯に誰かいない?」
「あ、ホントだ……でも、私達が尾行されるようなことあるかしら」
いや、ある。
この前、葉室市のホテルで実際にその事件を目の当たりにしたからというのもあるが……もしかして地球の侵略を目論むネブラ人のスパイなのでは、という考えが頭をよぎった。
俺は特に重要な人物であるわけがないのだが、ローラ会長とよく一緒にいるから何か勘違いされている可能性もある。何よりも……浜辺でキャッキャとはしゃいでいるベガとワキアの姉妹は、ネブラ人の王族の末裔という重要人物だ。
もしや、と思って俺は謎の人影が隠れる街灯へと駆け出した。
「そこにいるのは誰だ!」
俺が街灯の後ろに回り込もうとすると、街灯に隠れていた人影はさらに街灯に隠れようとグルグルと街灯の周囲を走り回る。俺もそれを追いかけてグルグルと街灯の回りを走り──二人してただ街灯の周囲を駆け回っているだけだった。
「待て~!」
「ひ~!」
「いや、何やってんの」
そんな光景を乙女は呆れた様子で見ており、やがて先に体力が尽きたらしい謎の人物がゼェゼェと息をつきながら立ち止まった。
「お、お許しを~!」
街灯の後ろで俺達のことをこっそり見ていたのは、シャルロワ四姉妹の末っ子、メルシナだった。メルシナはゼェゼェと息をつきながら俺と乙女に手を合わせて詫びていたが、彼女で安心した。まぁ俺も街灯の周囲をグルグルと駆け回っている時点で長い髪と制服が見えたから気づいていたけども。
しかし、どうしてメルシナが知り合いの俺やベガ達に声をかけずにただ遠くから見ていたのかは気になるところだ。
「さてメルシナちゃん、白状してもらおうかな。何か用でもあったの?」
「い、いえ! メルは朧お兄様に対して決してやましいことは考えてませんよ! ローラお姉様と仲睦まじい朧お兄様がローラお姉様に内緒で他の女性と仲良くされているのではと怪しんでいるわけではないですよ!?」
……。
……この子、隠し事出来ないタイプか~。
「い、いや、私はただのお、幼馴染だから!」
と、乙女がキョドりながら否定する。しかしメルシナはそんな乙女を訝しむ様子で言う。
「そうでしょうか……メルは今まで何度も朧お兄様達を尾行してきましたが、それ以上の関係にも見えますよ……あれだけ何度もゲームセンターやカラオケに足を運んで、同じ時間を一緒に共にしている! これはもう傍から見れば付き合っていると言っても過言ではないですよ!」
「そんなに僕達のこと尾行してたの!?」
「メルの部下達に命じて調査してもらっていたんです!」
そんなことを命令される部下も可哀想。でもメルシナはきっと尊敬する姉のローラ会長のことを心配していたのだろう、元々の烏夜朧にはろくな噂なんてないのだから……そして案の定、幼馴染と仲良くしているのを目撃していた、と。
「ていうか待って。朧ってシャルロワ会長と付き合ってたの?」
「いや、付き合ってないけど」
「だからこそメルは心配なんです。朧お兄様はローラお姉様のこと、お好きではないんですか?」
「……好きとかどうとか、そういう感情を抱くのは恐れ多いんだけど」
いつもの烏夜朧なら、もっと調子こいたことを言うはずなのだが、こればかりはふざけて答えることが出来なかった。メルシナや乙女達には伝えられない複雑な事情があるからだ。
そんないつもと様子の違う俺を見て、乙女も不思議そうな表情をしていた。
「……こういう時、朧がそんな反応をするのって珍しいわね。もしかして……」
「やっぱりローラお姉様に気があるんですね!?」
「……三十六計逃げるに如かず!」
「あ、待ちなさいコノヤロー!」
「全部吐いてもらいますよー!」
俺は一目散に逃げ出した。
こんな時に逃げるという選択を選んだ自分が恥ずかしいし情けなくてしょうがないが、これ以上この問題について問い詰められると、どこかでポロッとボロが出てしまいそうだ。
俺とローラ会長との関係について怪しい噂が立たないように気をつけていたつもりだったが……いやしかし、乙女との間に噂が生まれるのも、それはそれで面倒なことになってしまうのではないだろうか?




