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これは仏像自動ロックオン兵器で……



 「近々、ネブラ彗星が太陽系を通過していくと思われるわ」

 

 月ノ宮宇宙研究所の所長室にて。ここ最近の観測データをモニターに表示して望さんが説明する。


 「おそらく年内には地球から目視で観測できるぐらい接近するでしょうね。この彗星自体が何か異変を持っているわけではないけれど……」


 そう言って望さんはチラッと、俺の隣に立つ少女を見る。今日、この場に集まったのは、俺と月研の所長である望さん、副所長であるブルーさん、そしてブルーさんの旦那さんである天野先生と、そして……俺の隣に立つローラ会長の五人だ。

 今回、この面子を招集したのはほかでもないローラ会長である。


 「おそらく、このネブラ彗星の接近に伴い、三ヶ月前に地球を攻撃したネブラ人の船団が再び地球を攻撃するでしょう。先日、シャルロワ家の暗殺未遂で捕まったネブラ人の斥候が吐いた情報によれば、その第一目標はこの月ノ宮である、と」


 この前、シャルロワ家の暗殺を狙った事件が起きたが、直接ローラ会長を狙撃した犯人は自害しているし、捕まった協力者達からは大した情報を得られなかったという。

 しかし、ネブラ人達の船団がこの月ノ宮を攻撃する可能性が高いことを俺とローラ会長を知っているが、俺達は物語の都合上というメタ推理からそれを知っているだけで、そういった情報を知らない他の人に説明するには判断材料が少なすぎるのだ。

 だから、先日の事件を利用して望さん達にそう説明したのだが……やはり望さん達の表情は暗い。そんな中、天野先生が軽く息をついてから口を開く。


 「彼らの目的は一体なんなんだろうね。こう言っちゃなんだけど、地球を侵略したいならもっと大きな都市を狙った方が合理的だと思うよね」

 「これはあくまで私の推測ですが、三ヶ月前、七夕の日に地球を攻撃した船団は、地球文明の技術力を試すためのものだったと思います。月ノ宮に来たのも、この街に多く住まうネブラ人に動揺を与えるためだったのかと。

  そして、これはネブラ人の中でもごく一部の人間しか知らないことですが……かつてアイオーン星系の惑星国家を支配していた王族の末裔を狙っているのかもしれません」


 ローラ会長が言う王族の末裔というのは、ベガとワキアの琴ヶ岡姉妹のことだ。それを知っているのは本人達とローラ会長やティルザ爺さん達シャルロワ家の面々、あとアルタぐらいか……まぁ俺も知っちゃってるけど。

 そんな限られた人間しか知らないということは、それだけ重要機密ということだが……誰が当人かは明らかにしていないものの、その存在が月ノ宮にいることを天野夫婦の二人に伝えたのは、ローラ会長が二人を信頼しているという証だろう。初代ネブスペの主人公とメインヒロインが裏切ってくるなんて信じたくないし。

 まぁ望さんも全然知らないから驚いてるけど。


 「へ? そんな偉い人いるの? シャルロワ家じゃなくて?」

 「それは驚きだね。もしかしてブルーがその末裔だったりする?」

 「もし私がそうなら、貴方のことをもうちょっとこき使ってやるわよ」

 「女王様~」

 「そこに跪きなさい」

 「ワン!」

 「もっとご命令を!」

 「所長の甥っ子さんはプライドとか無いんですか?」

 「アンタの旦那も大概でしょうが」


 俺は喜んで首輪をつけられるが、このノリについてくる天野先生、本当に前作主人公か? 一応は教育者になったような人がこんなことしてちゃだめだろ。


 話を戻して。十一月一日、星河祭が開催される当日にネブラ人の船団が来るまで、後三週間程に迫っている。

 先日の事件もあったように、敵方のスパイがどこかに潜んでいるかもしれないため、その情報はシャルロワ財閥の中でもローラ会長が信頼しているごく一部の精鋭私兵部隊のみに伝えられ、敵の攻撃から月ノ宮を守るための防衛拠点を密かに強化しているらしい。


 そして今日、ローラ会長の計画に参加している望さんに加え、月研副所長のブルーさん、さらに実は技術者として月ノ宮の防衛拠点の建設に携わっていたという天野先生もこの場に集まったのだ。


 「敵さんも流石に前回のように簡単にやられるとは思えないね。向こうの技術力が急激に進歩するわけもないけれど、でも少なからず被害は出るはずだよ。前回は幸い死者は出なかったけれど……今回はどうなるかわからないね」


 七夕事件では月ノ宮神社が敵の攻撃によって破壊されてしまったが、幸い死者は出なかった。でもそれは奇跡というべきだったからもしれない、次は敵も本気でやってくるはずだからだ。


 「しかし、天野先生にはこの月ノ宮を守るために数々の兵器を開発してもらいました。今日はそれをご紹介したいと思います」

 「え、貴方そんなもの作ってたの?」

 「楽しかったよ。ネブラ人の技術とシャルロワ財閥のお金を貰って好き放題するの」


 そして今度はモニターに、天野先生も開発に携わったという兵器の数々が映し出された。


 「まずこれは最新型の無人機だね。二機一組で活動することを前提に設計されていて、敵の宇宙船に接近して、直接船体を攻撃するんじゃなくて内部にいる生命体の細胞を破壊する特殊な光線を発射するんだ」


 なんか急にSFみたいな兵器が出てきたんだけど。細胞を破壊する光線とか怖すぎるんだけど、ネブラ人ってそんな兵器で戦ってたの?


 「あとこっちは妨害電波を照射する無人機だね。これで各種レーザー兵器の誘導機能を強制的に解除させて、代わりに仏像にしかロックオンできなくさせるんだ」


 いや仏像がとばっちり過ぎるだろ、その機能。なんて罰当たりな兵器なのだろう。


 「これはネブラ人の脳に作用する特殊な電波を照射する機械で、この電波を照射されたネブラ人は全てのことを忘れて踊ることしか出来なくなって……」


 なんか段々と兵器の効果が変になってきたんだけど。


 「さらにこれは宇宙船内のモニターをジャックして、アダルティな映像しか流れなくさせる妨害電波で……」

 「なんでそんな変なのしかないんですか!?」

 「いやこういう方がダメージでかいかなと思ってさ。直接船体を攻撃するってなると結構時間がかかるから、それよりも宇宙船自体のシステムを混乱させて時間を稼いだ方が良いと思ってね」


 俺は我慢できずツッコんでしまったが、確かに七夕事件の時も月ノ宮各地の防衛拠点から結構な光線を受けても宇宙船は空に浮いていたし、それなりの防御力があるのだろう。いやもっと他に妨害する方法あると思うんだけど。

 すると説明を受けていたブルーさんが口を開く。


 「なら、強力な催眠作用のある映像とか流してみたいわね。ニ◯ニ◯のMADとかを流せばネブラ人も作戦どころじゃなくなると思うわ」

 「MADって、見ても理解できますかね?」

 「レッツゴー陰◯師とかゲッ◯ンとかで良いでしょ。きっとネブラ人も踊り始めるはずよ」

 「それ良いね、それも流そうか」

 「いやそんなスッと採用する程良案じゃないでしょうに」


 ネブスペ2がもう少しギャグ寄りの世界観ならそんな滑稽なバトルが繰り広げられるかもしれないが、多分そんな明るい展開にはならないだろう。

 

 天野先生の口から説明された兵器の数々は本当に効果があるのか甚だ疑問なところだが、他にもちゃんと一発で大型船を沈没させるような強力な光線を放つ兵器や、月ノ宮全体を覆うバリアを展開する防衛兵器などが用意されているらしい。そんな兵器が本当に存在するのかすら俺にとっては疑問だが。


 「問題は、十一月の星河祭ね。早ければあと二週間後には攻撃されるかもしれないし、中止も考えるべきなんじゃない?」

 「いえ、私は今回も特別警戒する必要はないと考えています。しかし念の為、星河祭当日にはすぐにシェルターに避難できるよう体制は整えておきます」

 「月学の地下に核シェルターを作ったからね」

 「核シェルターあるんですか!?」

 「例え一年間、地球が核戦争で荒廃しても一万人もの人々が生存するための食料と衣類と発電設備と水循環設備と各種アダルトグッズは備えているからね」

 「いやアダルトグッズはいらないんじゃないですか!?」


 星河祭を開催するべきか否か、それに関しては俺もローラ会長もかなり悩んだところだ。星河祭というイベントはネブスペ2のシナリオ上において避けては通れない重要なイベントであるが、月学が宇宙船の攻撃に晒される可能性もある。

 しかし、ローラ会長が言う核シェルター等の避難設備をしっかり整えることで安全は確保できるだろうと判断した。本来、ネブスペ2のキャラである烏夜朧もエレオノラ・シャルロワも、十一月一日にネブラ人の攻撃があることなんて知らないはずなのだから……。



 その後、俺達は解散して俺はローラ会長と一緒に帰路につく。そして月研を出ると、同じ敷地内にある博物館から、第二部主人公であるアルタがゾロゾロとヒロイン達を引き連れて出てくるのを見かけた。どうやら博物館にあるプラネタリウムでデートしていたらしい。

 そんな彼らを見ながらローラ会長は溜息をつく。


 「良いわね、若々しくて」

 「いや二つ下だろうが」

 「もう心はとっくのとうにおばさんよ。まだベトナムが南北に分裂していた頃を生きていた世代からすれば……」

 「いや、俺達が物心ついた時にはもうドイツも統一されていただろうがよ!」

 「小ドイツとして?」

 「それは百年以上前の話だろうが!」


 俺達が物心ついた時にはソ連という国も過去のものだったが、古い地図を見ると懐かしく感じることもある。ロシアがまだソ連で、ドイツが東西に分かれていて、香港がまだイギリス領の地図を知っている世代からすれば、大分時の流れを感じるものだ。


 「そうだ、今度ドイツ村に行きましょ」

 「突然だな。にしてもこんな時期にか?」

 「じゃあ星河祭を無事生き延びることが出来たら、お祝いに行きましょ」

 「フラグを立てるんじゃない。俺は誰も死なせるつもりはないからな」

 「あ、今の何だか主人公っぽいわね。じゃあ本物のドイツに行きましょ」

 「それは今度行こうってノリで行ける場所じゃねぇんだよ! パスポートいるだろうが!」

 「あと星河祭の前に中間考査もあるのだから、それでもちゃんと一位を取ることね」

 「当たり前だ!」


 中間考査とかいう学生らしい嫌なイベントも思い出させられたが、星河祭の準備もしつつその直前には中間考査もあるのだ。

 月ノ宮の防衛だとか避難については、聞いている限りちゃんと対策されているようだが……星河祭当日は、やはり想定外の事態が起きてしまいそうだ。

 それが、何かはわからないけれども……。



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