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青春は罪



 シャルロワ家を狙った暗殺計画はこれまた全国ニュースとなり世間を賑わせたが、今も宇宙のどこかにいる敵の斥候の存在が仄めかされることはなく、昨今の反ネブラ人感情が高まったことによる事件ではと論評れていた。


 狙われていたローラ会長自身が囮になるとかいう危険な作戦で犯人以外に死者は出なかったものの……作中だと死亡フラグが多い俺をお守り代わりにするとは良い度胸だぜ。


 勿論月学でも事件について話題になっていたが、当の本人は今日も素知らぬ顔で登校していた。


 「今度、一緒に乗馬に行かない?」

 「なんですか、その貴族の嗜みみたいな遊びの誘いは」

 

 昼休み、昼食後にローラ会長の様子を見に行くと、オライオン先輩や一番先輩という生徒会組の三人で集まっていて、この前命を狙われたばかりのローラ会長からそんな誘いを受けた。

 するとオライオン先輩が口を開く。


 「最近物騒なことが多いから、息抜きにと思って。会長も大変だと思うし、明星君も最近は何かとピリピリしてるから」

 「そんなつもりは無いんだがな」

 「でも貴方、最近は参考書のページを食べたりしてるじゃない」

 「あれは意外と美味しいもんだぞ」


 割と健啖家な一番先輩が言うのならそうかもしれない。

 確かに三年生の面々はもうすぐ受験を控えているし、何かと精神的に不安定になりがちだろう。息抜きをする時間ももったいなく感じるし……いや、ローラ会長は結構息抜きしてる気がするけど。


 「ちなみに、なんで乗馬なんですか?」

 「今度、ウチの牧場に遊びに行く予定なんだ〜。シャルロワ家の皆も来るって言ってたから、皆でレース出来ないかなと思って」

 「ちなみに一番先輩の乗馬経験はいかほどで?」

 「昔、お祭りでポニーに乗ったことがあるぐらいだ」


 ちなみに俺もからっきしだ。でもだいぶ昔……というか最初のループの世界でベガやワキア達と乗馬に行ったことあるような気がする。そういえばオライオン先輩の父親が馬主やってるみたいな話もあったな。


 「ちなみにいつですか?」

 「今度の日曜日よ」

 「あ〜その日は友人達との予定が入っちゃってますね。馬券を発売してくれたら買っときますよ」

 「身内のレースで賭けようとするんじゃない」

 「エレオノラ・シャルロワステークス?」

 「長月賞エレオノラ・シャルロワ記念ね」

 「自分の名前を冠するんじゃない」


 どうやら第三部の面々が集まるイベントのようだが、俺がわざわざ参加する必要はないだろう。

 下手に俺がローラ会長と二人きりになって、変な雰囲気になるわけにはいかないし……。



 放課後、俺は海岸通りにある喫茶店ノーザンクロスを訪れていた。今日は乙女とワキアがシフトに入っているようで、入店すると乙女がやってきた。


 「あ、いらっしゃい。働きもしないで何の用?」

 「いやちょっとくつろぎに来ただけなんだけど?」


 今日は平日で、乙女やワキアは学校が終わってからの短い時間になるがシフトに入っている。元々このお店で働いていたレオさんが、今も実家の月ノ宮神社の再建作業を手伝っているため、マスターも助かっているという。

 今日は店内も空いていたため、カウンターではなくテーブル席へ通してくれた。


 「ご注文は?」

 「いつもの」

 「わかったわ。楽しみにしときなさい」


 ついノリでいつものって言っちゃったけど何が出てくるんだろう? 乙女は俺がアイスココアが好きって言うのを知っているはずだが、嫌な予感しかしない。


 そしていつものが届くのを待っていると、ノザクロに新たなお客さんがやってきた。

 一人は、『正義』とデカデカと書かれたダサいTシャツを着ているマルスさんと、いかにも探偵らしい帽子を被り、こんな暑い時期にコートを羽織るジュリエットさんが現れた。

 二人共、初代ネバスペのヒロインである。乙女が接客しに行ったが、マルスさんは俺を見つけるとこちらへやってきた。


 「やぁ、奇遇だね。相席でも良いかな?」

 「はい、どうぞどうぞ」


 マルスさんとはこの間、ローラ会長が狙われた事件の時に一緒だった、というかローラ会長を守ってくれた人である。そしてジュリエットさんは現在探偵業を営んでいて、刑事であるマルスさんと関わることも多いだろう。


 「この間は助かったよ、ありがとう」

 「いや、自分は何もしてませんよ? ホテルに着くまで何も知らなかったですし」

 「でも、あのお嬢様に勇気を与えてくれたのは君だ。それも作戦成功の一因だよ」


 俺ってそんな大事なキーマンだったの? ただリムジンで運ばれてきただけのお守りだったはずなんだが……。


 「烏夜さんもあの現場にいらっしゃったのですか?」

 「はい、完全に巻き込まれた形でしたけど」

 「実は彼女も今回の作戦に携わってくれていたんだ。月ノ宮やシャルロワ家に潜んでいる斥候を調査してくれていてね」

 「私にかかれば晩飯前ですよ!」

 「それだと結構時間かかってるじゃないですか」


 ジュリエットさんはドジっ子なところもあって若干頼りないところもあるが、彼女の探偵としてのセンスはピカイチだ。初代ネバスペでは太陽さんが部屋に隠していた秘蔵コレクションが収められた金庫を発見し、その開錠にも成功しているし。


 「ちなみに捜査はどんな感じなんですか?」

 「暗殺計画に関わっていた人間は捕まえられたけど、まだ全容はわからないね。この地球にどれだけ敵が潜んでいるかもわからないし、もしかしたらジュリが二重スパイかもしれないし」

 「いやいやいやいや、そんなことありませんよ!?」

 「まぁ君にそんな器用な真似は無理だろうけどね」

 「それはそれで貶してませんか!?」


 なんだろう、ジュリエットさんのキャラ、なんとなくキルケに似ているところがある。


 

 なんて話していると、乙女が注文したメニューを俺達のテーブルまで運んできた。


 「こちらアップルティーとアイスコーヒーととうもろこしのひげ茶です」

 「何が聞き覚えのないドリンクが来たんだけど、何これ?」

 「マスターが健康に気をつけるようにって言ってたわよ」


 なんかとうもろこしっていうかポップコーンみたいな匂いのする変なお茶がやってきた。これって括り的には青汁とかと一緒なんじゃ?

 しかし、ダークマター⭐︎スペシャルじゃなかっただけありがたいと思おう。全然美味しくないけど。


 すると暇していたらしいワキアも俺達のテーブルへやってきて、笑顔でジュリエットさんに声をかける。


 「やっぱり探偵って尾行とかするんですかー?」 

 「依頼にもよりますけど、変装して潜入することもありますよ」

 「探偵っていうよりスパイっぽいですね」

 「いや、ですから私はスパイではありませんって!」


 よくフィクションでも探偵は題材になるが、はちゃめちゃに運動神経が良くて犯人を追いかけ回したり、博士が開発した秘密道具で無双したり、じっちゃんの名にかけることなんて殆どないだろう。

 そして、ジュリさんみたいにこんないかにも探偵ですよと言わんばかりの格好をしている人もいないはずだ。


 「なんだか憧れちゃうよね、探偵って……ねぇ烏夜先輩。私、探偵っぽいことしたいから何が怪しいことして」

 「そんな無茶振りある?」

 「浮気調査とかどうでしょう? そういう依頼が多いですし」

 「まず僕は誰とも付き合ってないんですが?」

 「今までの朧の悪行を精算する時が来たようね……そういえば朧、最近シャルロワ会長とよく一緒にいるけど、まさか……」

 「いや、別に怪しいことはないだろう!?」


 でももし俺が尾行されてローラ会長も密会してることがバレるとちょっと面倒なことになってしまう。俺みたいな奴がローラ会長の別荘に出入りしてるの、明らかにおかしいしな……。

 するとワキアが俺と頭をニヤニヤしながらジーッと見つめてきた。


 「……そういう朽野先輩が、実は隠れて烏夜先輩と付き合ってたりするんじゃないですか? よく二人で一緒にいるじゃないですか〜」

 「えぇ!? わ、私と朧はそういうのじゃないって!」


 乙女は慌ててそう否定しながら俺の方を見ると、顔を真っ赤にしてしまってすぐに顔を背けてしまった。


 「ほ、ほら、いつまでも駄弁ってないでちゃんと仕事しなきゃ!」


 乙女はそう言って、逃げるようにキッチンへと向かってしまい、そんな彼女をワキアがニヤニヤしながら追いかけて行った。その光景をマルスさんとジュリさんの二人がニコニコしと微笑ましそうに笑いながら言う。


 「これは調査しがいがありそうですね……」

 「これは烏夜君を逮捕しないといけないかな?」

 「いや冤罪ですよ。そもそも何罪で捕まえるつもりですか」

 「青春罪」

 「青春って罪になるんですか!?」

 「周囲の大人達に、もう戻ってくることのない青春の物悲しさを味合わせた罪だね」


 乙女のあの反応を見るに……なんだかますます距離が縮まっているように感じる。

 まったく、俺の周りも盛り上がってきちゃったぜ……!

 


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