ネッズ! ネ◯コ! ミ◯ー!
月ノ宮学園の校舎には謎の教室や部屋が多く存在する。それはかつて周辺地域の人口が多かった名残かもしれないが、もしかしたらビッグバン事件という大惨事が要因かもしれない。
そのためどういう活動をしているかもわからない謎の部活動や同好会が空いている部屋を占拠していたり、教師陣が倉庫として使わないものをどんどんつっこんでいったりと、特に人気の少ない校舎の隅っことなるとより酷い惨状である。
「いやー見てよこれ。こんな部屋を与えられるなんて、僕は嫌われているのかもしれないね」
と、大量の段ボール箱や機材が散らかった教室を見ながら、太陽さん……いや、天野先生は苦笑いする。
今月から月ノ宮学園の講師として赴任してきた天野先生は、来年度から新設される特別コースを担当する予定だが、もう宇宙やネブラ人に関係する特別授業も担当している。
そして校内に彼のためのオフィスを与えられたそうだが……それがこんな惨状である。このとっ散らかった教室を片付けるために、天野先生に偶然捕まってしまった俺と乙女が手伝うことになったのだ。
「埃もすごいですね。一旦全部外に出しますか?」
「じゃあそれは朧君にお願いしようかな。乙女ちゃんは掃き掃除や拭き掃除をお願い」
「これはかなりの大掃除になりそうね……」
元々空き教室だったらしいのだが、どこかの部活が勝手に自分達の荷物や資料を保管するようになり、ここを使っていた生徒が卒業してもそれらは残り続け、そしてまた他の誰かが倉庫代わりに使い……結局誰も掃除しなかったようだ。こんなに管理がテキトーなことあるか。
「先生。この段ボールの中、大量のベーゴマが入ってますよ」
「あ、それ懐かしいね。僕がここに生徒として通っていた頃はあったんだよ、ベーゴマ部。こうやって紐を巻いて……それっ!」
「いや遊ばないでくださいよ」
けん玉ならまだわかるが、ベーゴマは部活として成り立つのかわからないニッチなジャンルだ。もっと生徒数が多い学校ならまだ可能性はありそうだが……。
「先生! シートを剥がしたら三角木馬が出てきましたけど!?」
「あ、こんなところにあったんだ。僕がここに生徒として通っていた頃はあったんだよ、拷問部」
「拷問部!?」
「いやぁ、僕も友人達によく怒られて三角木馬に乗せられたり水牢に入れられたりしたよ……」
いや天野先生の学生時代、やんちゃにも程があるだろ。まぁ八年前の月ノ宮を舞台にした初代ネブスペの頃の彼はそんな感じだったが。
他にも等身大?の河童の模型だったり大漁旗だったり線路の枕木だったりと、どうしてこんなところに保管されているのかわかないものばかり出てくるが、いちいち疑問に思っていても疲れるだけのため、途中から無心で外に運んでいた。
そして俺が荷物を外に運び出している中、乙女がはたきや雑巾を持って埃だらけの教室の中を掃除していたのだが……。
「ぎゃああああああああああああああああっ!?」
なんか掃除中とは思えない乙女の絶叫が聞こえてきて、俺は慌てて教室の方へ向かう。
「ど、どうしたんだい乙女!?」
「な、なんかでっかいネズミがいるー!」
乙女はそのまま俺の体に抱きついてきて、体を震わせながら教室の中を指差した。その先、教室の机の下に、なんかカピバラぐらいのサイズのでっかいネズミのような生物がいた。
「ネッズ!」
いやネズミだったらチューって鳴けよ。しかも結構鳴き声が野太い。
すると俺と同じく乙女の悲鳴を聞きつけてやってきた天野先生が、物怖じすることなく教室の中をズカズカと進んで、巨大なネズミをヒョイッと抱き上げた。
「これはネブラネズミの赤ちゃんだね」
「え、赤ちゃんでこのサイズなんですか?」
「大きくなるとト◯ロぐらいになるよ」
「そんなネズミいたら恐怖でしょうよ」
「でもネブラネズミは人懐っこい性格で気性も穏やかな生き物だから、せっかくだしペットとして飼おうか」
「飼うんですかー!?」
「好物はなんだったっけな……確か巨乳の女性に目がないはず」
そんなガキンチョみたいな趣味持ってるの……と、俺はつい未だに俺の体に抱きついていた乙女の方を見る。すると乙女は何かを察したのか、俺の体を離すとそのままローキックを食らわせてきた!
「私の胸がなんだってのよー!」
「僕は何も言ってないけどー!?」
「目がそう言ってたのよ!」
俺を責めないでくれ、これはきっとこういう展開を待ち望んでいたゲーム側の陰謀なのだから。
その後もせっせと片付けや掃除を進め、教室の中に保管されていた機材等を殆ど処分した後、今度は天野先生の分の荷物を教室の中に運んでいく。
そして汗水を流すこと二時間、天野先生のオフィスが完成したのだが……。俺はてっきり準備室というかオフィスのように使うのかと思っていたが、先生が使うであろうオフィス机や資料棚は教室の隅に置かれ、大きなソファやクッション、冷蔵庫や電子レンジ等各種家電、映画でも見れそうな大型スクリーンや大量の漫画、ボードゲーム、さらにはハンモックなどなど……なんか一つの生活空間が生まれてしまった。
「あの、天野先生」
「どうしたんだい?」
「ここに住もうとしてませんか?」
「いやいや、住むんだったらゲーム機とかも持ってくるよ」
天野先生は笑いながらそう言ったが、本当にここは学校なのだろうか。自分が使うスペースだったら何をしてもいいと思ってないかこの人は。
しかし本棚に並んだ漫画を眺めながら乙女が言う。
「でも遊びに来たいかも」
「いつでもおいでよ、僕はここを生徒達の憩いの場にしたいからね。ちゃんと理事長さんに許可は貰ったけど、流石にゲーム機はダメって言われちゃってさ。妥協してボードゲームになったね」
実際、天野先生が授業で使うであろう資料や機材はかなり省スペースな空間に収まってしまっている。今年度はあまり多くの授業を担当しないとはいえ、何の部屋かわかんなこれ……。
すると乙女は、本棚に並べられた本の中から、一際大きい本を取り出した。
「これは……アルバム?」
「あぁ、それは僕の卒業アルバムだよ。置いといたら面白いと思ってね」
俺も気になって、机の上に広げられたアルバムのページに目をやった。見ると、天野先生だけでなくブルーさんやコガネさん達、初代ネブスペのヒロイン勢の学生時代が写真に収められていた。
すごい、初代ネブスペのイベントCGとかがまんま写真として入ってる。
「あ、これってもしかして歌手のナーリアさん?」
「そうだよ、掃除時間中にほうきをセンターマイク代わりにして教室でライブしてたんだ」
「そんな小学生みたいなことしてたんですね……このペンキまみれの人はコガネさんですか?」
「そうそう、それは確か朽野先生が大事にしていたスーツをカラフルに染め上げた時のだね。朽野先生があんな鬼のように怒ったのは最初で最後かもしれないね」
「いやクソ問題児じゃないですか」
「私でさえあまり怒らせたことないのに……」
「彼女は芸術のためなら何をやってもいいと思ってたからね。でも朽野先生、星河祭でそのカラフルスーツを着てトップスターみたいになってたよ」
この人達の学生時代、今よりも治安が悪そうだなぁ。まぁやっぱり色々コンプライアンス的なものが問題になっていく中で、半ば無法地帯だったエロゲ界隈も色々あったし……ギャルゲとかやっていても女風呂を覗きに行くイベントがNGになっていることもあった。
そんな天野先生の卒業アルバムを見て楽しんでいる中──突然、俺の足が何かに噛みつかれた!
「いっだーい!?」
「ネッズ!」
「あはは、遊んでほしいみたいだね」
俺の足に噛みついてきたのは、先程見つけたネブラネズミ。まぁ噛まれたと言っても甘噛で、制服のズボンを貫通するほどではない。
するとネブラネズミは、ジーッと乙女の方を見つめ始める。
「え、何? 私、何か狙われてる?」
「構ってほしいんじゃないかな?」
「そういえば、ネブラネズミが好きなのって巨乳の女の子……」
「つまり私も巨乳ってこと……!?」
いや何を言ってるんだコイツは。
「なんだか可愛く見えてきたかも……」
「名前でもつけようか。メスみたいだし、ネブラネズミから取ってブズ子はどうかな?」
「絶対その語感は良くないですよ」
「じゃあネ◯コはどう?」
「それもあまり良くないと思いますよ」
「ネ◯コ!」
いやネ◯コって鳴くのは絶対おかしいだろ。
「乙女は何が良いと思う?」
「え? ミ◯ーとか?」
「それはやめておくんだ、乙女」
「ジェリ子とかどうかな」
「それはトムって相棒が必要になるんですよ」
なんで二人共ギリギリアウトなネーミングばっかり思いつくんだ。
結局、俺が提案したネネコと名付けることになった。ネズミなのかネコなのかややこしいが、ネブラネズミもそれを気に入ってくれたらしい。
「ネネコ!」
……鳴き声がもう少し野太くなかったら、まだ可愛くなるんだけどなぁ。




