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貴方は将来尿管結石に罹患するでしょう……



 夏休み明けの九月一日。すっかり忘れていたが、俺は夏休みが始まる直前に停学処分を食らっていたため、他の生徒達よりも長い夏休みを送っていたのだ。幸い単位とか出席日数に大きな影響はないが、あまり誰も触れてくれないから、もしかして忘れられてるんじゃね?と不安になっていた。


 「私の人生終わった……」

 「青春なんて儚いものなのよ……」


 夏休みが明けて早々に、既に魂が抜けてしまったかのようにうなだれている生徒が二人。昨日は溜め込んだ夏休みの課題の整理に追われ、それがようやく終わったと思ったら今度は早速実力考査である。今の二人の様子を見るに、テストの結果は散々だったのだろうなと思われる。


 「美空ちゃんや乙女は一体、何度同じ轍を踏めば反省するんだろうね……」

 「来年には私達も受験が待ってますからね。もしも大星さんがハー◯ードやオック◯フォードを目指すとなったらどうするおつもりですか」

 「いや絶対行かないぞ、っていうか行けないぞ俺は。そんなとこ行くとしたら朧ぐらいだろ」

 「大星は四◯学院に通ってるかもね」

 「それは落ちてるんじゃねぇか!」


 進路かぁ……何度聞いても嫌な言葉だ。最初のループこそ別だが、これまでのループは遅くても年明けに世界が滅ぶことを俺は知っていたから、進路なんて何も気にせずに過ごすことが出来ていた。

 しかしこの真エンドに向かっている世界では、エンディング後も世界は続くはずだ。そのため俺はいつもより真剣に進路を考えなければならない。だとすれば停学処分になったのはかなり痛いな……。


 「皆ってもう進路とか決めてるの? 朧っちは大学でナンパ学でも学ぶの?」

 「そんな学問にする程高尚なものじゃないでしょうが」

 「ナンパ学部プロポーズ学科かな」

 「いや胡散臭いでしょそんなの」

 「むしろ朧が主体になってサークルを作るかもしれないわね。ナンパサークル」

 「絶対ろくなことしでかさないって、そのサークル」

 「それでしれっと成功して、調子に乗ってオンラインサロンを開設したり自己啓発本を出しまくるわけだ……」

 「そんな本、ブッ◯オフで安く買い叩かれるだけでしょうが!」


 でも烏夜朧というキャラの未来にそういうのがありえないとは否定できない。今は俺という存在が入っているからおそらくありえない未来だが、原作の烏夜朧なら変な成功を収めていそうなのだ。

 すると、机に突っ伏していた美空が顔を上げて言う。


 「私もねー、料理するのが好きだから自分の家で料理教室を開いたり、レシピ本を出してみたり、料理研究家としてテレビに出てみたいな~とかは思うんだよねー。でもあんまりそういう自分をイメージできなくて……」

 「ではイメージトレーニングをしてみてはいかがでしょうか?」

 「成程、確かに!」


 美空は席を立ち、早速イメージトレーニングを始める。


 「あれ、昨日までここに何もなかったのに料理教室が出来てる」

 「完全にショートコントの導入だよねそれ」

 「しかも参加する側なのかよ」

 「こんにちは、私はこの料理教室を運営する食中毒太郎です」

 「料理人に向いてないだろその名前」

 「しかも朧が教える側なのね」

 「今日はプロヴァンス風ポークステーキを作っていきたいと思います。ではまず、牧場へ向かいましょう」

 「仕入れから始めるの!?」

 「そしてこの無数のブタ達の中から自分の両親を探してください」

 「これが母さんかな?」

 「いや探さなくていいだろそんなの」

 「ブヒー」

 「ブタ役をやらなくても良いんだよ、むーちゃん」

 「次に牧場併設のレストランへ向かいます。こちらがそのレストランで提供されているシチリア風ポークステーキです」

 「流石に三分クッキングでもいきなり完成品は出さないでしょ」

 「それに最初、プロヴァンス風って言ってたのにシチリア風になってるじゃねーか!」

 「次回は加古川の丸◯製麺で会いましょう!」

 「それうどん食ってるだけだろうが!」


 ツッコミ役がいてくれるとボケも安心するぜ。こんなくだらないことをやっていられる日常がとても幸せに感じられる……。



 放課後、大星達は皆でゾロゾロと遊びに行ってしまったが、俺は月学に残って妹の夢那を探して校舎をウロウロしていた。すると職員室の側で一番先輩と他の三年の先輩が歩いているのが見えた。

 

 「おい、問題児が来たぞ!」

 「お前も同じ目に遭いたいか?」

 「こいつ反省してねーぞ!?」


 一番先輩の普段の学校での振る舞いを皆が知っているからか、停学処分を食らった件をあんな風に茶化されている。そんな一番先輩の姿を見て安心した後、一年生の教室へと向かおうとしたのだが……一年の教室の方から夢那とキルケの二人が歩いてくるのが見えた。


 「こっちが職員室です。その向かいにあるのが給湯室と談話室で、そっちのショーケースには色んなトロフィーが並んでるんですよ。あ、これは全国スター◯ォーズ杯ラ◯トセーバー道選手権大会のトロフィーですね

 「ラ◯トセーバー道……?」


 夢那自身は夏休みが始まると同時に月ノ宮へ引っ越してきていたが、月学へ登校するのは今日が初めてだ。しかし夏休み期間中にアルタやベガ等同級生達と交流していたため、すぐに馴染めるだろう。とはいえ月学の校内を案内しようと思っていたのだが、既にキルケがその役を買って出てくれたようだ。


 「やぁキルケちゃん。ありがとね、夢那を案内してくれて」

 「あ、どうも烏夜先輩! これぐらい友として当然です!」


 キルケは相変わらず善性の塊だ。原作でも夢那の親友になってくれるが、この世界でも変わらず夢那と仲良くやってくれているようで何よりだ。夏休みの間、あまりキルケとシフトが被らなかったのは残念だが、それはそれで安心している部分も俺にはあった。


 「あ、そうだ。兄さんもキルケちゃんの占い受けてみない? キルケちゃんの占い、すごく面白いんだよ」

 「え? 占い?」

 「あ、実は師匠から新しい占いを学びまして……」


 キルケの趣味は占いだ。月ノ宮の魔女という異名を持つテミスさんに弟子入りしており、作中でもヘンテコな占いを何度も披露する。

 そして、俺がキルケをなんとなく避けている理由がそれである……。


 「では烏夜先輩。右手を出してもらってもいいですか? 手の平を上にして」

 「うん、いいよ」


 俺が手の平を上にして右手を出すと、キルケがその上から包み込むように手を被せた。


 「これから烏夜先輩は投資家になります。次の四つから投資する企業を選んでください。

  一、デザインの盗用が発覚し大炎上した広告代理店。

  二、検査不正が発覚して数百万台単位でリコールが発生した自動車メーカー。

  三、上層部によるパワハラが横行して離職率が高い飲食チェーン。

  四、実は膨大な負債を抱えているがそれをひた隠しにしている電機メーカー。

  どれにしますか?」

 「どれも嫌なんだけど?」


 こんな嫌な四択ある? 四はもう再建不可能と考えて、三は企業体質の面で立て直しに時間がかかりそうだし、それが慣習になっていなければ救いようがある一か二……まぁそのどちらかならまだ将来的な成長の余地がありそうな自動車メーカーだろうか。


 「じゃあ僕は二の自動車メーカーかな」

 「ファイナルアンサー?」

 「え、テレフォンとか使える?」

 「オーディエンスやフィフティフィフティもいけますよ」

 「じゃあオーディエンス!」

 「では夢那さん、どうですか?」

 「ボクだったらそのお金で金を買うかなぁ」

 「いやそういう投資もあるけど」


 逆にフィフティフィフティを使ったらどれが残ったのだろうと気にはなるが、俺は二の自動車メーカーでファイナルアンサー。


 「では烏夜先輩は……将来的に腰痛が持病になると思われます」

 「そういう占いだったの!?」

 「座りっぱなしの作業にはご注意を!」


 他の選択肢を選んだら将来高血圧とか糖尿病に悩まされる羽目になったのだろうか。なんで投資先を選ぶ問題で将来的にリスクのある病気がわかるんだ? これだからテミスさんが生み出した占いは謎だ。


 「ちなみに夢那の結果はどうだったの?」

 「ボクはリウマチに注意だって」

 「キルケちゃんは?」

 「私は網膜剥離だそうです」

 「いや怖いでしょ、この占い」


 占いがよく当たると話題のテミスさんが生み出した占いなのだから、この占いの結果も当たってしまうのだろうか? まぁそうなる未来もありえるから、そうならないよう努力しろということなのだろうが……。


 「でも師匠の占い、本当に凄いんですよ! 自分はまだまだ未熟ですけど、何かお悩みがあれば何でも占いしますよ!」

  

 キルケは満面の笑みでそう言ってくれるが、だからこそ俺は彼女を恐れている面もある。

 何故なら、自分の身の上がバレてしまうかもしれないからだ。


 「この後はどこに行くの?」

 「次は各部活動の部室を巡りましょうか! 野球部やサッカー部やどじょうすくい部とか色々ありますよ!」

 

 そう言ってキルケは夢那を連れて去っていった。

 本当はこの世界の未来について占ってほしいのだが……テミスさんならまだしも、キルケにそんな負担をかけたくない。何しろ、彼女もヒロインとなるのだから。

 テミスさんを頼れるならもっと楽なのだろうが、それによって世界の歯車が狂うかもしれないと思うと俺はテミスさんからも逃げ続けなければならないのだ……。


 「こんなところで何をしているの?」

 「どわーい!?」

 「そんな驚かなくても」


 急に声をかけられてびっくりしてしまったが、突然現れたのはローラ会長だった。


 「なんだお前か……いや、占いって怖いな。俺、将来腰痛に悩まされるらしいんだ」

 「それぐらいで済んで良かったじゃない。私なんか動脈解離って言われたわ」

 「いやお前も受けてたのかよ!」

 「でも怖いわね。私達の将来を暗示されるかと思うと……」


 どうやらローラ会長も俺と同じ考えのようだ。

 昔は最早超人の域にあったテミスさんに何度も助けられたが、この世界への過干渉を避けるという意味で、彼女達に俺達の秘密がバレるわけにはいかないのだ……。



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