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こちらネブラチイサナオジサンの赤ちゃんです



 八月も中旬を迎え、夏休みも折り返しという今日この頃。暑さにうだるセミの絶叫がけたたましく聞こえる中、月ノ宮宇宙研究所では宇宙祭というイベントが開催されていた。


 研究所に併設されている博物館のプラネタリウムの利用料が無料になったり、宇宙飛行士や研究者の講演会が開かれたり、各種グッズが販売されたりと中々に大きいイベントで、所長であり俺の叔母でもある望さんから駆り出されて俺と夢那はイベントの手伝いをしていた。


 「こちらネブラスライムの赤ちゃんです〜」

 「これ生きてるのー?」

 「油断したら口の中に入り込んで息の根を止められちゃうから気をつけてね」

 「こわー!?」


 俺と夢那は小さな子どもや家族連れが多く訪れる、宇宙生物とのふれあいコーナーに配置され、子ども達とふれあいながら宇宙生物を紹介していた。


 「このおじさんみたいな生き物はなんていうの〜?」

 「これはネブラチイサナオジサンの赤ちゃんだよ」

 「おじさんの赤ちゃん……?」


 いや待て、そんな困惑した表情で俺を見ないでくれ。俺だって何を言ってるかわからないけれど、これはネブラチイサナオジサンって生き物の幼体なんだ。見た目は完全におじさんだけど、これが人間の括りに入らない理由がわからない。卵生だからだろうか。


 「おねーさん、一緒に写真撮ってー!」

 「え、ボクと?」

 「オイラ、将来おねーさんと結婚するんだー!」

 「ふふ、十年後ぐらいにまた会いに来てね」


 なんか俺の妹がマセたガキンチョにモテてるんだが。なんかまた別のエロゲが生まれそうな予感がする……。



 ふれあいコーナーで宇宙生物や子ども達と触れ合っていると、新しく月研の副所長として望さんの右腕となったブルーさんがやってきた。


 「こんにちは。今日はわざわざありがとね、望ちゃんったら人使いが荒くて」

 「いえいえ。それよりブルーさんもいかがですか? こちら、ネブラシャコガイですけど、腕を挟まれると幸運が訪れるそうですよ」

 「……昔、ソイツに痛い目を見たから遠慮しとく」


 ブルーさんもかつてはエロゲヒロインとして色々やらされていたから、おそらく宇宙生物には嫌な記憶しかないだろう。

 するとブルーさんは、子ども達に囲まれている夢那を微笑ましそうに見ながら言う。


 「あの子が君の妹さん? 子ども達に大人気ね」

 「なんか保育士みたいになってますね」

 「子どもに好かれるのは良いことよ。そういえば望さんから聞いたのだけれど、あの子は将来宇宙飛行士を目指してるらしいわね?」

 「そうですね。そのために月学に来ることになりましたし」


 宇宙飛行士には体力だけでなく何かしらの専門知識や、各国のエキスパート達と交流するための語学力やコミニュケーション能力なども必要だ。夢那は学業も優秀だし、体力面は言わずもがなだ。多分宇宙空間に放り出されても、放棄された宇宙ステーションや宇宙船になんとか辿り着いて奇跡的に地球へ帰還しそうだし。


 「私はロケット工学だけじゃなくて天文学とか天体物理学も専門だから、もしかしたら月学で何か教えることもあるかもしれないわね」

 「その時は夢那のことをよろしくお願いします。確か太陽さんも月学に赴任されるんですよね?」

 「えぇ、そうよ。確かあの人も私と来ていたはずなんだけど……」

 

 ブルーさんがキョロキョロと周囲を見ていると、夢那の方を見て、呆れるように溜息をついていた。

 何かと思って、子ども達に囲まれていた夢那の方を見ると──。


 「おね〜ちゃ〜ん! 僕とも写真撮って〜」


 ……夢那の元に群がる子ども達の中に、大きなお友達、太陽さんも混ざっていた。

 初代の時から八年も経ってるから、太陽さんも大人になったなぁとか思ってたのに……何をしているんだ、あの元エロゲ主人公は。


 「良いんですか? しょっぴかなくて」

 「あの人の関係者と思われるのも嫌だわ」


 なお、夢那はひきつった笑顔を浮かべながら太陽さんと写真を撮っていた。



 「さて、今度から月学に講師として赴任することになった天野です。自分の専門はロケット工学だけど宇宙飛行士育成コースでも教鞭をとる予定だからよろしくね、夢那さん」

 「今更かしこまって自己紹介したって無駄よ」


 と、太陽さんは夢那に自己紹介していたが、ブルーさんに頭をバシッと叩かれていた。今でも根は変わらないんだなと思って安心した反面、それはそれで不安である。


 「そうだ、せっかく宇宙飛行士の方が講演に来てるんだし、夢那ちゃんも観に行ったら? 望ちゃんには私から話を通しておくし」

 「良いんですか? 兄さんはどうする?」

 「いや僕はもう少し手伝いを続けるよ」


 ちょっと興味のある話ではあるが、俺は遠慮しておいた。俺も宇宙に関してはある程度の知識はあるとはいえ、じゃあ実際に行ってみたいかと言われたらそこまでの熱意はない。


 俺は夢那やブルーさん達を見送り、ふれあいコーナーでの手伝いを続けていた。するとまた知り合いが近くを通りがかった。


 「あれ、朧じゃん。また手伝いしてんの?」


 現れたのは乙女、秀畝さん、穂葉さんの朽野一家。どうやら家族でやって来たらしい。


 「乙女、このネブラゾウリムシの赤ちゃんどう? 可愛いと思わない?」

 「ゾウリムシって本当にこんな草履みたいなサイズじゃないでしょ。これで赤ちゃんなの?」

 「あら可愛いわねぇ~この子って餌は何を食べるの?」

 「好物は江の島のしらす丼ですね」

 「そんな限定的なの!?」


 乙女は若干気味悪がっていたが、穂葉さんは何か飼おうとしているぐらい宇宙生物を気に入ったようだ。実際にこの世界だと愛玩動物として飼う人も少なくはないが、ひょんなことでエロゲみたいなイベントを起こしかねない生物だから扱いには注意が必要だ。

 乙女はビビリながら他の宇宙生物をツンツンとつついている中、手の上にネブラゾウリムシを乗っけた秀畝さんが言う。


 「そういえば、朧君は今度の旧暦の七夕祭の話は聞いたかい?」

 「今年は中止になるみたいな話を聞きましたけど」

 

 月研から見て月見山の向こう側にある月ノ宮神社では、例年新暦と旧暦の二度に分けて七夕祭が催される。だが七月七日の七夕祭ではネブラ人の宇宙船による攻撃で月ノ宮神社が破壊されてしまい、今も再建途中だ。いつもは屋台が並んでいる境内も、今は建設会社のプレハブが建ち、大量の建築資材が積まれているという状況だ。

 このままでは歴史ある旧暦の七夕祭が中止になるのではと、月ノ宮ではまことしやかに噂されていたが……。


 「それなら、ウチでやる予定よ」


 現れたのは、首にヘビっぽい謎の生物を巻いた望さんだった。今日も白衣を着ているが暑くないのだろうか。


 「え、七夕祭を?」

 「流石に神事とかは出来ないけど、ウチは結構敷地も広くて屋台を並べられるから、今日みたいな感じでお祭りっぽく出来るでしょ。海岸の方にステージを作ればそれっぽくなるし、今年は月研……というよりも海岸の方がメインになるかもしれないわね」


 今日も月研でイベントが行われているが、屋台などが並んでいるわけではないためお祭り感自体はない。望さんの言う通り屋台が並ぶスペースもあるし、多分長い階段を登らされる月ノ宮神社よりこっちの方がお客さん的にも楽なんじゃないだろうか。


 「というわけで朧。そん時も手伝い頼んだわよ」

 「はいはい」

 「あ、じゃあ私も何か手伝いましょうか?」

 「良いの? 給料は朧から貰ってね」

 「なんで?」

 「じゃあ私は看板娘として張り切っちゃおうかしら」

 「母さんは黙ってて」

 「じゃあ自分はねじり鉢巻で太鼓でも叩こうか」

 「父さんも黙ってて」


 七夕祭が無事に催されることが決まったなら安心なのだが……やはり大きな不安が残っている。

 前回、謎の宇宙船が突如襲来し、月ノ宮を、いや世界各地を攻撃している。あのタイミングは偶然ではなく、ネブスペ2というエロゲのシナリオにおける一つのイベントとして発生したはずだ。実際にゲーム中に収録されているものなら俺やローラ会長はそれに備えることが出来るが、この真エンドの世界で起きるイベントはどうなるかわからない。


 本来、ネブスペ2なら第二部のシナリオが進んでいるタイミング。旧暦の七夕祭ではアルタや第二部のヒロインを中心にした面々がイチャイチャするイベントが起き、そしてワキアが体調を崩して再び入院してしまうのだが、おそらくワキアの謎の病は治っているはずだ。


 じゃあ、何か重大なイベントが起きるとしたら……一体何だろうか?



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