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博識なのは良いが、冷静に解説されるとキモい



 海の楽しみ方は人それぞれだ。浅瀬で水を掛け合ってはしゃぐ人、広い海で沖合に向かって泳ぎに行く人、浜辺でビーチバレーをしたり砂の城を作る人、パラソルの下で寝転がってくつろぐ人……今日、月ノ宮海岸に集まったネブスペ2のキャラ達も例外ではない。

 昼食までまだ時間があるため、俺は炎天下の浜辺で砂のお城を建築しようとしているメルシナとクロエ先輩の元へ向かった。


 「何か手伝いましょうか?」

 「後で水攻めしたいから水路を作ってほしい」

 「そして小舟の上で城主を切腹させるんです!」


 ここを備中高松城にするつもりか? 二人が作ってるの、完全にヨーロッパ風のお城っていうか居館っぽい建物だけど。


 「お城って何かと伝説が残るから好き。このお城にも何か怖い伝説を作ろう。このお城の地下では売れなくなった一発屋芸人が強制労働させられているとか」

 「それはあまり怖くないんじゃないですか?」

 「メルがよく聞く話だと、そのお城ではかつて謀反の疑いをかけられて非業の死を遂げた武将がいて……」

 「お、良い感じ良い感じ」

 「そして異世界に転生して……」

 「まさかの異世界転生モノだった」


 オカルト好きなクロエ先輩は怪談話も大好きだ。その割にはこの前、カグヤさんを見て気絶してたけど。

 するとロザリア先輩がそのタユンタユンのボディを揺らしながら俺達の元へやって来た。


 「せっかく海に来たんだから泳ぎなさいよ、貴方達。海の上をどれだけ走れるか勝負しましょ」

 

 ロザリア先輩、そんな子どもみたいな遊びをしようという発想に至ることあるんだ。美空とか夢那だったら出来そうだな。

 クロエ先輩は砂の城を作る手を止めたが、首を横に振ってから言う。


 「今日はやめておいた方が良いよ。海にはたくさん怖い話があるんだから。皆には見えていないかもしれないけど、今日の海は無数の足が伸びているから……」

 「いや、足が伸びてるのはおかしいでしょ」

 

 一瞬怖いなって思ったけど、手じゃなくて足なのね。いや海面から無数の足が伸びているのもそれはそれで怖いが、じゃあ足が何をするんだよって話だし、そんなものが見えていないのであろう夢那は普通に沖合で元気に泳いでいる。すんごい波しぶきが見えるけど。


 「あ、でも待ってくださいお姉様。もうすぐお城が完成しそうなんです!」

 「上手ね。写真でも撮ろっか」

 「このまま水攻めするから見てて」

 「アンタら壊すために作ってたの?」


 俺がしこたま作っていた水路も目前まで開通し、クロエ先輩とメルシナが堤防を決壊させると一気に砂の城の周囲に大量の海水が押し寄せていき、やがて砂の城は海水の浸食で崩壊していってしまった。


 「水攻めって嫌だよね。堤防作るの大変そうで」

 「攻める側の気持ちなんですね」

 「次はコンスタンティノープル包囲戦を再現しましょう!」

 「船を山越えさせるつもり……?」


 砂の城作りに満足したらしいクロエ先輩とメルシナも交えて、俺はロザリア先輩と共に浅瀬で遊ぶことにした。丁度浅瀬の側で一番先輩が浮き輪ベッドに空気を入れてくれていて、泳ぐのはダルいと言うクロエ先輩がその上で寝転がり、結構泳ぐのが好きらしいロザリア先輩は一番先輩と共にちょっと深めの沖合まで泳ぎに行き、俺はメルシナと一緒に浅瀬で遊ぶことにした。


 「朧お兄様っ、アトランティスごっこをしましょう! お兄様はアトランティス大陸役です!」


 俺は殺されるの? そんなごっこ遊び初めて聞いたけど最近の流行り? 今更アトランティス大陸が流行ることなんて無いだろ。


 「ぼ、僕は何をすればいいんだい?」

 「朧お兄様はアトランティス大陸、そして私がムー大陸役で、どちらが長く海の中に潜っていられるか勝負しましょう」

 

 良かった、ただの潜水対決か。メルシナがポセイドン役でアトランティス大陸である俺を海中に沈める恐ろしい遊びかと思ったぜ。

 だが案外メルシナの肺活量は強いらしく、普通に俺は負けた。



 「あ、朧お兄様! あっちの方で凄く速く泳いでる人がいますよ!」


 その後も浅瀬で引き潮に流されて遊んだりしていると、メルシナが沖合の方を指さして言う。メルシナが指さした方向には、すんごい波しぶきを立てながら泳いでいる怪物がいた。


 「あぁ、あれは僕の妹だよ」

 「朧お兄様って妹さんがいらっしゃったんですね……あ、メルのお姉様達の誰かと籍を入れたらメルを妹にすることも出来ますよ!」

 「……メルシナちゃんは僕の妹になりたいの?」

 「はいっ。朧お兄様、とっても優しそうな方なので!」


 何だこの子、良い子すぎね? 俺が初めてこの世界に転生した時はヒロイン達と結構親密になっていたから褒められることも多かったが、この世界だと全然そんなことがないからちょっと悲しかったんだ。

 なんでメルシナが攻略キャラじゃないのか納得いかない……いや、もしかしてネブスペ2の真エンドではメルシナが一番先輩のハーレムに入ることになるのか!? だとすればメルシナと仲良くなりすぎるのもちょっと困りものではあるが、まぁ可愛いしいっか。


 なんてうつつを抜かしていると、沖合の方から聞き覚えのある女性の悲鳴が聞こえてきた。見ると、水深が深そうな沖合でバシャバシャと波しぶきを上げながらもがいているロザリア先輩の姿があった。


 「ま、まずい! ロザリア先輩が溺れてる!?」

 「は、早く助けに行きましょう!」


 ロザリア先輩の周囲には人気も少なく、誰もすぐに助けに行けるような状況ではなかった。俺はシロちゃん達に状況を伝えるようメルシナに言伝を頼み、慌てて沖合の方へ泳いだ。だが俺は一応泳げるというぐらいだから、ロザリア先輩の元へ一向に辿り着けそうになかった。

 しかし──そんなロザリア先輩の元へ一足先に駆けつけた人影が。


 「ロザリア! これを掴め!」


 ロザリア先輩と同じく沖合へ泳ぎに行っていた一番先輩が彼女の元へ颯爽と駆けつけ、彼女に浮き輪を渡した。なんとか浮き輪を掴んだロザリア先輩はどうにか落ち着いたようで、俺が到着した頃にはフゥと一息ついていた。


 「はぁ……助かったわ。何だか急に足を蹴られたような気がしたと思ったら、麻痺したような感覚になって……」

 「つったんじゃないのか?」

 「それってもしかして、さっきクロエ先輩が言っていた海面から伸びる足の仕業じゃ……」

 「そうなの!?」

 「いや、足が伸びててもどうにもならんだろ」


 あわや大惨事になりかねない事態だったが、流石は一番先輩だぜ。学業面での成績に目が行きがちだが、この人は運動神経も抜群とかいう完璧超人だからな。あらゆる面で一番先輩から一番の地位を奪ったローラ会長でさえ、運動面では体格差もあって勝てる部分じゃないし。

 一先ず俺達は浮き輪を掴むロザリア先輩を浜辺まで連れて行こうとしたのだが──再び彼女が「ひゃあっ!?」と、悲鳴を上げた。


 「ど、どうしたんですか!?」

 「こっと見るなああああああああっ!」

 「いっだーい!?」

 「な、何があったんだ?」

 「えっと、その……上の水着がどっか行っちゃったのよ」


 どうやらさっき、もがいていた時にロザリア先輩の水着が脱げてしまったらしい。何かこういうラブコメみたいなイベントもちゃんと起きるんだ、俺がビンタされたのは納得いかないけど。


 そういうのって浅瀬で遊んでいる時に大きな波でさらわれたみたいなことがフィクションだと多いが、こんな沖合だとどこに流されたかわからなくなってしまいそうだ。


 「あ、もしかしてこれですか?」


 そんな時、近くから少女の声が聞こえた。見ると、そこには俺の妹である夢那が泳いできていたのだが……どういうわけか彼女は頭にロザリア先輩が着ていた桜色の水着を被っていた。


 「あ、それよそれ! でかしたわね」

 「ボクも助けに行こうと思ったら、いつの間にか顔についてて」

 「良かった、夢那が変態になっちゃったのかと思ったよ」

 「あら、知り合いなの?」

 「僕の妹です」

 「空想上の?」

 「いや目の前にいるでしょうが」


 なんで夢那を俺の妹って紹介すると誰も信じてくれないんだよ。

 

 その後、浜辺までロザリア先輩を無事に送り届けると、丁度浮き輪ベッドの上で寝転がっていただけのクロエ先輩もメルシナに連れられて戻ってきたところだった。


 「なんか溺れてたらしいね。海を舐めちゃいけないよ、しょっぱいし余計に水分を奪われるから」

 「いや海水を飲んだわけじゃないわよ」


 若干怪奇現象に巻き込まれた疑惑のあるロザリア先輩だが、浜辺に上がると普通に歩けるようで、シロちゃん達が待つテントへと向かった。

 その道中、夢那がロザリア先輩のタユンタユンの胸をジーッと見ながら言う。


 「……すごく大きかったですね、先輩の水着。どうやったらそんな大きくなるんですか?」

 「ウチの店のスイーツを食べたら大きくなるわよ」

 「最近はお腹も大きくなってきたけどね」

 「こらっ、つまむんじゃないわよ!」


 ロザリア先輩のお腹をムニッとつまむクロエ先輩の頭がポカッと叩かれた。仲が良さそうで何より。

ウチのお店のスイーツを食べれば大きくなるわよ


 「胸を大きくするためには、やはり女性ホルモンの分泌を活発化させるために大豆イソフラボンやアミノ酸を含む──」

 「解説せんでいい!」


 浮き輪ベッドを運んでいた一番先輩の頭を思いっきり叩いたロザリア先輩。やめてあげろ、その人はこの前の駅前の騒動の時、負傷しながらも頑張って戦ってたんだから。まぁ俺も一番先輩も全快してるけど。


 「メルはサザンクロスのお菓子をたくさん食べているのに、大きくなりませんが……」


 メル、君はそのままで良いんだよ。


 「メル、貴方はそのままで良いんだよ。ロザリアみたいになると、体目当ての男しか寄ってこなくなるから」

 「それってきっと罵倒よね? 褒めてないわよね?」


 ロザリア先輩は気づいていないようだが、貴方が浜辺を歩いている時、側を行き交う野郎どもがチラチラと貴方のことを見てるんですよ。きっと俺や一番先輩が側にいなかったらナンパされまくってるはずだから。


 そして俺達がテントに戻ると丁度お昼頃で、本日のメインイベントであるバーベーキューを始めることとなった。



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