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デストラクション



 『君は海は好きかね?』

 

 月ノ宮学園の理事長、シロちゃんこと小金沢シロから連絡が来たのは、まだ気温が上がりきらない朝方だった。

 なんでも、この間の駅前での騒動のほとぼりも冷めてきて、一番先輩ともども労おうというシロちゃんの計らいで、月ノ宮海岸でバーベキューをすることになったらしい。肉を食べるのは勿論だが、やはり可愛いヒロイン達の水着姿を……って、シロちゃん主催の集まりに誰が来るのだろう? 原作にはこんなイベントはないから全然わからない。



 「おぉ! よく来てくれたね。怪我はもう大丈夫かい?」

 「はい、もう全然痛みとかないですよ」


 月ノ宮海岸へ向かうと、スク水姿のシロちゃんがいた。いやスク水て。

 そんなシロちゃんの側では、一番先輩がテントの下でバーベキューの準備に取り掛かっていた。


 「僕も何か手伝いましょうか?」

 「いやいや、君はゲストだからね。今日は元気に遊んでくれたまえよ!」


 いや見た目だけで言うと、シロちゃんが一番はしゃいでそうに思えるけどね。シロちゃんは年齢不詳ではあるが、月ノ宮学園創立時から理事長をやっているらしいからかなりの年齢のはずだぞ。なのにこの若々しさ、というか幼さ、最早妖怪の類だろ。幽霊のカグヤさんという存在がこの世界には現実として存在するから、ますます疑念が強まってしまう。


 そして、シロちゃんから他にも誰か連れてきても良いとのことだったので、今日は特に予定がないという二人の人物を連れてきていた。


 「……え? この人が理事長なの? お孫さんとかじゃなくて?」

 「何を言うかね。校舎前には凛々しく佇む私の銅像があるだろう?」

 「た、たしかに……?」


 まず、朽野乙女。俺視点だと彼女が月ノ宮で夏休みを迎えるのは初めてのことだが、親友であるスピカやムギとよく遊びに行っているらしい。俺はノザクロのシフトの関係もあって中々一緒に遊べずにいるが、今日は海に誘えてラッキーだった。俺としてはちゃんと勉強してもらいたいところではあるが。


 「どうも、十六夜夢那です。一応この人の妹で、今度から月ノ宮学園でお世話になります」

 「おぉ、君が竹取大附属から来た子なのだね! 君は兄さんと違って停学にならないようにな!」

 

 そして十六夜夢那。運動神経が抜群でスポーツが得意な彼女を誘ったら喜んで来てくれた。


 「この子が朧の妹……ホントに?」

 「初めましてっ! 朽野先輩のお話はいつも兄から聞いてますよ」

 「どういう風に?」

 「確かセネガル相撲の達人だと……」

 「誰と勘違いしているのかわからないけど、そんな人身近にいないでしょ!?」


 お互いのことは俺から紹介こそしているが、二人が顔を合わせるのは今回が初めてだ。今後乙女がどういう立ち位置になるのかはわからないが、後輩や先輩達とも仲良くやってもらいたい。



 他の面子は後からやって来るとのことで、俺は乙女や夢那と一緒に遊ぶことにした。水着に着替えた後、夢那は意気揚々と沖合まで泳いで勝負しようとか言い始めたが、俺と乙女が彼女の体力に追いつけるはずがないため、浜辺でビーチバレーをすることにした。


 「兄さんと朽野先輩でチームを組むと良いよ。ボク一人で十分だから」

 

 いや怖いんだけどウチの妹。エロゲにおける海やプールでのイベントって、ヒロイン達の水着姿を堪能した後にムフフなイベントが起きるものだからね? 夢那はビキニの水着ではなく競泳用のものを着ていて、兄バカかもしれないが変な野郎にナンパされたりしないか不安だ。

 一方で乙女はと言うと……。


 「何よ、その何か言いたげな目は」

 「なんかナメられちゃってるよ、僕達。ここは兄と先輩としての意地を見せよう」

 「いや、あんな覇王みたいな風格で立ってる子に勝てる気がしないんだけど」


 乙女は黒と紫のストライプ模様のビキニを着ているがやや露出は控えめだ。全体的にボリュームは控えめだが、夢那達のプロポーションが良すぎるだけで、乙女だって劣っているわけではない。本人はややコンプレックスを抱えているようだが。


 「じゃあ行くよー!」


 夢那はバレーボールを持ってサーブを打とうとしたのだが──夢那が左手で持つボールが突然輝き始める。何? 太陽光に反射してるわけじゃなくて本当に光ってるのこれ?

 

 「てやー!」


 そして自らトスを上げて夢那がサーブを打つと、ビーチバレー用のボールとは思えないほどの勢いで、俺と乙女の間の砂浜に着弾した。

 ……いや、二人がかりでも無理だって、夢那を倒すのは。隣で構えていた乙女も何がなんだかわからないという様子で呆然と立ち尽くしていた。


 「な、何今の……!?」

 「それぐらい取らないと~まぁ当たったら当たったで、その衝撃で体の内側からダメージを受けるかもしれないけど」

 「そんなヤバいボールを僕達に打とうとしないで!?」


 その後も俺と乙女の二人で夢那という怪物を倒そうと何度も挑んだが、結局夢那にコテンパンにやられねしまうだけであった。


 

 ビーチバレーを一通り楽しんだ後、夢那は一人で沖合へ泳ぎに行ってしまい、俺と乙女はシロちゃんの元へと戻った。

 すると後から合流したらしい面子が水着姿でテントの下に集まっていた。

 

 「あれ、ローラの金魚のフンじゃない」


 中々に豊満なボディを際立たせる桜色のビキニの水着を着たロザリア先輩。いや、生で見ると中々の破壊力だなぁと見とれていると、俺の側に立っていた乙女が俺の頭を軽くシバいてきた。

 俺がローラ会長の金魚のフンっていうのはシャルロワ四姉妹の共通認識なのかな。メルシナはそんなこと言わないだろうけど。


 そしてロザリア先輩の隣に立つクロエ先輩は、露出が少ない黒のワンピース水着。普段はオカルトばっかり追いかけてる天然変人みたいなところがある人だが、この人も線は細めなのに中々の色気がある。


 「久しぶりだね。あのお化けさんは元気にしてる?」

 「海水浴とか楽しんでるんじゃないですか?」

 「え、お化けってカグヤさんって人のこと? あの人ってそんな顔広いの?」

 「だってそこら中彷徨ってるからね」

 「いい加減誰か成仏させてあげたら……?」


 そしてメルシナは淡い水色でフリルのついた可愛らしい水着を着てカシャカシャと姉達の写真を撮っていたのだが、俺の存在に気づくと俺だけをこっそり呼んで、乙女や姉達に聞かれないような小声で俺に呟いた。


 「朧お兄様はどのお姉様の水着が好みなんですか?」

 「メルシナちゃん」

 「そういうのは良いので」


 素直に褒めたつもりだったのだが、真顔のメルシナにバッサリと切り捨てられてしまった。さてはこの子、烏夜朧の扱い方を知っているな?


 「ロザリア先輩やクロエ先輩もいいけど、やっぱり……」


 俺はテントの奥の方で一番先輩と話しているローラ会長の方に目をやった。

 ロザリア先輩程豊満ではないものの、なんかハリウッド女優が着ていそうなシックな黒の水着を着ていて、スラリと伸びた白い美脚が良く映える。前世のアイツはちんちくりんだったから、あんな水着が似合うような奴じゃなかったのに……。


 「でもローラお姉様は明星様に気があるようですが……今日のチャンスをものにして朧お兄様もがんばってください!」


 いやメルシナ、君は知らないだろうけどそっちが普通なんだよ。メルシナが俺のことを応援してくれているのは嬉しいし俺も若干複雑な心情はあるけど、ローラ会長は第三部のメインヒロインなんだから一番先輩と良い感じになってもらわなくては俺も困ってしまう。


 すると今度はロザリア先輩が俺のことを呼び、メルシナのように他の面子に聞こえないように小さな声で言う。


 「この前はありがとね」

 「……え? 何の話です?」

 「ほら、ローラのことを庇ってくれたんでしょ」


 あぁそうか、この前の駅前での騒動の時、ロザリア先輩が働いているサザンクロスの前で暴れまわってたから、ロザリア先輩はあれを生で見ていたのか。


 「別に礼には及びませんよ。それに一番先輩が強かっただけですから」

 「いや一番の奴もヤバかったけど、アンタも十分怖かったからね?」

 

 そんな大人数の喧嘩なんて見ていたいものではなかっただろう。お店の前で騒動を起こしてしまったのは本当に申し訳ない。



 さらに、遅れてオライオン先輩、碇先輩、銀脇先輩、そしてシャウラ先輩の配信者組がやって来た。なんとなく第三部のヒロイン勢が集まるのだろうとは予感していたが、海なんて絶対に来ないであろうシャウラ先輩がやって来るのはかなり意外だった。


 「あ、クロウ君……じゃなかった。あれ、ホントの名前なんだったっけ? 気苦労君?」

 「嫌ですよそんな名前」


 この前ボンクラを配信した時に、オライオン先輩は俺をハンドルネームで呼んでいたから本名を忘れられてしまっている。

 すると碇先輩が茶化すように言う。


 「烏夜君の隣にいるのはガールフレンド?」

 「ち、違いますぅっ!」

 

 すぐさま乙女は否定するが、そんな彼女を見て碇先輩はニヤニヤしている。なんか悪いことを考えてそうな表情で怖い。

 

 オライオン先輩達が着替えに行った後、乙女は訝しげな表情で俺に言った。


 「つくづく思うけど、アンタって本当に顔が広いのね。オライオン先輩もナンパしたの?」

 「そうだね。それについこの前、あの四人と一緒にゲームしたんだよ」

 「いや、オライオン先輩がゲームなんてするわけないじゃない」


 月学での普段のオライオン先輩の姿しか見たことがない乙女は、彼女がオリオンとかいうぶっ飛んだ配信者であること、なんならシャウラ先輩が配信者スコーピオンであることは信じられないだろう。

 確かに俺の顔の広さは自分自身気になるところではあるが、これもギャルゲの友人キャラの宿命か。


 

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