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BomberCraft、略してボンクラ



 七夕事件をきっかけとするネブラ人への逆風は、ネット上で活動する『オリオン』と『スコーピオン』も強く影響を受けている。何故なら、二人の詳しいプロフィールこそ明かされていなかったが、ネブラ人であることは知られていたからだ。


 この月ノ宮にも反ネブラ人派のデモ隊や活動家がいるにはいるが、流石に彼らも街角に立っているだけで、道行くネブラ人を引き留めて毎度毎度罵声を浴びせているわけではない。それが言論の自由が保証された世界での最大限の活動で、俺や一番先輩が巻き込まれた駅前の騒動はあくまで例外だった。


 しかしインターネット、特に匿名で自分の意見を投稿できるSNSや掲示板上では話は別だ。相手に直接罵声を浴びせる度胸がない人間でも、不思議とそれを書き込めてしまうことがある。それが相手を傷つけるものだと理解できないまま。

 

 それは配信者として活動する『オリオン』、『スコーピオン』ともに例外ではなく、動画投稿サイト上での生放送ではリアルタイムでコメントを書き込むことも出来る。本来、それは配信者自身やリスナー達が一緒に楽しめる場であるべきなのだろうが、時折心もとないコメントが書き込めることもしばしば。

 全ての人が満足するようなコンテンツを作ることは難しいとはいえ、最近は悪意のある投稿が増えているという。


 「まさかスコーピオンが同級生だったなんて……」


 配信者『スコーピオン』こと月ノ宮学園三年生のシャウラ先輩と友人の碇先輩、そして従者の銀脇先輩とテーブルを囲むオライオン先輩はやはり驚きを隠せないようだ。

 一方、天才的なゲームセンスと評されることもあるスコーピオンことシャウラ先輩は、なんか高貴そうな三人に囲まれてメチャクチャ体を小さくして、小動物のように怯えていた。


 「ど、どうも……こ、こんなのですみません……」

 「そんな卑下することはないさ。何度もゲーム上で戦わせてもらったけど、君はもっと自信を持って良いって。君と比べたらベラなんて月とスッポンぐらいだから」

 「お嬢様とスッポンを比べるのは失礼ですよ。スッポンはお嬢様より戦闘力もありますし美味しいですよ」

 「どうしてスッポンの肩を持つの?」


 同じゲーム配信者といえど、スコーピオンとオリオンのスタイルは違う。スコーピオンはゲームプレイの上手さでリスナーの興味を引くのに対し、オリオンもゲームプレイの腕はあるが、それよりもエンタメ寄りで、同じゲーム仲間の碇先輩や銀脇先輩とのおもしろおかしな掛け合いが売りなのである。


 

 もう少し彼女達の会話を盗み聞きしていたいが、一応バイト中のためサボるわけにもいかず、俺はキッチンの中に籠もることにした。そしてオーダーをこなしていると、俺と同じく彼女達の会話を盗み聞きしていたらしいルナがキッチンへとやって来た。


 「朧パイセンってオリオンやスコーピオンはご存知ですか?」

 「うん、知ってるよ。たまに配信も見るし」

 「……いやぁ、まさかお二方とも同じ学校の先輩だとは思わなかったですよ! でもこれ、スクープにしていいのか迷っちゃうんですけど!?」

 

 新聞部としての血が騒いだらしいルナはメモ帳を片手に頭を抱えていた。原作だとオライオン先輩は自分の裏の顔を隠したいがために、ゲームや配信機材を買いに行くときはわざわざ変装していたり、ゲーム関係の話も碇先輩や銀脇先輩以外にはしなかったはずだが……顔見知りも多く来るであろうこのノザクロでスコーピオンと待ち合わせをしたのは、きっとスコーピオンことシャウラ先輩側の事情があってのことだろう。


 「あと、朧パイセンってスコッピィ先輩もナンパしたことあります?」

 「なんでナンパするのが前提なの。でも会ったことないかもね。確かあまり学校に来ない人なんだよ」

 「私も三年に不登校の方がいるのは聞いてたんですけどね……」


 ルナがなんとなく気まずそうにしているのは、シャウラ先輩の素顔を見たからだろう。

 

 シャウラ先輩の顔には、大きな火傷痕がある。それは八年前のビッグバン事件の際に負ったものであり、正直びっくりしてしまうぐらいの、可哀想に思えるぐらいの大きな傷跡だ。シャウラ先輩もそれを気にしていて、ビッグバン事件が起きる前はベガやワキア達と変わらないぐらい明るい女の子だったのに、ビッグバン事件以降は自分の顔を隠すように前髪を伸ばし、そして学校にも殆ど登校することなく、家に引きこもりっきりの生活を送っている。

 それがシャウラ先輩が配信者として活動を始めるきっかけとなったわけだが、今のシャウラ先輩自身は自分の境遇をどう思っているのだろう……。



 初代ネブスペ、ネブスペ2に登場するキャラの多くはビッグバン事件を経験していて、奇跡的に五体満足で生存しているが、あの事件の際に大怪我を負ってやむなく四肢を切断することになったり、寝たきりの生活を強いられる人もいたのだ。

 だがシャウラ先輩がこういう形で外で誰かと待ち合わせをするとは思わなかった。このままオライオン先輩と親睦を深めてもらいたいものだと思っていると、キッチンにアルタがやって来て俺に言う。


 「烏夜先輩って、『BomberCraft』ってゲームやったことあります?」

 「うん、あるよ」


 BomberCraft、通称ボンクラというゲームは、そんな酷いゲーム名とは裏腹に、サンドボックスゲームとしては史上最高傑作とも言われるほど世界的に人気がある……俺の前世で言うマ◯クラだ。ゲーム名が違うだけで内容は変わらない。

 多分本来は『鉱石』って意味合いのゲーム名を『地雷』と捉えて、それに関連してBomberってゲーム名になったのだろう。実際ゲーム中に恐怖の爆弾魔が出てくるし……俺も前世ではたくさん遊ばせてもらったが、あれは貴重な時間を無限に削っていく恐ろしいゲームだと思う。


 「僕も動画で見たことがあるぐらいなんですけど、あの愉快な先輩方が今度遊ぶために案内人が欲しいらしいんですよ。なので相手をしてやってください」

 「でも僕だってそんなプロってわけじゃないよ?」

 「とにかく、相手をするのが面倒なので早く行ってください」


 いや自分で対応するのが面倒くさいだけかよ。まぁアルタって根は優しいけど先輩からのダル絡みは鬱陶しがるタイプだし……ていうか俺自身もそれは内心鬱陶しいなと思うこともあるから、ここは俺が出てやろう。


 キッチンを出てホールに向かうと、オライオン先輩達ゲーマー同士の会話は盛り上がっているようだった。


 「普通にやるだけじゃダメなんだよ。何か縛りとかつけないと」

 「紐で縛るの?」

 「縛られたお嬢様を救うRTAですか」

 「それをどうやって配信でするんです……?」

 「ラスボス倒したらベラが縛られて閉じ込められている部屋の鍵が手に入るとか」

 「まず私を監禁しようとしないで」

 

 なんか物騒な話をしているような気がするが、俺は彼女達のテーブルへと向かう。


 「どうも先輩方。ボンクラになりたいんでしたっけ?」

 「今、お嬢様のことをボンクラと言いましたか?」

 「いや違くて」

 「今すぐ訂正してください。お嬢様はボンクラを通り越して木偶の坊です」

 「そっちの方が失礼じゃないですか」

 「もー、またリゲルったら~」


 この従者、本当に主に仕えようという気持ちはあるのだろうか? こんな失礼なことを言ってるのに笑い飛ばすだけだなんて、オライオン先輩の心は広すぎるだろ。むしろこれぐらいの距離感の方が気が楽なのだろうか。


 その後、先輩方と軽く自己紹介を済ませる。彼女達が配信者だと知った俺は一応驚いたふりをするが、まぁ全部知っている。


 「私達も動画とかでは見たことあるんだけど、あまり触ったことがないんです。烏夜君って二年の中だと一番頭が良いって評判だし、教えるのも得意そうだから是非お願いしたんだけど、どう?」

 「僕なんかで良いなら喜んでって感じですよ」

 「ゲームを遊べるパソコンは持ってる? あとマイクとか」

 「一応ありますよ」

 「ボイスチェンジャーいる?」

 「流石にそこまでしていただかなくて大丈夫ですよ」

 「犯罪者みたいな感じにすればウケるかもしれませんね」

 「いや怖いでしょ、犯罪者に案内されるゲームとか」


 まさかまたシャウラ先輩と、しかも今度はオライオン先輩達とも一緒にゲームを遊ぶことが出来るとは光栄だ。

 オライオン先輩は他にも友人を誘いたいらしく、詳細な日程に関してはまた今度伝えるということで連絡先も交換した。俺としては第三部主人公の一番先輩やローラ会長達も誘ってほしいのだが……中に魔物が潜んでいるローラ会長は別として、一番先輩が受験を控えた夏にゲームなんてするだろうか。


 ……スッと引き受けちゃったけど、ゲーム配信者の案内人役とか、かなり荷が重くね!?



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