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恋人じゃない!? では体だけの関係!?



 「朧お兄様のお話は、いつもお姉様からお聞きしています」


 ノザクロ前で俺は夢那達と別れて、シャルロワ家の車に乗せられて葉室市郊外にあるシャルロワ財閥系のリゾートホテルの最上階にあるラウンジへと通された。モノトーンの色調で庶民の俺なんか場違いなんじゃないかという雰囲気の場所で、しかもまだオープン前だというから貸切状態だ。

 そんなラウンジの一角、葉室市や月ノ宮海岸の向こうに広がる太平洋を望めるテーブル席で、俺はメルシナと向かい合って話をしていた。


 「話って、僕をどんな風に言ってたの?」

 「いずれ世界の頂点に立つだろうとローラお姉様はおっしゃってましたよ」


 何それ、どういう意味? アイツ絶対テキトーなこと言ってるだろ。


 「メルは毎日ローラお姉様と連絡を取り合ってますが、ローラお姉様はいつも楽しそうに朧お兄様のお話をされるんですよ。今日は全力のボケが大スベリだったとか、一日中社会の窓が全開だったとか」


 いやボケが大スベリなのも大概恥ずかしいが、一日中社会の窓が全開なのはもっと恥ずかしいんだが。気づいてたなら教えてくれよ、俺が社会的に死んでしまうぞ。

 

 この世界だと俺はメルシナと初対面だが、ローラ会長から俺の人となりを聞いていたらしいメルシナは無邪気に笑いながら俺に接してくれる。そのおかげか、こんな高級感漂うラウンジでも俺は何とか胃を痛めずにすんでいるし……俺はパスタを食べているが、メルシナは満足そうにお子様ランチっぽいプレートをつついている。こんなラウンジでお子様ランチが出ることあるんだ。


 

 メルシナの登場、そして彼女から二人きりの食事に呼ばれた時はかなり緊張してしまったが、今回は何か重要な話があるというわけではなく、駅前での騒動でローラ会長を助けたお礼をしたかったらしい。ここまで来る途中の車内で何度もメルシナから頭を下げられてしまったし、ビッグバン事件の際にネブラ人の宇宙船の自爆ボタンを押したことも話してくれた。

 俺と同じくローラ会長を助けた一番先輩にも既にお礼はしたとメルシナは言うが、こうしてホテルのラウンジを貸し切りというのはちょっとスケールが違うな。


 「朧お兄様はいつ頃からお姉様とお知り合いなのですか?」

 「会長とよく話すようになったのは結構最近だよ。ここ一、二ヶ月ぐらい」


 月野入夏という人格としてはもう何度も彼女と話しているが、以前の烏夜朧はローラ会長をナンパすることはあっても冷たくあしらわれるだけで、お互いに転生していなければこんな親密になることはなかった間柄だろう。

 メルシナはお子様ランチのプレートに盛られたチキンライスを美味しそうに頬張りながら言う。


 「最近のローラお姉様、なんだか笑顔が増えたような気がするんです。私には考えられないぐらいの重圧を背負っているはずなのに……お姉様は素直に話してくれないことが多いのでわからないですけど、それはきっと朧お兄様のおかげなんだと思います」


 ローラ会長は俺と二人きりになると素が出るというか、あんなびっくりするぐらいのお嬢様の中に潜んでいる魔物が姿を現すが、メルシナ達の前ではエレオノラ・シャルロワとして振る舞うはずだ。元々クールというかそれを通り越して冷徹なイメージもある彼女だが、メルシナ達の前でも明るく振る舞うことが増えたなら何よりだ。そういった完全なプライベートの面は中々聞いたことがないから貴重な情報である。


 「僕のおかげだなんて大げさだよ。でもそう言われると嬉しいね。ローラ会長ってロザリア先輩達とも仲良いの?」

 「えっと……前はかなりギクシャクしていたんですけど、何だか最近はクロエお姉様達とも遊びに行かれることもありますね。昔のしがらみはどこに行っちゃったんだろうって感じです」


 シャルロワ四姉妹、特に同い年のローラ会長、ロザリア先輩、クロエ先輩は同じ姉妹で同じ学校に通っているのに住んでいる場所は違うとかいう中々特殊な環境にあるが、それはローラ会長と二人の間に壁があったからだ。

 だがきっとローラ会長は二人と仲良くなるために努力したのだろう、それに諸々の責任を負って形式上とはいえシャルロワ財閥の会長となったローラ会長に二人は感謝しているようだし、そんな仲良しというまではいかないだろうが、少なくとも険悪な雰囲気は解消されたようだ。

 そして俺よりも早くディナーを食べ終えたメルシナは、丁寧に口元を拭いた後、笑顔で俺に言う。


 「それもこれも、朧お兄様がローラお姉様の恋人として助けてくださったおかげですっ」


 と、メルシナは屈託のない笑顔でそう言ったが、彼女の口から放たれた信じられないような言葉を聞いた俺は驚愕して、思わず持っていたフォークを落としそうになった。


 「ちょっと待って、メルシナちゃん。僕はローラ会長の恋人ではないよ!?」


 俺、ローラ会長に告白したことあるっけ? いや告白まがいのことはしたことあるけど、まだ正式にお付き合いはしていないはずだ。大分昔に半ば脅迫される形で交際を始めたこともあったけど。

 俺が慌てて拒否すると、メルシナもまた驚いた様子で口を開く。


 「そ、そうなんですか!? でもメル、朧お兄様がいつもローラお姉様の別荘に招かれて夜伽をしていると何度も耳にしていたのですが……」

 「夜伽!? どっからそんな噂聞いたの!?」

 「ローラお姉様本人からです」


 ……後でアイツのことを一発シバいてやらないといけないな。アイツ、メルシナが純粋なのを利用して既成事実でも作ろうとしているのか。俺がローラ会長の別荘に度々招かれているのは確かだが、そんな夜伽なんてものをした覚えはない。

 え? もしかして俺が記憶を失っているだけで勝手に襲われてる可能性ある? 何だか怖くなってきた。


 「確かに僕はローラ会長の別荘に何度かお邪魔したことはあるけれど、僕とローラ会長はそんな関係ではないよ」

 「で、では……か、体だけの関係ということですか……?」

 「それも違うよ!?」


 良かったよ、メルシナみたいな純粋な女の子の口からセ◯レなんていう言葉が出てこなくて。体だけの関係って言葉が出てくるだけで俺は結構ショックだけども。


 「僕とローラ会長が親密なのは認めるよ。でも僕なんかがローラ会長の恋人になるだなんて恐れ多いよ」

 「私は応援しますよ! デートや式場のセッティングもメルに任せてください!」

 「式場は気が早すぎるって!」

 

 メルシナは自分の姉であるローラ会長のことをとても慕っている。俺とローラ会長を付き合わせようとしてくるのも姉のことを思ってのことだろうが、そこら辺はメルシナも知らないかなり複雑な事情があって難しいのだ。


 まず、烏夜朧がエレオノラ・シャルロワと付き合うなんてことはありえない、というかあってはいけない。ローラ会長はネブスペ2第三部のメインヒロインとも言うべき存在で、第三部の主人公である一番先輩と結ばれるべきなのだ。俺達が目指している真エンディング到達のためには、一番先輩がハーレムを築くことも必須のはず、俺が邪魔をするわけにはいかない。


 『お前が言う、本物の恋とやらを始めてみようぜ』


 ……しかし、俺はローラ会長に転生した前世の幼馴染、月見里乙女ととある約束をしている。

 ネブスペ2の物語が終わるであろう三月に自由の身となったら……ごっこ遊びではない恋をしてみないかと。


 俺はその場の勢いでローラ会長に言っちゃったし彼女もそれを受け入れたが、彼女は一番先輩との関係はどうするつもりなのだろう? この問題を厄介にしているのは、月見里乙女がローラ会長に転生してしまったことにある。せめて同じ名前の朽野乙女に転生してくれていたなら話は早かったのだが。


 「もしお姉様について知りたいことがあれば、何でもメルに聞いて下さい! メルがお姉様のことを調査しますので──」


 嬉々としてそう宣言するメルシナの元に、ラウンジのスタッフがやって来たと思ったら、俺達がいたテーブルの側にやって来たのは、俺とは違ってこの高級感漂うラウンジに似合うクラシカルな雰囲気の、長い銀髪の少女だった。


 「へぇ、それは面白いわね。一体どれだけ私を丸裸にしてくれるのかしら」


 メルシナは彼女の方を向くと、口を大きく開けたまま凍りついたかのように固まってしまった。

 ローラお姉様のご登場である。


 「どうもローラ会長。どうしてこちらに?」

 「貴方とメルが密談をしていると聞いて、どんな話をしているのだろうと気になって来てみたのよ。メル、私を利用して何を企んでいるの?」

 「たたたた企んでいるなんてめめめめ滅相もございませんよ!? メルはただローラお姉様の恋を応援しようと──」


 ローラ会長は慌てた様子で弁明するメルシナの頬を両手で掴むと、そのまま彼女の頬をムギュゥとつまんだ。


 「むぐー!?」

 「ダメよ、メル。貴方は隠し事苦手なんだから、私に隠そうたって無駄よ」

 「僕もメルシナちゃんのほっぺたつまんでもいいですか?」

 「ダメに決まってるでしょ」

 

 そのままローラ会長は、メルシナの頬をムニムニとしながら満足そうに笑っているのであった。



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