表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

389/465

生前の友人にイタズラする悪霊



 停学一日目。ようやく梅雨明けしてギラギラと太陽が照りつける中、俺は月ノ宮海岸で清掃活動に勤しんでいた。

 奉仕活動をするよう言われた訳では無いが、停学とはいえ家でジッとしているのも嫌だったため月学の理事長であるシロちゃんに相談したところ、海岸の清掃はどうかと言われたためそれを実践しているところだ。


 今日も平日だが、今日も月ノ宮海岸には多数の海水浴客やサーファーが訪れており、海岸周辺には少なからずゴミが落ちている。日頃は地元のボランティアが清掃をしてくれているのだが、俺もゴミ拾い自体は結構好きだ。自分の部屋の掃除とかはあまり乗り気にならないのだが、何故かこういう時だけやる気が出てしまう。


 ゴミ袋とトングを持ってゴミ拾いをしながら月ノ宮海岸を南下していくと、やがて墜落した宇宙船が見えてきた。調査などは一通り終わっているようで、今はただの観光名所になりつつある。コーンや規制線で側までは近づけないようになっているが、物珍しさで宇宙船を見に来る人は未だに多い。


 「あれっ、君は……」


 ゴミを拾い集めていると、宇宙船の残骸を見物していた赤毛のショートカットの女性が俺に声をかけてきた。黄色いカチューシャ、そしてTシャツの後ろにデカデカと書かれた『正義』の文字といえば……。


 「あ、マルスさんじゃないですか。こんにちは」


 マルス・クライメイト。月学のOGである初代ネブスペのヒロインであり、今は刑事をやっているはず。確かネブラ人の過激派の長であるトニーさんを捕まえるのに一役買ったはずだが、この世界ではあまり彼女と関わることがなかった。


 「確か、コガネやレギナの知り合いだったっけ?」

 「はい、烏夜朧です」

 「どうしてこんなところに……いや、そうか」


 平日なのに私服姿の学生が一人でこんな場所にいるはずが無いのだが、マルスさんは諸々の事情を知っているはずだ。


 「あぁ、そういうことか。謹慎処分になったの?」

 「いえ、停学です」

 「停学!?」


 刑事であるマルスさんはここら辺の交番や警察署に勤めているわけではなく、ネブラ人の過激派の捜査のために遠方から派遣されている。そして先日の騒動の際、交番で警察のお世話になった俺と一番先輩を、その場に偶然居合わせたマルスさんも目撃していた。


 「停学はちょっと重くないかい? 警察から何か指導を受けたわけでもないだろう?」

 「注意はされましたけどね。でも暴力沙汰を起こしたのは確かなので、当然の処分ですよ」

 「それに君ももう一人の子もかなり怪我をしていたはずなのに平気なのかい?」

 「ちょっと体は痛いですけど、全然大丈夫ですよ」


 ゴミ自体はそんなに重くないし、海岸を歩くのもそんなに苦ではない。むしろ今回のような事件もあったから、動かずにジッとして体がなまってしまう方が怖い。

 俺がタオルで汗を拭っていると、マルスさんは俺の体を覆う包帯をジロジロと見ながら口を開く。


 「……先日の件については私も聞かせてもらったよ。本当は私達が対応するべき問題だったのに、君達に責任を負わせてしまって申し訳ない」

 「いえ、それはマルスさんが謝ることじゃないですよ。あれは僕達が好きでやらせてもらっただけなので」


 デモ活動も道路を行進する時は許可が必要だったりするため、無許可でやっている場合は警察が出動するだろうし、地域によっては条例であまりにも大きな騒音を出すのが禁じられている場所もあるが、駅前のデモ活動家達の運動はそういった法律に反しているわけではない。まぁ海外では過激なデモ活動で市民側が平気で火炎瓶を投げつけたり、騒乱に乗じて商店を襲撃して強盗を働くこともあるため最早デモ活動というよりは暴動みたいなものだが、それに比べると日本はかなり平和だ。


 「私は警察官として職務に私情を挟むことは出来ないけど、君は勇敢だったと思う。君を褒めるわけではないけどね」

 「はい。月学の理事長にみっちり叱られました」

 「あぁ、あのとても理事長とは思えない人か……」


 俺も一番先輩も、そしてローラ会長も何も被害届は出していないし、今のところは向こうも被害届を出す様子も無いため、まだ刑事事件には発展していない。

 警察でもありネブラ人でもあるマルスさんは、中々難しそうな立場にあると思う。


 「そういえばマルスさんって、ネブラ人の過激派を捕まえるのに活躍されたんですよね?」

 「あぁいや、あれは私の手柄じゃないよ。そのために派遣されてきたけどね」

 「今もまだ捜査されてるんですか?」

 「今はちょっとした野暮用を片付けているだけさ。夏の間は月ノ宮に残ることになりそうだけどね……」


 ネブラ人の過激派は長であるトニーさんを始め殆どのメンバーが捕まったはずだが、マルスさんはまだ何か捜査しなければならない案件が残っているのだろうか。まぁ俺みたいな一般市民が警察の内情を知るわけにはいかない。


 「それより烏夜君は、本当にもう一人の子と二人で十五人もの輩と戦ったのかい?」

 「はい、そうですよ」

 「……相手は病院送りにされたと聞いたけれど、どうして君達は平気なんだい?」

 「喧嘩には慣れてるので!」

 「とてもそうは見えないけれど……」


 月学でもかなり話題になったからね、学年トップクラスの成績を誇る天才二人が暴力沙汰を起こしたってね。まさかそんな奴が武闘派だったとは誰も思わないだろう。

 ていうか、一番先輩が強すぎただけなんだけども。


 「君のその強さ、是非とも私もご教授いただきたいぐらいだよ。何なら君も警察に……いや、事情が事情とはいえ停学処分を食らっているのは難しいね」

 「ご勧誘いただくのはありがたいですけど、僕の将来の夢は愛の伝道師になることなので」

 「人の夢をとやかく言うつもりはないけれど、変なトラブルを起こして私達の仕事を増やさないでくれよ?」


 警察学校に入ろうと思っても、停学処分を食らっていたら書類選考の時点で落とされてしまいそうだ。それだけ俺の経歴に深い傷がついてしまったわけだが、最悪ローラ会長を頼ってシャルロワ財閥にお世話になれば良いかなと甘い考えでいる。やっぱコネって大切だぜ。


 

 俺は宇宙船の残骸の日陰になる砂浜の上でマルスさんと話していたが、マルスさんの後ろから誰かがこちらへ近づいてくるのが見えた。

 その少女は月学の制服を着ていたが、なぜ月学の生徒が平日の昼間にこんな場所に……そんなことを疑問に思ったのも束の間、明らかに普通の人間とは思えない容姿をした少女を見て俺は彼女が誰なのか気づいて──。


 「こんちゃ~」


 と、後ろから声をかけられたマルスさんは後ろを振り返り──首から上がない少女を目にしてしまった。


 「ひぅっ」


 明らかに人でないものを見てしまったマルスさんは、そのままその場に倒れそうになり、俺は慌てて彼女の体を支えた。

 

 「大丈夫ですか、マルスさん!?」


 俺はマルスさんの体を揺すったり彼女に声をかけ続けてみたがうんともすんとも言わなくなってしまった。ダメだ、やっぱり気絶してる。


 「やった~ドッキリ大成功~」


 そう言いながら満足そうに、首がなかった少女は取れていた自分の顔をカポッと自分の首にはめた。


 「……何してるんですか、カグヤさん」

 「ちょっと懐かしい友達を見かけたから驚かせようと思って~」


 初代ネブスペのヒロインの一人で、今は幽霊ライフを満喫しているカグヤさん。やはりマルスさんでも幽霊を見るとビビってしまうか。逆に首が取れたカグヤさんを見て平気なのって誰だろう?


 「それにしても、こんな暑い中ゴミ拾いなんて精が出るねー」

 「幽霊って暑さとか感じるんですか?」

 「いや全然。それにしても君、結構喧嘩強いんだね。ヤバそうだったら私も加勢しようと思ったんだけど、たった二人でボコボコにしちゃうんだもん」

 「え、この前のを見てたんですか!?」

 「うん、サザクロの屋根の上から見てたよ~」


 じゃあ何かしてもらいところだが、幽霊のカグヤさんがあの騒動に加勢してたら絶対ややこしいことになっていただろう。公衆の面前で科学なんかでは説明できない霊的な現象が起きていた可能性もある。


 「私もさー、どうやったらあの連中を追い払えるか幽霊なりに考えてるんだよ。完全に幽霊の仕業としか思えない騒動を起こして連中を追い払って、逆に月ノ宮に有名な心霊スポットを作って観光地化出来ないかな~って。何か良い案ない?」

 「カグヤさんってそんなパワー使えるんですか?」

 「ミールちゃんに力の使い方教えてもらったから、ポルターガイストとか色々出来るよ」

 「……カグヤさん、ミールさんの使い魔になってません?」

 「ハッ!? もしかして私はミールちゃんに利用されてたの!?」


 霊能力者であるミールさんはやろうと思えば今すぐにでもカグヤさんを成仏させることが出来そうだが、今も生かしているということは何か企んでいるのだろうか。カグヤさんって昼夜関係なくどこにでも出没するから便利だろうし。


 「でも停学処分になったんだって? 幽霊界隈でも君達の噂で持ち切りだよ」

 「幽霊界隈ってなんですか」

 「でもまた問題を起こすと君も大変だろうから、何かあったら私を呼んでね。助けてあげるから!」

 「変なことはしないでくださいね?」

 「大丈夫! 死人は出さないから!」


 マルスさんを驚かすだけ驚かして満足したらしいカグヤさんはフヨフヨと宙を浮いてどこかへ去ってしまい、やがて気絶していたマルスさんも無事に目覚めた。倒れる直前の記憶を失ってしまっていたが、覚えていないのに何かに怯えていたのを見るに、やっぱりかなり怖かったのだろう。

 その後、俺はマルスさんと別れた後もいそいそろと海岸の清掃活動に励むのであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ