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小学生(理事長)の説教



 ネブラ人に対する排斥運動や迫害は特に海外で強まっており、ネブラ人が経営するお店が嫌がらせや強盗に遭ったり、ネブラ人の子どもが襲撃されるなんていう事件も起きている。

 日本ではネット上では反ネブラ人の論争が盛り上がっていたが、実際には反ネブラ人のデモ活動が行われるぐらいで、目立った事件は起きていなかった。

 

 しかし今回、その反ネブラ人の機運が高まった原因である月ノ宮で、ネブラ人が多く通う月ノ宮学園の生徒が反ネブラ人の活動家と殴り合いになって病院送りにしたというニュースが世間を騒がせている。

 事の発端である、ローラ会長に石が投げつけられた件は、とっくのとうに忘れ去られてしまっているが。


 「いや、本当は私も二人を停学になんてしたくないのだよ」


 理事長室に座ることを許された俺と一番先輩は、向かいのソファに座るシロちゃんの話を聞いていた。


 「やっぱり二人の経歴に傷をつけたくなかったからね。これは二人のことを個人的に知っているからではなく、学校を運営するものとしての考えでもそうなのだよ。

  確かに二人がやったことは許されないことだと私も教育者としては思うけれど、でも二人がやったことの全てが悪いとは思っていない。この学園の生徒達も君達の行為を褒め称えているからね」


 俺も大星や美空からめっちゃ励ましてもらったというか、よくやったと言われたし。スピカやレギー先輩は退学にならないかメチャクチャ心配してくれていたけど。


 「でも、君達を無罪放免にするのは世間が許してくれない。まるで月ノ宮学園という組織自体がネブラ人の肩を持っているかのように勘違いされてしまうだろうからね。月ノ宮学園を運営するのがシャルロワグループなのだから尚更さ。

  だから私はあくまで中立的な教育者の立場として、暴力沙汰を起こした生徒を停学処分にする、これが理事長としての答えさ。情状酌量の余地はあると思うけどね」


 俺も一番先輩も、シロちゃんの裁定に不満なんてない。元々退学を覚悟していたぐらいだし、他の人に迷惑がかかるのは困ってしまう。俺達が痛い目に遭うだけなら全然構わない。


 「ただ、教育者として説教はさせてもらうよ」


 シロちゃんの目が真剣なものに変わった。まさかこんなロリっ子から説教される日が来るとは。


 「事の経緯はシャルロワのお嬢さんからも聞かせてもらったよ。一人の人間を守ったというのは聞こえは良いが、それを解決する方法として暴力は正解ではないのだよ。

  この世には正解のない問題も多いが、暴力が正解になる問題なんてないのだよ」


 一番先輩もきっと、俺と同じようにローラ会長が傷つけられたのを見てカッとなってしまっただけだろう。

 そのカッとなってしまって引き起こされた事態が、取り返しのつかないことになりかねない。


 「君達は正しいことをやったと評価する人間もいるだろう。でもきっと、君達は間違っていると怒り狂う人間もいるはずだ。長い歴史の目で見ると今回の事件は些細なものかもしれないが、戦争というものは国家間だけでなく、同じ国に住まう違う民族間で起きることもあるのだよ。

  一度暴力が起きてしまうと、人は愚かなもので、その行為に歯止めが効かなくなることもある。それでずっと争いを続けている人達も未だにいるのだよ」


 この前の秀畝さんの話を思い出す。二人共、地球人とネブラ人の仲が引き裂かれてしまう未来が来るかもしれないことを憂いているのだろう。


 「時に、暴力が問題を解決する答えの正解だと考えてしまうこともあるかもしれない。でもそれは暴力が正解なのではなく、暴力でしか解決できなくなってしまった局面を迎えること自体が間違いなのだよ。

  若い君達には難しい問題かもしれないが、どうやったらこの問題を解決できるか、君達になりに考えてみると良い」


 俺も一番先輩も、シロちゃんの話をうつむきがちに聞いていた。傍から見ると俺と一番先輩は小学生ぐらいのロリっ子に説教されているという何とも滑稽な図にしか見えないだろうが、俺は唇を噛み締めていた。

 するとシロちゃんは表情を緩ませて、ケラケラと笑いながら口を開いた。


 「ま、偉そうにくどくどと説教をしてしまったけれど、私の、小金沢シロという一個人の考えとしては、君達の行動は正解ではなかったが、間違ってもいなかったと思うよ。

  次は、カッとなっても手は出さないように。次、手を出したら退学なのだよ」

 「それは女性を誘惑するという意味で理事長に手を出してもダメですか?」

 「はい、烏夜君は退学ね」

 「ウソー!?」

 「ふふ、冗談なのだよ」


 というわけで、俺と一番先輩は仲良く十日間の停学処分となった。十日間となるともう夏休みが始まるため、俺と一番先輩は皆より一足先に夏休みが始まってしまうこととなってしまった。



 シロちゃんとの話を終えて理事長室を出ると、出てすぐの廊下の窓際でローラ会長が俺達を待ってくれていた。


 「ローラ、俺達をわざわざ待っていたのか?」

 「えぇ。みっちりと叱られてしょげている貴方達を一目見ようと思って」


 ローラ会長はいつもの調子でそんなことを言うが、やはりいつもより元気がなさそうに見える。しょげているのはそっちの方だろうが。


 「どういう処分になったの? 謹慎?」

 「十日間の停学ですね。僕と一番先輩は今日から夏休みですよ!」

 

 俺が調子に乗ってそう言うと、一番先輩に頭をゴツンと殴られた。まぁ停学になった立場で遊び呆けるわけにはいかないし。


 「そう……停学、ね」


 停学という処分に対して案外ケロッとしている俺達に対し、ローラ会長はますます元気を失ってしまった。

 

 「ごめんなさ──」

 「待て」


 ローラ会長は俺と一番先輩に頭を下げようとしたが、一番先輩が彼女の肩を掴んで止めた。


 「どうしてお前が頭を下げる必要がある? あれは俺達が勝手に暴れまわっただけのことだ」


 いや一番先輩かっけーかよ。俺、アンタと一緒に戦えたことを一生自慢するわ。


 「そうですよ。全責任は一番先輩にあるんです!」

 「さっきは半分ぐらいは自分もって言ってただろうが!」


 と、俺は烏夜朧らしくいつもの調子でおちゃらけていたが、ローラ会長はクスッと微笑んで口を開いた。


 「……ありがとう、二人共」


 まぁローラ会長がちょっと無警戒だったのもあるが、事の発端は石を投げつけられたことだったとはいえ、まさか向こうが実力行使に出るとは俺も思わなかった。七夕の事件、そしてそれをきっかけとした地球人とネブラ人の険悪な雰囲気も、あくまで物語を引き立たせるためのスパイスだと思っていたのだが……どうやらネブラ人の過激派がいなくなった代わりに、こっちが話の本筋になりそうだ。



 「二人はこれからどうするの? 停学という立場になってしまった以上、遊びに行くわけにもいかないでしょう?」

 「俺は受験勉強しかないがな。禊のために滝行でもするか」

 「僕は奉仕活動とかしましょうかね。叔母の望さんが月研の所長をやってるので、そこのお手伝いとか」


 お手伝いをしたいと頼めば、月研とかペンション『それい湯』とか喫茶店ノザクロとか、俺を拾ってくれそうなところは結構ある。学校に通えないとはいえ遊んでいるとそれこそ月ノ宮へやって来た報道各社に勘違いされかねないから、それなりの姿勢は見せなければならない。


 「シャルロワグループの会社の手伝いをしてもらおうと思ったのだけれど、それは難しそうね」

 「俺達がシャルロワグループと関わるのは、あまり良くないだろうな」

 「でも、何か困ったことがあったならいつでも私に言って。全力で支援するわ、二人には助けられちゃったから」


 そう言って、ローラ会長はニコッと微笑んだ。



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