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半分ぐらいは一番先輩のせいです!



 前世の俺、月野入夏は小学生の頃、喧嘩三昧の毎日を送っていた。

 きっかけは友人、いや当時は顔見知りぐらいの関係だった月見里乙女がいじめを受けていて、彼女をいじめていた連中に俺が喧嘩をふっかけたことだったが、以降はあまり乙女とか関係なくただただ喧嘩を楽しんでいたと思う。

 まぁ、俺は一度も勝ったことがなかったから全敗だったが。


 『入夏って不良に憧れてるの?』


 俺が喧嘩三昧の毎日を送っていた原因である乙女からそんな質問をされたことがある。


 『いや、俺は品行方正に生きてるつもりだぞ』

 『でもこの前、小学生に絡んでた不審者をボコボコにしたって表彰を受けてたじゃん』

 『違う。俺は警察に連絡しただけでボコボコにしてはいない』

 『……ホント~?』


 どうやら乙女は俺が喧嘩っ早い人間だと思っているようだが、断じてそんなことはない。乙女が言っている不審者の話も、俺はいかにも怪しい奴から声をかけられて怯えていた小学生を助けて、不審者の足元を軽く蹴ったら、不審者が勝手に階段を転げ落ちていっただけで俺は何もしていない。何もしていないはずだ。


 『でも入夏って、雨の中で道端に捨てられた子猫のために傘を貸してあげたりお世話をしてそうだから、不良適性高いよね』

 『いや猫を可愛がってるイコール不良では絶対ないだろ。愛猫家だっているんだから』

 『じゃあ病気の妹とか弟のために戦ってるとか』

 『俺にはどっちもいないんだよ』


 どうやら乙女は最近ヤンキー漫画でも呼んで、頭がそれで一杯になっているようだ。ウチはそんな不良のような問題児がたくさんいる学校ではないから、身近にそういう知り合いもいない。


 『なんか入夏って不良適性あると思うんだけどなぁ……』

 『いや、それは絶対褒め言葉じゃないからな?』

 『でもさ、中学生ぐらいの頃ってちょっとワルい感じの男子がモテたりするじゃん? ただ真面目で寡黙なだけの冗談も通じないような男子なんてどんどんモテなくなっていくよ』

 『そいつらはちょっとワルいってだけで、問題児は別だ。俺は他人に迷惑をかけるような奴にはなりたくない』


 でもヤンキー漫画とかを読んでいると、憧れこそしないものの、ああいう物語も面白いなとは思う。何か格好いい異名とか欲しいもん。越後の龍とか甲斐の虎みたいに地名+動物の名前みたいな。東町二丁目のミーアキャットとか……いやセンスないな俺。


 『もし入夏がボコボコにされそうになった時は、私が代わりに入夏をボコボコにする連中をボコボコにしてあげるから!』

 『いや、無理だろ。逆上がり出来るようになってから言え』

 『じゃ、じゃあ私と勝負しよ!』

 『はい負けました~』

 『なんかテキトーだー!?』


 ……コイツは一体、いつまで俺に恩義を感じているつもりなのだろうか。

 月見里乙女に告白されるまで俺は、彼女の猛アピールをただの贖罪としか感じていなかったのだった……。



 ---

 


 「はい、二人は退学なのだ」

 「うそぉ!?」


 俺と一番先輩が駅前で騒動を起こした翌日の七月十六日のこと。月ノ宮学園の理事長室に呼び出された俺と一番先輩は、体中に包帯を巻いた痛々しい姿で理事長席の前で仲良く並んで正座させられていた。

 そしてスリッパを履いたまま理事長席の上に立っているのは、青い髪のツインテールで女児っぽいデザインのピンクのワンピースを着たロリっ子……とてもそうは見えないが、この月学の理事長である小金沢シロ、通称シロちゃんだ。およそ数十年前からこの月学の理事長をやっているのに容姿は全く老けない化け物で、一番先輩の親戚でもある。


 「一番先輩……僕達仲良く退学ですって。どうしましょう?」

 「まずは高認でも取るか」

 「いやけっこうあっさりしてるんすね」


 退学と言われながらも既に一番先輩は前を向こうとしている。いや、きっと彼は昨日の騒動を起こした時点でその処分を覚悟していたのだろう。それは俺も同じだ。

 そんな俺と一番先輩を見て、シロちゃんはケラケラと笑いながら言う。


 「まー、流石にそれは冗談なのだよ。いや、私も長年この学園の理事長をやってるけど、こんな問題児が在籍していたのは初めてなものだから、どう対処しようか迷ったね。

  流石に刑事事件にまで発展したら即退学だけど、向こう方も特に訴える気配はないからね。でも一番と烏夜君のたった二人で十五人もの相手をボコボコにするって、君達は前世で伝説の武術家でもやっていたのか?」


 結局、昨日の騒動で俺は一番先輩と二人で十五人を相手にしてボコボコにしてしまったわけだが、まぁ当然俺も一番先輩も相応の怪我は負っている。病院で検査を受けて特に異変はなかったけれど、今も体中痣だらけで擦り傷もいっぱいだし、メチャクチャ包帯を巻かれてミイラみたいになってしまっている。

 隣の一番先輩の方を見ると、やはり彼も俺と同じようにミイラみたいになってしまっていたが、俺の方を向いた一番先輩は俺を見て笑う。


 「しかし、烏夜があんなに喧嘩慣れしているとは思わなかったな」

 「いやそれは僕のセリフでもありますよ」


 実際、俺も加勢したとはいえ殆どの敵は一番先輩がボコボコにしていたから、手柄は殆ど一番先輩のものだけどね。まさか前世の経験がこんな形で活かされるとは思わなかったが、正直俺は一番先輩の助けになれたとは思えていない。

 しかしシロちゃんは理事長席の上から降りて俺と一番先輩の前に立つと、やや不機嫌そうに口を開く。


 「あ、何か良い感じに締めようとしてるとこ悪いけど、退学にするとは言ってないだけで、二人は停学だから」

 「理事長。半分ぐらいは一番先輩のせいです! 僕は半分ぐらいしか悪くありません!」

 「そりゃ二人でやったんだから半分になるだろうが!」

 

 まぁこれだけ暴れて停学で済むならありがたいぐらいだ。前世でもそんな経験したことないからどのぐらい重い処分になるのかわからなかったが、受験とか今後に響きそうなのがちょっと嫌だな。

 と、軽いおふざけで責任から逃れようとした俺に対し、一番先輩がシロちゃんに言う。


 「理事長。烏夜は俺に助太刀しようとして争いに混じっただけで、彼に悪意はなかったはずだ。そもそも騒動を起こした原因は俺にあるから、責任を負うのは俺だけで良い」


 うそ。この人俺を庇おうとしてくれてるじゃん。トゥンク……もしかして俺、一番先輩に攻略されてる?

 しかし、俺が一番先輩にときめいている一方で、シロちゃんが口を開く。


 「ほう……一番、お前が全責任を負うということで良いのだな?」

 「あぁ、本望だ。後悔はしていない」


 いや、俺だって一番先輩に責任を丸投げしたいわけじゃない。そう思って一番先輩を庇おうとした途端、シロちゃんは履いていたスリッパを脱いで一番先輩の頭をバシィィィィンッと思いっきり叩いて、そのまま一番先輩を土下座させて彼の頭を踏みつけながら言った。


 「バッカモーン! 受験前という大事な時期に暴力沙汰を起こすとはなんて愚かなことをやりやがるのだぁ! 私はお前をそんな風に育てた覚えはないぞ!」


 凄い。一番先輩がロリっ子に土下座して頭を踏みつけられてる。何この光景、俺は一体何を見せられてるの?


 「もう昨日からずっと私のもとにはしつこいぐらい報道各社から連絡が来ているのだよ! 鬱陶しくて校門にはバリケードを作ったし学校の電話線も切ってやったわ!」

 「あの、それは本当に申し訳ありません」

 

 そう、俺と一番先輩が起こした問題は中々に厄介だ。

 俺と一番先輩はれっきとした地球人だが、俺達はネブラ人が多く通う月ノ宮学園の生徒だ。そんな学校の生徒が反ネブラ人の活動家に対して暴力沙汰を起こしてしまったのだから……。


 

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