逆戻り
『こちらは所属不明の宇宙船が墜落した現場です。黒焦げの船体は真っ二つに割れ、周辺では警察やNASXAによる実地調査が進められています』
『先日七月七日夜、月ノ宮町上空に現れた宇宙船は七夕祭が開催されていた神社などを攻撃しましたが、シャルロワグループの対策チームによる迎撃により、この海岸に墜落しました。この攻撃による避難などの混乱により約八十名の重軽傷者が出ています』
『また、所属不明の宇宙船は月ノ宮町だけでなく中国、メキシコ、エジプトの三ヵ国で少なくとも三機の出現が確認されており、それらの宇宙船は各地を攻撃した後に地球から飛び去ったと考えられています』
『シャルロワグループを含むネブラ人の関係者によりますと、今回地球に飛来した宇宙船はアイオーン星系から飛来したことはほぼ間違いないが、地球に逃れたネブラ人とは違う国家の所属の可能性が高いと説明しておりますが、日本だけでなく世界各国でネブラ人脅威論が再燃しており、アメリカなどでは排斥運動が……』
七夕の事件から三日が経った七月十日。どの時間帯のニュースも先日の事件やネブラ人に関するものばかりで、未だに混乱が続いている。
世界各地に襲来した謎の宇宙船の攻撃に対して各国の地元当局はなす術もなく、延べ数百名以上もの死者を出す事態となったが、月ノ宮はシャルロワグループによる尽力もあって多数の怪我人は出たが、奇跡的に死者を出すことはなかった。
本来、月ノ宮を守ったといっても過言ではないシャルロワグループなのだが、彼らを称賛する声もある一方で、人類の技術力では未だ追いつかないネブラ人の技術力を恐れる声も大きい。
月ノ宮ではそうでもないのの、以前にトニーさんを首領とするネブラ人の過激派が検挙された件もあったため、ネット上ではネブラ人が地球の支配を目論んでいるという陰謀論まで噂されている。そうでなくとも、月ノ宮で見せた脅威の技術力を恐れてしまうだろう。
この状況はまるで、八年前のビッグバン事件直後のようだ……。
さて今日も平日なのだが、俺は昼間からローラ会長の別荘にお邪魔していた。
何故学校に行かないのかって? 何故なら月ノ宮学園に対する爆破予告によって臨時休校となったからだ。
初めてだよ俺、通ってる学校が爆破予告で休みになったの。まぁイタズラだろうが……急に物騒な世界になってしまったな。
俺はローラ会長の別荘の冷房の効いた涼しい部屋でアイスココアをいただきながらくつろいでいた。
「もうすぐ夏休みだっていうのに、なんかそんな明るい雰囲気にはなれないな」
俺は部屋の雰囲気を極力明るくしようと努めたが、俺の向かいのソファに座るローラ会長の表情は明るいものではなかった。
「マジでめんどくせーことになったわ」
本当にローラ会長かと疑いたくなるようなセリフ。まぁ中に入っているのは俺の前世の幼馴染、月見里乙女だが、それはローラ会長としての立場からすればごもっともな本音だろう。
「せっかく頑張ってレーザー兵器の開発とか頑張ったのに、なんでこんなにやいのやいのと言われないといけないんだろう……」
「あんなSF映画に出てくる宇宙戦争みたいなことされたら、そりゃ怖くなる人もいるだろうよ」
この世界がトゥルーエンドの世界線であるならば、十一月一日の星河祭の夜にネブラ彗星が観測されるとともに、ネブラ人の宇宙船がやってくる。原作なら彼らもまた友好的なネブラ人のはずなのだが、何かの間違いで敵対してしまった場合に備えて、ローラ会長は父親のティルザ爺さんに進言して防衛設備の開発を進めていたという。
月ノ宮を守ったという意味では、ローラ会長に先見の明があったと褒められるべきだが、ネブラ人の技術力はあまりにも先を行きすぎていた。
「でもおかげで世界各国がシャルロワグループの技術力を欲しがっているわ。今までにも産業スパイはたくさんいたけれど、明らかにヤバそうな組織からも声がかかってもう大忙しよ」
「やっぱアメリカとかが欲しがってるのか?」
「いくらで売れるのかしら……」
「やめろやめろ。第三次世界大戦がSFみたくなっちまう」
シャルロワ財閥が月ノ宮に築いた防衛陣地には、彼らがネブラ人の技術力を結集して独自に開発した各種レーザー兵器や無人戦闘機など、超大国が欲しがりそうな革新的な兵器が揃っていた。それ故に、ネブラ人を危険視する声も増えたわけだが。
「どうせ防衛陣地を作ってたなら、あらかじめ公表しておけば良かったんじゃないか?」
「あんな砲台とか作るための許可が下りるわけないじゃない」
「許可もとってなかったのか!?」
「町長との密約で、公有地に作ったのよ。それにあんな兵器の存在を公表すると、変なスパイとかに追っかけ回されると思ったからやめたのよ。現状そうなってしまっているし」
シャルロワ財閥は謎の宇宙船による攻撃から月ノ宮を守ったのだが、宇宙船を迎撃した防衛陣地の存在を秘匿していたことに批判が集まっている。そもそも無許可でレーザー兵器の砲台を私的に建設するなんてもってのほかだし、ネブラ人が月ノ宮を要塞化して反乱でも起こそうとしているのではないかとも言われている。
しかし、それらの批判への対処よりも前に、人類は解決しなければならない問題がある。
「結局、あの宇宙船はこの地球に来たネブラ人とは違う国家のネブラ人という考えでいいのか?」
「そうね。宇宙船に刻まれた紋章を見るに、私達の先祖と戦争していた惑星国家のものよ。もしかしたら斥候の可能性もあるから、まだ警戒は必要ね」
地球から遥か遠くの宇宙に位置するアイオーン星系で、ネブラ人は惑星間での戦いを繰り広げていたという。地球にやって来たネブラ人はアイオーン星系での戦争で荒廃した母星から脱出してきた避難民であり、彼らと敵対しているネブラ人も当然存在して、彼らが地球はやって来たのだ。
最初に地球にやって来たネブラ人が人類に対して友好的だったのは、今思えば奇跡のようなものだったのかもしれない。彼らが先に地球へ来ていたからこそ、月ノ宮は今回の攻撃で死者を出さずに済み、人類は新たな敵との邂逅に備えることが出来る……そうなればいいのだが。
「にしても、これは想定外ね。最初は避難民が来たのかと思っていたけれど、考えが甘かったわ」
「俺だってこんなの予測出来ねぇよ。何か事件が起こるとしても、やっぱ過激派関連だと思ってたし。
それで今後どうする? これが一体何の始まりになるって言うんだ?」
もうすぐ夏休み。夏休みともなれば海だのプールだのお祭りだの遊園地だの、ネブスペ2原作ではとにかく遊ぶイベントばっかりだ。まぁ殆ど主人公達のデートを眺めることになるだけなんだけども。
しかしこんな現状では……ネブスペ2のキャラの殆どがネブラ人、あるいはネブラ人の血が流れていることを考えると、そんな浮かれた展開は期待できない。
「奇しくも、八年前の状況と一緒なのよ。あれはビッグバン事件が原因だったけれど、初代ネブスペのキャラ達も、ネブラ人に対する風当たりが強い時期に青春を過ごしていた。
……確かに私が初代ネブスペの面子も組み合わせてシナリオを作るとしたら、こんなことを考えるかもしれないわね」
本来ネブスペ2には登場しない初代ネブスペのキャラ達が、確かにこの世界に存在する。俺達が完成させなければならないNebula's Spaceの物語には彼らの存在も不可欠だが……俺はもっと気楽に過ごせるものかと思ってたのに、かなり幸先の悪い出だしとなった。
「お前の方は大丈夫なのか? 色んなところから引っ張りだこなんだろ?」
「私の会長職なんて殆どお飾りで、大体の処理は大人達がやってくれるわ。でも、シャルロワグループの未来はかなり暗いでしょうね」
「無理はするなよ? 俺は経済的なことは全然わからんが、手伝えることあったら何でもしてやるから」
「じゃあ裸になって首輪とリードをつけて一緒に夜の公園を散歩しましょ」
「クレイジー過ぎるだろ」
コイツに何でもしてやるって言ったら何をお願いしてくるのだろうとちょっとした興味本位で言ってみたが、中々の性癖をお持ちだった。
俺は、いや烏夜朧はネブラ人でもなければネブラ人の血も入っていない。だが第一部のヒロインであるスピカやムギ、レギー先輩はネブラ人であり、第二部に登場するキャラに至っては朧の妹である夢那以外全員ネブラ人か、ネブラ人の血が入っている。
彼らへの風当たりが強まれば、ネブラ人が多く居住しそれを受け入れていた月ノ宮でもかなり居心地は悪いだろう。
今とほぼ同じ状況だったのが、今から八年前、ビッグバン事件が起きた直後を舞台とした初代ネブスペだった。ヒロインは全員ネブラ人で迫害を受けることもあったが、それらの障害を乗り越えて彼らは立派な大人に成長している。
もしかしてこれは……ネブスペ2だけでなく初代ネブスペの知識も必要だってことか!?




