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織姫でも、彦星でもない



 秀畝さんがコガネさん達教え子との交流に捕まっている中、俺は穂葉さんに見送られて乙女と一緒にお祭り会場を巡ることにした。

 七夕と言えば、やはり短冊にお願いを書くものだろう。そういえばまだ書いてなかったなと思い、境内の一角に何本も用意された笹に短冊をつけることにした。


 「乙女は何を書いた?」

 

 俺は乙女と一緒に短冊にお願いを書いていたのだが、乙女は俺に短冊を見せようとしない。


 「べ、別に何だっていいでしょ」

 「何だって良いのに見せてくれないのかい?」

 「せ、世界平和よ」

 「え? メンタンピンドラドラ?」

 「どうやったらそう聞こえるのよ!」


 俺は乙女に背中をバシッと叩かれた。大星や美空達が書く内容は覚えているのだが、乙女って短冊に何を書くんだっけなぁ。トゥルーエンドの世界線でチラッと出てきた気がするのだが。

 しかしあまりしつこいと乙女に本気で嫌われてしまいそうだったため、俺はそれ以上追求しようとはしなかった。なお、俺のお願いは「ハーレムを築くこと」だ。おそらくこの世界では永遠に叶わない夢だろう、悲しい。


 乙女は俺からわざわざ離れて別の笹に短冊を付けに行った。俺も笹に短冊を結んだが、他の人が書いたお願いがふと目に入った。


 『エレオノラ・シャルロワを越えて一番になれますように』


 ……。

 ……いやこれ、絶対一番先輩だろ。

 ネブスペ2第三部の主人公、明星一番はその名が表す通りあらゆる分野で一番を目指して実際にトップの成績を取っていたのだが、完璧超人エレオノラ・シャルロワに一番の座を奪われてしまっている。

 まさか一番コンプレックスが短冊のお願いにまで出てしまうとは……一番先輩らしいなと思っていると、その隣にあった短冊のお願い事が目に入った。


 『隣の人のお願いが叶いませんように』


 いや酷くないかこれ。誰だよこんなこと書いたの、もしかしてローラ会長か? いやローラ会長らしいといえばローラ会長らしいかもしれないけども。面白いから写真撮っとこ。

 そして近くの短冊をよく見てみると、他にも知り合いが書いてそうなものがチラホラ見える。


 『サザクロがもっと繁盛してチェーン店を出せますように』


 これはきっと、駅前のケーキ店サザンクロスで働くロザリア先輩のものだろう。


 『お化けを見ても気絶しませんように』

 

 これはこの前、首無しのカグヤさんを見て気絶したクロエ先輩のものだろう。


 『スコーピオンさんと一緒に遊べますように』


 これはゲーム配信者として活動するオリオン先輩のものだろう。スコーピオンというのは同じく三年であるシャウラ・スコッピィ先輩のことだ。


 『お姉様達ともっと遊べますように』


 そしてこれは、シャルロワ四姉妹の末っ子であるメルシナのものだろう。

 どうやら第三部の面々もここを訪れていたようだ。流石にシャウラ先輩はいなさそうだが……そもそもこの世界だとまだ面識ないんだよな、お隣さんだけど。

 短冊の飾り付けが終わった乙女は俺の隣へやって来ると、それらの短冊を見てクスッと笑いながら言う。


 「皆、結構思い思いに書くのね。朧みたいにもっとバカみたいなの書けば良かった」

 「いや僕だって真面目に書いたつもりなんだけど?」

 「でもハーレムなんて……って、そういえば身近にいたような気もするわね」


 今、リアルタイムでハーレム築いてる奴が身近にいるんだよなぁ。俺もそれを陰ながら支えていたとはいえ普通に大星ハーレムが出来上がるとは思わなんだ。友人達が幸せになってくれるのは俺も嬉しいが、若干複雑な気分ではある。

 きっとアルタや一番先輩も大星のようにハーレムを築き上げるのだろう……アルタははたから見ると現時点でも十分ハーレムっぽいけどね、あれは。でもあれって好意を向けられていると言うよりかはただ可愛がられているだけのような……。


 

 俺と乙女は他の笹に飾られた面白そうな短冊を見物しようとしていたのだが、俺達の元に近づいてくる人物が一人。


 「あら奇遇ね、二人共」


 現れたのは黒地に白い花が咲き乱れる浴衣を着たローラ会長だ、黒地の浴衣に長い銀髪がよく映える。手には水風船を持っていて、彼女もお祭りを満喫しているようである。


 「こんばんは、ローラ会長。水風船釣りでもやったんですか?」

 「いえ、これはメルから貰ったの。乙女ちゃんも元気?」

 「は、はい、その節はお世話になりました……」


 ローラ会長が現れると、乙女は若干怯えながら俺の背後に隠れてしまった。おいローラ会長、お前が乙女を可愛がりすぎたせいで怯えてんじゃねぇか。


 「今日は四姉妹揃ってのお出かけですか?」

 「えぇ、そうよ。明星君やベラも来ているわ。後、さっきシャウラを見かけたのだけれど、貴方は会ったことあるかしら?」

 「いえ、まだお会いしたことはないですね。ローラ会長はコガネさんやナーリアさん達を見かけました?」

 「有名人が集まっているのはローザ達から聞いたわ」

 「そうなんですか。せっかく皆勢揃いだったのに」

 

 ローラ会長はありがたいことにシャウラ先輩の情報まで俺に伝えてくれた。きっと俺がネブスペ2の面々が揃っているか確認しようとしていたことに気づいたのだろう。だから俺も初代ネブスペの面々が集まっていることを彼女に伝える。

 まさかシャウラ先輩まで来ているとは……きっとオライオン先輩の従者である銀脇先輩や友人の碇先輩も一緒だろう。普通のループではローラ会長すら見かけることも殆どなかったから、やはり何かが起こる前触れなのだろうか。


 「そうだ、乙女ちゃん。何か食べたいものはない?」

 「あ、いえ、結構です」

 

 ローラ会長は乙女に何か奢ってやろうとしたのだろうが、相変わらず怯えられてしまっている。そのせいかローラ会長はちょっとシュンとしてしまった。

 何とか俺がこの二人の仲をとりなしてやらないとなぁと考えていると、俺の背後にいた乙女が急に俺の腕を掴んできた。


 「ひいいいいいいいいいいっ!?」


 乙女が急に悲鳴を上げたため、俺は驚いて後ろを振り返る。するとそこには、月学の制服を着た青い髪の少女が佇んでいた。

 だが彼女の首から上にあるはずの頭は無く、彼女は自分の頭を両手で持っていた。


 「久しぶり~」


 一見すると怨霊にしか見えないが、両手で抱えられた頭は俺達に笑顔を向けた。

 

 「お久しぶりですね、カグヤさん。どうしてここに?」

 「私も久々にお祭りに参加したくなっちゃって」


 幽霊であることに間違いないが、この人は初代ネブスペの隠れたメインヒロインであるカグヤさんだ。彼女が自分の頭をカポッと首にハメると、頭につけた黄色いリボンを揺らしながら言う。


 「今日さ、懐かしい友達がたくさんいたから声をかけようと思ったんだけど、ミールちゃんに怒られちゃって。だから大人しくするしかないんだよねー」


 お祭りに首なしの幽霊が現れたら騒動になってしまうだろう。きっと言うことを聞かなかったら成仏させてやるとミールさんに脅迫されたに違いない。

 俺とローラ会長にとっては見慣れた光景であるためあまり驚きはしなかったが、俺の腕を掴みながら背後で怯えている乙女が恐る恐る口を開く。


 「も、もしかしてこの前、朧の家に出てきた人……?」

 「覚えてくれてたんだ。私は紀原カグヤ、一応コガネやナーリア達の同級生なの。この後、ミールちゃんに協力してもらって皆にドッキリを仕掛ける予定なんだけど、ちょっと協力してくれない?」

 「花火の後でも良いですか?」

 「うん、全然いーよ!」


 乙女もコガネやナーリア達有名人と会えるならと快諾し、何かローラ会長もしれっと混ざることになった。俺もナーリアさんとかが面白い反応を見せてくれそうで楽しみだ。


 「もうすぐ打ち上げ花火の時間ね。ここだと見えにくいから移動しましょ」

 「あ、私が案内しようか? 前に幼馴染とよく一緒に行った場所なんだけど……はぁ……もう彼は他の女と一緒だけどね……」

 「急に病まないでくださいよ。大丈夫ですか、その場所って何か曰く付きじゃないですよね?」

 「大丈夫、ちゃんと花火を見られるとっておきの場所だから!」


 カグヤさんが言っているとっておきの場所とは、ネブスペ2原作でアルタとベガが一緒に花火を見る、月見山の中腹にある小さな広場のことだ。多分今頃、アルタ達も向かっているだろう。

 花火の打ち上げが始まるのは夜七時からで、今は六時半頃。広場まで歩いて二十分ぐらいかかるから、今から向かえば間に合う頃合いだ。そのためカグヤさん達と一緒に広場まで向かおうとしたのだが、その時ふと、カグヤさんが空を見上げた。


 「あ、流れ星だ!」


 段々と闇に包まれポツポツと星が輝き始めた空を駆ける、一筋の光。

 しかし流れ星にしては全然輝きが途絶えることはなく、むしろ段々とこちらに近づいてきているような──。


 「いえ、あれは流れ星ではないわ」


 同じく空を見上げるローラ会長が、不安げな面持ちでそう呟く。

 もしや隕石かとも思ったが、輝く物体はそのまま高速で落下してくると月ノ宮の上空で停止した。青白い光を放つ謎の巨大な物体の襲来に、七夕祭の会場に集まっていた人々もざわつき始める。

 やがて輝く物体を包んでいた青白い光が晴れると、ようやくその巨大な物体が何なのかわかった。


 「う、宇宙船……!?」


 月ノ宮の上空に現れたのは、かつて月ノ宮海岸に着陸したネブラ人の宇宙船とほぼ同じ、まるでSF映画にでも出てきそうなメカメカしい宇宙船だった。



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