いつまでも、今が続けばいいのに
ナーリアさんのライブを見終わった後、ベガやワキア達巫女服組は神社のお手伝いのため社務所へ、望さん達コスプレ組は巫女服姿のまま散策へと向かい、また俺は一人になってしまった。
俺だって可愛い女の子と一緒にお祭りを巡りたいところだが、これは好都合だ。俺にはメインキャラ達が集結しているか確かめなければならないからだ。ナーリアさんもこの七夕祭に来ていることがわかったし、残るはコガネさんやレギナさんにマルスさん、そして天野夫婦ぐらいか。
あとローラ会長も探したいのだが……特設ステージから離れて人通りの多い屋台周辺を散策していた。すると参道の外れにある木の下で、俺が探していた人物を発見した。
「ねぇ君達、アイドルに興味ない?」
浴衣姿の少女二人に向かって名刺を渡す、黄色い革ジャンを着た金髪の女性。サングラスをかけていてちょっと怪しくも見えるが、変装しているつもりでも若干オーラが隠せていない。
そんな彼女の隣には、呆れた表情で彼女達のやりとりを眺めるモノトーンファッションの女性と赤毛のショートカットの女性がわたあめを片手に佇んでいた。
「私達がアイドル……!?」
「良かったね晴ちゃんっ」
「いや美月も誘われてるのよ!?」
そしてアイドルの誘いを受けていたのは、大星の妹である晴と、美空の妹である美月の二人。二人共浴衣姿で、手にはりんご飴やわたあめを握っていた。
何だかア◯マスでも始まりそうな予感がするが、この世界でも顔見知りになったため俺は彼女達の元へ向かった。
「どうもお久しぶりです、コガネさん、レギナさん」
「あ、レギーちゃんの後輩君じゃん。えっと……あっ、シャルロワ家の子と逢瀬してた烏夜君!」
「だから逢瀬じゃないですって!」
コガネさん達とは以前、レギー先輩の舞台の打ち上げパーティーで会って以来か。俺とローラ会長が外で内緒話しているのを目撃されてちょっと誤解されているが。
「あとそちらの方は……」
「私はマルス・クライメイト。君のことはコガネからよく聞いているよ、彼女とレギナの間に生まれた隠し子なのだろう?」
「落ち着けマルス、そんなわけがないだろう」
「マルちゃんはポリスメンなのに騙されやすいところあるよね~」
以前、ネブラ人の過激派であるトニーさんが捕まった時にマルスさんはテレビに出ていたことがある。まぁ昔会ったこともあるから俺の方はなんとなく知っているが、やっぱTシャツの後ろにデカデカと『正義』って書いてあるのは絶妙にダサいと思う。
「どーもこんばんは、ドスケベお兄さん」
「こらっ、晴ちゃんダメでしょ、そんな風に呼んじゃ。こんばんは、朧さん」
「烏夜君はドスケベお兄さんと呼ばれているのかい?」
「そうなんですよ、まったくドスケベなものでして」
「胸を張って言うことじゃないと思うなー」
六月を境に烏夜朧自体は大分落ち着いた性格になっちゃったけどね、たまに暴れたくなるけど。ループを繰り返している途中で烏夜朧らしく女性を口説き続けるというロールプレイは中々の苦行ではあったが、あれのせいで俺はおかしくなったんだと思う。
「まさか晴ちゃんと美月ちゃんをアイドルに勧誘するなんて、やっぱりコガネさんはセンスありますね」
「でもコガネって事務所持ってたっけ?」
「いやちょっとアイドルグループをプロデュースするって野望があってね、有望そうな子に声をかけてるんだ。さっき巫女服を着たシスターズがいて全員を勧誘しようと思ったんだけど断られちゃった」
「……その巫女服シスターズ、一人だけ男子がいませんでした?」
「へ? いなかったと思うけど」
コガネさんが声をかけたの、絶対ベガ達だろ。だとしたらその中に混じっていた女装アルタに気づかなかったということだ。
アルタ、諦めろ。君は素材が良すぎるんだ。何かコガネさんってアルタのこと好きそうだから、見つかったらヤバいだろうなぁ。
「で、どう? もしアイドルに興味持ったら私に連絡してよ。いいところに連れてってあげるからさ……」
「怪しい」
「楽曲は誰が作るんですか?」
「ナーリアに土下座して頼み込む」
「先行きが不安ですね、このアイドルグループ……」
モデルや女優として活動するコガネさんは、歌手であるナーリアさんから楽曲提供を受けて歌手デビューもしているが、そうなるとコガネさんではなくほとんどナーリアさんのプロデュースになってしまいそうだ。
半ば見切り発車気味のコガネさんのプロデュースだが結局晴も美月も断ってしまい、呆れたように溜息をつきながらレギナさんが口を開く。
「それより、君達は絵画コンクールを見に行ったかい?」
「はいっ。最後に飾ってあった、短冊を掴んでいる青い髪の女の子の絵に、とても心惹かれました。晴ちゃんなんか泣いてましたし」
「泣いてないもん! か、感動したのは確かだけど」
「それは良かった。あの絵はボクのイチオシだからね。コガネは天邪鬼だから別のを選んでたけど」
「いや、あの短冊をビリビリに破ってるのもすごかったじゃん」
晴や美月はムギが描いた絵に投票してくれたようだが、コガネさんは違う絵を選んだようだ。
……その理由は何となくわかる。マルスさんはフッと微笑んだ後、少し悲しげな表情を浮かべながら口を開いた。
「コガネの気持ち、私はわかるよ。何だか懐かしい気持ちにはなったけれど、まるで彼女が生きているように感じられて、それが不気味に感じられたからね……」
八年前に死んだはずのカグヤさんの肖像画となるとコガネさん達が恐怖を覚えるのも無理はない。ムギが描いたカグヤさんは、まるで今もあの絵の中の世界で生きているような活力さえ感じられるからだ。
まぁ、当の本人も元気っちゃ元気だけど。
晴と美月と離れた後、俺はコガネさんとレギナさん、マルスさんの三人と一緒に行動することになった。この世界だとこの三人とそんなに仲が良いわけではないが、どうやらかつて月学でお世話になった秀畝さんに会いたいとのことで、俺は乙女に連絡を取って彼女達の元へと向かった。
そして夕暮れの赤い空が段々闇に包まれ始めた頃、俺達は月ノ宮神社の本殿前で朽野一家を発見した。だが彼女達と一緒にいた二人の人物を見て、コガネさん達があぁっと声を上げる。
「あ、天野君!?」
「ブルーもいるじゃないか。帰ってきてたのかい?」
朽野一家と楽しげに話していたのは、彼らのお隣さんになった太陽さんとブルーさんの夫婦。太陽さんはお祭りっぽく紺色の浴衣を着ているのだが、ブルーさんはどういうわけか巫女服を着ていた。朽野一家も天野夫婦も俺達の存在に気づいたようで、太陽さんはうちわで顔を扇ぎながら俺達に笑顔を向けた。
「あれっ、コガネにレギナにマルちゃんじゃないか」
「久しぶりね。二年前に魔界と天界を巻き込んだラグナロクに参加して以来かしら」
「ブルーはどの世界線の話をしているんだい?」
ブルーさん、真面目な顔してふざけるのやめろ。
「あと、なんでブルーは巫女服着てるの?」
「同級生のコスプレ魔神に出くわして着させられちゃったの。似合ってる?」
「非処◯が着るもんじゃないよそれ」
「貴方とは違うからね、私は」
「OK、表出ろやブルー」
「今夜こそ決着をつける時だね」
「君らは一体いつまで喧嘩するつもりなんだ?」
「元風紀委員として何か言ってやりなよ、マルちゃんも!」
「確かに彼の学生時代は手を焼かされたが、別に恋愛は自由だし……」
「でも月学の頃は風紀がどうとか言いながら彼にしつこく絡んでたじゃないか!」
「その時の話はもういいだろう!?」
八年前、かつて同じ意中の男子を巡って争ったヒロイン達だ、目つきが違うぜ。ネブスペ2だと平気でハーレム作ってる奴もいるのに。まぁコガネさん達だって本気でブルーさんを嫌ってるわけじゃないだろうし、この言い争いはお約束のようなものだ。
「あら、もしかして恋敵なの? 良いわね、やっちゃいなさいっ!」
「母さん、火をつけないで」
何か穂葉さんがワクワクした様子でコガネさんとブルーさん達の戦いを見て盛り上がっている。完全に面倒なガヤ。
若干卑猥な言葉もぶつけ合うコガネさん達を見ながら、秀畝さんはガハハと笑っていた。
「今日は懐かしい教え子達によく会う日だね。まさか同じタイミングで月ノ宮に戻ってきてるとは思わなかったよ。コガネさん、この前君が出ていたドラマ、とても面白かったよ」
「センセー、ご褒美ちょーだい!」
「頑張ったコガネさんにはダークマター☆スペシャル一年分をプレゼントしよう」
「全然うれしくなーい!」
ご褒美をもらえずコガネさんはシクシクと泣く演技をしていたが、そんなコガネさんを見ながら秀畝さんは教師というよりかは、まるで親として接しているようにも見えた。
ネブスペ2のキャラ達もそうだが、初代ネブスペのキャラ達もビッグバン事件で家族を失っているからな……。
「後、レギナさん。この前匿名で月学の多額の寄付をしてくれたのは君だろう?」
「知らないですね」
「あ、そういえばレギナって自分の作品に高値が付いたら月学に寄付したいって言っていたような……」
「美術室の画材を充実させたいって言ってたねー」
「ブルー、コガネ。余計なことを言うんじゃない。ボクじゃないって言ったらボクじゃないんです」
「ハハ、そういうことにしておこうか。ちなみに理事長の意向もあって美術室を含めた特別教室の設備が更新されることになったね」
レギナさん、寄付とかしてるの? すげぇな……俺も金持ちになったら母校の図書室に本を寄贈したりしてみたい。
別にわざわざ匿名でなくとも、レギナさんの印象が良くなるだろうに……いや、レギナさんはあまりそういうのは気にしないか。校内で爆竹に火をつけて芸術がどうだこうだと叫んでいた変人だったし。
「それにマルスさん。君が夢を叶えて警察官になれたのは私も嬉しいよ。君が月学の狂犬と呼ばれていた頃が懐かしいね」
「先生、その頃の話はやめてください」
「そうだよセンセー、あれはマルちゃんの黒歴史なんだから」
「やっぱりマルちゃんって今もポンコツなの?」
「ちゃんと仕事はしているよ!」
月学に在籍していた頃は風紀委員として色々厳しく取り締まっていたマルスさんだが、どこからともなく漂うポンコツ感が憎めない人だった。
「何か……私達の先輩達って凄いのね」
コガネさん達を眺めながら、乙女がボソリと俺に言う。いや冷静に考えると月ノ宮学園のOBやOGの質はヤバすぎるからな。女優に歌手に芸術家に医者に刑事に探偵に霊能力者だからな。やっぱり霊能力者だけ異質過ぎるな。
秀畝さんがコガネさん達に引っ張りだこの中、そんな彼らを微笑ましそうに眺めながら穂葉さんが言う。
「良いわね、久々に会っても昔みたいに笑い合えるのって。乙女や朧君達も、今は青春がとっても楽しいかもしれないけれど、どれだけ仲の良かった友達がいても数年会えなかっただけで疎遠になっちゃうこともあるのよ。
二人がいつか離れ離れになっても、また再会したらいつものようにじゃれ合う二人を見ていたいわ」
穂葉さんの言葉が俺の胸にグサリと突き刺さる。
はい、すみませんでした。俺は前世で幼馴染と疎遠になってたんです。どういうわけかエロゲ世界で再会したけども……もしネブスペ2の真エンドを迎えて俺達もいつか月学を卒業するとなった時、きっと大星達と離れ離れになってしまうだろう。
俺は是非とも同窓会に行きたいが、ハーレムエンドを迎えた大星達のその後は一体どうなってしまうんだ? ネブスペ2のトゥルーエンドは何か皆でワイワイして終わったけど、やっぱり大星は美空やスピカ達全員を妻として迎えるの? 流石にそこまでは想像つかないが、もし数年後に同窓会で再会した時に大星が何人も妻を抱えていたら、俺は結構複雑だ。
だが、このままだと乙女はどうなるのだろう?
「離れ離れになる、って想像つかない」
乙女がボソリとそう呟く。
「でも……何だか、怖くなっちゃうの。皆と離れるって考えると……」
乙女は一度、月ノ宮から離れるという決断をした。友達想いの彼女は、きっと親友のスピカ達と離れ離れになるという結末を望んではいなかったはずだ。
……ここにいられて良かったな、乙女。
何はともあれ、初代ネブスペの主人公やヒロイン達が月ノ宮神社に一同に介することとなった。これは俺が今まで何度もループを繰り返してきた中で初めてのことだ。
ネブスペ2第一部、第二部の主要なキャラ達とも出会っている。後は第三部の面々も来ているか確かめなければならない。
そのために俺は、ローラ会長を探しに向かった。




