やっぱり巫女服って最高だぜ!✕10
ムギの絵を見た後、レギー先輩は同級生達のグループに混ざりに行き、乙女とスピカとムギの三人は再び屋台巡りへと向かって、俺は一人残されてしまった。俺も本当は乙女達と一緒にブラブラしていたいが、それよりもこの目で確認しておきたいことがあるのだ。
そこで俺はまず、月ノ宮神社の境内に設けられた特設ステージの観覧席へと向かう。地元の婦人会による日本舞踊だったりバンド演奏が披露されているが、俺の予想が当たっているなら演目には書かれていない特別なライブが開催されるはずなのだ。
だがそのタイミングがいつなのかわからないため、ステージを遠目で見ながら様子を伺っていたのだが……そんな俺の元に、巫女服を着た集団がやって来た。
「あ、烏夜先輩だ~」
「こんばんは、烏夜先輩」
巫女服を着ていたのは、ベガ、ワキア、ルナ、キルケ、カペラの第二部のヒロイン勢五人と、もう一人……見知らぬ長い金髪の少女だった。ルナは実家である月ノ宮神社のお手伝いとしてよく着ているが、他の面子もお手伝いしているのだろうか。
いやそれよりも、ここで巫女服姿の彼女達と出会えたのはラッキーだ。これをタダで見れるのはお得過ぎる。
「ぐはぁっ……な、なんという破壊力……!」
「これぐらいで満足しちゃダメですよ、朧パイセン。私のカメラの中には今日のわぁちゃん達を写した秘蔵のコレクションがあります。
このコレクションを出世払いでいかがですか?」
「またルナさんが悪い商売をしています……」
「烏夜先輩が出資してくれるなら、巫女服の同人誌も……」
「カペラさんも悪い商売を始めないでください」
年下の女の子達が巫女服を着てキャピキャピしているだけでも俺の心は浄化される。なんだか年を取ってくると、若い子達が元気に過ごしている姿を見ているだけで和んでしまうものだ。烏夜朧はベガ達と年は近いが、その中にいる俺は何度もループを繰り返してきたから大分老害になってきている。
「ちなみに、そこの金髪の子は皆のお友達?」
ベガ達の集まりに混ざっている金髪の少女は俺から顔を背けるようにうつむいていて顔はよく見えないが、ネブスペ2にこんなキャラはいなかったはずだ。関係者にこんな子いたっけと俺が悩んでいると、ワキアやルナがニヤニヤしながら言う。
「え~烏夜先輩も知ってるはずだよ~」
「私達が完璧にコーディネートした成果が出ましたね!」
俺の知り合いにいたっけ、金髪の子……ベガ達の知り合いにいる金髪のキャラってアルタぐらいしか思い浮かばな……え?
「まさか……!?」
俺は金髪の巫女服の少女に近づいて彼女の前でしゃがみ、うつむく彼女の顔を覗き込むように見る。そして俺が彼女の正体に気づいたその時──俺の顔面に彼女の膝が迫っていた。
「ほがああああああああっ!?」
膝蹴りが俺の顔面に直撃。俺は顔面を抑えながら境内の地面をのたうち回った。
烏夜朧というキャラは元々お調子者で時折痛い目を見ることはあるからそれには納得するのだが、たまに理不尽な暴力を受けるのには納得がいかない。
そして地面をのたうち回る俺を恨めしそうな表情で見下しながら、彼女は、いや彼は口を開いた。
「どうして、烏夜先輩も気づいてくれないんですか……!」
金髪の巫女服姿の少女の正体は、ネブスペ2第二部主人公である鷲森アルタだった。
「やはり元々アルちゃんを知っている方でもわからないですよね……」
「僕は、僕は女になるしかないのか……!?」
「諦めなよアルちゃん。良いものだよ、女の園ってのも」
「そうですよ! アルタさんはもっと自分に自信を持つべきです!」
「それがむしろ屈辱なんだよー!」
女装が似合うからといって喜ぶかどうかはその人次第だが、それが似合うのって元の素材が良くないといけないだろうから、一応褒め言葉……なのかはわからんな。俺も自分が言われたら複雑だし。
「でもアルタさん、本当に女の子みたいで……まるで女子校に女装して潜入する感じのラブコメ主人公にもなれますよ」
「女風呂入れるか試してみようよ」
「あ、噂に聞く男水着チャレンジの逆バージョンというわけですか!?」
「バレたらアルちゃんの人生が終わるのでは?」
「流石にそれはやめときな」
ダメだ、アルタがどんどん可哀想な目に遭っていく。何故だ、何故ベガ達第二部のヒロイン勢は集まるとこうも強くなってしまうんだ。大体ワキアが悪いような気がするけども、これに今後夢那が加わるとなるとアルタがますます総受けになってしまう。
するとアルタちゃんは溜息をつきながら俺に言う。
「烏夜先輩もいかがですか、女装」
「僕にはあまり似合わないかな、体格的に」
「僕をチビって言いたいんですか?」
「そんな卑屈にならなくても」
ワキア達がアルタに対して何となく嗜虐心に似たものを抱いてしまうのは、アルタが元々中性的でどことなく可愛らしいところがあるからだろう。普段はクールというかツンツンしているがたまにデレるし、文句を言いながらも押せ押せでいけばお願いを聞いてくれるからな。
諦めろ、アルタ。文句を言うならローラ会長に言うんだな。俺はもう少し様子を見ることにするよ。
アルタ本人はうんざりした様子だが、俺的にはメチャクチャアリだった。何なら隠しヒロインとして実装してほしいぐらい……いやダメだ、これ以上は変な性癖が芽生えてしまいそうだ。
そんな巫女服軍団に癒やされていると、またしても俺達に近づいてくる巫女服軍団が。
「あら、ボロー君じゃない」
あ、このイベント前にもあった気がするぞ!?
「あ、朧君にベガちゃんにアルちゃんも~」
現れたのは、スピカとムギの母親であるテミスさんと、美空と美月の母親である美雪さん、そして──。
「げっ」
烏夜朧の叔母である望さん。うん、想像通りの面子が巫女コスをしてやって来た。
「お似合いですね、望さん」
「ぶっ飛ばすわよ」
「理不尽過ぎません?」
「何だかアレだね。企画モノっていうかそういうジャンルの……」
「やめなさいワキアちゃん」
望さん達三人もちゃんと似合っているはずなのに、若々しいベガ達を先に見てしまったからが故に、何だか無理をしているようにも見えてしまう。俺はどっちもイケるけども。
なんて考えていると、もう一人巫女服姿の長い茶髪の女性が笑いながらやって来た。
「いや~こんなに巫女が集まってると眼福だねぇ」
現れたのは初代ネブスペのヒロインの一人、レイさんことネレイド・アレクシス。趣味はコスプレ、確か今度葉室に出来るアパレルショップのオープニングの店長になるんだっけか。一応烏夜朧とは前にバイト先が一緒だったから面識はある。
「望さんってレイさんと知り合いだったっけ?」
「レイヤー仲間よ」
「やっぱ望ちゃんはもっとイベントとか出るべきだって。絶対売れる……と思ったけど、やっぱ若さには勝てないね」
「ねぇやめてそういうこと言うの」
「でも大人にしか出せない色気もあるのよ。それがわからない内はまだまだ子どもね」
「その弁明は負け惜しみにしか聞こえないなー」
いや巫女コスに必要なのは色気っていうかそれとは真逆の……いやいや、何を言ってるんだ俺。巫女コスの集団に囲まれてだんだんおかしくなってきてる。
「あと、ベガちゃんやわぁちゃん達はコスプレじゃありませんよ! ちゃんと神社のお手伝いを志願してくれたので仕事着として貸してるんです!」
「私達も何か手伝えないかな?」
「ステージに上がって何か歌う?」
「歌謡曲しか聞こえてこなさそう」
「そんな年いってないわよ!」
ここに巫女服を着た集団が集まっているからか、周囲を行き交う人達もなんだなんだとこっちを二度見してくる。まぁ俺は役得ではあるのだが、段々カオスになってきたなぁと思ってきた頃、突然ステージの方がざわつき始めた。
見ると、ステージ上には大人気歌手のナーリア・ルシエンテスの姿があった。今日のステージの演目に彼女の名はなかったから、サプライズでの登場だろう。ナーリアさんはステージ上でマイクを握って皆に笑顔を振りまいていた。
「さぁーって! 私がこうして生まれ故郷でライブをするのは初めて……って何あの巫女集団!?」
客席の後方にいる俺達に気づいたのか、ステージ上でナーリアさんが驚愕していた。いくら神社とはいえ、この規模感だと多すぎるからな。
お客さん達の目が一斉にこちらを向くと、ベガは照れくさそうに笑っていたりワキアはピースサインを向けたりしていたが、ナーリアさんは気を取り直して進行し、ナーリアさんのサプライズライブが始まった。




