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この絵は霊能力的にもかなりエモいと思う



 絵画コンクールの会場である月ノ宮神社の一角には、多数の応募の中から審査委員達による数度の審査によって五つの作品が本戦へ進み、それらが展示されている。やはりかなりの客入りで、作品を間近で見るのにも一苦労だ。

 

 「な、なんか意外と人が多くて怖い」

 「何を今更怖がってるの、ムギ。あんなに自信持ってたのに」

 「大丈夫よ! 私が太鼓判を押してあげるから!」

 「乙女の太鼓判って価値あるの?」

 「アンタには烙印を押してやるわ、朧」

 「怖すぎる」


 ムギの絵が最優秀賞を獲るのは最早予定調和だが、この目で見るのは初めてだから結構ワクワクしている。一周目でもムギは親友の乙女をモチーフにした絵を完成させていたが、それとは違う絵が完成しているはずだ。


 ムギ以外の四枚の絵は、これまでのループの世界でも何度も見てきた絵と変わらない。やはり七夕をモチーフにしたロマンチックな絵が展示されているのだが、やはりその中でもセーラー服姿の少女が絶望の表情で短冊をビリビリに破り裂いている絵が異彩を放っている。これはこれで俺は好きなんだが、作者は誰なんだろう。


 多数の応募作品の中から厳正な審査を乗り越えて本戦に残ったということもあり、他の凄い作品を見たムギは段々と自信を無くしているようだった。さっきまでムギを励ましていた乙女ですらちょっと不安そうである。


 そして、これまで何度もループを繰り返してきた世界でも見ることの出来なかった幻の作品が、俺の目に映った。



 色鮮やかな無数の星に彩られる夜空に架かる天の川。そんな星空の下に広がる静かな海と、砂浜──そこに佇む、頭に黄色いリボンをつけた長く青い髪の少女。白いワンピース姿の少女は、短冊を片手にしながらこっちを向いてはにかんでいた。

 短冊は裏側を向いているため、向こう側に何が書いてるのかわからないが……こちらにはにかむ少女の表情を見ると、何か願いが叶ったのだろうかと想像させられる。


 ……。

 ……いや、待て。

 俺が知ってる絵じゃない。

 トゥルーエンドの世界線でムギが描くのは、天の川を渡る織姫の彦星の姿だったはずだ。

 でもこれ、ムギが描いたの……初代ネブスペのメインヒロイン、カグヤさんじゃん!?


 「この絵を見ていると、何だか心がキュッとなる……なんでだろ?」

 「美空。それがエモいって感情だよ。私もムーちゃんの絵が完成した時に感じたから」

 「これがエモさ……!?」

 「テキトーなこと言ってんじゃねぇよ」

 「でも美空の感覚、オレもわかるぜ。オレもこういう経験してみたいなぁって思うことあるもん」


 よく泣きゲーに分類されるエロゲのパッケージを見ているだけでジーンと来る感覚はわかる。ヒマワリ畑で女の子がヒマワリを持って笑っているだけで色々想像できるもん。

 そう思うとムギの絵は、エロゲのパッケージにできそうだな……これ褒め言葉か? 褒める時に使って良い言葉ではないな。


 「にしても、私達の知り合いにこんな子いたっけ?」

 「元々乙女をモデルにしようとしてたんだけど、猛反対されちゃって……そんな時に、夢に凄く可愛い子が出てきたんだ。だからそのまま描いた」

 「乙女より可愛いね」

 「おい朧、ツラを貸しなさい」


 俺は乙女から頭にチョップを食らわされた。いや、乙女もこの絵と似たような構図で同じようなポーズをとったらかなり絵になるとは思うけど。


 ていうかカグヤさんって夢に出てくることあるんだ。それがシナリオの進行に影響を与えるとは思わなかったが、まぁ良い方向に進むのなら良いだろう。いや、もしもこの絵が落選してしまったらどうしよう?

 俺が若干の不安を感じていると、俺達の側に近づいてくる三人の美女達が。



 「まさか、こんなところで懐かしい顔を見ることになるとは思わなかったわね」


 茶髪のショートヘアで黒い眼鏡をかけた背の高い女性は、葉室総合病院に勤める医師であり初代ネブスペのヒロインでもあるアクアたそことアクア・パイエオン。


 「いやー、やっぱいつ見ても憎たらしいぐらい美少女だよねー」


 黒髪に青いメッシュを入れ、魔女のような黒いローブを羽織った女性は、魔女ではなく霊能力者であり、こちらも初代ネブスペのヒロインであるミールさんことミネルヴァ・ローウェル。


 「な、何だか悪寒を感じるのは気のせいでしょうか……」

 

 探偵っぽいコートと帽子を身に着けた金髪の女性は、探偵であり初代ネブスペのヒロインであるジュリさんことジュリエット・アレクサンダー。

 ……この三人で練り歩くことあるんだって組み合わせだ。だって医者と霊能力者と探偵が一緒に歩いているの、意味わからんだろ。


 「あ、どうも久しぶりです」

 「これ君の仕業なのん?」

 「いえ、描いたのは僕の友人のムギちゃんです」

 「へぇ、凄いじゃない。レギナよりもセンスあるわよ」


 アクアさんはそう褒めながらムギの頭を撫でていた。突然美女に頭を撫でられたムギはキョドりながらも照れくさそうにしていた。


 「レギナって、あの芸術家の?」

 「ウチ達の同級生なんだ~今日のコンクールの審査委員もしてるはずだよ」

 「もし最優秀賞をとったら、レギナさんにサインしてもらえば?」

 「じゃあおでこにしてもらお」

 「それ肉って書かれるだけなんじゃ?」


 そうか、この世界だとまだレギナさんとムギは直接会ったことがないのか。まぁ今日中に出会うことになるだろうけど、レギナさんがまたムギに惚れ込んで自分の旅に連行しようとしないかちょっと不安だ。


 「私も一人のファンとしてレギナさんの作品をたくさん目にしてきましたが、この絵は探偵である私の視点でも素晴らしいですよ!」

 「いや探偵が芸術の何を保証するの?」

 「霊能力的に見ても、この絵はめっちゃエモいと思うよ」

 「霊能力でも保証出来ないでしょうに」


 何か具体的な感想はもらえなかったが、アクアたそ達もこの絵を見て感動してくれているようで何よりだ。モデルがカグヤさんだからというのもあるかもしれないが……まんま泣きゲーのイベントCGみたいな絵なんだよなぁ。



 俺達は投票を終えると会場を後にして、まだお腹を空かせている美空は大星を連れて再び屋台の練り歩きへと向かってしまい、残された俺達はアクアたそ達と話していた。


 「あの青い髪の子ね、私達の古い友人に似てるの。八年前に死んでしまったけれど、何だかまだ生きているように感じたわ」

 

 アクアたそは青春時代を懐かしむように語る。まぁ当のカグヤさん本人は今も幽霊として生き生きと暮らしてるけどね。


 「まぁ、カグヤっちは今も天国から私達を見守ってるかもね。あ、もしかしたら地獄からかもしれないけど」


 と、カグヤさんに関する事情を色々知っているはずのミールさんはニヤニヤしながらそう言った。


 「……うーん。私は最近カグヤさんと再会した気がするのですが、思い出そうとすると寒気が……」


 ジュリさんも慰霊塔の前で、首から頭を外したカグヤさんの姿を目にしているはずだが、その場で気絶しちゃったから記憶があやふやなようだ。


 「でも、どうしてそんな方がムギの夢に出てきたのでしょう?」

 「そういえば最近、月研に幽霊が出るっていう話を聞いたんだが、まさかソイツなんじゃ……」


 どうやらレギー先輩は月研に出る首なし幽霊の話を知っていたようだ、おそらくオカルト好きなクロエ先輩から聞いたのだろう。

 ただでさえ幽霊とか怖いものが苦手なレギー先輩は途端にブルブルと震え始めてしまったが、そんなレギー先輩を見てニヤニヤと悪い顔で笑いながらミールさんが言う。

 

 「まぁその幽霊かはわからないけど、もしかしたらムギっちの才能に惚れ込んだのかもしれないね。モデルとしてはピカイチっしょ?」

 「不思議と描きやすかった。お墓にお供えした方が良い?」

 「まー、学校とかに飾っとけば良いんじゃないかな~」


 カグヤさんがこれを見たらどう思うんだろう。そういえばカグヤさんはミールさんのおかげで晴れて自由の身となったが、今日の七夕祭には来ていないのだろうか。いやまた頭を外して悪ふざけされたら困るけど。


 「そういえばレギーちゃんってコガネっちの愛人なんでしょ?」

 「愛人!?」

 「大星さんという方がいながら、レギー先輩がまさかそんなただれた関係を築いていただなんて……」

 「いや誤解だ誤解!」

 「コガネって、あのモデルの……?」

 「そうよ、あのわんぱく娘も私達の同級生なの」

 「先輩方の同級生、面子が濃すぎない?」


 女優とか歌手とか探偵とか霊能力者がいるせいで、ロケットの技術者という中々凄い職業に就いているはずの太陽さん達が若干普通に思えてしまうからな。アクアたそも凄いはずなのに。


 「この前のレギーさんの舞台、見させてもらいましたけどとても良かったですよ! 私、三日三晩泣きましたもん!」

 「いやもっと情緒安定してもろて」

 「そういえばコガネ達も来ているはずなんだけど、見かけてない?」

 「いえ、僕達は見てないですね」

 「もしいたならびっくりしちゃうけどね」


 やはり今日は初代ネブスペの面々もこの七夕祭に集結しているのだろう。出会えるなら出会っておきたいが……ネブスペ2と初代ネブスペのキャラ達が勢揃いすることで、どんな化学反応が起きるのだろう?

 レギー先輩や乙女のように初代ネブスペのキャラと意外な繋がりを持っていることもあるし、それを通じて彼女達のトークの掛け合いを見るのが楽しみではあるが、何か起きるのではと若干胸騒ぎを覚えながら、俺は夜闇に包まれ始めた曇り空を眺めていた。

 

 

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