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お祝いと不安



 「まさか朽野先生のお宅の隣に引っ越せるとは思いませんでしたよ〜」


 朽野家の隣に引っ越してきた、初代ネブスペの主人公、天野太陽とメインヒロインであるブルーさんの二人も、何故か穂葉さんの退院記念パーティーに参加していた。

 天野夫婦はただのお隣さんではない。かなり短期間ではあるが、太陽さんとブルーさんが月学に在籍していた時に秀畝さんが教鞭をとっているのだ。


 「まさか奥様の退院の期日と被るとは思いませんでした。私達も混じって良かったんですか?」

 「良いのよ、こういうお祝い事は人数が多い方が盛り上がるから! 

  それに主人の教え子が立派になって帰ってきてくれて、私も嬉しいわ〜」


 今回、天野夫婦が月ノ宮へ戻ってきたのは、トニーさんの代わりに月ノ宮宇宙研究所の副所長としてブルーさんが、そして月ノ宮学園に新設される宇宙飛行士、ロケット技術者育成コースの講師として太陽さんが赴任することになったからだ。

 まさかその役職に二人が就任するとは思わなかったが、なんとなくローラ会長が裏で糸を引いているんじゃないかと考えてしまう。


 だが、初代ネブスペのキャラ達を集めるための丁度いい口実ではあったのかもしれない。元教え子である天野夫婦と乾杯を交わした秀畝さんは感慨深そうな表情で口を開く。


 「天野君が講師として招かれることは聞いていたんだけどね。まさかマーブルさんが月研に来るとは思わなかったよ。しかもお隣さんだとはね」

 「今は私も天野ですよ、朽野先生」

 「それは失礼」

 「僕も月学では講師という立場ですけど、月学の研究員と今度葉室に出来るロケット開発の研究所にも携わる予定なんです」

 「それは大忙しねぇ」


 すげぇな太陽さん。ロケット開発の技術者を夢見ているアルタと是非会わせてみたい。


 「僕も月学に通ってるんですよ」

 「私もです」

 「乙女ちゃんは昔、僕達と会った記憶ない?」

 「……変な人だったなぁとしか」


 マジか、乙女って太陽さん達と面識があるのかよ。今でこそちゃんとした大人になったみたいだが、八年前の太陽さんはエロゲ主人公極めてたからなぁ……。

 すると太陽さんは俺と乙女に対して言う。


 「ちなみに君達はロケットに興味はないかい? ロケットじゃなくても良い、宇宙船とか作ってみたいと思わないかい?」

 「私はそういう難しそうなのはちょっと……」

 「僕の将来の夢は愛の伝道師ですので」

 「あら、この子まるで昔の太陽みたいね」

 「少年。そんなことを言ってられるのは今の内だぞ。モテる時代なんて一瞬なんだ」


 と、ハーレム系主人公だった太陽さんが申しております。まぁ今の太陽さんが落ち着いた大人になったのは、パートナーであるブルーさんの尽力もあってのことだろう。


 「朧君は月学でもかなり優秀な生徒だから、本人がその気になれば技術者の道もあるだろうけどね」

 「いえ、僕は愛の伝道師を目指しているので」

 「そんなに拘りがあるの!?」

 

 ロケットや宇宙船の技術者というのも面白そうだが、なんだか恐れ多いという感じだ。烏夜朧ってしれっとそんな職業についてそうだけど。


 「この子、月研の所長さんの甥っ子なのよ〜。だから将来は天文学者ね!」

 「え、そうなの? まだ所長さんとは直接の会ったことはないんだけど、どんな人?」

 「ズボラでサボり魔でコスプレが趣味の人です」

 「ブルー。頑張りな」

 「前途多難そう……」


 今、望さんは副所長のトニーさんがいなくなったことで多忙を極めているが、しっかり者のブルーさんが副所長になると望さんにこき使われそうで少し可哀想だ。いや、ブルーさんも真面目そうな顔をしときながら平気でふざける人だから余計カオスなことになるかもしれない。



 穂葉さんの退院を祝ってのパーティーはいつしか太陽さんとブルーさんの月学での思い出を語る会へ変わっていたが、主役の穂葉さんが楽しそうにしているし気にすることじゃないか。太陽さん達の月学での思い出話は面白おかしい話として語られているが、俺と乙女がいるからか大分オブラートに包まれている。俺は前世で初代ネブスペもプレイしたから、太陽さんとブルーさんの思い出話の大体は知っているけども。


 パーティーは和やかな雰囲気のまま終わり、俺は太陽さん達と一緒に朽野邸を後にした。そして朽野邸の前で俺は天野夫婦と別れたのだが、自宅に入っていく天野夫婦の背後から近づく人影が。


 「ぐへへ~」


 フヨフヨと宙を浮いて移動するカグヤさんが邪悪な笑みを浮かべながら天野宅に入っていったような気がするが、大丈夫だろうか。絶対悪霊だろあれ。

 まぁ、人の家だし知らないや。俺は関わるのを諦めて、一人で帰路についた。もうそろそろ梅雨明けしそうだったが帰り道は小雨が振っていたため、俺は傘を歩いて月ノ宮駅方面へと歩いていった。


 まさか乙女の家の隣に太陽さん達が引っ越してくるとは、これは驚きだ。きっとローラ会長が裏で手を引いているような気がしてならないが、秀畝さんは学生時代の太陽さん達を知っているし、良いお隣さんになりそうだ。


 だが、この流れは少々出来すぎているような気がした。



 朽野一家が月ノ宮に残り、穂葉さんの病も完治して退院する。これはネブスペ2のトゥルーエンドのシナリオの流れと一緒だ。とはいえ朽野一家は月ノ宮を去る寸前だったから無理矢理引き留めただけだ。

 おそらく、俺やローラ会長の干渉が無ければ、この世界は今までのループと変わらなかったはずだ。


 だが俺やローラ会長がイベントに干渉することによって、この世界はネブスペ2のトゥルーエンドとは違う、真エンディングへと向かっているはずだ。初代ネブスペのキャラ達が月ノ宮に集まりつつあるのも、その兆しなのだろう。


 だが、これは一体何の布石なのだろう?

 俺とローラ会長がネブスペ2の真エンドを目指している理由は、年明けにこの世界が滅亡してしまうからだ。それを回避する方法が真エンドへの到達であると仮定して、俺は挫けそうになりながらも何度もループを繰り返して各ヒロイン達のエンディングを回収し、ローラ会長も裏で色々手を引いて舞台を整えつつある。


 しかし、真エンドを迎えられたからといってこの世界の滅亡を回避できるとは限らない。これはあくまで俺とローラ会長が立てた仮説というだけで、未完成状態であるネブスペ2の世界を完成させる、という目標も曖昧ではある。その未完成という状態も、原作者であるローラ会長視点での話でしかない。


 真エンドがどこに行き着くのかはわからないが、そのピースは集まりつつある。初代ネブスペとネブスペ2のキャラ達が本格的に共演するなんて、原作ファンからすれば中々感慨深いことではあるが、やはりこのままハッピーエンドへ向かうとは思えなかった。


 

 「あら、奇遇ね」


 月ノ宮駅前のロータリーを歩いていると、偶然傘を差したローラ会長と出くわした。いつものクラシックロリィタという格好だ。

 

 「よう。俺は乙女の家でパーティーしてたけど?」

 「出会い頭でマウント取ってくるのはやめなさい。そういえば、彼女の母親が退院するんだったわね。私も行けばよかったわ」

 「後、乙女の家の隣に太陽さん達が引っ越してきたんだけど、それお前の仕業か?」

 「家が隣になったのは偶然よ、私は何も干渉してないわ」


 マジか。月ノ宮町や葉室市の不動産関係って全部シャルロワ財閥が握ってるって噂もあるから、誰をどこに居住させるか思い通りだと思っていたんだが。


 「もしも本当に偶然の産物なら、この世界が望んだのかもしれないわね」

 「どうした? 急に厨二っぽくなって」

 「私達が過剰に干渉しなくとも、この世界が真エンドに向かいつつあるということよ」


 朽野宅の隣に太陽さん達が引っ越してきたことが、そんな重要なことだろうか? 太陽さん達が何かしらの形で月ノ宮へ戻ってくることは重要な分岐点かもしれないが、住む場所はそんな関係なさそうだけども。


 「ちなみに私は今日、ネレイド・アレクシスからコスプレを教授されたわ」

 「何だそのイベント」

 「ほら、八月頃に葉室に遊園地とショッピングモールが出来るでしょう? そこにネレイドが勤めるアパレルショップが出店することになって、彼女がオープニングの店長として来ることになったの」

 「……それもお前が仕組んだことか?」

 「さぁ、どうかしらね」


 初代ネブスペの主人公であり現在はロケット技術者である太陽さんは月学の講師として、初代ネブスペのメインヒロインであるブルーさんは月研の副所長として、同じくヒロインでありコスプレが趣味のレイさんは隣町に出来るアパレルショップの店長として、世界的な芸術家のレギナさんは今度の七夕祭のコンクールの審査員として、探偵業をやっているジュリさんはシャルロワ家から依頼を受けた探偵として、霊能力者のミールさんはカグヤさんの見張りとして、刑事であるマルスさんはビッグバン事件の後処理で、それぞれ月ノ宮に滞在している。医師として葉室総合病院に勤めるアクアたそは近場に住んでいるだろうし、幽霊のカグヤさんは月ノ宮をブラブラしているし、ナーリアさんも七夕祭にしれっとサプライズで登場しそうだし、コガネさんは暇があれば可愛がっているレギー先輩の舞台を見るために月ノ宮へ戻って来るはずだ。

 

 ……それぞれ理由は様々だが、最初の大きな節目である七夕の日、おそらく全員が月ノ宮神社に集結することになり、大きなイベントが起きるはずだ。

 じゃあ、そこで起きるイベントは何だろうか?


 「なぁ、月ノ宮に全キャラを集めるのは良いんだが、それからどうする気だ?」

 「何か大きな化学反応が起きるのを待ちましょ」

 「……それが怖いんだが」


 何だろう、この胸騒ぎは。

 やはりハッピーエンドまで、そう一筋縄ではいかない気がする……。



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