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絶対に成仏したくない



 カグヤさんが封じられたドローンにはGPSがついているそうで、ミールさんの先導に俺達は足元に気をつけながら、雨の中の月見山の獣道を進む。泥まみれになるのは嫌だと言っていたローラ会長も合羽姿でなんだかんだ楽しそうについてきている。クロエ先輩もスコップを片手に目を輝かせながらついてきているし、とてもシャルロワ家のお嬢様とは思えない。


 「全然ドローンが見当たらない……」

 「結構遠くに行ったみたいね」

 「どこかの木に引っかかってたりするんですかね」

 「流石に八年も立ってるから地面に落ちてると思うよ。むしろ埋まってるかも」


 雨のせいで視界が暗いというのもあるが、カグヤさんが封印されて飛んでいったドローンは見当たらない。

 そもそもビッグバン事件が起きたのは今から八年前。当時のカグヤさんが頭につけていたリボンが爆発に耐えていたとしても原型をとどめているとは思えないし、八年も経てば劣化もしているはず。土に埋まっているのなら尚更だ。

 すると先頭を歩いていたミールさんが何かに気づいて足を止めた。


 「あ、皆気をつけて。そこにネブラヤマイモが生えてるよ」

 「ネブラヤマイモ? 食べられるんですか?」

 「一応食べられるけど、地球のヤマイモとは少し生態が違うのよ。ネブラヤマイモは爬虫類に近いから」

 「植物じゃなくて生物なんですか!?」


 俺そんなのネブスペ2原作で見たことないんだけど。

 ミールさんが指をさして示した方向には、確かにヤマイモなのか知らないがそれっぽい植物が地面から生えているが……一見すると特に危険なようには思えない。何か毒でも持っているのだろうか。

 

 「これって何が危ないんです?」

 「何かの拍子で根っこの部分を刺激すると汁を飛ばしてくるんだよ。毒とかはないけど急に飛んでくるから」

 「何それ、面白そう。えいっ」


 と、興味津々な様子のクロエ先輩が根本の地面を強く踏んで刺激を与えた。するとクロエ先輩が踏んだ地面が突然盛り上がり、立派なヤマイモが地面を突き抜けて顔を出すと、突然白濁色の液体を噴出し──クロエ先輩の隣に立っていたローラ会長の顔にビシャッと飛び散った。


 「ブフッ」


 ローラ会長の顔にはドロドロといやな粘り気のある白濁色の液体がかかり、その光景を見たクロエ先輩は思わず噴き出していた。

 なんか……何とは言わないが、あまりよろしくない絵に見える。ローラ会長自身も今の自分がどう見えているのか理解して諦めているのか、冷静に顔についた白濁色の液体を指で少しだけ拭ってそれを舐めた。


 「とろろの味ね」


 良かったよとろろで。いや皆が想像した液体がどんな味なのかは知らないけど、多分とろろではないだろう。

 そしてローラ会長は自分のあられもない姿を見て笑いを堪えているクロエ先輩の頬をつねっていたが、ミールさん達も頑張って笑いをこらえているようだった。


 「こう言うのもなんだけど、めっちゃエロい。興奮する」

 「やめなさいミールちゃん。彼女は誇り高きシャルロワ家のお嬢様なのよ。そんな穢れも知らない彼女があんな液体をかけられて……確かに興奮するわね」

 

 ダメだ、ブレーキ役がいねぇ。唯一の大人達がこうだと俺も流石に諦める。


 「屈辱だわ……」

 「ちなみに、ネブラヤマイモが生物ってことは、これって体液なんですか?」

 「そうだよ、人間で言うとう◯ち」

 

 ミールさんが放った衝撃的な一言を聞いて、ローラ会長は慌てて自分の顔をハンカチで拭き始めた。

 成程、これは顔[ピー]ではなくてス[ピーー]でしたか。意外とハードだったなぁ。


 「あ、でもネブラヤマイモのう◯ちにはビタミンEや鉄分、食物繊維が豊富に含まれているのよ」

 「良いんですよそんなサプリメントの効果がなくたって」


 言ってしまえば『とろろの味がするウ◯コ』ってことだ。『カレー味のウ◯コ』か『ウ◯コ味のカレー』のどっちを食べるかという絶対に直面したくない究極の二択問題も存在するが、出来るなら俺はウ◯コ味だとしてもカレーを食べたい。


 

 月見山はかなりの魔境だ。その原因はすぐ側にある月ノ宮宇宙研究所にある。

 月研は天文台など宇宙の観測施設が設置されているが、ネブラ人達が連れてきたアイオーン星系に生息する宇宙生物も飼育されている。その管理が杜撰過ぎるため宇宙生物は月ノ宮中に出没し、特に月見山には多くの宇宙生物が生息している。


 宇宙生物は奇跡的に地球の環境にも適応し、そして美少女達を一応傷つけることこそないもののじゃれつく習性を持っており、ネブスペ2のヒロイン達のムフフなシーンを作るための舞台装置的な存在である。しかも核爆発をも耐え抜く最強の防御力を持っているというご都合設定で、ヒロインを襲う宇宙生物を撃退しようにもそう簡単には倒せないというご都合設定。まぁ、その最強の防御力のおかげで助かった命もあるのだが。


 そのため、カグヤさんの遺品を探している途中でそんなイベントが起きるのではないかと俺は危惧していたのだが、まぁ想像通りだったというわけだ。

 ちょっとしたハプニングもあったが、まぁ良いものを見れたと思おう。写真を撮れなかったのが残念だったが、あのローラ会長の中に前世の自分の幼馴染が入っていると思うと流石に気が引けた。まぁ本物のローラ会長が相手でも俺は恐れ多くて無理だけど。


 「あ、ドローンが落ちてる」


 どこからか宇宙生物が現れないか警戒しながら雨の中の山道を進んでいると、湿った地面の上にドローンが落ちていた。

 俺達が側に近づくとドローンのプロペラが回りだし、宙に浮き上がった。


 「いや~まさかドローンに封印されるとは思わなかったねー」


 ……ど、ドローンが喋ってる。

 どうやらドローンに封印されたカグヤさんがそのまま喋っているようだ。何だこのシュールな光景。


 「んで、リボンはどこ? この下の地面?」

 「いや、そこの木がつけてるよ」

 「え? 木が?」


 ブーンッとドローンが飛んだ方向を見ると……なんとそこには、人の形をした木が生えていた。しかもただの人型ではなく、妙にリアルで艶めかしい少女の裸像のような造形なのだ。彩りこそないものの、腰まで伸びた長い髪と、頭につけたリボン、そしてその姿はどこか見覚えがあるような──。


 「えっ、カグヤっちじゃん」


 そう、その場所に生えていた木はカグヤさんの姿をしているのだ。頭につけている黄色いリボンはビッグバン事件から八年経ったとは思えないほど綺麗で、色褪せているわけでもなく当時のままだ。


 「凄いわね。これも霊的な現象の一種なのかしら」


 興味深そうにそう言いながらテミスさんはカグヤさんの木の胸の部分をモミモミと揉もうとしたが、流石に感触は普通の木のようだ。

 確かにいわくつきの土地で岩や木に人の顔のような模様が出るという奇怪な現象もなくはないが……全員で木を囲んで観察していると、ハッとした様子でクロエ先輩が口を開いた。


 「あ、もしかしてこれ、ゴーストツリーかも」

 「ゴーストツリー?」

 「アイオーン星系原産の、ネブラ人の亡骸から生えるという人型の木よ。普通なら人面が出てくるぐらいなのだけれど、こんな完璧に人の形をしているのは珍しいわね」


 何それ、アイオーン星系の植生やばくね? なんだかド◯クエとかに人面の木のモンスターはいたような気がするが、こんなの半ばモンスターだろ。


 「あとゴーストツリーが成長すると、死者が蘇るという葉っぱが生えるらしいわね。占いに使えそうなんだけど、中々出回ってないのよね」

 

 いやそれもうド◯クエのせ◯いじゅのはだろ。


 「あとその葉っぱでお茶をつくると、パーティーの味方全員のHPが回復するんだよ」


 それは完全にド◯クエだろうが。あとせ◯いじゅのしずくはお茶じゃないって絶対。



 「へ~これどこかに飾っておきたいな~」


 今もなおドローンに封印されたままのカグヤさんが自分の裸像の周囲を飛びながら言う。いや知り合いの裸像とかちょっと直視出来ないんだけど。


 「ゴーストツリーって地球で言うと冬虫夏草みたいなものだから、これってカグヤっちの亡骸から生えてるんじゃないかな」

 「私寄生されてるの!?」

 「じゃあ掘ってみよう」

 「やめなさいクロエ、頭蓋骨なんて見たくないわ。後で業者を呼んで回収させましょ」


 いやローラ会長、この裸像をどこかに飾る気まんまんだろ。一応珍しい木みたいだしちゃんと育てるだろうが、何も事情を知らなかったら普通に怖い。

 

 「んで、これがカグヤっちのお気にのリボンだね。あ、やっぱ霊的な力で劣化しないようになってるっぽい。んじゃあはい、カグヤっち。これあげるよ」


 ミールさんは裸像から黄色いリボンをむしり取ると、それをカグヤさん……が封印されているドローンにあげた。そろそろドローンから解放してあげてもいいんじゃないかな。

 ドローンの姿のまま思い出のリボンをミールさんから受け取ったカグヤさんは、ドローンの姿のままなのでよくわからないが何だかギュッと抱きしめているように見える。


 「これ、子どもの時に太陽が誕生日プレゼントにくれたんだ……」


 ごめん、ドローンの姿のままで言われても情緒もクソもないんだが。

 俺は半ば呆れてもいたが、するとどこからか突然光が差し込んだ。見上げると、雨空の隙間から光が差し込んできて、それがちょうどカグヤさん──が封印されているドローンを照らしていた。まるで天使が迎えに来たかのようだ。

 え? 成仏するのこれ? ドローンの姿のまま?


 「さよならカグヤっち……ウチ達のこと、ずっと見守っててね……」

 「短い間だったけれど、貴方と会えて良かったわ。何かあったらこっくりさんとして呼ぶかもしれないけど、その時はよろしくね」

 「お墓にはネブラヤマイモを供えておくわ」

 「墓石にかけておこう」


 あ、なんかドローンがどんどん上空へ上がっていく。まるで天使に連れて行かれているみたいだ。

 こんなシュールな天の召され方ある?


 「さようなら、皆……私、楽しかったよ──」


 そしてそのままドローンは目で捉えられなく成程天高く上がっていき、雲の隙間へ消えていった──はずだったのだが、雲の隙間が塞がれて再び雨脚が強まると、ブーンッとドローンが俺達の元へ戻ってきた。


 「いやっ、どうして良い感じに成仏させようとしてるの!? 私まだ成仏したくないんだけど!?」


 俺達の周囲をブンブンと飛びながら、ドローン姿のカグヤさんが言う。


 「いや、ウチとしては成仏してもらった方が良いんだけど」

 「私はもっと太陽とかブルー達を側で見守っていたいの!」

 「じゃあ空から見守ってればいいじゃん」

 「そ・ば・で! 見てたいの! だから私は自由になりたかったの!」

 「まーリボンも見つかったし、カグヤっちの縛りもなくなったんじゃないかな。何か体軽くなったっしょ?」

 「あ、確かに軽いかも……」


 幽霊に体が軽くなったとか重くなったっていう感覚あるの?


 「リボンは後でお墓にお供えしておくから、カグーちゃんは幽霊ライフを満喫すると良いわ」

 「幽霊ライフって満喫するものなんですか?」

 「カグヤさん。月学にはオカルト研究部があるんですけど、興味ありませんか?」

 「カグヤっち。ウチ、守護霊を募集してるんだけどどう?」

 「え、もしかして私、意外と引く手あまた? まぁ考えとくよ! とにかく私は幽霊ライフを満喫するんだああああああああああっ!」


 と、カグヤさんは叫びながら飛んでいってしまった。

 ……ドローンの姿のまま。


 

 

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