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呪具(ドローン)



 まず幽霊が本当に存在するのかどうかはおいといて(俺は今、現実としてそんな非科学的存在を目にしているわけだが)、幽霊にも色々種類がある。土地や場所に縛られた地縛霊、逆に自由に徘徊する浮遊霊、誰かに取り憑く背後霊や守護霊、他にも生きた人間の魂が霊となる生霊などなど。

 

 エロゲには幽霊のヒロインがいることもあるが、主人公が幽霊というパターンもある。幽霊という立場を利用して可愛い女の子の寝込みを襲ったり幽霊としての力を駆使してあんなことやこんなことなど淫らな行為を繰り返す不届き者である。


 だから幽霊って結構自由なイメージもあったが、カグヤさんは地縛霊や背後霊として特定の場所や人物を軸として一定の範囲内しか移動することが出来ず、自分の思い通りに徘徊することが出来ないらしい。

 俺は、そんなカグヤさんを解放してあげたいのだ。


 「悪霊を追い払ったり成仏させろって依頼は受けたことあるけど、自由の身にさせろって依頼は初めてだね~」


 カグヤさんは月研という土地に未練があるわけではなくビッグバン事件で亡くなったというだけで、太陽さんとブルーさんを側で見守っていたいだけだ。本当は天国で見守ってもらいたいものだが。

 そんな本物の幽霊を目の前にしてミールさんやテミスさんは平気そうにしているが、オカルト好きなクロエ先輩は感動した様子で目を輝かせていた。


 「ほ、本物だったんだ……夢かと思っていた」

 「はーい本物ですっ。ほら、体もすり抜けちゃうよ!」

 「ひゃっ、ちょっと冷たい」

 

 いつもはクールなクロエ先輩は心を踊らせていて、大人びた姿と比べるとギャップがある。


 「成仏したいという気持ちはないの? 天国の方がよっぽどいい暮らし出来そうだけど」

 「天国がちょっと定員オーバーしてて地獄しか案内されないんですよねー」

 「定員オーバーとかあるんですね」

 

 俺としてはカグヤさんが自分の背後霊なり守護霊なり、こんな可愛い幽霊が側にいてくれるなら大歓迎である。でもそうはいかない理由が……俺の前世にある。

 俺は烏夜朧ではなく、前世の人格月野入夏としてこの世界を生きている。原作とは違う真エンディングを目指すために俺の前世の幼馴染である月見里乙女が転生したローラ会長と共に日々頑張っているわけだが、やはり表で出来ない会話もある。


 「地獄に案内されるのはカグヤっちの前世の行いが原因じゃなくて?」

 「そんなこと言うとミールちゃんを呪い殺すよ?」

 「かかってこいや」

 「ちょっとケンカは止めましょうよ」

 「盛り上がってきたわね」

 「テミスさんも笑ってないで止めてください」


 実際にカグヤさんが誰かを呪い殺せるほどの力があるのかはわからないが、なんだかミールさんに負ける姿が容易に想像できる。流石に二人も本気でケンカしようとしているわけではなくて、共通の友人を持つ同級生のよしみもあるのだろう。

 そんな和やかな光景を眺めながら、俺の意図を察したらしいローラ会長が口を開く。


 「貴方にしては妙案だと思うわ。こんな美少女と一緒にいられるなら喜んで取り憑かれますって言うかと思っていたけれど」

 「一週間ぐらいはそんな生活してましたけどね」

 「色んなことがあったね……一緒にお風呂入ったり、トイレに行ったり、ベッドで寝たり……」

 「前言撤回。最低ね貴方」

 「極悪非道だね」

 「責任をとるべきね」

 「君の穢れを祓った方が良さそうだね」

 「いやこの人が勝手に入ってきただけなんですが!?」


 俺は期末考査期間中をカグヤさんと一緒に過ごしてきたわけだが、俺の入浴中に平気な顔で浴室へ入ってきたり、俺の視界内で際どいポーズをとってきたり、トイレしている時に入ってきたりもする。幽霊が壁をすり抜けられるのって特権過ぎるだろ。

 それにカグヤさんは月学までついてきたが、かつて月学に通っていた彼女を案内している途中で、やはりカグヤさんの存在に気づいて悲鳴をあげる生徒も多かった。期末考査という大事な期間中だったため、学校では他の生徒を驚かせないようにとカグヤさんには釘を差していたのだが、カグヤさんは職員室で先生達をビビらせていた。半ば悪霊だろこの人。


 「でも彼女をここから解放すると言っても、そんなことが出来るのかしら」


 と、落ち着いた様子でローラ会長は言う。さっきはあんなにビビっていたくせに。だが直接話さずとも俺の意図を汲んでくれたのはありがたい。カグヤさんに取り憑かれている時はLIMEやメールさえ危険だったし。

 するとミールさんは持ってきた鞄を地面に置いて、中をゴソゴソと漁りながら言う。


 「まー出来ないことはないよ。カグヤっちをこの土地に縛り付けてる原因さえとっちゃえば晴れて自由の身だね。同時に天に召されちゃうかもだけど」

 「やめてミールちゃん! 私はまだこの世に彷徨ってたいの!」

 「ちなみにカグーちゃんは心当たりあるの? 月研に何か残ってる?」

 「多分私の頭じゃないかなーって思います。爆発のときに何かの破片が飛んできて持ってかれちゃったんです。こんな感じで」

 「外さなくてもいいのよ」


 頭を着脱出来るのって便利だな。いや便利か? カグヤさんの頭は笑顔を浮かべながらフヨフヨと宙を浮いていたが、ミールさんはそんなカグヤさんの頭を眺めながら怪訝そうな表情で言う。


 「いや、多分カグヤっちの頭が原因じゃないと思うよ」

 「へ?」

 「頭とか足とかね、死んだ時に体のどこかが欠損しちゃった場合って、霊体にもそのまま反映されることが多いんだよ。首なしライダーの都市伝説とかが有名だけど、バラバラ殺人事件の被害者の霊が他の自分の四肢を探すために彷徨ってることもあるからね。ウチも何度も見たことあるよ」


 何度も見たことあるんだ、そういうの。

 でも確かに都市伝説や怪談話でも聞いたことがある。頭を失った胴体だけが徘徊しているとか、逆に首だけが浮いているとか。カグヤさんは自分の首がフィギュアのパーツみたいにポロッと取れてしまうが、頭が無いわけではない。


 「カグヤっちの頭ってどこかで見つけたの?」

 「自分が幽霊になったって気づいたときには普通にあったよ?」

 「でもどこにあるかはわからない感じ?」

 「多分この月研のどっかにあると思うけど、もしかしたら爆発の衝撃で粉々になったのかも?」


 むしろカグヤさんは爆心地にかなり近い場所にいたのに胴体が残っていただけでも奇跡的ではある。周囲一帯を壊滅させた爆発力を考えると、最早頭蓋骨すら残っていない可能性も大きい。


 「他に何か心当たりはあるのかしら? 例えば……カグーちゃんがつけてるその可愛らしいリボンとか」

 「あぁ、これは……えっと、ある人からのプレゼントで……」


 カグヤさんが頭につけている大きな黄色いリボンは、言わずもがな太陽さんからのプレゼントだ。初代ネブスペの回想でそんなエピソードがある。


 「じゃあもしかしたら、そのリボンがどこかに落ちてるのかもね。それを探してみよっか」

 「頭蓋骨を探すよりかはマシね」

 「でもどうやって見つけるんです? 月研も結構広いし……」

 「だいじょーぶ、ウチがちょちょいのちょいで見つけるから!」


 自分の鞄をゴソゴソと漁っていたミールさんは、鞄の中からドローンを取り出して……え、ドローン?

 とても霊能力者が使う呪具とは思えないハイテクな機器が出てきたんですが?


 「ミールちゃん、ドローン使えるの?」

 「一応免許は取ったよ。じゃあカグヤっち、この中に入って」

 「え? どうやって入れと?」

 「破ああああああああああっ!」

 「いやああああああああああっ!?」


 ミールさんが呪文を唱えると(ただ叫んだだけだが)、カグヤさんはドローンの中に吸収されてしまった。そんな御札みたいな作用あるんだ、ドローンって。

 

 「よしっ、じゃあこのドローンに探してきてもらうよ! ほら、カグヤっちのリボンを探してこーい!」


 そう言ってミールさんがドローンを宙にぶん投げると、リモコンで操作しているわけでもないのにドローンのプロペラが回りだして月見山の方へ飛んでいってしまった。


 「月見山の方へ飛んでいったわね」

 「よしっ、じゃあスコップを持ってレッツラゴー!」

 「望さんから借りてきますね」

 「こんな雨の中で大丈夫かしら。泥まみれになりそうで嫌なんだけど」

 「そんなお嬢様ぶらなくていいんだよ、ローラ。どろんこになるのも楽しいよ」


 俺達は月研でスコップや合羽を借りて、ドローンが飛んでいった月研へ探検に向かった。



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