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生首を見たら驚くのが普通



 期末考査明けの六月二十七日、土曜日。

 俺が収集した情報によると、ムギと乙女が共同で製作していた七月七日に月ノ宮神社で開催される七夕祭の絵画コンクールに出展する絵が今日で仕上がるらしい。あとスピカが丹精込めて育てたローズダイヤモンドの花が咲いたため俺も見せてもらった。まぁこれまでのループで何度も見てきたが、何度見ても綺麗、というかこの世のものとは思えない美しさの花ではあった。とんでもないウイルスを持ってるけど。


 さて長かった期末考査も終わり、鬱憤を晴らすために遊びたい気分ではあるのだが……今日は大事な用事があるのだ。俺は動きやすいように月学の体操服に着替えて月研へと向かった。月研にはプラネタリウムや博物館も併設されているため休日はそれなりにお客さんもいる中、屋内のカフェスペースで優雅にお茶をいただいているお嬢様方の姿が。


 「どうもローラ会長、クロエ先輩。お待たせしました」

 「遅かったわね。ろくろ首みたいになってしまいそうだったわ」

 「いや首を長くして待つってそういう意味じゃないんですよ」


 俺より先に待ち合わせ場所に来ていたローラ会長とクロエ先輩は月学のジャージを着ていたが、中々珍しい姿ではある。ただの紺色の地味なジャージのはずなのに、どうしてこの二人はそれを華やかに着こなせるのだろう。


 「何か楽しげでしたけど、何のお話をされていたんですか?」

 「ローラといつかイギリスへ行ってネス湖のネッシーを探しに行く計画を立てていたの」

 「シャルロワグループの財力を持ってすれば、ネス湖の水を全部抜くことだって難しくないわ」


 いや最大水深二百三十メートルもある湖の水を全部抜くのはヤバいだろ。

 きっとネブスペ2原作のローラ会長はクロエ先輩とこんなUMAの話なんてしなかっただろうが、俺の前世の幼馴染でありネブスペ2のシナリオライターでもある月見里乙女が中に入っているというのもあって、今は良好な関係を築けているようだ。


 「あと月ノ宮にも出るらしいんだよ、UMA」

 「へ? そんな噂ありましたっけ?」

 「月ノ宮の魔女のことね」


 確かにあの人は人間とは思えない能力を持ってるから人外説もあるけれど。


 「月ノ宮の魔女は月ノ宮駅前によく出没して、謎の金髪の女が切り盛りしているケーキ屋でよくお菓子を買っていくらしいんだ」

 「その謎の金髪の女って先輩方のお知り合いですよね?」

 「謎の金髪の女は来店した知り合いによく試作メニューを食べさせてくることで有名ね」

 「別にUMAにするほどの事象でもないでしょうそれは」


 本当はもっと人を呼びたかったが、色々予定が立て込んでいたらしくあまり集めることが出来なかった。シャルロワグループの会長となったローラ会長が一番忙しいはずなんだがな。

 そして、俺がさらに呼び出していた二人もカフェスペースへとやって来た。彼女達がやって来ると周囲にいたお客さん達が一瞬ざわめき、あぁまたいつものやつかと視線を戻して、違和感に気づいてもう一度彼女達を見る。


 「久しぶりね、ボロー君」

 「どうも、今日はわざわざありがとうございます、テミスさん」


 月ノ宮の魔女ことテミスさんは、いかにも魔女っぽい黒いローブを羽織ってフードなんて被っているから怪しい雰囲気をプンプン醸しているが、彼女の隣にいるのは……黒いローブを羽織って、さらにとんがり帽子なんてものを被った、黒髪に青いメッシュを入れた女性だ。

 なんと魔女はもう一人いたのだ!


 「紹介するわ。この子は私の仕事仲間のミールちゃんよ」

 「どもども~ミネルヴァ・ローウェルです~ミールって呼んでいいよ~」


 と、その風貌からは予想できない軽い口調で話すのはミールさん。初代ネブスペのヒロインの一人で、彼女と会うのは一周目のループ以来で、かなり久々だ。

 テミスさんとミールさんという二人の魔女が真っ昼間からいきなり現れたら周囲の人々がざわつくのも無理もない。夜に出会ってしまったらきっと悲鳴を上げてしまうだろう。


 「んでんで、今日は一体どんな依頼なのん?」

 「皆さんを探検へ連れていきたい場所があるんです。ほら、今日は素晴らしい探検日和ですし!」

 「外は大雨だけど」

 「目が節穴なのかな」


 まさかの今日は大雨。しかしこの面子が揃うことなんてそうそう無いため、雨天決行するしかなかったのだ。今日は顔合わせだけでも良いのだし。


 俺はローラ会長達を引き連れて外へ出て、月研の敷地内にある慰霊塔へと向かった。昼間だとそんなに怖くない場所のはずなのだが、大雨により空が暗い雲に覆われてしまったことでお化けが出そうなほど不気味な雰囲気を醸し出している。

 そう、お化けが出そうなほど。


 「おぉ~何かそれっぽい場所だね。何気に初めて来たかも、ここ」

 「デートスポットとしては最悪ね」

 「不謹慎すぎません?」

 「さて、ボロー君はどうして私達をここへ連れてきたのかしら? まさか……人気がないことを良いことに……」

 「いや待ってくださいテミスさん。これにはちゃんとした理由があって──」


 テミスさんが俺に対してあらぬ疑いをかけそうになる中、慰霊塔の前に立つ俺達へ近づく気配。それに気づいたのは俺だけではないようで、そういう気配に敏感そうなテミスさんとミールさんがいち早く気づき、それにつられてローラ会長とクロエ先輩も、『彼女』が佇む方を向いた。


 「ドーモ、コンニチワ」


 月ノ宮学園の夏服を着た少女が、俺達の背後に佇んでいた。

 少女の首から上、頭部はなくなっていて、彼女は首から取れてしまった自分の頭部を両手で抱えていた。そんな少女の頭は舌をペロッと出して茶目っ気溢れる笑顔を俺達に向けていた。


 「ひぃっ!?」


 と、悲鳴をあげたのはクロエ先輩。しかし先日頭部のない少女と出会った時に比べれば落ち着くのも早く、恐怖というよりはただ驚きの方が勝っていたようだ。この前は気絶していたし。

 二度目とはいえ、こんな幽霊が現れたら普通は驚くだろう。普通は。


 「あら、これは可愛いお客さんね」

 「首なしとかウケる~」


 と、幽霊を前にしても全然驚かないテミスさんとミールさんに俺は言いたい。お前ら化け物だと。ミールさんに至ってはスマホでパシャパシャと写真を撮ってるし。絶対普通じゃないよこの人達。

 そして、テミスさん達と同じく全く動揺する素振りを見せない人物がもう一人。


 「テミスさんやミールさんは仕事柄そういうのに触れる可能性があるからともかく、まさかローラ会長もホラー耐性があるとは思いませんでしたよ、流石です」


 と、俺はわざとらしくおだてていたのだが、首なし幽霊を見ても全く悲鳴をあげなかったローラ会長はうんともすんとも言わない。ただ首なし幽霊の方をジッと見据えて佇んでいるだけだ。

 ミールさんがローラ会長の顔の前で手をブンブンと振ってみるが、やはり反応がない。まさか……。


 「し、死んでる……!?」


 んなアホな。


 「あれ、ローラはこういうの苦手? おーい」

 「……ハッ!?」


 クロエ先輩がローラ会長の肩を掴んで体を揺さぶると、ようやく我に返ったローラ会長は慌てた様子で周囲をキョロキョロと見回していたが、首なし幽霊の方を向いて体をビクッと震わせたかと思いきや、彼女の方から視線を逸らして口を開いた。


 「べべべ別に驚いてなんかないわよ。こんなの新手のマジックに過ぎないわ」


 めっちゃ声震えてるぞお前。

 ローラ会長としてのキャラを守るためか、いやもしかしたら素のローラ会長もこんな反応をするのかもしれないが、必死に動揺を隠そうとする彼女に追い打ちをかけようと、首なし幽霊の頭だけがフヨフヨと宙を浮いてローラ会長へ近づく。


 「これがマジックに見えるかな~?」

 「ひいいいいいいっ!?」

 「良い叫びっぷりだね、ローラ」


 そんなローラ会長を見て笑っているクロエ先輩もちょっと体が震えている。いやこの人達の反応が普通なんだよ。


 

 「というわけで私は紀原カグヤって言います。星も恥じらうお姫様☆」


 自分の頭を首にスポッとはめてカグヤさんはローラ会長達に自己紹介をする。そんなぶりっ子ぶるんじゃない。

 そんなカグヤさんの自己紹介を受けて、ミールさんがただ一人目を見開いて驚いていた。


 「えっ、カグヤってもしかして天ちゃんの幼馴染の?」

 「うん、そうだよ~貴方も彼の友達?」

 「そうそう。カグヤっちの話は天ちゃんからよく聞いてたよ……カグヤっちを降霊術とかでどうにか顕現出来ないか試したけど、まさか幽霊として生で会えるとはね~」


 ミールさんも初代ネブスペのヒロインであるため、主人公である太陽さんの生い立ちをなんとなく知っているはずだ。初代ネブスペの作中では色んな方法を使ってカグヤさんの霊を呼び寄せようとしており、直接会ったことはないはずだが、まさかこんな形で出会うことになるとは。


 「もしかしてボロー君の今日の依頼って、この子に関係すること?」

 「あ、カグヤっちを成仏させれば良いんだね、OK!」

 「私はOKじゃないよ!?」

 「いや違うんですよ二人共」

 

 だが俺の制止も聞かずにミールさんはどこからともなく十字架を取り出してカグヤさんに向けた。


 「喰らえっ、破ああああああああああああっ!」

 「あああああああああっ!? 何だか不思議な力で浄化されそうなんだけどー!?」


 こんなシンプルな十字架で簡単に成仏させられることある?

 と、ミールさんはカグヤさんが浄化されるギリギリのところで思い留まってくれたため、俺は全員に今日集まってもらった目的を説明する。

 俺の目的は、そう……カグヤさんの霊を縛りから解放することだ。



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