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バラの花から生まれたレギー先輩



 『──貴方は、最後まで気づいてくれなかった』


 それは、一体誰からのメッセージだったのだろうか。

 

 『ただ一つ、好きだと言ってくれたら』


 エレオノラ・シャルロワのバッドエンドでのセリフ。それは第一部でレギー先輩が演じる舞台の演目で既に出てくるが、あのセリフがローラ会長モチーフのものと考えると……俺の前世の幼馴染からのメッセージかのように思えた。


 『それが最後の答えだったのに──』


 ……それはもしかしたら、アイツが前世の俺に求めていたものだったのかもしれないと、レギー先輩の舞台を見ながら俺は考えていた。



 ---

 --

 -



 六月十四日、日曜日。今日はネブスペ2第一部で起きるレギー先輩のイベント、彼女が主演を演じる舞台が行われた。

 ただ第一部と違うのは、俺を含めた第一部の主要な登場人物全員が舞台を見に行ったこと、そして舞台上演後の一悶着がなかったという点だ。レギー先輩は八年前のビッグバン事件の際、弟の友人だった少女を見殺しにしたと彼女の母親から因縁を付けられ、レギー先輩ルートでは舞台の途中で突然罵声を浴びせられ、俺のループ一周目でも上演後に楽屋で騒動が起きていた。

 舞台の上演日が原作と同日だっただけに俺は若干ハラハラしていたが、舞台上演後も何事もなく円滑に進み、大星が居候している犬飼家のリビングにて祝賀会が行われようとしていた。勿論俺を含めて大星や美空達、そして乙女も参加している。


 「さぁーって! 初の主演舞台を無事に乗り切ったレギーちゃんの登場だよぉ!」

 「ヒュ~!」


 そしてマイクを握るのは、レギー先輩が所属する劇団のOGであり人気芸能人のコガネさんだ。


 「じゃあ早速レギーちゃんっ。今日の感想をどうぞ!」

 「な、なんか意外と知り合いがたくさん来てて緊張したけど、やり切ったって感じだった」

 「愛されてるね~レギーちゃん。でも舞台は今日で終わりじゃないよ。ちゃんと千秋楽まで頑張るんだよ?」

 「おうよっ」

 「じゃあレギーちゃんは子ども何人欲しい?」

 「やっぱ一姫二太郎とか……って、今は関係ないだろその話!?」


 マイクを握ったコガネさんは今日も絶好調。久々にこの二人の絡みを見ることが出来て俺も安心する。

 トゥルーエンドの世界線だと原作で起きていたトラブルが起きずに円滑に進んでいくのだが、やはり諸々のトラブルを経験している身からするとひょっとしたら何か起きるんじゃないかとドキドキしてしまう。


 「気づけばレギーちゃんと出会って八年……あの頃のレギーちゃんも可愛かったなぁ。私のことを初めて『ママ』って呼んでくれた時のことは今でも忘れない……」

 「その話はもう良いだろ……って、そんなの言った覚え無いんだが!?」

 「パパは一体誰なんですか!?」

 「レギナちゃんだよ」

 「ボクなの!?」

  

 なおコガネさんと同じく初代ネブスペのヒロインの一人で、世界的芸術家のレギナさんも舞台を見に来ていて、この祝賀会に参加している。


 「懐かしいね、レギナちゃん……海辺の教会でお祈りした時、コウノトリさんがレギーちゃんを連れてきたあの日のこと、今でも忘れない」

 「コガネ? ボクは君が変な薬に手を出していたとしても何も擁護しないからな?」

 「レギー先輩ってキャベツ畑で生まれたんじゃなかったっけ?」

 「おい乙女。オレがそんなファンシーな世界で生きてきたと思ってるのか?」

 「違いますよ乙女さん。レギュラス先輩はバラの花から生まれたんです」

 「オシャレ~」

 「誰かオレを普通に産んでくれ!」


 オレを普通に産んでくれってどんな叫びだよ。しかし十人以上も集まるとやっぱりいつもより賑やかに感じる。だって結構広めの犬飼家のリビングが手狭に感じるんだもの。


 「コガネさん、まずは乾杯しましょうよ。レギー先輩の育児記録は後でたっぷり聞かせていただきます」

 「うん、レギーちゃんのことなら何でも教えてあげるね」

 「オムツ外せたのっていつ頃~?」

 「それはね……」

 「おい朧、乙女、コガネさん。三人共表出ろ」


 何より俺の悪ノリに乙女が乗っかってくれることがこんなに頼もしいとは思わなかった。ボケって味方がいるだけでこんなに楽なんだ。

 そして、この悪ノリに乗っかってくれるキャラがもう一人──。


 「あら、レギー。そういえば、つい最近までぬいぐるみとかお人形を抱いていないと眠れないって言っていたわね」


 アイスココアが入ったグラスを手に笑みを浮かべながらそう言ったのは、エレオノラ・シャルロワ。

 いや、なんでコイツがいるんだ。


 「お、おいローラ! それは内緒にしとけって言っただろ!?」

 「最近になって克服しようと思い立って、でもぬいぐるみを捨てるのは怖いからって私に押し付けてきたでしょ?」

 「へ~お嬢ちゃん、良いネタ持ってるじゃん」

 

 まぁ確かにローラ会長とレギー先輩は同学年で親友って設定だけども、多分ローラ会長の中に入っている奴はローラ会長以上にレギー先輩のことを熟知しているぞ。だって原作者なのだから。


 と、レギー先輩を茶化すローラ会長を一人加えた状態で、コガネさんが乾杯の音頭をとって祝賀会が始まった。



 「会長様。こちら今朝獲れたてのネブラダイの刺身でございます。どうぞお納めください」

 「いやムギ、君が獲ってきたわけでも作ったわけでもないでしょ」

 「悪くない味ね。もしかしたら貴方が次の会長職に就く可能性も近いかもしれないわね」

 「やったぜ」

 「そんなバカな」


 会長職って月学の生徒会長のことなのかシャルロワ財閥の会長のことなのか、どっちなんだ。


 「レギー。このピザ美味しいわよ」

 「おっ、オレの好きなシーフードピザだ……って、かっらぁっ!? お前タバスコかけやがったな!?」

 「あら、残念。この子はこんなに美味しそうに食べてるのに」

 「むほぉ?」

 「いや美空と一緒にするんじゃねぇ!」


 タバスコが一瓶丸々かけられた畜生シーフードピザは、人間バキュームカーである美空の胃袋に吸収されていった。


 「あのっ、どうしたらシャルロワさんみたいに美人になれますか?」

 「なんてことはないわ。生まれつき恵まれたこの美貌を維持するだけよ。美人薄命という言葉があるように、自分磨きを怠ると美人としてチヤホヤされる期間は短くなるわ。貴方も天性の素材を持っているのだから、それを崩さないようになさい」

 「あの……どうすればプロポーションが良くなりますか?」

 「胸を揉むと良いわ」

 「そんなバカな」

 「だってさ晴ちゃん。これから毎日私が揉んであげるね」

 「それは遠慮しておくわ……」


 大星と美空の妹である晴と美月は、ローラ会長のプロポーションに夢中のようだ。美月はまだ年相応に無邪気なところはあるが、多分月学に入学した頃にはきっとローラ会長レベルの美人になっているだろう。一方で晴は、このちんちくりん感が抜けなさそうな気もするが……俺はそのツンツン感が好きだからそのままでいてほしい。

  

 「シャルロワ会長はレギー先輩とどういうご関係なのですか?」

 「親友以上恋人未満ね」

 「つまり恋愛関係に発展する可能性が微レ存……?」

 「いやねーよ」

 「そんな……レギー、私と過ごしたあの日の夜に言ってくれた言葉は嘘だったの?」

 「最低です、レギュラス先輩」

 「いやいやいやいや! ローラ、オレはお前にそんなこと言った覚えはないぞ!?」

 「『今日は月が綺麗だな~』って言ってたじゃない……」

 「それは多分『今日は月が綺麗だな~(小並感)』だったんだよ。レギー先輩バカだから」

 「バカは失礼だろ!?」


 レギー先輩が特に何も考えずに『今日は月が綺麗だな~』って呑気に言ってる姿は想像に容易い。

 それにしてもローラ会長、中々に暴れまわってくれてるな。レギー先輩がツッコミに回ってくれるから楽ではあるが、まぁトゥルーエンドの世界線だとエレオノラ・シャルロワって結構ボケ側だったな。


 「レギー先輩、お疲れ様です。今日の舞台、とても良かったですよ!」

 「舞台の感想を言ってくれたの、お前が初めてだよ乙女……」

 「泣いてましたからね、乙女」

 「それは言わなくていーの!」

 「あと途中でお腹空いたからってポップコーンを買いに行こうとしてましたね」

 「映画館じゃないんだぞ」

 「仕方なくファ◯チキで手を打ったわ……」

 「ファ◯マ行ってんじゃねぇよ!」


 なお俺は劇場で右側を乙女とローラ会長、左側をコガネさんとレギナさんに囲まれていた。何か両サイドから咽び泣く声が聞こえてきて怖かったよ、俺は。もしもと思ってハンカチを何枚も用意しておいて良かったぜ。


 

 今までのループでは体験できなかったイベントを、美味しい料理をいただきながら俺は楽しんでいた。何度食ってもやっぱり犬飼家の飯は美味いぜ。

 なんて一人で舌鼓を打っていると、レギー先輩達の輪から抜けてきたローラ会長が俺の元へやって来て、俺の耳元で囁いた。


 「ねぇ、私達だけで抜け出さない?」


 ……。

 ……これは、パーティーとかからこっそり抜け出すイベント!? 何かラブコメとかでたまに見るやつだ!

 

 「あぁ、良いぜ」


 まぁそんな浮かれたイベントではないだろう。

 何せ相手はローラ会長の皮を被った、俺の前世の幼馴染なのだから。



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