表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

355/465

これも恋人ごっこの内



 本当は夢那ともっと話をしたかったが、向こうの門限もあるし俺達も帰りが遅くなってしまうため、ファミレスで別れて俺とローラ会長は再びリムジンに乗り込んだ。夢那はリムジンをポカンとした表情で見送ってたけど。


 「良いわね、兄妹愛というのも」


 車内でアイスココアを飲みながらローラ会長は上機嫌な様子で言う。きっと俺と夢那が再会したシーンをバレないところで見ながら「デュフッww」と興奮していたことだろう。


 「だがどうなるかわからんな。夢那の今の親御さんが納得してくれるかどうか」

 「この世界が私の構想になぞって進んでいるなら、了承してくれるはずよ。そこに烏夜朧が関わる予定はなかったけれど、これが彼女にとって最善の形での転校になるはず」


 俺がローラ会長からこのプランを聞かされたのは昨日のこと。しかも昨日の時点で全ての準備が整っていたのだ。


 ネブスペ2第二部において、ヒロインの一人である十六夜夢那は当初、夏休みの間だけ月ノ宮に滞在して鷲森アルタ達と交流を深めることになる。そして夏休みが終わると夢那は月ノ宮を去ってしまうが、夢那ルートの条件を満たしていた場合、夢那は再び月ノ宮へと戻って来る。

 彼女の両親の死によって……。


 俺と夢那は元々月ノ宮で一緒に暮らしていたが、両親の離婚で俺は父方に、夢那は母方に引き取られ、新しい父を迎え入れて向こうで楽しい毎日を送っていた。しかし夢那ルートの条件を満たすと、アルタ達の林間学校のタイミングで夢那の両親が事故死してしまい、叔母である望さんに引き取られる形で月ノ宮へと戻ってくるのだ。


 いくら物語の進行のために必要とはいえ両親が死んでしまっては、夢那にとって真のハッピーエンドとはならない。そのため、夢那の両親が死なずとも彼女を月ノ宮に戻す方法はないか、原作者であるローラ会長は前世で考えていた。結局トゥルーエンドの世界線でも夢那の両親は死ぬ運命にあるが、既にシャルロワグループの会長としてまぁまぁな権力を手に入れたローラ会長は早速動いたのだ。


 それが、宇宙飛行士育成コースの創設である。

 ローラ会長が自ら関係機関と交渉して、正式な創設は来年度からではあるが、その先行モデルとして夢那を受け入れるという形でたった数日でプランをまとめ上げたのは中々の化け物だと思う。

 まさか夢那が元々宇宙飛行士を志しているという設定がこんなところで生きてくるとは思わなかったが、夢那のことを考えて動いてくれたローラ会長には感謝しかない。


 「でも実際、宇宙飛行士育成コースってどんな勉強するんだ? 言っても大学レベルの教育は流石にしないだろ?」

 「そうね。別に体力テストとか特別な試験を作るつもりではないわ。でも航空工学や物理学といった専門的な知識を多少取り入れるつもりではあるの。外部から色々講師を招聘してね。

  その中には初代ネブスペのキャラも入れといたから」

 

 初代ネブスペの登場人物で、宇宙関係の仕事についてるのって……あの二人しかいなくね?


 「え、じゃあ天野太陽とブルーを呼んだの?」

 「そうよ。一応航空工学のスペシャリストなんだから。これもコネってやつよ」

 

 そりゃシャルロワ財閥が持つコネって最強だろうけど、よく初代ネブスペでシャルロワ財閥と色々揉めていた二人を呼ぶことが出来たな。まぁ二人はシャルロワ家のことが多少嫌いってだけで月ノ宮学園自体は好きなはずだけど。


 「真エンドに到達するために、私は初代ネブスペの面々を出来るだけ月ノ宮に集めようとしているわ。今はコガネとレギナとアクアがいるし、もうすぐナーリアやネレイドも呼ぶつもり。マルスやジュリエットも呼ぶ手はずは整っているけれど、問題はミールなのよね……」


 主人公である太陽さんとメインヒロインであるブルーさんは月学の講師としてやって来て、暇な時は月ノ宮に遊びに来てるコガネさん、七夕祭の絵画コンクールの審査員として呼ばれたレギナさんはまた新しい仕事を与えたら月ノ宮に滞在させる理由が出来る。葉室総合病院に勤めている医師であるアクアたそはここら辺に住んでいるはずだし、ナーリアさんとネレイドさんも夏の間に月ノ宮へ遊びに来る。マルスさんやジュリエットさんはビッグバン事件関連の事でまだ何か関わりそうではあるが、霊能力者であるミールさんは……ど、どこで出てくるんだ?


 「あれだな、ヒロイン達の恋愛運とかを占ってもらうイベントを作るしかないな」

 「あ、それ良いわね。貴方がけしかければ良いじゃない」

 「任された」

 

 ネブスペ2のキャラだけでなく初代ネブスペの面子まで加えた真エンドが果たしてどんな形になるのか、そもそも彼女達がどうやってネブスペ2のシナリオに関わってくるのか考えるのが難しかったが、ローラ会長という権力者が味方であるのがこんなに心強いとは。

 矢面に立たされるという代償はあるが、シャルロワグループの会長職を若くして引き継いだのはそういう意図もあってのことだったのだろう。



 リムジンが高速道路に乗って東京湾沿岸の市街地から抜けた頃、それまで最近の浮かれた話を楽しげに聞いていたローラ会長の表情が少しだけ曇ったように見えた。


 「そっちは最近どうなんだ? かなり忙しそうだが」

 「私も忙しくてしょうがないけれど、昔よりかは充実した毎日を送れているわ。いつかシャルロワグループの資本力を結集してエロゲを作ることが私の夢よ」

 「財閥の力を使ってすることじゃないだろそれ」

 「メディア業界に出版業界にアニメ業界、あらゆるコンテツに力を注いでこの世界の深夜アニメを支配してやるのよ」

 「夢が大きいのか小さいのかわからねぇなそれ」


 エロゲ業界というコアな世界を抜け出して一般向けにも広がったエロゲもいくつかあるが、言ってもそれはごく一部に過ぎない。俗に言う泣きゲーでシナリオが良かったからこそエロの部分も抜いても出来が良かっただけで、そういうシナリオ重視のエロゲならまだしも平気で犯罪行為や非人道的行為を繰り返すエロゲ、もとい抜きゲーの方が数としては圧倒的に多いのだから。


 「今の生活には満足しているわ。私の生み出したものが実を結びそうなのも楽しみだし。

  でも……癒やしが欲しいというのは確かかもしれないわね。前は乙女ちゃんに甘えることが出来たけれど、今はいなくなっちゃったし……」


 と、そう言ってローラ会長は俺の方を向いた。

 あ、その顔は……何か良からぬことを企んでいる顔だな!?


 「さて、ここで入夏に問題です。私が憧れているドキドキシチュエーションTOP3はなんでしょう?」

 「唐突だな」


 こいつ、前世で急にそんな話題を俺に振ってきて、無理矢理俺にさせてたような気がするなぁ。


 「なんだろうな……三位は休日に職場の上司から電話がかかってきた時かな」

 「それもドキドキだけど、私が求めてるのそういうドキドキじゃない」

 「まぁそれは冗談として、確かキャッチボールだったか?」

 「ブッブー。正解は文化祭の後夜祭でキャンプファイヤーを囲ってフォークダンスを踊ること」

 「今どきないだろそんな学校」


 恋愛ゲームとかラブコメだと当たり前のようにあるけどね。わざわざ片付けが面倒くさそうなキャンプファイヤーを作る学校。


 「じゃあ二位はあれだな。夏祭りの花火を河川敷に座って一緒に見ることか?」

 「ブッブー。正解は修学旅行先で突然現れた凶暴なシカとのバトルだよ」

 

 そんなのと◯メモでしか見たことねぇよ。


 「だとすれば一位は……伝説の木の下での告白か!?」

 「ううん、一位は膝枕」

 

 今までの流れどこいった? 絶対二位と三位どうでもよかっただろ。


 「というわけで入夏。膝枕してよ」

 「え、お前が俺の膝を枕にするの? 自分で言うのもなんだが、絶対寝心地良くないぞ」

 「良いの良いの。ほら、こっち来て」


 リムジンのロングシートに俺が座り直すと、ローラ会長は俺の隣りに座って横になり、俺の膝の上に頭を預けてきた。


 「はぁ……これがネブスペ2のヒロインの誰かの太ももだったらどれだけ良かったか」

 「はっ倒すぞ」

 「冗談よ、冗談」


 そう言ってローラ会長は俺の膝を撫でながら上機嫌にフフフと笑っていた。エレオノラ・シャルロワという厳しい環境に置かれているキャラに転生してしまった自分の前世の幼馴染のことが心配ではあるが、こうして無邪気に笑ってくれると凄く安心する。


 「……疲れた時はいつでも言えよ。膝枕ぐらいタダでしてやるから」


 俺が気遣ってそう言うと、ローラ会長は顔をこちらに向けて少し不機嫌そうに言う。


 「そういうことを言う入夏は解釈違い」

 「うるせぇ。黙って寝てやがれ」

 「そうそう、そんな感じ」


 これはまだ、恋人ごっこなのだ。

 エロゲキャラの皮を被った、青春の落し子達の……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ