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わ、私の足を舐めなさい!



 大乱闘スペースブラザーズ、通称スペブラ。宇宙を舞台にしたSF作品のキャラ達が夢の共演を果たした格闘アクションゲームで、手軽に携帯機で遊べる大人気ゲームだ。なんか前世で似たようなゲームを遊んだような気がするが気にしない気にしない。


 「先に三回勝った方が勝ちね」

 「OK。コテンパンにしてあげるよ」

 「かかってきなさい!」


 俺の部屋に上がり込んで我が物顔で俺のベッドの上に陣取った乙女は、望さんの私物であるゲーム機を拝借してスペブラを起動。乙女は某SF超大作に出てくる某暗黒卿を、俺は普通のエイリアンを選択して試合が始まる。


 フフ……俺が前世で嗜んでいたのは何もエロゲや恋愛ゲームだけではない。元からゲームが好きだったから色んなジャンルのゲームに触れたことがあるし、学生時代に友人達とス◯ブラに時間を費やしたこともある。まぁ、そんな得意ってほどじゃなかったけれど、烏夜朧も元々ゲームは嗜んでいる設定だ。

 そんな二人が合わされば乙女ぐらい楽勝で倒せる────。



 「やったわ~!」


 ベッドの上でピョンピョンと飛び跳ねながらガッツポーズをする乙女。


 「そんなバカな……!」


 結果、三戦して乙女の全勝。俺は全く手加減したつもりはなかったのだが、一勝もすることが出来なかった。

 何か普通に悔しい。


 「さて、約束通り勝った方の言うことを聞いてもらうわよ。そうね……」


 すると乙女は俺の部屋の本棚に並んでいた漫画をジロジロ眺めた後、その中の一冊を取り出して俺に見せた。

 それは、最近アニメ化が発表されたラブコメ漫画だった。


 「昨日、大星と二人に出かけて私は思い知ったわ……私がどれだけ恋愛に疎いのかを。

  色んな漫画を読んだりアニメを見たりしたから知識としては知ってたつもりでも、私には経験が無かったのよ。だから練習して慣れておきたいの!」


 朽野乙女はこれまでに誰かと付き合ったという経験はない。その初々しさも大切だと思うが、本人としてはどうも不服だったようだ。何よりもその初々しさを友人達に茶化されることが。

 要は、俺に練習台になれということらしい。


 「僕は何をすればいいんだい?」

 「この漫画ってラブコメらしい色んなシチュエーションがあるから、それをランダムに選んで実際にやってもらうわよ」


 俺が漫画のページをパラパラとめくり、乙女がストップと言ったタイミングで開かれていたページで描かれているシチュエーションを実践しろとのことらしい。そんなランダムだと外れっていうか特に何でもない日常のシーンも当たってしまいそうだが……早速やってみることとなった。


 

 「じゃあそこのページで!」


 乙女が言ったタイミングで俺は漫画のページをめくるのを止めた。そして乙女が覗き込んできて、そのページに描かれているシチュエーションを確認する。


 「なになに~……って、か、壁ドン!?」


 いきなりド定番の来たな。俺は前世でも烏夜朧としても壁ドンの経験はない……いや、ラブコメ好きな幼馴染にやらされた記憶はある。まさかダブル乙女からやらされる羽目になるとは思わなかった。


 「よし。じゃあ乙女、そこに立って」

 「なんで朧はそんな乗り気なのよ!?」

 「はい、ドンッ」

 「ちょっとー!?」


 俺がこの世界でどれだけループを繰り返して修羅場をくぐり抜けてきたと思ってる。何なら俺は前世で幼馴染に対してやったことがあるんだよ!


 俺は乙女を壁際まで追い詰めて、肘を壁について俺は乙女に顔を近づけた。


 「今日は帰さないよ、乙女」

 「あ、あわわ、あわわ……!?」


 こうして意識すると意外と小柄な乙女は、壁ドンされて身動き取れないまま目をぐるぐるさせて慌て付ためていた。


 「わ、私達、そういう関係じゃないでしょ……!」


 いややれって言ったのお前だろ。


 「で、どうする?」

 「そ、そんなこと聞かれても、わかんないよぉ……」


 ……。

 ……ふ、フフフ。フフフフフ!

 これだよ! 俺はこういうのが見たかったんだよ! ネブスペ2原作だとヒロインに慣れなかった乙女が、壁ドンされて顔を真っ赤にして恥じらう姿は最高だぜ! 普段はそういう素振りを全く見せないからギャップがさらにたまらない!


 今すぐローラ会長に見せてやりたいぜ、この光景を……乙女を最初っからヒロインにしなかったことを後悔させてやりてぇ……。


 ……。

 ……いや待て俺、我に返るんだ!

 俺が求めてるのはこんなんじゃない! いやこんなんだけどこんなんじゃない!

 俺は烏夜朧と結ばれる朽野乙女を見たいんじゃない! ネブスペ2の主人公の一人である帚木大星と結ばれるのを見たいんだ! だって乙女をヒロインにしたいんだから!

 大星と乙女をデートさせるのは上手くいったけど、どうしてこんなイベント起きてるんだ!? 原作のトゥルーエンドでもこんなの起きなかったぞ!? 違うんだよ、俺はただ乙女が大星と二人でイチャイチャしてるのをガヤから見ていたいだけなんだ!


 「……ちょっと、い、いい加減どきなさいよっ」


 俺は黙って乙女のことを見つめ続ける。

 クソッ、壁ドンされて恥ずかしがる乙女の姿をもっと見たいが、ここで変にイベントを起こすのは良くない。

 俺は心の中で号泣しながら乙女から離れた。


 「どうだった? 初めての壁ドンは」

 「……べ、別に、どうってことはないわ。朧に壁ドンされたって」


 名残惜しいが、俺が乙女とイチャイチャするのは程々にしなければならない。俺とローラ会長が目指しているネブスペ2の真エンドが一体どんな風になるのか想像つかないが、烏夜朧が誰かと結ばれるなんて想像つかないな……。


 

 「き、気を取り直して二回目行くわよ」

 「え、まだやるの?」

 「当たり前よ! まだまだ他にも色々あるんだから!」


 さっきの壁ドンだってかなり恥ずかしがっていたくせに、いやむしろそれが恥ずかしかったからなのか、ただ悔しいから俺に恥をかかせたいのか、乙女はまたラブコメのシチュエーションを指定する。


 「はい、そこでストップ! なになに~……って、え?」


 乙女が指定した漫画のページに描かれていたのは、ラブコメの主人公がヒロインの足を舐めているシーンだった。

 なんだこの漫画。


 「今のは見なかったことにしようか」

 「な、何を言ってるのよ朧。私の足を舐めなさい」

 「いや、正気か!?」

 「自分だけ恥ずかしいことから逃げようたってそうは行かないわよ! じゃあちょっとお風呂借りるわよ!」


 そう言って乙女は風呂場の方へ向かってしまった。どうせならそのままでも……いやいや何を言ってるんだ、俺は。

 まぁ確かに足を舐めさせられるって屈辱的行為かもしれないが、靴とかを舐めるならまだしも漫画で描かれていたのは素足、生足だ。このシチュを大星と乙女がやってたとしても流石にちょっと引くぞ。


 え、俺はマジで乙女の足を舐めないといけないの?

 俺はただ大星と乙女がイチャイチャしているのを壁や地面として側で見ていたいだけなんだが?

 とりあえずどうにかして自分を落ち着かせようと、俺はLIMEの画面を開いてローラ会長にメッセージを送る。


 『俺、乙女の足を舐めることになるかもしれない』


 多忙だから返事は来ないかと思っていたが、すぐに既読がついて返事が来た。


 『画像ハラディ』


 いや大分ネット民だなコイツ。そんなセンシティブな画像撮るわけねぇだろ。


 なんて気を紛らわしている間に、ウチの風呂場で足を綺麗にしてきた乙女が戻ってきてしまった。


 「さぁ、早く舐めなさいよ」


 乙女は俺のベッドの座って、靴下を脱いだ右足を俺に向けてきた。俺は乙女の正面に座っているが、それよりも乙女のスカートの中が見えそうで気になってしまう。


 「待つんだ、乙女。僕達はまだ引き返せるはずだよ」

 「あら、怖気づいてるの? 幼馴染の足を舐めるってだけで?」

 「多分この世のどの幼馴染も相手の足を舐めたことはないと思うよ」


 俺が足を舐めるのを躊躇っている姿を見て乙女は何だか満足そうだ。クソッ、こうなったらいっそのこと思いっきり舐めてやるしかないか。

 何度もループを繰り返している内にきっと俺はおかしくなっていたのだ。そう、きっとそうだ。そういうことにしておこう。

 俺は意を決して、乙女の生足を掴んだ。


 「ひゃっ」


 足を掴まれただけで乙女の足がビクンッと震えたが、小さく膨らんだ華奢なくるぶし、透き通るような真っ白で艷やかな素足、その足の甲を狙って俺は────。



 「ただいま~乙女ちゃん来てるの~?」


 

 と、俺の部屋に入ってきたのは俺の叔母である望さんだった。普段は滅多に家に帰ってこない人が、何故かこんな時に限って、しかも最悪のタイミングで部屋に入ってきた。


 「え……何してんのアンタら」


 望さんの目に映ったのは、俺のベッドに腰掛ける乙女、そんな彼女の足を舐めようとする俺の姿。まさか久々に家に帰ったらそんな光景が待ち受けているとは思いもしなかっただろう。

 俺と乙女、そして望さんはすぐに事態を把握できずしばらくポカンとしていたが、乙女は沸騰したように顔を真っ赤にして口を開いた。


 「ち、違うんですよ! 違うんです!」

 「何が違うの?」

 「えっと、これはちょっとしたゲームで……えぇっと、私もう帰ります! お邪魔しましたー!」


 そう言って乙女は逃げるように鞄を持って部屋を出ていった。そんな彼女の後ろ姿を見て望さんはクスッと笑い、そして俺に言う。


 「何かの罰ゲーム?」

 「まぁそんなところ」

 「で、どんな味だった?」

 「残念ながらその寸前で入ってきたんだよ、望さん」

 「いや舐めてるところを見させられるのも嫌だけど」


 それはごもっともで。

 でももし……俺が決心するのがもう少し早ければ、乙女の足を舐めることが出来たのか?

 いやいやいやいや、流石にそれはラインを越えている。俺は望さんに感謝しなければならない。本当に乙女の足を舐めていたら変な性癖が生まれかねないぞ。


 と、俺が半分安心し半分後悔していると、LIMEに通知が来た。ローラ会長からだ。


 『あくしろよ』


 お前二度とエレオノラ・シャルロワって名乗るなよ。



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