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実は隠し子なんです



 天体観測から一夜明けた日曜日。

 何でも大星は月研の所長である望さんから、月研を脱走して月見山を徘徊している宇宙生物の捕獲を頼まれたそうで、美空達ヒロイン四人と総出で捕獲作戦を行うらしい。レギー先輩はもうすぐ大事な舞台もあるのだが、息抜きにと結構乗り気だった。この後自分達にどんな展開が待っているのか知らないから。


 本当は俺も参加したかったが、下手に邪魔をして彼らの関係も壊したくなかったため、己の欲望を押し殺して朝になると乙女をローラ会長の別荘へと送ってから帰宅した。別荘にローラ会長が不在だったのが気になったが、やはり今日は重要なイベントが待っているのだろうか……。


 

 さて、このネブスペ2の世界は前作である初代ネブスペと世界観を共有しており、原作にこそ登場しなかったが初代ネブスペのキャラ達もこの世界にいるはずだ。最初のループで俺は主人公やヒロイン全員と出会えたし結構仲良くさせてもらっていたが、他ヒロインの攻略に集中している時はあまり関わることは出来なかった。


 しかし今のタイミングなら、レギー先輩が所属する劇団のOGで人気女優であるコガネさんや世界的芸術家のレギナさんが月ノ宮に滞在しているはずだ。ローラ会長ことネブスペ2の原作者である月見里乙女が目指している真エンドには彼らの存在も不可欠だから、早い内に接触しておきたい。

 そう思って月ノ宮駅前をウロウロしていると、駅前を行き交う人々がある方向を凝視しながらざわついていた。

 

 見ると、駅前のケーキ店サザンクロスから、芸能人のオーラを隠しきれていない金髪ショートでサングラスをかけた女性と、まるで魔女のような黒いローブを羽織った不気味な女性の二人組が出てきたところだった。

 やっぱり一人だけ生きてる世界観が違うなぁ。


 「どーもこんにちは、テミスさん」

 「あら、ボロー君じゃない」


 一方は月ノ宮の魔女こと有名占い師であるテミス・アストレア。最初のループでそれはそれはとてもお世話になった命の恩人だ。二周目に入ると全部忘れられてしまったが。


 「そして隣の美しい方は……テミスさんの妹さんですか?」

 

 と、俺はわざと気づかないふりをして金髪ショートの女性の方を見ると、彼女は俺から顔を逸らしてヒューヒューと口笛を吹いていた。そんな彼女を見てテミスさんはクスクスと笑っていた。


 「あら、私の妹に見える?」

 「はい。テミスさんに似てとても美しいと思いまして。それともお弟子さんですか?」

 「実は私の隠し子なの」

 「隠し子ぉ!?」


 この人がテミスさんの隠し子なんだとしたら、それこそテミスさんの年齢が余計に謎になってしまうだろうが。俺は今までのループでテミスさんの実年齢を暴こうと何度も試みたが、ことごとく失敗している。


 「ボロー君はこの子に見覚えない?」

 「いやー、あまりピンと来ないですね。よくテレビに出てる方ですか?」

 「ギクッ」

 「そういえば元々モデルとして活躍されてて、最近ドラマとか映画に引っ張りだこで歌手デビューもした人気の女優さんもいますけど、まさかこんな所にいないですよね~。月ノ宮出身って聞きましたけどここには何も無いですし~」

 「ギクギクゥッ!」


 いや声に出してギクッって言う奴がいるかよ。


 「ちなみに名前はわかる?」

 「えーっと、確かヴィンセンス大金とかでしたっけ?」

 「誰だよ!?」

 「あ、ヴィクトワール・カナブンか!」

 「せめてコガネムシって言いなさいよ!」


 流石に俺も気づいているとわかったのか、彼女は諦めてサングラスを外して俺に笑顔を向けた。


 「はい、ご存知の通り私は激カワスーパーモデルのヴィーナス・コガネ。いやー、やっぱりさっきからジロジロ見られてる感じがするからオーラが隠せてないのかなぁ」


 いや、それは隣にテミスさんがいるのが悪い。コガネさんじゃないかと気づいている人も少なからずいただろうが、隣に魔女を連れて歩いていたらそりゃジロジロ見られることもあるだろうよ。


 「僕は烏夜朧って言います、月学の二年生です。僕の先輩のレギュラス・デネボラって方が劇団アステロイドに所属されてるんですけど、コガネさんってその劇団のご出身でしたよね?」

 「へ~よく知ってるね! しかも君、レギーちゃんの知り合い!? レギーちゃんって結構男勝りな感じがするけど恋愛面は初心な感じ、とてもそそると思わない?」

 「思います」

 「でしょ~」


 そしてコガネさんは相変わらずレギー先輩推し、と。最初のループでは連絡先を交換するぐらい仲良くさせてもらっていたが、その後はあまり関わることが出来なくて寂しく感じていた。やっぱり愉快な人だなぁ。


 「これからコガネちゃんを占うんだけど、もし良かったらボロー君も来る?」

 「え、良いんですか?」

 「良いよ~テミスさんの占いって人数が多い方が楽しいって聞いたし。後一人来るはずなんだけど……あ、来た来た!」


 すると、月ノ宮駅の改札を出てきたモノトーンファッションの女性が俺の目に入った。


 「やぁ、コガネ。久しぶりだね。それと初めまして、貴方がかの有名な月ノ宮の魔女ですね?」

 「えぇ、初めまして。相談料は貴方の芸術作品をいただいていくわ」

 「何だか怪盗みたいな物言いですね」


 黒髪のサイドに白黒の星柄のリボンを付けた女性は、テミスさんと握手を交わしていた。何気に最初のループ以来、この人とは会っていない。


 「もしかして、あの芸術家のレギナ・ジュノーさんですか?」

 「あぁ、ボクのことを知っているのかい? それは光栄だ、もしかして月学生?」

 「はい、烏夜朧と言います。コガネさんの隠し子です」

 「そうなの!?」

 「実は昔からレギナちゃんのことが好きで想像妊娠しちゃって……」

 「想像妊娠!?」

 「なのでレギナさんの隠し子でもあります」

 「一から十までメチャクチャだなぁ!?」

 

 俺のボケにコガネさんもノリノリでボケを被せてきたからレギナさんが驚愕しながらもツッコミをこなしている。想像妊娠とはぶっ飛んでるなぁ。


 「まぁそんな冗談は置いといて。あ、レギナちゃんのことが好きなのは本当だけど」

 「そういうのはいいんだよ」

 「この後の占いに烏夜君も連れて行かない? 人数が多い方が楽しいだろうし」

 「ボクは放浪の身だから個人情報を漏らされても問題ないけど、コガネが良いなら」

 「はっ!……もしかして私のクレカの暗証番号が〇〇七一ってことがバレちゃうってこと!?」

 「そんなの占いに使わないでしょうし言っちゃってるじゃないですか」


 占いと称して相手のクレカの暗証番号を聞くのは絶対ヤバいだろう。それにコガネさん達は知らないだろうが俺はもう皆の個人情報をある程度知ってしまっているんだよな。前世の知識とループ中に蓄積した知識で。

 だがこの世界で俺がコガネさんやレギナさんと知り合いというわけではないため、初対面を装わなければならなかった。


 「あの、そういえばテミスさん」

 「あら、どうかしたのボロー君」

 「テミスさんって死相とか見えるんですか?」

 「えぇ、見えなくはないけどそれがどうかしたの?」

 「……僕に死相とか見えますか?」


 最初のループでこそテミスさんにはかなり協力してもらっていたが、以降のループで俺はテミスさんと関わるのを極力回避してきた。きっとテミスさんなら一目で俺の死相が濃いことに気づいて、そして烏夜朧の中に別人の魂が入っていることも占いで看破してしまうはずだ。だから今までテミスさんからずっと逃げ続けていたため、こうして話すのも結構久々だったりする。


 俺の質問に対し、テミスさんは俺に顔をズイッと近づけて、俺の目を凝視する。友人の母親とはいえかなりお綺麗な方だから内心ドキドキしてしまうが、テミスさんは俺から顔を離すと首を傾げて口を開いた。


 「いえ、全然そんなのは見えないけれど……もしかしてボロー君、死ぬ予定とかあるの?」

 「いやあるわけないじゃないですかそんなの」

 「何か悩み事とかあるんだったら私達も相談のるよ?」

 「いや、全然大したことじゃないので気にしないでください。前に何かの占いで悪い結果が出ただけなので」


 俺は慌てて弁明したが、内心かなりホッとしていた。

 最初のループではかなり濃い死相が出ていたらしいが、それが見られないというのは大きな進歩だ。この世界が真エンドに近づいているのだと、またあの意味のわからない最終兵器で滅亡しないのだと、それが所詮占いの結果と言えど俺は信じたかった。


 

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