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最後の一日編㉒ おいでなさい、こっくりさん



 オカルト研究部の部室のテーブルの上に置かれた燭台に火が灯され、クロエ先輩がどこからか取り出した紙には五十音や数字、はいといいえという選択肢や鳥居が書かれており、部室の窓を少しだけ開けてクロエ先輩、一番先輩、レギー先輩、ローラ先輩、そして俺の五人でテーブルを囲んだ。


 「お、オレもやるの?」

 「レギーだって何か知りたいことあるでしょ? こっくりさんに聞くチャンスだよ」

 「で、でも何かの拍子で呪い殺されたりしないのか?」

 「失敗すると内臓を全部引き抜かれたり、千切れた電線に触れて感電死したり、乗っていた車がトラックと壁に挟まれてぺしゃんこになっちゃうことはあるけど、そういうのは全部偶然の産物だよ」

 「ほ、本当に偶然なのかそれは……?」


 クロエ先輩はかえってレギー先輩の恐怖心を増大させているような気もするが、都市伝説上のこっくりさんは半ば怪談話みたいになっているが、霊的な現象というよりは人為的、思い込みによるものが大きいかもしれない。

 まぁ、全てが霊的ではないとは断言できないが。


 「十円玉あるか?」

 「ここに先代の部長が遺した十円玉があるよ」

 「遺したって、既に犠牲者出てないか!?」

 「お祓いはしたって聞いたから大丈夫」

 「じゃあやっぱり犠牲者出てるじゃねーか!」


 あ、このオカ研の部室に飾られてる女子生徒の写真って、もしかしてあれ遺影か?

 薄暗くて雰囲気のある不気味な空間というのも相まって、レギー先輩はさらに体を震わせていたし俺も心の中でビクビクしていたが、クロエ先輩だけでなく一番先輩やローラ先輩も平気そうな表情をしている。


 「な、なぁローラ。お前怖くないのか?」

 「いえ、むしろ興味があるわね。低俗な霊ごときが私を殺せるのかどうか」

 「いやなんで戦おうとしてるんだよ。明星、お前は?」

 「俺もローラと同意見だ。低級霊ごときが俺の精神力に敵うわけがない」

 「いやどういう人生送ってきたんだお前ら」


 でも低級霊相手なら確かに倒せそうな二人ではある。何かあればテミスさんやミールさんを頼れば解決しそうだし。

 そして曰く付きらしい十円玉を紙の上に置いて、俺達五人は人差し指で小さな十円玉を押した。


 「こっくりさん、こっくりさん。どうぞおいでください。もしおいでになられましたら『はい』へお進みください」


 クロエ先輩がそう言うと、俺は指に何も力を加えていないはずなのに、十円玉が『はい』の方へスススと移動を始めた。他の誰かが力を加えているようにも思えないし、本当にいるのだろうか。


 「は、はいだってよ。もういるのか、こっくりさんが!?」

 「レギー、指を離したダメよ」

 「わ、わかってるって」


 さぁ、ここからドキドキのこっくりさんが始まる。


 「じゃあ私からいくよ。こっくりさん、こっくりさん。昨日、明星君が食べた晩ごはんのおかずはなんですか?」

 

 まずはジャブ的な感覚なのだろうか、結構和やかな質問に、十円玉がスススと動き始める。十円玉が止まったのは、『ち』、『き』、『ん』、『か』、『つ』だった。つまりチキンカツ。


 「明星、お前もう願掛けしてるのか?」

 「勿論だ。最近トンカツばかりで体重が増えてきたから、少しヘルシーにしようと思ってな」

 「つまり、貴方の昨日の晩御飯のおかずとして正解しているということよね?」

 「……そういえばそうだな」


 一番先輩が自分で十円玉を動かしたとも思えないし、他の誰かが彼の昨日の晩御飯のメニューを知っていた? いや今日一番先輩達と一緒にいてそんな会話になったことはないはずだ。

 十円玉を一旦鳥居に戻して、次はローラ先輩の質問だ。


 「こっくりさん、こっくりさん。明星君が最近使ったおかずは何?」

 「おい」


 おいローラ先輩よ、アンタの悪いところ出てるぞ。二つ目にしてはぶっ飛びすぎだろ、その質問。

 質問をしたローラ先輩は涼しい顔をしているし、お題にされた一番先輩は知らんぷりしているし、クロエ先輩はジーッと一番先輩の方を見ていて、レギー先輩は顔を赤くしてアワアワしていた。

 そして無常にも十円玉は動き出すのだが……さっきと比べるとかなり進みが遅いというか、明らかに誰かが力を入れている。絶対に一番先輩だ。


 「これ、『ろ』に向かってないか?」

 「つまり私かローザってことね」


 ロザリア先輩というと、そういえば昨日一番先輩もサザクロに一緒にいたはずだ。つまりミニスカメイドのロザリア先輩を見て……いや、ダメだ。考えるのをやめよう、一番先輩が可哀想だ。

 しかし十円玉は予想に反して、かなり遅いスピードでグググと別の方向へと進み始めた。


 「あれ? 『ろ』じゃないのか」

 「これは……『く』に向かってませんか?」


 く、く……俺達の身の回りの面子で『く』から始まる人物といえば、クロエ先輩が真っ先に思い浮かんだ。

 そういえば……なんかさらに十円玉を押す力が強くなったように感じる。


 「な、なんだ、進まなくなったぞ」

 「誰かが妨害しているね、これ」


 いやクロエ先輩、アンタだろきっと。明らかにさっきと表情が違うよ貴方。

 どうやらこっくりさんは『ろ』へ向かいたいらしいが、『く』へ向かいたいクロエ先輩が力を加えていることによって進まなくなっているようだ。『ね』や『へ』周辺を彷徨っているもの。

 しかしその攻防の末、こっくりさんは諦めたようで開始地点である鳥居へと戻ってしまった。


 「結局何だったのかしら」

 「いや知ってどうするんだよ」

 「じゃあ次は烏夜君の番」


 あ、俺か。この流れだったらローラ先輩が使ったおかずはなんですかって聞きたいぐらいだが、流石にそんなことをするとこの世から抹殺されかねないな。


 「こっくりさん、こっくりさん。さっき貴方の答えを妨害していたのは誰ですか?」


 すると十円玉がススス~と『あ』、『か』、『ほ』、『し』、『と』、『く』、『ろ』、『え』と示した。

 濁点がついていないが、どうやら一番先輩とクロエ先輩が妨害したと言っているようだ。まぁ、想像通りだ。


 「おい烏夜。お前もこの立場になってみろ、止めたくもなるだろ」

 「別に僕はフリーですので」

 「お前に聞いたのが間違いだった」

 「クロエは何を妨害してたんだ?」

 「聞かないで」


 そして十円玉を戻し、次はレギー先輩の番だ。


 「こ、こっくりさん、こっくりさん。明星一番が好きな人は誰ですか」


 そうだ、そういえば本題を忘れていた。元々は一番先輩とクロエ先輩が誰のことを好きなのか知るためにこっくりさんを始めることになったのだ。

 十円玉はスススと動き始めると、『く』、『ろ』、『べ』の三つに止まった。

 ……くろべ?


 「くろべって誰だ」

 「明星君、くろべってどこの女よ」

 「俺だって知らないぞ」

 「いえ、これは『クロエ』、『ロザリア』、『ベラトリックス』の三人の名前の頭文字から取ってるんじゃないかしら?」


 成程、とレギー先輩達がうなずく。いや成程じゃないんだよ、こういう質問で三人も答えとして出てくることある? 確かに一番先輩は三人のヒロインを攻略中と思われるが、もしかして一番先輩の中だと三人に対する好感度が等しいのか?

 

 「三人も好きだなんて、明星君も贅沢だね」

 「ていうか、その三人に絞って迷ってるんじゃね? クロエ、出し抜くチャンスだぞ」

 「べ、別に私が狙ってるとかじゃないから」


 そして次は一番先輩の番だ。


 「こっくりさん、こっくりさん。クロエ・シャルロワが好きな人は誰ですか?」


 まぁ流れ的にそうなるだろう。クロエ先輩はちょっと恨めしそうな顔で一番先輩のことを見ていたが、無常にも十円玉は進んでいき……『え』、『れ』、『お』、『の』、『ら』の五つの文字で止まった。


 「エレオノラ……?」


 つまり、ローラ先輩のことだ。てっきり一番先輩かと思っていたのだが、あまり仲良さそうに見えないのに、クロエ先輩は姉のローラ先輩のことを……?


 「あら、私のことが好きだなんて意外ね。普段はそんな素振り、全く見せないのに」


 ローラ先輩。貴方今、すっごい悪い顔してますよ。俺もびっくりって感じだが、こっくりさんに真意を暴露されてしまったクロエ先輩は、顔をうつむかせながら口を開いた。


 「べ、別に私はローラの事が嫌いなわけじゃないよ……私だってローラが先頭に立ってくれているおかげで自由にさせてもらってるし……か、感謝ぐらいはしてるよ」


 ローラ先輩の正体を知ってしまった後、俺の主目標はローラ先輩の攻略ではなく、一番先輩が三人のヒロインを攻略できるよう援護射撃をすることだ。それと同時に今まで歪な関係だったシャルロワ四姉妹の仲を修復させたかったのだが、クロエ先輩は大分ローラ先輩に対する印象が変わっていたようだ。

 まぁ元々表立って嫌っていたわけではなかったが、もしかしたらクリスマスパーティーでローラ先輩が身を挺してメルシナを庇ったことも影響しているのかもしれない。


 「デュフッww」


 まぁ隣の人には隠しきれないキモオタの部分を何とか隠してもらいたいところだが、何か結構良い形でこっくりさんは終わったように思えた、のだが……。



 「そういえば明星、お前また一番をローラに奪われたってことじゃね?」


 レギー先輩の何気ないその一言で、一番先輩の一番コンプレックスが発動してしまう。


 「お、俺はまたローラに負けたというのか……!? くそっ、俺だって頑張ってきたのにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!」


 と、一番先輩は悔しさを顕にしながら急に席から立ち上がって部室を飛び出してしまった。

 あの、まだこっくりさん終わってないんだけど……。


 「あ、行っちゃった。途中で抜け出すと呪い殺されちゃうのに」

 「彼なら大丈夫でしょう。きっと尿管結石ぐらいで済むはずよ」

 「それでもかなり痛い病なんですがそれは」


 一応残った俺達四人でこっくりさんに帰ってもらったが……一番先輩が不幸な目に合わないか心配だった。



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