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最後の一日編㉑ ビバ、青春。ビバ、オカルト。そう、オカルトは青春。



 「ビバ、青春。ビバ、オカルト。そう、オカルトは青春」


 十二月三十日は、そんなクロエ先輩の一日で始まった。

 とはいえオカルト趣味に没頭するクロエ先輩にも逃れられないものが一つ。


 「そして、青春といえば勉強……」


 そう、受験である。


 

 第三部の主人公やヒロインである一番先輩達は三年生、受験を間近に控えている受験生である。人生の大きな分岐点となるイベントが待ち受ける中、様々なトラブルが起き、その解決に奔走することになるのだが、受験を避けることは出来ない。


 「勉強、辛いよな。わかるぜ、クロエ……」

 「そうだよね、レギー……わからないことだらけで良いのはオカルトだけで十分なのに……」


 冬休み期間中、受験生を含めた生徒達のために今日まで自習室が解放されており、クロエ先輩、一番先輩、ローラ先輩、レギー先輩、そして俺の五人で自習室内の一角を陣取って受験勉強に励んでいた。いや俺はまだ受験生じゃないけど、なんか巻き込まれた。


 「どこの問題がわからないんだ?」

 「問3。下線部aについて、なぜクラムボンはモンゴリアンデスワームを見てカプカプ笑ったのでしょう? こんな問題、わかるわけがない」


 一体どこの大学の過去問にそんな問題が載ってるんだよ。

 すると、俺の隣に座って読書に勤しんでいるローラ先輩が口を開いた。


 「きっと初めて見たはずのモンゴリアンデスワームが沙羅双樹の花に似ていたからよ」


 俺は今、日本にいますか? モンゴリアンデスワームが沙羅双樹の花に出会う世界線なんてあるわけないだろ。

 一体何を問いたいのかまったくわからないが、参考書とにらめっこしていたレギー先輩が興味を持ったようで、クロエ先輩が問いている過去問を覗き見ていた。


 「いや、これはモンゴリアンデスワームに七人の徳川四天王を捧げたらエクゾディアが完成するからじゃね?」


 なんで四天王なのに七人もいちゃうんだよ。

 そろそろ一番先輩がツッコミを入れてくれるかと思ったタイミングで、クロエ先輩の隣に座る一番先輩が口を開いた。


 「直前まで聖杯戦争に参加していたクラムボンは、戦争終結後に会いに来てくれたモンゴリアンデスワームがかつて共に戦った友人のジャイアント馬場に似ていたから、彼と勘違いして喜んでいたんだ。それが解答例だな」


 ……頭が痛い。たまにエロゲのテキストを読んでいると世界観がぶっ飛んだギャグに遭遇することがあるが、まさかその世界観がそのまま現実になるとは思わなんだ。理解しようとすると頭がおかしくなってしまいそうだ。


 「ちなみにそれ、何の教科なんですか?」

 「倫理」

 「倫理!?」

 「そんな問題でつまづいているようじゃ、本番はかなり厳しいぞ」


 受験勉強として倫理を学ぶ人なんて初めて見たぞ。大丈夫かな、俺も来年には受験が待っているが、このネブスペ2世界の大学に進学することが出来るだろうか。



 一番先輩は都心の方にある誰もが知る国立の超名門大学を滑り止めなんていう逃げ道無し、背水の陣で挑むそうで、オカルト好きなクロエ先輩は都心の方にある女子大の文学部を目指しているそうだ。クロエ先輩も中々に癖のあるキャラだが、まぁ一応お嬢様だし大学でも上手くやるだろう。

 問題は、俺の隣にいる人で……。


 「あの、ローラ先輩」

 「何かしら?」

 「受験勉強、しなくていいんですか?」


 俺達の向かいで受験勉強に勤しむクロエ先輩と一番先輩、レギー先輩に対し、ローラ先輩は参考書や勉強道具を広げずに本を読んでいた。

 俺だってここに呼ばれたからちゃんと勉強してるのに、この人は何しにここに来たんだ。そう疑問に思っていると、ローラ先輩は涼しい顔をしながら言う。


 「私は留学する予定だから、アメリカやイギリスの大学に願書や必要書類は提出したわ。後は合格通知を待つだけね」

 「合格することは決定事項なんですね」

 

 そうか、もうこの人は国内に収まらないのか。海外だと九月入学が多いし入学試験がないところもあるが、それまでの成績や実績、場所によっては面接が合否に関わってくるのだ。

 この月ノ宮学園で常にトップであり続けてもそれはあくまで月ノ宮学園内という狭い世界での序列に過ぎないが、全国模試で余裕で一位を取っているようなお方だ。こう見えて。


 「良いよな、ローラ……お前はそんな余裕そうで」

 「あらレギー、貴方だってほぼ推薦で入学は決まってるのでしょう?」

 「それはあるけど、一応勉強もしないといけないだろ」


 夏場の舞台が成功を収めて以来、レギー先輩は所属する劇団で脚本や監督を任されつつ、着々と役者への道を突き進んでいる。レギー先輩が進学する映像系の専門学校の試験は面接だけとのことだが、律儀に勉強しているのがなんともレギー先輩らしい。

 すると、クロエ先輩がレギー先輩の腕をツンツンとつついた。


 「ねぇレギー。この問題に出てくる『スワッピング』って何?」

 

 スワッピング……スワッピング? え、そんなのが問題に出てくることある? 何の問題解いてるの?

 日常じゃあまり聞くことのない言葉だが、どうやらレギー先輩はその意味を知っているようでわかりやすくドギマギしていた。


 「そ、そそそそれは、えっとだな、えっと……」


 レギー先輩はかなり慌てているようで、俺の方を向いて助けを求めているようだった。

 ふむ。このまま眺めていよう。


 「この問題になっている物語の登場人物達はスワッピングを楽しんでいるみたいなんだけど、これって楽しいことなの?」

 「い、いや、オレはそうは思わない」


 純粋だねレギー先輩。そんな彼女の様子を見てローラ先輩も満足そうに笑っていたが、一方で一番先輩は溜息をつきながら口を開いた。


 「……いわば二組のカップルのパートナーを入れ替えるという意味だ。二組の夫婦が夫同士、あるいは妻同士、まぁ他にもパターンはあるだろうが、パートナーを入れ替えて関係を持つことだな」


 なんで一番先輩がそんなに詳しいのかよくわからないが、大方その通りである。すげぇざっくり説明すると相互NTRプレイみたいな感じである。ネブスペ2は宇宙に関する専門用語が結構出てくるからゲーム中に用語集があったりするが、なぜかスワッピングについてのページもあったのを覚えている。

 すると、ローラ先輩が言う。


 「例えば、私がクロエの代わりに明星君の恋人になり、クロエが私の代わりにこの青二才の恋人になるという風に、交換すればいいのね」

 「待て、俺はそもそもクロエと付き合ってないぞ」

 「ローラに一番は渡さない」

 「く、クロエ……?」


 ローラ先輩はあくまで冗談で言ったつもりのようだが、恋人関係にあることを否定する一番先輩に対し、クロエ先輩は何やら闘志をみなぎらせている様子。


 「あらクロエ、貴方は彼のことが好きなの?」


 ローラ先輩がからかうようにそう言うと、いつもはクールな雰囲気のクロエ先輩が頬を少々赤らめて、恥ずかしくなってしまったのか黙ってしまった。


 この……いつもはクール、いやクロエ先輩はどっちかって言うと電波系かもしれないが、普段はそういうことを意識していない女の子が自分の恋を自覚してしまう瞬間、たまらねぇぜ……。


 「デュフッww」


 なんか隣からキモオタの笑い声聞こえてきたんだけど。もしかしてローラ先輩も俺と同じような感性してるのか? 自分の発言がきっかけで恋を自覚したクロエたそ萌え~とか思ってる? それはそれでちょっと嫌なんだけど。

 半ば蚊帳の外にある一番先輩やレギー先輩はポカーンとしていたが、覚悟を決めたらしいクロエ先輩が席を立って言う。


 「わかった。ここはこっくりさんに聞いてみよう」


 まさかのオカルト頼み。まぁクロエ先輩らしいといえばクロエ先輩らしいか。


 「それは良いわね。ここじゃなんだから場所を変える?」

 「皆、オカ研の部室に集合ね。ここは白黒はっきり決めよう、私や明星君が本当は誰のことを好きなのか」


 何かクロエ先輩がローラ先輩にかなり対抗心を燃やしているようで、一番先輩も呆れた様子で溜息をついていた。

 そして一人、未だに戸惑った様子のレギー先輩が言う。


 「いや……受験勉強しようぜ?」


 一番まともな思考のレギー先輩の提案は却下され、俺達はオカルト研究部の部室へ戦場を変えて、こっくりさんを始めることとなった。

 


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