最後の一日編⑲ まるで本能寺みたいね
敵の襲撃を乗り切った一行は拠点を修復した後、敵から奪った車にしこたま爆弾を詰め込んで、先程襲撃してきた敵の拠点へ乗り込まんとしていた。
『え、デッカ……』
一行が目の当たりにしたのは、丘の上にそびえ立つ巨城。素材は錆びた鉄板や大きなパイプなどこの世界で拾えるアイテムが多いが、スチームパンクに出てきそうな立派な建築物だ。
『防壁にミニガンのタレットのようなものが設置されてますね』
『あそこだけ文明進み過ぎじゃない?』
『2◯世紀少年に出てきそう』
オライオン先輩達の拠点といえば、寝床やクラフト台や倉庫がまとめられた小さな建物を丈夫な防壁が囲っているぐらいでかなり小規模だ。
先程ダウンした三人もこの拠点に戻っているだろうから、三対五。しかも相手はあんなに立派な拠点に籠もっているのだ。
『こんなことならさっきの死体を車に磔にしとけばよかった……』
『いやそれでどうするの』
『相手に恐怖を感じさせて無血開城に持ち込むのです』
『絶対ないよそんなこと』
意気揚々と敵拠点を破壊しようとしていた一行は行き場を失いかけていたが、ここでオライオン先輩が閃いた。
『この丘の坂を全速力を走れば、防壁の上を飛び越えられるんじゃない?』
『ジャンプ台を設置するってこと?』
『あそこの大きな岩の裏にジャンプ台を作れば、確かに飛び越えられるかもしれませんね』
『よしっ、じゃあそれで行こう!』
丘の上にそびえ立つ巨城の側にある大きな岩の裏側は死角となっていて、一行はその岩の裏に車を停めると急ピッチでジャンプ台のクラフトを始めた。そんな上手くいくのだろうかと俺は不安に思っていたが本人達は本気のようで、ジャンプ台を設置し終えると助走のために丘の下まで降りていた。
『じゃあ、行くよー!』
『お達者で』
『御冥福をお祈りします』
『って、二人ともどうして降りたのー!?』
ほぼ自爆覚悟の突撃のため、碇先輩と銀脇先輩は車が助走を開始した直後にスッと車から降りてしまったため、オライオン先輩が一人で突撃する形となってしまった。しかしオライオン先輩はアクセルを踏んだまま猛スピードで坂を登り、ジャンプ台で一気に空へと羽ばたいた。
『いけええええええええええええっ!』
オライオン先輩の目論見通り、車は敵拠点の防壁の上を飛び越えて内部に侵入した。オライオン先輩の空からの侵入に相手プレイヤーも驚いていたようだが、彼らからの迎撃やオートタレットからの攻撃を躱しながら、そのまま巨城の中心部へと突っ込み──。
『ポチッとな』
安全地帯にいた銀脇先輩が、車に満載された爆弾の起動スイッチを押した。
『ああああああああああああああああああああああっ!?』
……爆発オチなんてサイテー。
「見事な爆発だったわね。ベラがあんな間抜けな叫び声をあげたと思うと面白いわ」
「原作とまんま一緒じゃねぇか、アンタの手のひらの上だろ」
「そうね、きっとこの後のことも」
オライオン先輩の突撃により敵拠点に壊滅的な被害を与えることに成功したが、残念ながらオライオン先輩は絶命して拠点にリスポーンしていた。そんな彼女を見捨てた碇先輩と銀脇先輩の二人が出迎える。
『いやー、あんな巨城が一瞬で爆散するなんてね。良い画が撮れたよ』
『あとで切り抜きましょう』
『にしても結構強かったよね、あの人達。もしかしてスコーピオンちゃんかな?』
『確かに一人、上手い動きの人いたね』
『最近はあの子にしてやれてばっかりだったし、なんかスッキリした! やーいやーい!』
『喜び方がガキンチョのそれ』
オライオン先輩は同じ配信者であるスコーピオンことシャウラ先輩のことをかなりライバル視している。中の人が同じ月学に通うシャウラ先輩とは未だに知らないだろうが。
さて、自分が倒した相手チームのリーダーをライバルのスコーピオンだと思いこんで煽りまくっていたオライオン先輩だが、配信画面の端に映るコメント欄がざわついていた。
『あ、オリオン。相手のリーダー、スコーピオンじゃないみたいですよ』
『へ?』
『今、巷で人気が急上昇しているアイドルユニットのチームだったそうです。ナーリアの妹分らしいですよ』
人気歌手のナーリア・ルシエンテスがプロデュースした五人組女性アイドルユニット、『Satellite』は、音楽番組だけでなくバラエティ番組でもよく見かけるようになった人気グループで、動画投稿サイトでも精力的に生放送で情報発信をしている。
オライオン先輩達は、図らずともそんな有名人達をボコボコにしてしまったと。
『あ、アイドル……?』
『すごいゲーム上手いね。しかもこんな短時間であれだけ装備整えるって相当手練れだよ』
『オリオン、貴方は彼女達が丹精込めて築き上げた巨城を木っ端微塵にしてしまったのです』
『あ、あわわ……』
相手は自分達よりも眩しい光が差し込む表舞台で活躍するアイドル達だ。そんな彼女達の生放送を台無しにしてしまったため、オライオン先輩は血の気が引いているようだが……ここで狂人スイッチが入ってしまう。
『い、いや! 私はアイドルだろうが大手事務所だろうが怖くないよ! 調子乗ってあんな悪目立ちする拠点を作ってるのが悪いんだよ!』
と、自分の行為を正当化しようとするオライオン先輩。ここは生き残りをかけたオープンワールドサバイバルの世界、アイドルだろうがなんだろうが関係ない。
『……流石にちょっとお詫びいれとかない?』
『で、でも勝負の世界だし、こんなこともあるよ』
『今、向こうの配信をチラッと見に行きましたが、一人泣いてる子がいましたね』
『うぐっ……』
狂人スイッチが入っていたオライオン先輩の中にまだ残っていた良心が痛みかけていたが、一度踏み込んだアクセルを緩めることは出来なかった。
『げ、ゲームくらいで泣いちゃダメだよ! 悔しいならゲームの中でやり返してみな!』
対戦ゲームで悔しい思いをしたなら、そのゲームの中でやり返してみろという意見はごもっともだと思うが……いくらゲームとはいえ相手を泣かせてしまったことに意地でも謝ろうとしないオライオン先輩に憤りを感じたのは相手方ではなく、相手方のリスナーであった……。
「良い燃え上がりっぷりね。まるで本能寺みたい」
配信の視聴者が急激に増えたかと思えば、Satelliteのファンと思しきリスナー達が押し寄せてきてオライオン先輩のリスナーとコメント欄で激しいバトルを繰り広げる中、Bustの配信は終わった。しかしSNS上に舞台を変えて双方のリスナー同士のバトルは続いており、ついにはトレンドに上がってくる始末。
配信者オリオンはゲームに熱が入ってしまうあまり時折狂人めいた行動や言動をとることがあるが、今回ばかりは敵に回した相手が悪くもあった。今頃スイッチが切れたオライオン先輩は大慌てだろう、ゲーム上での戦いとはいえ相手を泣かせてしまったのだから。
「いや、そんなこと言ってる場合かよ」
「大丈夫よ。一番がどうにかしてくれるわ。彼女は来年にバ美肉する予定だけど、それまでに落ち着いてると良いわね」
と、テレビの向こうで繰り広げられる舌戦を涼しい顔で眺めながらローラ先輩はココアを飲んでいた。ローラ先輩の口からバ美肉って言葉が出てくるの、なんだか面白い。
ま、まぁ原作通り一番先輩が解決してくれたら良いのだが……。
「それにしても、相手のアイドルグループってナーリアがプロデュースした設定だったんだな」
「アペンドで出そうと思ってたけれど、細かくは決めてなかったわね」
「これってナーリアさんに連絡取れば、こっちで解決できそうじゃね?」
「やめときなさい、一番の良いところがなくなってしまうわ」
すると、俺の携帯に突然通知が来た。画面を見るとシャウラ先輩がLIMEで『今、時間ありますか?』と連絡してきたようだ。
『はい、大丈夫ですよ。何かありました?』
『烏夜君はBustっていうゲームに興味ある?』
成程。シャウラ先輩も配信でBustをやるつもりなのか。今、ライバルのオライオン先輩がとんでもない炎上をしているとはつゆ知らず。
「なぁ、シャウラ先輩から一緒にBustやろうって来たんだけど、やっていいか?」
「え? 貴方、彼女と知り合いなの?」
「だって隣に住んでるって設定したの、アンタだろ」
「そういえばそうね。会いに行って良いかしら?」
「……怯えるだろうからやめとけ」
「それは残念」
実は俺もしれっとBustを買っていたため、すぐにシャウラ先輩と遊ぶことが出来る。あんな炎上した世界に足を踏み入れたくはないが。
「んじゃ、俺はこれからシャウラ先輩とBustやるから」
「そんなエー◯ックスやるみたいなノリで言わないでちょうだい。ずるいわよ貴方だけ」
「せっかくだし一緒にやるか?」
「喜んで、と言いたいところだけど、これからメルシナとキャッキャウフフする予定があるから、今日はお開きね」
メルシナとキャッキャウフフする予定って何だと俺は疑問に思っていたが、ローラ先輩は半ばウキウキした様子で帰ってしまった。
そしてその後、俺はシャウラ先輩と一緒にゲームで遊んでいたが……携帯で配信者オリオンことオライオン先輩の配信画面を気にしていた。
なんかトレンドに上がるぐらい炎上してるけど……本当に俺が何もしなくても解決するのだろうか……。
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