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最後の一日編⑮ 貴方に惹かれてしまったから



 ローラ先輩が原作者としてこの世界のシナリオに対して憤るのを宥めた後、彼女は落ち着きを取り戻してローラ先輩視点での俺の印象について話を続けた。


 「私は夏頃から段々貴方のことを怪しく思い始めていたけれど、確信を得たのは星河祭の直前ね。ほら、ベガがヴァイオリンコンクールで優勝したから、そのお祝いパーティーをしたでしょう? あの時、ローズダイヤモンドが咲いていた花壇の側で私と話したことを覚えてる?」

 「あのネブラミミズが住んでる花壇か。あれ、乙女が消えた直後のことで、俺は乙女の痕跡がどこかに残っていないか探してたんだよ。んで、あの花壇にあったブリキ缶の中に乙女の手紙が入ってたから、アンタが何か知ってるんじゃないかと思っていたんだ」


 アストレア邸近くにある古びた花壇にはローラ会長とスピカが育てていたローズダイヤモンドが咲いていたが、タイムカプセルらしきブリキ缶が埋められていた。俺はブリキ缶の中から乙女の手紙を発見したのだが、結局あの場所が乙女とどう関係があったのかはわからずじまいだ。

 そしてもう一つ、ブリキ缶の中に入っていたものがある。


 「あのブリキ缶の中に、一枚のメモが入っていたでしょう? 『私達の居場所はどこ?』って。あの時、私はその意味は何かと貴方に聞いたけれど、どう答えたか覚えてる?」

 「……Nebula's(ネブラズ) Space(スペース)

 「そう。烏夜朧からそんな言葉が偶然出てくるとは思えなかったから、私はほぼほぼ確信したのよ。貴方がネブスペ2というゲームについて何かしら知っているということを」


 俺はちょっとしたお遊びで答えたつもりだったが、それが功を奏したのだろうか。確かにそんな単語、日常生活じゃ出てこないだろうけど。


 「結局、あのブリキ缶の中に入ってたメモと乙女の手紙って何だったんだ?」

 「没データじゃないかしら。私が考えてたアペンドで追加する予定だった要素ね。あのメモは初代ネブスペのヒロイン、ブルーが書いたって設定だったし、実は朽野乙女とエレオノラ・シャルロワに親交がありましたっていうイベントも追加する予定だったもの」

 「え、じゃあアンタって乙女と関わりあるのか?」

 「この世界ではないわね。私は大好きだけど」


 『私達の居場所はどこ?』という言葉はこの世界の八年前の月ノ宮を舞台として初代ネブスペでよく出てくるフレーズだ。それがNebula's(ネブラズ) Space(スペース)という言葉にも絡んでくるのだが、そういう世界もあったかもしれないということか。


 まさか一ヶ月前から正体がバレかけていたとは思わなかったが、ともすればローラ先輩はあの日……星河祭当日、どうして俺に告白したのか。どうしてわざわざ原作とは違う行動を自らとったのか。


 「じゃあ、アンタが星河祭の日に一番先輩じゃなくて俺に告白したのは、俺が転生者かもしれないって疑っていたからか?」


 俺がそう聞くと、隣に立って星空を眺めていたローラ先輩は、俺の方を向いてニコッと微笑むと、スッと体を俺に寄せてきた。



 「私が貴方に惹かれてしまったから。そんな理由じゃダメかしら?」



 ……。

 ……何その、ずるい答え。惚れてまうやろー!!って叫びたくなったんだけど、体中鳥肌がヤバい。

 ローラ先輩の不意打ちに動揺しまくっている俺を見て、彼女は子どものように無邪気に笑っていた。


 「貴方も随分とチョロいのね。それでよくベガと付き合おうと決心できたわね」

 「俺だってかなり迷ったよ……やめてくれ、俺をからかうのは」


 俺はローラ先輩に苦しめられたこともあったのに、こんなたったの一言で惑わされてしまうようではダメだ。中身も相当変人のはずなのに。

 結局、ローラ先輩が俺を選んだのは、本当に惚れたからなのだろうか……そこに何かしらの策略があったのか気になったが、今は聞かないでおこうと決めた。


 

 「ネブスペ2が終わるまで、あと三ヶ月ちょっとね。貴方は今後どういう風に進んでいくと思う?」

 「俺がアンタに告白されて交際を始めることになるのは想定外だったが、一番先輩は他三人のヒロインと仲良くやっていたから、あわゆくばハーレムルートに行ってくれないかと思っていたよ。

  俺としてはその方が助かるんだが、アンタはどう思う?」


 あんな真面目で堅物な一番先輩がハーレムを築く、ていうか三股する姿が全く想像できない。それも原作者にとっては解釈違いなのかと思ったが、ローラ先輩は俺にグッとサムズアップを見せて笑顔で口を開いた。


 「私も見てみたいわ、彼がローザ、クロエ、ベラの三人を侍らかしている姿を!」


 いやアンタは一番先輩をどうしたいんだよ。


 「でもどうなんだ? 原作だと嫉妬の炎に狂ったローラ先輩がありえないぐらいバッドエンドに突き落としてくるだろうが」

 「残念でした、私はそんなに嫉妬深くないわ。大体、今は貴方と付き合っているのにどうしてローザ達を嫉妬しないといけないの?」

 「それもそうか」

 「皆で彼の背中をガンガン押していきましょう。一番がどう対処するのか、とても気になるわ」


 ローラ先輩は何やら悪いことを企んでいそうだが、彼女と共同戦線を張ることが出来るのはかなり大きい。俺も一番先輩とは関わりがあるとはいえ、やはり同級生であり同じ生徒会に所属していた仲でもあるから、ローラ先輩の方が一番先輩の周りのことに干渉しやすいだろう。



 その後、夜も大分遅くなっていたのでそろそろ帰ろうかという時、俺はテーブルの上に置かれた一本の瓶に気づいた。とても飲料とは思えないどす黒い液体……これは月ノ宮名産の栄養ドリンク、ダークマター☆スペシャルだ。


 「そういえばこれ、夢那が買ってくれたやつだろ? 飲まないのか?」

 「今はそんな気分じゃないわ。私は常日頃健康に気をつけているから、そもそも飲む必要なんてないわ」


 と、ローラ先輩は妙に早口で答えた。いつもクールなローラ先輩が珍しく落ち着かない様子に見える。

 ははーん。さては飲んだことないんだな。そう思って、俺はちょっと悪いことを考えた。


 「俺は何度か飲まされたが、アンタは飲めないのか? そもそもこのドリンクも考案したのも原作者のアンタってことだろ? なのに飲めないってことはないよなー?」


 俺だってこのドリンクは飲みたくない代物だが、今まで物語の展開の都合上何度も飲まされてきたんだ。

 それの鬱憤を晴らしたいというわけではないが、単純にローラ先輩がこのドリンクを飲んだらどうなるのか、かなり気になるのだ。

 そして俺に煽られたローラ先輩は唇を噛み締めて悔しそうにしていたが、テーブルの上に置いてあったダークマター☆スペシャルが入った瓶を掴んだ。


 「えぇ、良いわよ。そう、私はこのネブスペ2を作り上げたおでんちゃん。こんなドリンクごとき、全然怖くないわ」


 いやメチャクチャ声震えてるように聞こえるし、瓶を握るローラ先輩の手も震えてる。

 何だかちょっと可哀想だが、自分で作ったものなんだから責任はとれ。


 「いくわよっ」


 そう言ってローラ先輩は一気にダークマター☆スペシャルを飲み干した。中々の飲みっぷりだったが、ローラ先輩は真顔で硬直した後……段々と顔が青白くなっていった。


 「あの、ローラ先輩?」

 「……な、なんてことはないわ、うぐぅ……」


 これはダメそうだ。


 「はぁ、はぁっ……! あ、貴方、よくこんなものを今まで飲めていたわね……」

 「いや毎度のように意識は飛んでいくけどな。そうやって立っていられるだけで、アンタは十分立派だよ」

 「えぇ、私はエレオノラ・シャルロワだもの……う、うぅ……」

 「……ちなみにアンタは、どういう味を想定してたんだ?」

 「うぅ……あらゆる種類の野菜と山菜と漢方薬を全部ごちゃ混ぜにして……それにヤ◯ルトとかR‐◯とかモ◯エナとか色んなドリンクを混ぜて、最後に泥水を加えた味……」

 「泥水で全部台無しだろうが」


 こんな状態のローラ先輩をおいて別荘を出るのも躊躇われたが、ダークマター☆スペシャルの衝撃的な味に苦しんでいるローラ先輩の姿を見ていると変な性癖に目覚めそうだったため、今日のところはさっさと退散させてもらった。


 気づけばもう年末、二〇一六年が刻一刻と近づくということはローラ先輩達の受験本番を迎えるということであり……第三部も佳境を迎えるタイミングになろうとしていた。



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