最後の一日編⑭ やはり恐ろしい魔女
俺とローラ先輩はずっとソファに座って話していたが、気分転換にと窓際へと向かい、大きなガラス越しに月ノ宮の夜空を望む。
第三部の始まりである星河祭の日に観測されたネブラ彗星は、あの時程の輝きこそ失っているが、今も肉眼で捉えることが出来るぐらい夜空で際立つ存在だ。
「どう、綺麗だと思わない? あのネブラ彗星」
「綺麗っていうか、すげぇって印象しか残ってないな」
前世で彗星ってものを生で見たかは覚えていないが、あの星河祭の日に生徒会室でローラ先輩と一緒に見たあの輝きは今後一生忘れることはないだろう。まるで昼間になったぐらいの輝きだ、きっと千年とか二千年前に生きた人類はこの世の終わりだとか神が降臨しただとか大騒ぎするだろう。
「ちなみに、あの輝き具合はアンタの想定通りなのか?」
「えぇ、勿論。ゲームの中なんだし、あれぐらい光ってる方が面白いでしょ?」
そう言いながら無邪気に微笑むローラ先輩を見ていると、前世できっとウキウキしながらネブラ彗星とかの設定を練っていたんだろうなぁと想像に容易い。
「元から宇宙が好きだったのか?」
「それもあったし、SFみたいな世界観を作りたかったってのもあったというのもあるわね。出来ることならシューティングアクションの要素も入れたゲームを作りたかったけれど、ウチの会社の技術じゃ難しかったから。
エレオノラ・シャルロワも星が好きという設定だし……やっぱり、こうして星空を眺めていると幾分か気分が晴れる気がするわ」
色々と考え込んでしまう夜もあるだろうが、そういう時にふと星空を眺めていると、自分はなんて小さな存在なんだろうと、なんて小さなことで悩んでいるのだろうと思い知らされる。実際にこの月ノ宮のモデルとなった地域がどれだけ星空が綺麗かは知らないが、このネブスペ2の世界でこれだけの綺麗な星空が見られる環境にしてくれたのはありがたい。
「我ながら、綺麗な星空だと思うわ。前世でも見たことがあるけれど、人生においてこんな星空を一度でも見たことがあるかないかでも、全然違うものになると思うの」
「エレオノラ・シャルロワの人生も違うものになったか?」
「勿論例外もあるわ」
実際にこれだけの綺麗な星空を見ることが出来る環境なんて、都心などの人口密集地から離れた、余計な光の少ない場所に限られるだろう。やはり人里離れた田舎というイメージになるが、都市部での生活と比べると一長一短あるものだ。
宇宙に詳しいからといって、確かに常識程度の知識は必要かもしれないが、それが社会で役に立つことなど殆どない。ロマンチックな神話なんかを交えれば話のネタとして使えるぐらいで、こんなに綺麗な星空を見たことがないまま大人になった人もいるはずだ。
その経験があれば今後の人生に有利に働くわけでもない。しかし、その時に体で感じ取った感動が、何かを突き動かす原動力になることもある。俺の隣に立っている変人が、そういう類の人間だったのかもしれない。
なんて星空を眺めながら俺が思いを馳せていると、隣で同じく星空を眺めていたローラ先輩が口を開いた。
「折角こうしてお互いの正体がわかったのだから、何か協力できることがあれば助け合いましょう。まだ第三部は終わったわけじゃないんだし。
そういえば貴方の正体って、貴方の妹やテミス・アストレアも知っているのよね?」
「あぁ。あと初代ネブスペのヒロインのミールさんとか」
「それはまたレアなヒロインと会えたものね」
ミールさんって原作者視点でもレアなのか。今は霊山の奥で生活しているとかいう仙人みたいな設定を持っていたし、それも彼女の頭の中の構想にあったことなのだろう。
「まさか貴方がミネルヴァ・ローウェルと関わりがあるとは思わなかったけれど、確かにテミスとの関わりを考えるとあり得る話ではあるのね。
どうして彼女に自分の正体を明かそうと思ったの?」
「いや、俺の方から明かそうとしたわけじゃなくて、あの人の占いを受けたら看破されたんだよ」
「あら、貴方もだったのね。私もよ」
「え、アンタも!?」
月ノ宮の魔女ことテミス・アストレアは俺を見ただけで死期が近いと気づいて、そして占いの末に俺の正体を看破した半ば超能力者のような人だ。俺に襲いかかる数々のピンチを救ってくれた恩人だが、そんなテミスさんなら確かにローラ先輩の正体も暴けるだろう。
「とはいっても、彼女の占いを受けたのは最近の話。愛してるゲームとか山手線ゲームとか、とても占いとは思えない方法だったけれど、それも彼女らしいわね。私は設定上テミス・アストレアを超能力者にしたつもりはなかったけれど、まさか私の前世のことがバレるとは思っていなかったわ」
「それっていつ頃の話ですか?」
「前にノザクロで私と貴方とテミスの三人で一緒に占いをしたでしょう? あの後、二人で色々込み入った話をしたのよ」
「その時、テミスさんから俺の話って聞きました?」
「いえ、それは全く」
そうだ、ローラ先輩に軽く声をかけたらノザクロに連れて行かれ、そこでテミスさんとマジカルバナナっぽい占いをさせられたんだった。あの時のローラ先輩はテミスさんのキラーパスをさらに超えるような答えをしてくるもんだから、俺はかなり困っていたものだ。
「……じゃああの時のぶっ飛んだ回答は、アンタの素の回答だったってわけか?」
「そうとも言えなくはないわね」
「……ぬるぽ」
「ガッ」
「アンタってノリ良いんだな。それはそれとして、条件反射で答えられるなら中々の古のインターネット老人だな?」
「さぁ、知らないわね。でもネブスペ2のトゥルーエンドのラストでしれっと私も原作者として登場しようと思ってたわ」
「なんで私ちゃんがー!?」
「そうそんな感じ」
実際にそんなことをやられてたら俺はネブスペ2を売りに行っていたかもしれないな。
「ちなみに、アンタは俺の正体にいつ頃から勘づいてたんだ? アンタ視点だと俺の行動ってかなりおかしかっただろ?」
「そうね、確かに烏夜朧とは思えない行動ばかりとっていたけれど、実際に怪しく思い始めたのは七夕ぐらいの時期ね。どうしてわざわざアルタの事故が起こる現場に向かおうとしているのか不思議に思って、私もついていったわ。案の定貴方は崖下に落ちていたけれど……大した度胸ね」
「俺もまさかベガが事故に遭うとは思ってなかったよ。あの時は救急車呼んでくれてありがとな。でもあの時、アンタはあんな辺鄙な場所で何をしてたんだ?」
「噂の殺人鬼さんを探し回っていただけよ。あまりお祭りにも興味はなかったから」
ローラ先輩に前世の記憶が備わっていたなら、あの七夕の日のローラ先輩の行動も納得がいく。きっとローラ先輩にとっては俺が月ノ宮神社を離れてアルタとベガの待ち合わせ場所に向かっているのも大分奇妙な行動に思えただろうし、俺にとってもローラ先輩が月ノ宮神社ではなく月見山の裏手にいるのも今考えると不思議に思える。
あの時、俺は大星から月見山に潜むという殺人鬼の噂を聞いて、胸騒ぎを覚えて現場へ急行したはずだ。そして俺を見かけて疑問に思ったローラ先輩は、俺がベガを庇って崖下に落ちているところを発見して、救急車を呼んでくれたと……アルタもバイトで遅れていたから、もしもおでんちゃんがローラ先輩に転生してなかったら、助けが遅れていた可能性もあったのか。
「まさかアルタの代わりに貴方が記憶喪失になるとは思わなかったし、ベガやワキアと手籠めにしていっちゃうものだから、私は困ったわ。ベガやワキア、それにルナが貴方のことを好きになるなんて解釈違いも甚だしいわ」
「そんなに!?」
「第一部の大星に対しては特に何も思ってないけど、アルタはあんな境遇でも毎日のようにアルバイトでお金を稼いでロケットを作ってるのよ!? それに対して烏夜朧なんてただただ女を口説くことが趣味の変人じゃない!」
すげぇ急にキレるじゃんこの人。原作者が解釈違いでキレることあるんだ、俺が二次創作したわけでもないのに。
「いや仕方ないだろ、俺は夏休みの間ずっと記憶喪失だったんだぞ。俺の前世の記憶がすっ飛んだ素の状態で朧がモテるんだったら、朧をそういうキャラ付けにしたアンタが悪いだろ」
「だって、そんなこと想定していないもの!」
「ちなみにキルケルートに入ったのはどう思ってるんだ?」
「何か初々しい二人を見られた満足しているわ!」
「それは良いのかよ」
俺は大分烏夜朧に同化してる、というか前世の俺の存在が烏夜朧の殆どを形成してしまっているが、ローラ先輩は本来のエレオノラ・シャルロワの人格とおでんちゃんの人格の二つが残っているように見える。
大分辛いことばかり経験してきただろうが、それでもネブスペ2を愛する気持ちを持っていて良かった……烏夜朧は愛されてなかっただろうけど。
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