最後の一日編② 私の恋人を発表します
シャルロワ家主催のクリスマスパーティーは、葉室市郊外の遊園地の側に立地しているシャルロワ財閥系の高級ホテルで行われていた。
参加者は全員ドレスコードが必要とかいう、俺みたいな庶民にとってはちょっと敷居が高すぎる環境だが、精一杯おめかしして俺は会場入りした。
「あ、朧お兄様!」
ホテルのエントランスまでシャルロワ家の車で送ってもらった俺は降り立った瞬間から緊張しっぱなしだったが、俺のことを待ってくれていたらしいメルシナが笑顔で手を振りながら出迎えてくれた。
「あぁ良かった、知ってる人がいて。僕はこういう場所が初めてだからすっかり緊張しちゃってるよ」
「大丈夫ですって、朧お兄様。そのスーツ、お似合いですよ」
「ありがとう」
メルシナはオレンジを基調とした綺羅びやかなドレスを着ていて、いつもは幼気な印象を感じさせる彼女が、いつもより大人の女性になったように見えた。俺はスーツに着させられている感満載だが、メルシナはちゃんと着こなしている。
メルシナに案内されてホテルの中を進んで会場へ向かうと、何やら政財界の重鎮っぽい人達がガヤガヤと集まっており、綺羅びやかな会場のテーブルには高級レストランかのような食器なども用意されていて、どうして自分がこんな場所にいるのだろうと甚だ疑問に感じたが、知り合いの顔を見つけて彼らが座っているテーブルへと向かった。
「どうもこんにちは、先輩方」
俺はロザリア先輩、クロエ先輩、オライオン先輩、そして一番先輩の四人に挨拶をした。
「あら、ローラの金魚のフンじゃない。馬子にも衣装ね」
「ロザリア先輩のドレス、色っぽくて素敵ですね」
「褒めてもケーキぐらいしか出ないわよ」
ロザリア先輩のドレス、背中丸見えなんだけど。確か原作で一番先輩が「それ寒くないのか?」って真顔で聞いてたやつだ。
一方でロザリア先輩の隣に立つクロエ先輩が口を開く。
「今日は何しに来たの? ビンゴ大会?」
「ビンゴ大会あるんですか!?」
「優勝賞品は二泊三日ドバイの旅行券だから」
こんな格式高そうなパーティーでもビンゴ大会とかやるんだ。優勝賞品はレベル高いけど。
なおいつもはオカルトにうるさいクロエ先輩だが、黒いドレスを着て化粧をすると別人かってぐらい雰囲気が違う。
そして側には、赤いドレスに長い金髪がよく映えるオライオン先輩の姿が。
「烏夜君も社交界デビューってわけだね。ダンスは踊れる?」
「ソーラン節とどじょうすくいとゲッダンぐらいしか……」
「ゲッダン踊れるの!?」
「オライオン先輩もご存知なんですか?」
「あぁいや、ししし知らないけど」
もしあの曲がかかったら俺のキレッキレのダンスを見せてやるよ。
オライオン先輩のドレスにはスリットが入っていて、チラチラと真っ白な太ももが見えてヤバい。
「んで一番先輩はスーツメチャクチャ似合いますね。インテリヤ◯ザっぽいです」
「それ褒めてないだろ。俺は鉄砲玉でもいけるぞ」
「いや出来なくても良いんですよそれは」
一番先輩は元々の雰囲気が学生ってよりかはお役所勤めの公務員感が強いから、スーツを着ても全然違和感がない。結構身長も高いからスーツ姿も映えるなぁ。
「烏夜君は確かこのパーティーに来るのは初めてだよね?」
「はい、そうですね。何か決まった作法とかありますか?」
「息を吸う時は右の鼻の穴からね。これシャルロワ家の家訓だから」
「ふんっ、ふがっ……いやどうやってコントロールするんですか!?」
「それはクロエの冗談だからスルーしなさい。別に普通のパーティーよ」
いやどう見ても会場は普通じゃないんだよ、このパーティー。俺は大星達と誕生日パーティーとかやって来たけど、こういうのってドラマとか映画でたまにみる政治家のパーティーの雰囲気だぞ。でもシャルロワ家ってそらぐらいヒエラルキーのトップにはいるか。
「安心しろ烏夜、俺だって初めてだ」
「あ、そうなんですか? なんか意外ですね」
「メルが声をかけるまで子犬みたいな表情で震えてたもの」
「だってテレビやニュースで見るような政財界の重鎮がぞろぞろといれば、そりゃ震えるだろ!」
「大丈夫ですよ、皆メルには優しい方々ですから」
そもそも一番先輩がローラ先輩と知り合ったのは月学に入ってからだったが、確かローラ先輩に誘われても今まで来たことないんだっけか。まぁ一番先輩のプライドをズタズタにしたわけだし、そんな相手から誘われても行こうとはしないだろう。
すると俺達が座っているテーブルの方へやって来る女の子が一人。こんな会場にはちょっと似合わないと言うか完全に場違いのように思える、青い髪のツインテールで、シックというかエレガントな雰囲気の紺色のドレスを来た幼い女の子が笑顔でやって来た。
「やぁやぁ一番、それに烏夜君。君達もそんなに緊張することがあるんだねぇ」
彼女のことを知っている俺や一番先輩、ロザリア先輩は苦笑いしていたが、彼女が何者かを知らないクロエ先輩やオライオン先輩、メルシナは困惑した表情を浮かべていた。
「えっと、明星君。この子とお知り合い? 妹さん?」
「あ、あぁこの人は……」
「じゃあここでシロちゃんク~イズ!」
「え?」
でた、いつもの。
「次の七つの選択肢の内、私の肩書はどれでしょ~?
一、月ノ宮の町長。
二、葉室の市長。
三、迷子の小学生。
四、妖精。
五、妖怪。
六、月ノ宮学園の理事長。
七、そんなことよりお腹が空いたよ」
七番目の選択肢は完全にネタ選択肢だろ。しかも前回よりさらに選択肢増えてるし。
「ま、迷子の小学生っぽいですけど、もしかして妖精さん……?」
「私にはどう見ても迷子の小学生にしか見えないけれど……」
「これは妖怪ロリコンホイホイだね」
怖いだろそんな妖怪。警察が雇えば少しは治安良くなりそうだけど。
「ぶっぶ~。正解は六、月ノ宮学園の理事長なのでした~。というわけで私は小金沢シロだよ」
「え、お会いしたことありましたっけ?」
「オライオンさん家のお嬢さんとは無いかな~」
「メルより年上なんですか?」
「ちっちっち。お嬢ちゃん、レディーの年齢を知ろうだなんて百年早いよ」
「でも滅多に現れない未確認生命体なら殆ど妖怪みたいなものだと思う」
「誰が妖怪じゃー!」
まぁ見た目はどっかの重鎮さんの孫娘かなという感じの人だが、シャルロワ財閥が運営する月ノ宮学園の理事長として長く勤めている人だし、普通にゲストとして呼ばれたのだろう。
「いやーにしても今日は豪華な面々ばっかりだねー。当主としてのローラちゃんが開く初めてのパーティーだから、その挨拶も兼ねてるんだろうね。
どんなご飯を食べさせてくれるのか楽しみだなー」
「ご飯が目的ですかいな」
「せっかくだし天然鯛とか食べたいなー」
こんなシロちゃんが政財界の重鎮達に対して顔が広いってのも意外過ぎるけど、そういう人達がシロちゃんと一緒にいるだけで変な噂されそうで可哀想だ。
なんて感じでシロちゃんや先輩方と談笑していると、司会を勤めているらしい男性がマイクを握って進行を始めた。ガヤガヤしていた会場はすぐに静まり返り、そして壇上に一人の少女が上がった。
「本日は年の瀬の忙しい中、当家のパーティーにご臨席くださいまして、まことにありがたく、厚くお礼申し上げます」
黒いドレスに身を包んで長い銀髪を煌めかせるローラ先輩が、シャルロワ家の現当主として挨拶していた。
改めて、俺は本当にこんな人と付き合っているのかと疑いたくなってしまう。
「ただいまご紹介にあずかりました、シャルロワ家の大エースことエレオノラ・シャルロワです。私の夢は一試合で完全試合とサイクルヒットを同時に達成することです」
当主と投手をかけた小粋なネタでローラ先輩が会場の笑いを誘う。本人はしれっと二刀流やろうとしてるけど。
「ご来賓の皆様には、平素より多岐にわたるご支援をたまわり……」
と、壇上に立つローラ先輩は小粋なジョークも混ぜながら、シャルロワ財閥のこれまでの歴史や日本・世界経済の景況について説明しながら、シャルロワ家の投手、いや当主としての決意や覚悟をパーティーの参加者達に伝えていた。
ローラ先輩は俺より年上だが、いうて一個上というだけで同年代。しかも俺には前世の分もあるからローラ先輩より一回りも二回りも人生経験はあるはずなのだが、こんな場でスピーチなんて出来そうにない。
やはり、俺とは全然違う世界で生きているんだなと感じさせられる。
「……ではここで乾杯に移らせていただきたいところなのですが、誠に僭越ながらこの場をお借りして、私の恋人を紹介したく存じます」
へ?
恋人を紹介?
何かの聞き間違いかと思ったが、ロザリア先輩や一番先輩達が一斉に俺の方を見たので、どうやら聞き間違いではないようだ。
「私は現在、将来的な婚約を前提にお付き合いしている方がいます。まだ学生の身ではありますが、当家の当主として忙しい私を支えてくれる素敵な方です。
そして今日、この会場にも来ております」
そう言ってローラ先輩は壇上から俺の方をジッと見つめてきた。よく俺のことを見つけたな。
会場内はざわついていたが、ローラ先輩は無言で俺に立てと言っているような気がしたので、俺は席を立って会釈した。
そういえば……俺との婚約をパーティーで発表するとかローラ先輩は言ってたっけ。あれ冗談じゃなかったのかよ。
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