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もっとご褒美を



 運命の日まで後三日。明日に終業式を控えた今日、俺は久々にアストレア邸を訪れていた。


 「朧って、もしかしてウチのママとデキてるの?」


 玄関でスピカは俺を明るく迎えてくれたが、ムギはいきなりぶっ飛んだ言葉を俺にぶつけてきた。それを聞いたスピカはアワアワと動揺した様子で言う。


 「そ、そうなんですか朧さん!?」

 「いやいやいやいや、そんなことは絶対にないから。ムギちゃんはなんでそう思ったの?」

 「だって朧ったらさ、私達に目もくれずにママと話に行くじゃん。しかも私達に隠れて、密室で……なんだかイケナイことをしてる予感がしたんだよ」

 「いややってないよ!」


 昨日の件もありネブスペ2のキャラに対してこの世界の真実を伝えることにリスクを感じているが、スピカとムギの二人に伝えたらどんな反応をするのだろうと気になるところはある。

 そんな好奇心はさておき、遅れてテミスさんが帰宅したところで俺はいつも通りテミスさんの部屋へと招かれた。



 「バグ、ね……」


 昨日、釈放されたトニーさんが俺の目の前で消えてしまった件についてテミスさんに説明すると、今までに見たことのないような深刻そうな面持ちでテミスさんは呟いた。


 「私は自分が創作上のキャラだなんていう自覚はないけれど、彼はそれに気づいた、いやそう動かされた……少し信じがたい話だけど、ボロー君視点では確かに事実なのよね」


 勿論テミスさんもトニーさんのことは覚えていないし、彼を右腕として信頼していた望さんすら忘れていて、全く違う人物が月研の副所長にすり替わっていた。


 「僕が知っているゲームでは本来起きないことが立て続けに起きた場合、それがバグとして認識されて世界から消えるというなら、僕が真っ先に消されるはずなんです。原因は僕にありますから」


 ネブスペ2原作では描写されない裏でそれぞれのキャラがどういう風に動いていたかはわからない。俺達は人間としてこの現実を生きているため、起きては寝ての繰り返しの毎日の中で、学校に行ったり職場に出勤したり、休日には友人達とどこかへ出かけたりと、必ず何かしらの行動を取っているのだ。

 だがゲームにしろドラマにしろ漫画にしろ、登場人物達の生活が描写されるのはほんの一部で、物語を動かすのに必要な場面しか描かれない。全てを描いていてはどれだけ尺があっても足りないため、一部の描写で見ている側に想像させるしかない。


 きっと原作の烏夜朧は、皆がドン引きするほど毎日のように女性を口説いては三日ももたない恋を繰り返していただろう。俺は第一部でスピカ、ムギ、レギー先輩の三人のイベントを回収したが、原作ではきっとそんなことはしていないはずだ。俺が意図したわけではないが、俺の前世の知識が世界の円滑な進行を妨げているような気がしなくもない。

 

 やはり、あの日──乙女が月ノ宮を去った日から、この世界の歯車は狂い始めていたのだ。



 「じゃあやっぱりボロー君は死んだ方が良いんじゃないの?」

 「あ、これ僕が殺される展開ですか?」

 「冗談よ。そうねぇ……もうすぐ死んじゃうんだし、それなら私と良いことしない?って妖艶に誘う方がエロゲっぽいかしら?」

 「別にテミスさんがエロゲ的な展開を考えて用意しなくてもいいんですよ」


 実際にネブスペ2の主人公達である大星達の夢の中に登場したテミスさんが一緒にお風呂に入ってくるなんていうイベントもあるが、流石にテミスさんがアペンドとかでルートが用意されるとは思えない。いやおまけでも用意されていたらちょっと嬉しいかもしれない。その時はスピカとムギが義理の娘になるけど。


 「あ、ボロー君ったら今、私と添い遂げるのもアリって想像してたわね?」

 「いやしてないですしてないです」

 「残念だけど私は身も心もあの人に捧げているのよ。未亡人を簡単に籠絡できるとは思わないことね!」

 

 こんなウッキウキな未亡人がいるかよ。未亡人を攻略するってなると、それはまた別ジャンルのエロゲになるんだよ。ちょっと気になるけど。


 「ちなみにボロー君は、最後ぐらい誰かとセ◯クスしたいとか思わないの?」

 「テミスさんが良いです」

 「私に竿を突っ込みたいだなんて、一週間ぐらい早いわ」

 「いやもう陥落寸前じゃないですか」

 「冗談よ。地球からアンドロメダ銀河ぐらいへの距離ぐらい早いわ」


 地球からアンドロメダ銀河までの距離ってなると、二百万光年以上は離れてるじゃねぇか。


 「それはさておき、私はクリスマスが近づけば近づくほどボロー君が自暴自棄になるんじゃないかって少し想像してたけど、ボロー君ってびっくりするぐらい冷静じゃない。後三日で死ぬだなんて信じられないわ」


 十二月二十四日、烏夜朧はメルシナ・シャルロワを庇って死んでしまう。

 俺の中では、そのイベントで俺が死ぬ確率は半々ぐらいだと思っている。今までの俺の努力……それを努力と呼べるのかわからないが、これだけ原作とシナリオが変わっていたら結果も変わるかもしれない。

 むしろ、本当に怖いのは俺が生き残ってしまった先の未来の話だ。本来烏夜朧が存在しないはずの世界に彼が存在してしまったらどうなるのだろう? 烏夜朧どころかこの世界がバグで滅亡しかねない。


 「そりゃ、僕だって転生したことに気づいた時から怖かったですよ」


 しかも烏夜朧が唯一生存するトゥルーエンドへのフラグが完全に折れた状態でのスタートだ。だからこそ最低条件である朽野乙女を月ノ宮へ引き戻したかったのだが、彼女も消えてしまった。

 それでも、俺ががむしゃらに頑張ってこれたのは──。


 「でも、僕は皆のことが好きなんです。このゲームも、このゲームの世界に生きる皆のことも。

  だから、誰にも不幸になってほしくないんです」


 自分がかつてプレイしたエロゲの世界に転生したことに気づいた時は、どれだけ心が踊り、そして絶望したことだろう。

 最初は、半年後に迫る自分の死という運命を回避するために奔走していた。しかしこの世界で実際に生きてネブスペ2の登場人物達と交流していく内に、いつしか彼らのために俺は頑張っていた。それこそ、誰かのためならこの命を投げ捨てても良いと思うぐらいに。

 もし夢那がいなかったら、俺はもう生きる道を探そうともしなかったかもしれない。だが夢那がいてくれるからこそ、俺は……生きていたいと思えるのだ。


 「大胆な告白ね」


 俺はちょっと良いことを言ったつもりだったのだが、テミスさんに軽く笑い飛ばされてしまった。


 「私だってボロー君のために色々してあげたいけれど、私の力じゃここまでが限界……でも少し気になるのは、ボロー君の前世のことね」

 「何か関係してますかね?」

 「もしかしたら、ボロー君は何かの任務でこの世界に送り込まれたエージェントかもしれないじゃない」

 

 流石にテミスさんの予測は映画の見過ぎと言えるぐらいだが、俺の前世は未だに謎の包まれている。以前テミスさん達の協力で俺の前世を探ろうとしてみたが、俺にかなりの負荷がかかってしまうために中止されている。


 「ま、私がボロー君の中の人のことについて気になるのは、占い師としての性かもしれないわね。貴方がどんな人生を歩んできたのか気になっちゃうんだもの。

  もしかしたら何かのヒントになるかもしれないし、少しやってみる?」

 「いえ、もしそれでテミスさんがバグで消えてしまったら悲しいですよ」

 「あら、嬉しいこと言ってくれるのね。大丈夫だわ、私はそんなものに負ける程ヤワじゃないわ」


 ゲームのシステムにすら勝つ自信があるのか、この人は。本気になったら自分でテミスルートとか作りそう。


 「でも、大事な日が近いボロー君に負担はかけたくないわね。もしもボロー君がクリスマスイヴを生き延びたら、お祝いにボロー君の前世を呼び戻す儀式をやりましょ」

 「それお祝いになりますか?」


 運命の日まで、後三日。いわばそれが俺の余命だ。

 生き残る、という結果では0点だ。俺の中では、そのイベントで朧が庇うメルシナも救い、その上で俺も生還し、他に死者も出ないという結果が満点だ。俺が生き残ったとしてもメルシナが死んでしまっては0点なのである。

 問題は……その場面に俺が直面した時に、ちゃんと体が動くかだ。


 「案ずることはないわ」


 すると、テミスさんは席から立ち上がって俺の側まで来ると、普段はローブに隠れて目立たない豊満な胸を俺の顔に押し付けて力強く抱きしめてきた。


 「私の占いだって完全というわけじゃないわ。勿論外れることだってあるし、私に見えた未来を変えることだって出来るのよ。

  この世界の、たった一つの希望……ボロー君なら、きっと乗り越えられるわ」


 ……。

 ……やわらかっ。

 じゃないじゃない。やわらか……待て待て待て待て、ダメだ、全然テミスさんの話が頭に入ってこねぇ! 頭が完全にパフパフで支配されてしまう!


 「フフ、効果てきめんのようね。ボロー君の走馬灯はきっと、私の胸の中で興奮している光景しか映らないはずよ」

 

 嫌だよこんな走馬灯。いやむしろ幸せなのか?

 なんてテミスさんのご褒美を俺が堪能していると、テミスさんはパッと俺から離れて魔女のような不気味な笑顔を浮かべていた。


 「今日はここまで。もしボロー君がクリスマスまで生き延びていたなら、もっとご褒美をあげるから」

 「もっと……?」

 「精々頑張りなさい、若者よ」


 もっと……もっとって何?

 そう俺が淫らな想像をしていると、テミスさんはスタスタと部屋の扉の方へ向かい、いきなり扉を開いた。すると扉が開いた途端、ドタドタッという物音と同時に赤色と緑色の髪の姉妹が床にのしかかるように倒れていた。

 

 「おわわっ」

 「きゃーっ!?」


 どうやらスピカとムギは仲良く部屋の扉に耳を当てて盗み聞きをしていたらしい。

 ……いや、ここまでの会話を盗み聞きされてたらまずくないか? しかしテミスさんは床に倒れた二人の愛娘を見ながら言う。


 「残念だったわね、この部屋からは音が漏れないように私が結界を張っているのよ。私とボロー君がこの部屋でどんな情事やプレイに及んでいてもそれを聞くことは出来ないわ!」


 いやそれ結界っていうかただの防音仕様の部屋なんじゃないの。テミスさんなら結界を張ってもおかしくないけれども。


 「ぐぎぎ……ママ、朧と一体どんなプレイをしていたの?」

 「人間真空パックよ」


 いやハード過ぎるだろ。誰が見るんだよあんなの。


 「人間真空パック……?」

 「スピーちゃんにはまだ早いようね。なら母娘丼なんてどうかしら?」

 「それ良いね」

 「いやその流れで誰か真空パックに突っ込まれない?」

 「そうなったらボロー君を入れるしかないわね」

 「なんで!?」


 スピカはまだテミスさんとムギのハードな会話についていけないようだったが、テミスさんとムギの目が若干本気のように見えてため、俺は逃げるようにアストレア邸から脱出した。

 だが、出来ることならこんな変な猥談も続けられるように生き延びたい……。



 少しでも面白い、続きが読みたいと思ってくださった方は是非ブックマークや評価で応援して頂けると、とても嬉しいです!

 何卒、よろしくお願いします!

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