野球拳→脱衣麻雀
テミスさんは俺達が座るテーブル席の方へやって来ると、ローラ先輩に向かって軽く会釈をしてから笑顔で口を開いた。
「久しぶりね、シャルロワ家のお嬢さん。こうして貴方を占うだなんて初めてね」
「貴方の噂はかねがねお聞きしております」
「貴方のことはエローちゃんって呼んでいいかしら?」
「ローラと及びください」
テミスさんの他人の呼び方は独特だが、流石にエローちゃんはダメだろ。エロースでギリギリだ。
「ボロー君は相変わらずね」
「いや元気ですよ僕は」
死相が濃いという意味ではいつも通りなのかもしれない。じゃあこれだけ原作より頑張っているのに、俺が死ぬ可能性は高いままということか。
「さて、今日は折角だし新しい占いをやってみようかしら。二人はマジカルバナナを知ってる?」
「はい、存じてますが」
「連想ゲームですよね?」
「そうそう、私が最初にお題を出すから、それに関連する言葉をリズム良く答えていってね」
テミスさんからの占いを受ける度に新しい占いを受けさせてもらっているが、これ本当に占いか? 飲み会とかで酔いが回ってきた辺りで盛り上がる遊びじゃん。
しかしテミスさんが占い師として人気があるのは、こういった独創的な占いがあるからでもある。半信半疑ではあるが俺にとってはテミスさんは命の恩人でもあるため、一応真面目に取り組んでみる。
「じゃあ私からローラちゃん、ボロー君の順番で行くわよ。
マジカルバナナ、おっぱい♪」
いや最初からぶっ飛ばし過ぎだろ。テミスさんは一体何から連想してそんな言葉をお題にしてくれたんだ。
「谷間」
エンジン全開なテミスさんのお題に対し、ローラ先輩は真顔で手を叩きながら答える。おっぱいから谷間って連想するのも中々だが、何だかまともな路線に戻してくれようとしているのかもしれない。
「へ、平野」
しかし谷間から連想できるものは何なのか、俺もちょっと戸惑いながらギリギリで答えていた。
しかし──。
「貧乳♪」
テミスさんがローラ先輩と俺の努力をぶっ壊してしまう。平野のこと貧乳って言うのやめろよ。
「まな板」
いやまな板って言ってやるなよローラ先輩。
「ほ、包丁」
「ヤンデレ♪」
包丁からヤンデレはいくらなんでもこじつけが過ぎるだろう、テミスさん。確かに持ってそうだけど。
「メンヘラ」
ローラ先輩の口から信じられない言葉が出てきたんだけど。ローラ先輩もそういうの知っているのか……メンヘラも包丁を持ってそうだが。
ていうかメンヘラから連想できる言葉って何だ?
「ね、ネットスラング」
テミスさんにこんなパスを回すのは危険だと思ったが、それぐらいしか思い浮かばない。
そしてテミスさんは手拍子しながら笑顔で言う。
「ぬるぽ」
「ガッ」
ここは古のインターネット老人会か?
ていうかローラ先輩、そのスラングわかるの!? いくらそこら辺がオープンになってきたとはいえ、ローラ先輩がインターネットのスラム街的な環境を知っているだなんて信じられない。
「はい、ボロー君の負け~」
そして俺がローラ先輩の答えに驚いている間に俺が負けた。
「いや、こっからどう繋げれば良かったんですか」
「だめぽとかコテハンとかあったじゃない」
いやそうなるとそっから延々とインターネット老人達によるネットスラングの発表会になるだけじゃないか。まさかおっぱいというお題からこう繋がるとは思わなんだ……大体テミスさんが悪いけど、ローラ先輩の答えも中々だった。
「あの、ローラ先輩」
「何かしら?」
「……ぬるぽ」
「それが何か?」
「ご存知なんですか?」
「さぁ、何のことかしら」
しらを切る気か、この人は。ローラ先輩がネットスラングに詳しいという設定なんて無かったはずなのだが、隠された裏設定でもあったのだろうか。ローラ先輩の知り合いで詳しいのはオライオン先輩ぐらいしかいないだろうし。
一回戦目は俺の敗北に終わったが、二回戦目はローラ先輩のお題からスタートした。
「マジカルバナナ、スポーツ」
何だか意外にも普通なお題が来てくれて俺は安心した。いきなり乳房とか言われたらどうしようかと思ったぜ。
「野球」
俺は無難に答えたが、やはり次のテミスさんは悪い笑顔を浮かべていた。
「野球拳♪」
うん、これは俺のパスが悪かった。そしてこのテミスさんの答えをローラ先輩がどうするのか──。
「脱衣麻雀」
いやこれ連想ゲームとして成り立ってるか? でも勝負して負けた方が脱衣していくという点では確かに共通点があるかもしれない。
それはそれとして、俺の隣に座っているのは本当にローラ先輩ですか?
「あ、遊び」
「プロレスごっこ♪」
「子宝」
いやプロレスごっこから子宝に繋げるな。
「きょ、教育」
「保健体育♪」
「実技」
いや保健体育の実技って何。しかし妙に繋がっているような気がしなくもない答えに戸惑っている間に、またしても俺は敗北。
その後も──。
「お、お鍋」
「ちくわ♪」
「きゅうり」
「きゅ……きゅうり!?」
何が何でも俺の答えから下ネタに繋げようとするテミスさんと、そこから更に下ネタを言っているような気がしなくもないローラ先輩との戦いは続き──。
「クリスマス♪」
「カップル」
「で、デート」
「結婚♪」
「初夜」
「初夜!?」
ローラ先輩から飛んでくるムチャクチャなパスに俺は踊らされ続け、そして敗北した。
「弱いわね、ボロー君」
念の為確認しておくが、ここは喫茶店ノーザンクロスの店内だ。なんで喫茶店の一角でこんな猥談をしないといけないんだ。
「テミスさん、本当にこれが占いになったんですか?」
「えぇ、中々面白い結果だったわ」
あんなトンチキな連想ゲームで何がわかったのか甚だ疑問だが、テミスさんは満足そうに笑う。そういえば俺もちゃっかり参加させてもらっているが、元々はローラ先輩がテミスさんと二人で会う約束をしていたのだ。じゃあローラ先輩はテミスさんに何かを占ってもらいたかったのだろうか。
するとテミスさんは彼女が注文したカフェオレを一口飲んでから口を開いた。
「まさかシャルロワ家のお嬢さんから依頼を貰うとは思わなかったけれど、その依頼がまさかボロー君との恋路に関するものだとは思わなかったわね」
「え、そうなんですか?」
ローラ先輩は隣でうんと頷いた。シャルロワ家の次期当主として重要な立ち位置にいるローラ先輩も、やはり色々不安なことがあってテミスさんを頼ったのだろう。俺は死期が間近に迫っているから生き延びるための方法をテミスさんに相談していたが、確かに占いって恋愛とか人生に関する相談みたいな意味合いもある。俺の運命がおかし過ぎるだけで、ローラ先輩も何かにすがりたかったに違いない。
「それで、僕とローラ先輩の恋路はどうですか?」
「苦難の連続ね」
「最悪じゃないですか」
ローラ先輩は知らないだろうが、まず俺の死が目前まで迫っているという時点で殆ど詰んでいる。例えそれを乗り越えたとしても、今は順調に進んでいるように思えるローラ先輩ルートがこのまま上手く行くとも思えない。
「でも案ずることはないわ、私からアドバイスを授けるから。
まずボロー君。貴方は板前になりなさい」
いやさっきのマジカルバナナのまな板と包丁から引っ張られてるだろ、その将来は。ちょっとは料理できるけど、そんな将来は流石に想像したことないぞ。
「彼を板前として育て上げれば、私達の恋路は上手くいくということですか?」
「そうね。逆に彼が保健体育の教師になってしまったら刑務所送りになってしまうかもしれないわ」
それ保健体育の授業で生徒に実技を強要しようとするからだろ。しかもそう答えたのは俺じゃなくてローラ先輩のはずなのに俺が悪いの?
「ローラ先輩にアドバイスとかあります?」
「そうね、ローラちゃんは……クリスマスの日、何かしようとしてるわね?」
十二月二十五日、クリスマス。烏夜朧の誕生日でもあるのだが、残念ながら原作だとその前日に朧は死んでしまう。
もしかしてクリスマスデートとか考えてくれていたのだろうかとも思ったが、テミスさんの表情は俺のそんな軽い気持ちを吹き飛ばすぐらい、深刻そうだった。
「ローラちゃんが何を企んでいるのかわからないけれど、やるにしても時期を変えた方が良いかもしれないわね。私がアドバイスをするとすればそれぐらいかしら……ボロー君の前では、ね」
……。
……え、何それ? 一体何の話?
ローラ先輩はクリスマスの日、何かを計画している?
テミスさんが何を見抜いたのか俺は推理出来なかったが、ローラ先輩は特に動揺するような様子も見せずに口を開いた。
「では、それを早めるのは問題ないですか?」
「後回しにするよりかはね」
なんだろう、もしかしてクリスマスデートとか計画してくれていたのだろうか。ローラ先輩からクリスマスデートに誘われるだなんて信じがたいところはあるが、ここ最近の機嫌の良いローラ先輩を見ていると、そんな未来がありえなくもないように思えた。
「じゃあボロー君。ここからは乙女同士の大事なお話があるから、先に帰ってもらっても良い? 貴方のお代も払っておくから」
「あ、はい。ではお言葉に甘えて」
確かに俺がいても邪魔だろうと思い、ローラ先輩とテミスさん、そしてマスター達に別れを告げて俺はノザクロを出て帰途へついた。
ローラ先輩とテミスさんがどんな話をするのか、かな~り気になったが……テミスさんが少しでも俺が生き延びる未来を作り出すために協力してくれていると信じることにしよう。
俺だって、ローラ先輩とクリスマスデートとか経験してみたいよ……。
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