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中々に愉快なアトラクションね(震え声)



 十二月十三日。雪こそ降らないが冬らしい寒さで布団から中々出る気になれない日曜日の今日は、ローラ会長が突然家を訪ねてきたことで始まった。


 「遊園地に行きましょう」

 「は?」


 本当に俺が知っているあのローラ会長からの誘いとは信じられなかったが、軽く身支度を終えるとマンションの外で待っていたシャルロワ家の車に乗っけられて、そのまま葉室市にある遊園地へと連行された。



 葉室市郊外にある遊園地、Universe(ユニバース) Spaceスペース Japanジャパンはシャルロワ財閥の関連企業が運営しており、元々シャルロワ家が保有していた土地に建設されたものだ。俺も夏休みの間に友人達と行ったことはあったがそれっきりで、新しいアトラクションや催し事が増えているようだ。

 明らかにどこかのパクリっぽいのは気にしない気にしない。


 「ローラ会長も遊園地に来ることなんてあるんですね」

 

 正面ゲート側で俺がチケットを購入していると、ローラ会長は少しソワソワした様子で口を開く。


 「いえ、遊園地なんて人生で初めてよ」

 「え、そうなんですか?」

 「観覧車やジェットコースターがあるのは知っているけれど、実際に乗ったことは無いわ。修学旅行で訪れたことはあるけれど、私は散歩していただけだったわ」

 「せっかくの修学旅行なのに?」

 「だって並びたくないもの」


 ローラ会長が意外とせっかちなのは驚きだが、有名な遊園地となるとどのアトラクションも何時間待ちというレベルの行列が平気で出来ていて、並んでいるだけで一日が終わってしまう。行列が短いアトラクションに乗ると全然楽しくないという罠もある。


 まだ長期休暇シーズンには入っていないため日曜日とはいえ人の入りはそこそこだが、やはり人気のアトラクションとなると列は出来ているだろう。しかし、この遊園地はその待ち時間を短縮する方法がある。


 「ローラ会長。ここ、追加料金を払うと優先券が貰えて、それなら待ち時間も殆どないですよ」


 富士山の麓にある某ハイランドの絶叫という地獄への誘いのように、この遊園地でもプレミアムパスみたいな優先券を購入すればアトラクションへの入場が優先されるというサービスなど色々なメリットがある。追加で入場料と同じ金額を支払わなければならないが。


 「そうね。今日は私の気分がいいから貴方の分も奢ってあげるわ」

 「ローラ会長の気分が優れてなかったら僕は自腹だったと」

 「行列に並びながら先に楽しんでいる私を指を咥えて眺めることになっていたでしょうね」


 嫌だよ恋人と一緒に遊園地デートに来たのに取り残されるの。

 というわけで入場券と一緒に優先券も購入し、俺はローラ会長と一緒に正面ゲートをくぐった。


 「ローラ会長は何に乗りたいですか?」

 「エスコートは貴方に任せるわ」

 「えっと、ではジェットコースターからで良いですか?」

 「良いわね。一度は乗ってみたかったの」


 と、無邪気に心を踊らせているように見えるローラ会長と一緒に、この遊園地の名物であるジェットコースターへと乗り込む。優先券を買ったから殆ど待つことなく乗ることが出来たが、まさか先頭だとは。

 最高到達点が地上から七十メートルもあるという中々の絶叫アトラクションで俺もその怖さは経験済みだが、ローラ会長は特に怖がる様子もない。


 「ローラ会長ってこういうの得意なんですか?」

 「さぁ、初めてだからわからない」


 そういう時は普通本能的な恐怖を感じるものだと思うのだが、今までこういう娯楽に触れてこなかったからか、ローラ会長は少しはしゃいでいるように見える。

 そして俺達を地獄へ送り出す係員さん達に笑顔で見送られながら、ジェットコースターはゆっくりと長い坂を登り始めた。


 「良い景色ね。今日晴れていて良かったわ」

 「よくそんな眺める余裕がありますね」

 「バカと煙は何とやらと言うでしょう」

 「いやローラ会長はバカでないでしょうに」


 俺は経験済みとはいえ、やっぱりこの登っていく感覚はやはり恐ろしいものだが、隣のローラ会長はレバーをしっかりと掴みながら地上を眺めるぐらいの余裕はあるようだ。

 なんて俺が若干震えていると、後ろの座席に座るお客さんの声が聞こえてきた。


 「ひぃぃ……いくら護衛とはいえ私達も乗り込む必要あります?」

 「仕事だ……これもシャルロワ家に仕える私達の勤め……」

 

 なんかシャルロワ家の護衛が後ろに座ってるっぽい。やはり俺やローラ会長のことを影で見守ってくれているようだが、護衛のために一緒に乗り込まないといけないのは大変そうだ。

 

 「いよいよね──」


 頂上地点に辿り着き、コースターが前の方に傾いた瞬間──一気に数十メートルも下降する!


 「ふおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?」


 同じコースターに乗っていた乗客全員が、まるで息を合わせたかのように絶叫する。その後も大ループなんかで上下感覚が狂うほどのコースターを堪能して俺は絶叫しまくっていたが、隣に乗っているローラ会長の絶叫は全く聞こえなかった。

 もしかしてこの人、絶叫アトラクションがメチャクチャ平気なのかな……。



 「フ、フフフフフフフフフフフフ。中々に愉快なアトラクションだったわね、フフフフフフ」


 あ、絶叫アトラクションめっぽうダメな人かもしれないわ、ローラ会長。いつものように笑顔を作って強がっているが、もう口調が明らかにおかしいもん。こんな変な笑い方する人じゃなかったって。


 「あ、あの、ローラ会長? 別に絶叫アトラクションが怖いことは恥ずかしいことじゃないですよ」

 「フフフフフフ……」

 

 ダメだ、まともに喋ることが出来なくなっている。


 「……次はメリーゴーランドに行きましょう」

 「フフフフフフ……」


 何かローラ会長がフフフとしか笑えなくなるほどおかしくなってしまったが、次は比較的優しいアトラクションであるメリーゴーランドへと向かった。前にベガやアルタ達後輩勢と来た時に馬車という特等席でアルタと二人きりになるというちょっとした地獄があったが、今日はローラ会長と一緒に乗り込んだ。


 「随分とのどかなアトラクションね」

 「ローラ会長は本物の馬車とか乗ったことあるんです?」

 「馬にならあるけど馬車は無いわね」


 メリーゴーランドに乗ったことでローラ会長はようやく落ち着きを取り戻したようだ。

 なんか無敵っぽいローラ会長が絶叫系が苦手なのは意外だが、ネブスペ2原作でもローラ会長はこんな感じだった。とはいえこうして間近で見ると、そのギャップに驚かされるが。


 「僕もちょっとだけ乗馬したことありますけど、何かコツってありますか?」

 「あら、有馬記念にでも出るの?」

 「いや僕はジョッキーというわけじゃないんですよ」

 「じゃあ中山競馬場を走るの?」

 「馬でもないんですよ」


 なんて俺とローラ会長が楽しげに話している中、馬車を囲う白馬に跨る、二人のスーツ姿の男女……シャルロワ家の護衛が外から俺達のことをジッと見てた。黒服を着ててサングラスも付けてるから見た目が完全に某黒っぽい組織の人なんだけど、この後変な薬を飲まされて子どもになったりしないよな?


 

 メリーゴーランドでローラ会長に落ち着いてもらった後、近くのコーヒーカップへと向かった。


 「ローラ会長はコーヒーカップ、ご存知です?」

 「毎日使ってるわ」

 「いやそういうことじゃなくてですね。この真ん中のハンドルを回すと凄く回転するんですよ」

 「それは面白そうね」


 するとローラ会長はがっしりと真ん中のハンドルを掴むと、勢いよく回し始めた!


 「ちょちょっ、ローラ会長!?」

 「良いわねこれ」

 「え、遠心力がああああああああああっ!?」


 遊園地という娯楽を知らないローラ会長への親切心で教えたつもりだったが、ローラ会長は子どものようにはしゃぎながらハンドルを回し続ける一方で、俺の体はブンブンと振り回されていた。



 「フ、フフフフフフフフフフフフ。中々に愉快なアトラクションだったわね、フフフフフフ」


 なんだこの既視感。ローラ会長自ら調子に乗ってハンドルを回しまくってたのに、一番影響を受けてしまっているじゃないか。


 「そろそろご飯でも食べますか?」

 「フフフフフフ……」


 ダメだ、ローラ会長がただ笑うことしか出来ないロボットになってしまった。

 何かと完璧超人的な雰囲気を纏っているローラ会長だが、原作でも一番先輩視点でイベントを進めていくと何とも人間らしい、普通の少女っぽい部分が垣間見えることになる。こんなにおかしくなっちゃうぐらい苦手なのは意外だが。

 そんな彼女を介抱するべく、園内にあるレストランへと向かった。



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