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女神ノゾミールショッピング



 ローラ会長と話していると、体育館の方からドッと生徒達の大きな笑い声が聞こえてきた。今も体育館では厳粛な空気の中で生徒会選挙の演説会が行われているはずだが……。

 

 「珍しいわね、生徒会選挙なんかで笑い声が聞こえるだなんて。そんなに面白い演説をしているのかしら?」

 「そうかもしれませんね」


 この生徒会選挙の模様は第三部主人公の一番先輩視点で見ることが出来るのだが、スピカが先にちゃんとした真面目な演説をしたのに対し、ムギは開口一番「私はこの学園を合コン会場にします」とか言い始めるからな。

 最初こそ少子化を憂いて愛が溢れる学園にしたいだとか言っているが、段々と自分のハーレムを築き上げたいという欲望を語り始めてしまう。俺よりよっぽど欲にまみれてるよアイツは。


 「ローラ会長が生徒会長を志したのも、やっぱり家のためですか?」

 「私は一年の頃から生徒会役員をしていたし、先代に頼まれただけよ。周囲は私が生徒会長になることはさも当然のことように考えていたけれど」

 「生徒会長として楽しかったことはないんですか?」

 「ベラや明星君を顎でこき使えることが出来たぐらいね」


 ネブスペ2原作だと二人に結構ムチャクチャな指示を出したりしているからな、この人は。


 「じゃあ、今のローラ会長にとって楽しいことって何なんですか?」


 日頃から色々とストレスを抱えてそうな人だが、何か一つでも楽しみがあってほしい。そんなプライベートなことを俺に教えてくれるか不安だったが、ローラ会長はベッドから少し起き上がって、俺に笑顔を向けて言った。


 「こうして貴方と話していることね」


 ……。

 …………。

 ………………。


 ---


 私は女神ノゾミール……。


 「はっ!? 女神ノゾミール!?」


 地獄に迷いし一匹の子羊よ……貴方に施しを与えましょう。


 「本当ですか!?」


 今後円相場はかなり急騰します。今のうちにドルを売りなさい。


 「いやドルなんて持ってないんだけど!?」


 それはさておき、恋人から甘い言葉をかけられただけで昇天してしまうとはなんと情けない。アンタ本当にあの子が本気であんなこと言うと思ってんの?


 「急に辛辣!?」


 あんな言葉に惑わされるなんてまだまだね。そこでアンタに施しを与えるわ。今日のアンタのラッキーアイテムはアメリカ軍の主力戦車M1A2(SEPV3)エイブラムスよ。お値段はなんと驚きの29億8000万円。多数の申込みに対応するため今ならオペレーターを増員中よ。


 「それ施しじゃねぇだろうがよ!」



 ---

 --

 -



 いかんいかん。不覚にもローラ会長にときめき過ぎて昇天しかけていた。この人ってあんなこと言うんだ。


 「私はピアノを弾いたり音楽を聞いたり、演劇や映画を観たりするのが好きよ。あと散歩とか」

 「結構多趣味なんですね」

 「後はメルシナのお買い物に付き添うのも良いわね」


 いやローラ会長、大分メルシナのことを溺愛してるな。確かメルシナの母親はクロエ先輩の母親と一緒だからローラ会長から見れば腹違いの妹にあたるのだが、ロザリア先輩やクロエ先輩もメルシナに甘い所があるし、あの末妹がギリギリでシャルロワ四姉妹を繋いでいるのだ。


 「ローラ会長って、プライベートでもロザリア先輩やクロエ先輩と遊んだりお出かけすることはないんですか?」


 上三人の関係が良くないことを俺は知っているが、俺はあえてローラ会長にそんな質問をぶつけた。するとローラ会長は少し表情を曇らせて口を開いた。


 「無いわね。あの子達を誘っても来るとは思えない」


 ローラ会長、ロザリア先輩、クロエ先輩の関係が歪なのは彼女達の生い立ちが関係しているが、決して仲が悪いわけではない。ただ彼女達にはお互いを家族だと思う感覚が希薄なのだ。


 「でもローラ会長ってロザリア先輩がいるサザクロに結構行かれますよね?」

 「そうね。ローザったら嫌そうな顔で接客してくれるわ」


 姉に会っただけで「うげっ」とか言ってたからな。


 「例えばクロエ先輩と一緒に月ノ宮のオカルト探検ツアーなんていかがです?」

 「あの子の趣味にはついていけないわ」


 趣味が合わない、と。確かにローラ会長ってあまりオカルトとかには興味がなさそうだ。まだケーキとかお菓子を作っている姿の方がギリギリ想像できるぐらいで、テレビゲームで遊んだりはしないだろう。

 ネブスペ2第三部でも共通シナリオからその後に分岐する各ヒロインのルートまで三人の歪な関係が解消されることはないが、トゥルーエンドの世界線では仲良し四姉妹の姿を見ることが出来る。

 しかしこれだけこじれていると、やはりきっかけというものが必要で……トゥルーエンドの世界線でも大きな出来事がきっかけになるから、俺から働きかけてというのも難しい。俺のメンタルが持ちそうにない。


 「ローラ会長達って今は別々の場所に住んでますよね?」

 「そうね」

 「それもやっぱり、家で顔を合わせるのが辛かったからですか?」


 現在、ローラ会長は月ノ宮海岸の近くにある小高い丘の別荘に、ロザリア先輩は駅前のサザクロに、そしてクロエ先輩とメルシナは葉室市にあるシャルロワ家の屋敷に住んでいる。学校が別々というわけでもないのに姉妹間で別居しているというのも中々に特殊だ。

 するとローラ会長はふぅと小さく息をついた。


 「私はあの子達のことが嫌いというわけじゃないわ。私は屋敷にいるのが嫌だったから別荘に引っ越しただけで、ローザも母方の実家に喜んで住んでいるだけよ」

 「お互いの家に遊びに行ったりするんですか?」

 「そんなことするのはメルシナぐらいね。家の行事なんかで屋敷に集まるぐらいよ」


 それこそ星河祭の直後に屋敷に集まって、あの緊張感で俺の胃がキリキリ痛んだ時ぐらいか。


 「ローラ会長はロザリア先輩達のことはお好きですか?」

 「えぇ、勿論」


 へぇ、そうなんだ。なんだか意外な答えだ。何か原作だとそんな感情は失ったわ的なことを言っていたような気がするんだが、何か心境の変化でもあったのだろうか。


 「昔の私は下賤の娘みたいな扱いをされていたけれど、あの二人はそんなこと気にしないわ。あの子達だって当主なんていう立場は嫌だろうから、自由に生きてほしい」


 自分も相当辛い立場にあるはずなのに、ローラ会長は妹達のために今の立場から逃げ出さずに我慢している。

 それぐらいロザリア先輩達のことを想ってやれるなら、その想いが本人達に届けば、彼女達の関係ももっと良くなるはずなのに。


 「きっとロザリア先輩達だってローラ会長に感謝しているはずですよ。その気持ちを伝えれば皆も喜ぶはずです」

 「それが難しいものなのよ」

 「それもわかります……」


 シャルロワ四姉妹の関係が良化しなければ俺も死ぬに死ねなくなってしまう。いや仲良くなっても死ぬつもりはないけど。



 体育館ではまだ生徒会選挙が行われているようで、そろそろ投票という段階だろうか。俺はローラ会長の付き添いという名目でサボっているが……ローラ会長と親睦を深めたいという意図もあるにはあったが、こんなにローラ会長が大人しいのは意外だった。


 ていうか、ローラ会長ルートのイベントが早く進み過ぎている。ネブスペ2原作でもローラ会長が心労で倒れて保健室に運び込まれるイベントがあるのだが、付き添いで側にいた一番先輩と良い雰囲気になって、本来ならこのままエロイベントに突入するはずだ。

 他のヒロインは共通シナリオでのイベントで宇宙生物に襲われて服が脱げたり性感帯を責められたり、アストルギーで変な気分になったりと何かとエロゲっぽいイベントが起きるのに、ローラ会長は一切そんなイベントを起こさないのだ。マジでガードが堅い。


 だからこそその苦労が報われた感じがしてローラ会長ルートは満足感があるのだが、俺もローラ会長と話しててちょっと良い雰囲気になったのになんで何も起きなかったんだ? 俺も途中でまさか!?ってドキドキしてたのに、なんでお預け? 好感度足りなかった?

 

 今更ながら、俺はエロゲ世界に転生してきたものの、あまりそのおこぼれに預かっていないというか、良いところまでは行くのだがその先に辿り着けないもどかしさがある。俺も生き抜くのに必死だからたまに忘れているというのもあるが、何か大いなる力がそれを拒絶しているように思えた。



 生徒会選挙が終わる前に俺とローラ会長は帰り支度をして早退することになった。俺が早退する必要はなかったはずだが、ローラ会長の付き添いという理由でゴリ押して一緒にシャルロワ家の車に乗り込んだ。

 まだ俺はローラ会長が住んでいる別荘には招いてもらえないようだから先に俺の家の方に送り届けられるが、車中で隣に座るローラ会長がふと口を開いた。


 「たまに思い出すわ。星河祭の日、貴方が私の知らない誰かを懸命に探していた姿を」

 

 星河祭当日、一緒に屋台や出し物を巡ろうと約束していたベガが突然消失してしまった。そんな中で俺はローラ会長に呼び出されて交際が始まったわけだが……乙女という前例はあったものの、いきなり絶望の底に突き落とされたような気分だった。

 俺もあの日のことを思い出して胸が痛くなり返答に困っていたが、ローラ会長が話を続ける。


 「叔父様がいなくなった時、あの時の貴方の気持ちが少しだけわかったような気がするの」


 そう言って、ローラ会長は隣に座る俺の手をギュッと掴んできた。


 「……誰かが突然いなくなるのって、こんなにも恐ろしいことなんだと」


 俺は、その気持ちをローラ会長にわかってもらいたいわけでも、同じ経験をしてほしいわけでもない。

 ローラ会長の場合、まだトニーさんと会える可能性も残っているから俺とは条件が違うものの……こうやってローラ会長の方から気遣ってくれることが素直に嬉しかった。いつもは冷たく感じられたローラ会長の手がこんなにも温かいだなんて、信じられない。


 「大丈夫ですよ、ローラ会長。トニーさんは言ってたじゃないですか、自分の無実を証明すると」

 「そうね……この噂もきっと前みたいに自然と消えるはずだと信じているわ」


 何か順調すぎるぐらいにローラ会長とのイベントが進んでいるが、これは一体どうなってしまうんだ? ネブスペ2原作だと数ヶ月かけて進んでいくストーリーがこの一ヶ月でかなり圧縮されて急速に進んでいる。

 それが俺にはかなり不気味に感じられた。まるで十二月二十四日、原作で烏夜朧の命日であるその日までに、このネブスペ2という物語を畳み掛けようとしている風に思えたからだ……。

 


 少しでも面白い、続きが読みたいと思ってくださった方は是非ブックマークや評価で応援して頂けると、とても嬉しいです!

 何卒、よろしくお願いします!

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